美少女ソシャゲ人気キャラ憑依   作:もぬ

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☆前回までのあらすじ
・美少女ソシャゲ『ダンジョンロード・リトライ』の人気キャラ『アズール』に憑依してしまった男は、主人公『ルーファン』を独り占めすることを画策する。色仕掛けなどを楽しみ、共に過ごし戦っていくなどするうち、だんだんとルーファン個人に対して執着していく。
・レベルの上限解放を行うため、素材アイテムを集めつつ日々の業務に勤しむルーファンとアズール。様々な人物と出会う中で、ルーファンは知見を広げ、アズールは独占欲を燃やしていく。


十字路の呼び声

 

 雷神トールにより火星に召喚され、夜のドライブに連れていかれるという出来事から、数日が経つ。

 うちの社長くんは、雷神トールに気に入られたこともあってか、すっかり神様の兵隊(アインヘリアル)としてやっていくことを決めてしまったようだ。神様やヤバい宇宙人の暴れる戦場に、彼をひとり行かせるわけにもいかないので、オレも一緒についていかなければ。

 宇宙人相手の終わらない戦争。ルーファンはやる気満々のようだが、普通に嫌だな。いくつかのメリットのために入隊したものの、いずれうまく引退する必要があるだろう。

 

 

 

「さ、寒いですねえ」

 

 学校の夏休みも終わりに差し掛かりつつあるものの、日本の四季はまだ夏といえるこの時期。しかしながら目の前のルーファンは、厚着に身を包んでなお、身震いを隠せない様子だ。

 無理もない。周囲を行く人々は、誰もかれも冬の恰好をしている。空模様は曇天で、もしかしたら雪が降ってくることもあるかもしれない。

 現在、我々は、顧客からの依頼により海外の迷宮へとやってきている。出張だ。神様の兵隊となった恩恵で、大迷宮間の転移門が使用できるようになり、我々が活動できる範囲も、拠点である日本の迷宮都市から大きく広がったのだ。

 さて。さっきから少年の様子を注視しているが、彼の震えはまだ止まらない。上着の耐寒性が微妙なのかも。あるいはそう、ルーファンの育った第八迷宮都市も夜は寒いが、この自然の凍える寒さとはまた違うのだろう。かわいそうに。

 

「社長、わたしが温めて差し上げ」

「あ! 門が見えてきましたわ。そろそろ入り口ですわ」

「チッ」

 

 厚いコートの前を開き、むわっと温かいその中へルーファンを迎え入れようとしたのだが、もうひとりの同行者に邪魔をされた。つい舌が小さな音を鳴らし、ルーファンに聞かれなかったか気になった。まったく、自分のタイミングでしか喋れない人間はこれだからよ。

 地下迷宮だろうと肌寒い屋外だろうと常に同じ鎧を着ているそいつは、白銀騎士(シルバーナイト)のアスーニャという。今回の依頼を持ち込んできた顧客であり、協力者である。

 上半身に金属鎧を身に着けていて、脚はあか抜けた女子高生くらい丸出し。前に見たときとの違いと言えば、生足がタイツになっているところくらい。ソシャゲキャラの衣装チェンジとしては弱い。ストーリーで上半身しか映らないタイプのゲームならば、立ち絵になんにも変化がない。

 ファンタジー世界の人間とて、あんな恰好では凍え死ぬほど寒いはずだが、そんな様子も見せない。きっと、なんぞ便利な魔法やアイテムでもあるんだろう。たとえば、障壁発生装置(バリアジェネレータ)の亜種で、気温の影響を防ぐバリアを出す……みたいなのが。

 後で調べてみよう。これからは第八迷宮以外で仕事をする機会も増えるはずだ。

 

「アズールちゃんの冬着バージョンもいい……えへへへ」

 

 道中、アスーニャはちらちらとこちらを見ていた。美少女で、一応お嬢様キャラのようだが、なんか視線が(よこしま)なんだよなこの女。ですわ口調がおっさんの関西弁にしか聞こえない。

 しかしまんまと準レギュラーみたいになりやがって。正直この子とは、今まで知り合った人間の中で一番、一緒に仕事をしたくない。前の仕事のときにルーファンに言い寄っていたので。

 正直ひく。こんな子供に色目使って楽しいのか? とんでもないメス豚だ、逮捕されるべきだろう。

 

 街のメインストリートをまっすぐ進んでいくと、やがて目的地にたどり着いた。

 その()は、上端を見上げようとすると、首が痛くなってしまうほどの大きさだ。そして門の左右には、真っ白な壁が延々と伸びていて果てが見えない。それもそのはず、壁の端を確認するには、この国と隣国との境をまたぐ必要すらあるのだ。

 第三迷宮『メイズラビュリンス』。広大な平地に、無数に屹立する巨大な壁が作り出した迷路である。

 

「では、ルーファンさん。アズールさん。そして、聖剣スケヴニング。うちの先輩を、どうぞよろしくお願いします」

 

 鞘に納められたままの自身の剣を手に取り、アスーニャは真面目なトーンで言った。彼女のそれは、いまだ鞘から解放することができないのだという。

 ルーファンは頷き、彼女を真似るようにして、自分の剣を引き抜いた。

 依頼の内容は『人探し』。

 迷宮内部で消息不明となった、教会騎士団最強候補のひとり。『クラウス・アーヴサイト・“クルージーン”』の捜索である。

 

 ちなみに、男性とのこと。美少女ソシャゲの強設定キャラなのに美少女ではないとは……。

 

 

 警戒を保ちながら、探索者にとっての職場を歩いていく。

 事前に調べていた通り、第三迷宮の内部は、子供のころに想像した“迷路”そのものだった。高い壁が左右を隔てる、閉塞感のある通路。狭い。仲間との連携がとりづらい。

 しかし魔物たちのほうもそれは同じだから、挟み撃ち以外の脅威が減るはず。こちらは少数精鋭のため、この地形は有利であるのかもしれない。

 上を見る。いわゆる青天井――曇天の空模様が見えているので、白天井。灰天井? 雪や雨が降れば最悪だ。そして、空を飛んで壁を越える、みたいなズルをしようとすると、壁がどこまでも伸びていくらしい。めんどうくさい。

 それと、この第三迷宮の広さ。気が遠くなるほどの面積があるとかなんとか。今も拡張を続けているとかなんとか……。

 はたして、こんな迷路でどうやって、かの騎士様を捜索するというのか。

 

 アスーニャ曰く、捜索方法のあてはある。それは、『“十三の聖剣”は互いに引き合う性質があり、互いの気配を感じ取ることができる』というものである。

 例の行方不明さんは、聖剣“クルージーン”を所有する星煌騎士だという。そしてアスーニャの持つ抜けない剣は“ダインスレイフ”といい、これもまた聖剣のひとふり。そしてうちの社長の“スケベ”もこれらの仲間だ。

 聖剣の所有者による捜索活動。これでクルージーンの人を見つけだすことができるはず、というのが、今回の作戦。

 以上。

 正直、星煌騎士が行方不明になるようなところには行きたくない、というのが本音だ。絶対レベルが足りていない。ゲストキャラのアスーニャも星煌より1ランク下の白銀騎士だし。

 そういう不安を依頼時に話したのだが、「たぶん魔物に負けたわけじゃないんで大丈夫ですよ」とこの女は言う。

 じゃあどうして消息不明になる。まさか星煌騎士サマともあろう者が、迷子になったわけでもあるまいし。

 

「ん。十字路ですね。では……」

 

 アスーニャは、ダインスレイフとかいう剣を、ぷるぷる震える手で地面にそーっと立て、ぴゃっとそこから離れた。

 剣は静かに、左の道のほうへと倒れた。

 

「スケヴニング」

『同じ意見』

「了解! では左へ!」

 

 そうして、我々は左へと進路をとった。

 道を決めかねるたびに、こうしておまじないみたいな方法でルートを決めている。聖剣をそんなふうに木の棒みたいに扱うなよと思うのだが、アスーニャの言い分は、ダインスレイフとはまだちゃんとコミュニケーションをとれないから仕方がないのです、とのことだった。

 スケベ曰く、お仲間の気配をたしかに感じてはいるらしい。距離は遠いようで、この仕事がいつまでかかるのかはまだわからない。ホームの第八迷宮に比べるとどうにも通路が狭く、気分が良くないので、はやく終わらせたいのだが。

 

 と。先頭を行くアスーニャが足を止めた。こちらに示しているハンドサインは、『前方に魔物』。

 最後尾のオレは挟み撃ちを強く警戒しつつ、ルーファンの後ろから敵を視認する。

 

「……牛?」

 

 地面に、牛が埋まっていた。言い換えよう。

 地面から、牛の頭部が生えている。

 どういう魔物?

 

「ぐごー、ぐごー」

 

 しかも寝ている。目を閉じて、立派な鼻から、マンガみたいにちょうちんを出している。これは……スルーでいいんじゃないか?

 い、いや。高度な罠かもしれない。いやでも……うーん。

 

「初めて見る魔物ですが、とりあえずぶっ飛ばせば問題ないでしょう。いきますわよ! ハァァァッ!!」

「……はっ。あっ、探索者の方ですか? あれっ、私はたしか」

「ん? あの魔物なんか喋ってませんか?」

「パワゲイザッ!!!」

 

 この女は教会騎士だが、ゲーム的に言えばジョブが格闘家である。例によって、腰に下げた剣を無視し拳を固く握ったアスーニャは、そのまま目の前の地面を強烈に殴りつけた。

 すると謎エネルギーの火柱が地面から吹き出し、牛の魔物を激しく焼き尽くし――、いや。

 地面の中から突き上げた。そしてわかったことがある。この牛の魔物、やはり全容は地面に埋まっていたのだ。牛頭に続く胴体の影が、地面からすっ飛んでいくのが見えた。

 しかし白銀騎士の必殺技を喰らってしまっては、結局はその形を保ってはいられないだろう。なんか喋っていた気もするが。

 高く飛んだ魔物の身体が落ちてきて、かすかな砂埃を巻き上げる。

 ――直後、オレたちは各々戦闘時の構えをとった。魔物は消滅するどころか、ゆっくりと二本の足で立ち上がったからだ。

 

「っ!! こいつ……」

 

 “強い”。その二字がすぐに頭に浮かんだ。

 牛の首の下にある体は、まるで人間のそれだった。それも、筋骨隆々の大男の姿。身長は2メートル以上あるかもしれない。あの岩のような拳で殴りつけられれば、障壁があったとしても、胃のものを全部吐き出してしまいそうだ。腰に帯びている手斧は、やつの武器だろうか。

 さっきまでは間抜けな置物にしか見えなかった牛。それがいまは、戦ってはいけない強者のように感じる。

 じり、と後ずさる自分に気づいて。息を吸い込んで、ルーファンの前に出た。

 

「オ、オオオ……」

 

 地獄から響くような唸り声に、全身の毛が逆立つ。さっきまではなんでもなかった通路が、いつのまにか死地と化す。それが迷宮だ。

 自身の腕を見つめてぷるぷると震える魔物。獲物を前にして血をたぎらせているのだろうか。

 こちらの武器を握る手に力が入る。そして。

 

「オオオ……お、おお。出られた。ありがとう、ありがとうお嬢さん」

「へ?」

 

 そして牛は、感動しきった声でアスーニャの手を取り、感謝を述べたのであった。

 

 

「このご縁に感謝を。私はこの迷宮のかん……探索者です。魔物じゃないですよ。そういう人種です。トラップの落とし穴にハマってしまいまして、一生このままではないかと絶望していました」

 

 その割には気持ちよさそうに寝ていたようだが……。

 牛顔の表情など読めないが、声の調子やしぐさからして、彼はいま機嫌がいいらしかった。本当に感謝をしているみたい。

 会話を重ねるうち、彼はこちらの事情を聞いてきた。詳細はぼかしつつ、行方不明者の捜索であることを話す。

 

「不覚にも穴にハマってはいましたが、この第三迷宮には詳しいほうだと自負しています。ここはぜひ、皆さんに恩返しがしたいのですが……」

「具体的には?」

「休息地や罠などについては、あなた方より情報を持っているかと。腕にも自信はあります。しばらくの間、私が先導役を買いましょう。いかがか?」

 

 我々3人は会議を始めた。議題は、彼が信用できるか、できないか。

 ルーファンはお人よしで、アスーニャはおそらくアホだ。わたしがしっかりしている必要がある。

 

「魔力資源の大鉱脈やここの特産物なども案内できますが……」

 

 採用しましょう。

 

「アスーニャと申します」

「アズールです」

「ルーファン・グランドーダです。よろしくお願いします」

「! グランドーダ……」

 

 ルーファンの名を聞いたとき、彼は反応を示した。この名を知っているのだろうか?

 

「いえ、なんでも。私の名は……」

 

 そう言って彼はごまかした。……何かありそうなら、後で追及してみようか。

 さて、名前か。

 迷路の中をうろつく牛頭の人間……間違いない、絶対にアステリオスだ。あるいはミノタウロス。彼の名前はそれ以外にない。

 

牛ノ助(ぎゅうのすけ)です」

 

 日本人か~。

 

 

 牛ノ助氏のガイドのおかげだろうか、探索のペースは上がっている。

 主にトラップやローカル魔物への対応を手助けしてくれるのだが、実にありがたいものだった。

 

「ただ、この頃は私も把握していない罠や魔物が増えていましてね。完璧なサポートは約束できません」

 

 道中、牛ノ助氏がそう言っていたのは、やや印象に残った。

 

「おや、ここを通りますか。少し難易度が高いトラップがありますが」

 

 聖剣たちの導きに従っていくと、通路がやや開け、部屋といえるスペースに出る。迷宮においてこういった空間に出ると、何かしらのイベントがある。ボス魔物、デカめの罠、報酬。

 氏の言うには、ここは罠部屋らしい。それがわかっているなら立ち入らないのが賢明だが、さて。

 

「どういった罠ですか?」

 

 迂回するか否かの判断をするためだろう、ルーファンが質問する。

 

「部屋の四方に砲身のようなものが見えますか。あそこから出るビームに当たると……」

「えっ」

 

 話しながら、牛ノ助氏はつかつかとトラップルームに入っていく。本人の言葉通り、ピュン、と高速で飛ぶビームに襲われ、なんと直撃を受けてしまった。

 すると、彼の身体がほのかに発光し……

 

「このように、性別が変わってしまうのです」

 

 牛頭に、上半身裸の巨乳の女体になってしまった。

 なっ……ルーファンへの教育に悪い!!!

 オレは後方から様子を覗こうとしていたルーファンの頭をつかみ、抱き寄せて顔面をおっぱいでふさいだ。

 じたばたと暴れているが、これは見せるわけにはいかない。

 

「あの。早く前隠してください」

「ああ、そうか。すみませんね」

 

 牛ノ助氏の声がセクシーな大人の女性っぽくなっている。顔は牛なのに……。

 氏は布でおっぱいを隠した。その間、アスーニャはスケベそうな顔をして様子をじっと見ていた。やはりこいつも教育に悪いな。

 

「この男女反転の呪いは一晩ほどで戻ります。ビームを避けるのは至難の業なので、ここを通るのなら、まあ……今日のところは異性の身体を楽しむと良いでしょう。すぐ先に休息地もありますし」

 

 ………。

 エロトラップダンジョン?

 そして、リーダーのルーファンは、ここを通過する判断をしたのだった。探索を続ける上で、大して支障はないだろうという考えのようだ。

 絶対あるだろ。

 

「うわっ!」

 

 そして、まずルーファンが……。

 美少女に。

 美少女になってしまった。

 皆がルーファンに注目している後ろで、人知れずオレはガクリと膝をつき、涙を流した。

 元々小柄な体格がさらに細くなり、顔はそう変わってはいないはずなのにどこかおめめぱっちり、少女だと言えるそれになり、守ってあげたい度が全体的に倍になっている。このゲームが主人公の性別選択式だったのなら、あれがメスルーファンの姿なのだろうか。ガチャから出てくるキャラに負けず、しっかり可愛い。可愛いぞ。

 でも……でもよぉ! ルーファンが女の子になっちゃったら、オレは……オレは……!!

 

「阿修羅閃空! 阿修羅閃空! ギャッ」

 

 アスーニャもビームに当たり、金髪の男になっていた。

 

「くうう……避けきれませんでした」

「わ、アスーニャさん、その、かっこいいですね。理想的な騎士像というか」

「そうですか? それならまぁ……」

 

 オレは歯ぎしりした。美少女になったルーファンが、手の届かないところで、金髪の竿役と仲良くしゃべっている。

 脳が破壊され、下半身の奥のほうに焦燥感のようなものが溜まっていく。キュンキュンする。立ち上がろうとしていたのに、自然と内股になって、足ががくがくする。こここ、こんなことは認められない……すぐにルーファンを取り返さなければ。

 

「次はアズさんですね。男性になったアズさん……見てみたいかも。きっとカッコいいんだろうなぁ」

 

 部屋の向こうへ行ったメンバーがこちらを見ている。うんと澄ませた耳がルーファンの声を拾う。ちょっとした非日常への期待が声にこもっていた。

 

「………」

 

 オレは今度こそ足に力を入れ、しっかりと立つ。

 強烈な緊張感を自分の内から呼び起こし、身体の熱を上げる。

 ルーファンくん。ごめん。これだけは譲れない、ということがオレにもあるんだ。

 アズールという美少女になった今。

 オレはもう、男に戻る気は――ない!

 

「はああぁぁ――っ!!!」

 

 加速(アクセル)過剰運用(オーバードーズ)

 鎖骨に刻んだ魔法刻印に、極限の魔力を叩きこむ。周囲から色彩が失われ、モノクロになる。今の自分に、『速さ』以外の機能は不要。

 地面を思い切り蹴る。すべてがスローになった世界で、自分だけがそのままで動く。いや、そのままではなく、さらに速く。蹴り砕いた地面の石くれ、重い空気、飛んでくる性別反転ビーム。全部、置き去りにする。

 ただの加速では光線を見切れても、避けられるかはわからない。だから、ぶっちぎる。

 格上相手の状況を意識して開発した、わたしの奥の手。こんなもの、かすりすらしない。するものか。

 

「――――ハァッ、ハァッ、ハァッ」

 

 1秒、いや、無限にも思えた時間が経つ頃には、オレはトラップルームを無事すり抜けていた。

 

「あ、アズさん! 大丈夫ですか? なんか見たことない動きしてませんでしたか!? なんでそんなに必死で避けたんですか!?」

 

 全身が悲鳴をあげている。これは身体に負担のかかる技で、よほどのことがない限り使用しない。よほどのことだから使用したまでだ。

 

「ハァ、ハァ。なんて、悪意のある、迷宮、だ」

「ロキ神が創造された迷宮ですからね。こういうしょうもない悪戯みたいなの、いっぱいありますよ」

 

 クソっ!! 許せねえロキ神。北欧神話のキャラなのになんでギリシャ神話元ネタっぽい迷宮なんだ。

 そして何より、巨乳片目隠れクール系美少女を男に戻すビームなど……この世にあってはならないだろ……!!

 オレは銃を取り出し、トラップルームをめちゃくちゃに攻撃した。

 

「ロキ神の作ったものは破壊できませんよー」

 

 オレは腹いせに美少女になったルーファンを抱きかかえ、例によって胸を押し付け顔をふさいだ。

 あっ、なんか……いい匂いする。女の子のにおいする。やば。

 

 

 日をまたぐ休憩などを挟み、時間をかけて進んでいくと、いつのまにか裏ステージにでも突入していたのか、壁の色とか通路の雰囲気が変わっている。ボスでも出そうな雰囲気だ。

 

「ん? あれは……」

「おお、まさかヤツを見つけられるとは。あなたたちについてきたのは正解でした」

 

 牛ノ助氏は落ち着いているものの、我々はそれを見て、にわかに警戒度を上げた。

 彼は『ヤツ』と言った。

 いかにもな雰囲気の通路の向こうには、人影らしきものがあった。

 人体を模している侵略異星生物『イオナル』だ。このゲームにおける、倒すべき敵勢力である。地球人類への擬態が毎回適当なのですぐにわかる。

 そして……。

 

「……。なんだあれ」

「なっ……せ、先輩! 星天教会騎士団の最強候補、序列三位の星煌騎士、聖剣クルージーンの保有者、クラウス先輩!! まさか、やつらに捕まっていたなんて」

「あれが……?」

 

 笑顔に見える不遜な表情でふんぞり返る異星人。の、後ろのあたり。

 人の下半身が地面から突き出ていた。上半身は地面に埋もれている。

 煙突に潜ろうとしてつっかえたサンタクロースのような、ギャグ漫画でしか見ない間抜けな様子であった。

 鎧を着用しているため、たしかに騎士のようだが、これがあのスカーレットと並ぶような強キャラなのか?

 

「私がなんとかしましょう。迷宮の異常を排除するのも、仕事ですので」

 

 牛ノ助氏が前に出る。武器であろう斧をどこからともなく取り出し、ぶんと一振り。それだけで空気がビリビリと震え、ただこちらを眺めていたイオナルの態度が変わった。

 この人(牛?)、やはり強い! 騎士団のホープだというアスーニャより、おそらく実力はさらに上だろう。身にまとう覇気が違う。ここは任せてしまうか……!?

 

「ブモ!?」

 

 不思議なことが起こった。イオナルが懐から取り出した宝玉がまばゆく輝くと、牛の首から下が地面に埋まっていた。役に立たねえな。

 

「どうします、社長」

 

 絵面はバカバカしいが、今、我々はかなりのピンチだ。事実だけを言えば、あの敵はアズール、アスーニャを実力で大きく上回る二名を、あのように無力化したのだ。単純に考えれば、とてもかないっこない。

 猪突猛進ガールに見えるアスーニャも、踏み込むことを躊躇している。

 敵から目を離さず、じりじりと後退しながら、背後のルーファンに意見をうかがう。

 

「アズールさん」

「はい」

「たぶん、勝てます。全力で相手と戦ってください」

「……根拠は?」

 

 予想外の指示。ルーファンくんはバカではないので、よく話を聞く。

 

「あのきれいな玉を光らせたあと、ヤツの雰囲気が変わったんです。うまく言えないんですが、力をごっそり消耗したかのような……。それを隠そうとしているような。星煌騎士の人と牛ノ助さんを封じるのに、かなり力を割いているんじゃないかと。だから」

「………」

 

 エイリアンの機微を見抜くなど、そうできることではない。いますぐ褒め殺したいところだが、まだその見立てが当たっている保証はない。

 オレはアスーニャの尻を蹴り、敵へと突っ込ませた。

 

「うはぁありがとうございますッ!?」

 

 勢いづいてしまったアスーニャは、もう敵に向かうしかない。覚悟を決めたのか、拳を握り突っ込んでいく。それに対し、イオナルは……、

 攻撃を避けた。

 先ほどのように、不思議なことを起こそうとはしない。

 

『……! 邪魔、するナ。あなたは、不要。この基地の崩壊まで、待ちマシょう』

「なにおう! アスーニャちゃんだって美少女なのに! 不要って言うな!!」

 

 拮抗した戦いを演じるアスーニャと宇宙人。

 これなら、今の戦力で倒せるかもしれない。

 後ろを振り返り、ルーファンと目を合わせる。

 互いに頷き合い、前を向き、武器を構える。ルーファンに呼び起こされる魔力が、身体を駆け巡っていく。

 さぁ、ボス戦だ……!

 

 

『ウワァァアア!!』

 

 ソシャゲなら煩わしい戦闘パートはスキップできる。当然だよな。

 

 

 詳細は省くが、我々は力を振り絞り、イオナルを追い詰めたのだった。

 

『グ、グ。こうなっタら……!!』

 

 ゴゴゴゴゴ。イオナルが例の宝玉を取り出した。あれはまずい。だが、そこから放たれる光は先ほどよりも弱く、何かを起こすのにも時間がかかってしまっている様子だ。

 今!! 今ならば……!!

 

「アズさん! 危ない、下がって!」

「大丈夫! わたしを信じてください、ルーファンくん」

 

 わたしは彼と目を合わせて、笑ってみせる。この土壇場ですることじゃないけど、必要だと思ったから。

 それで、彼は口を閉じた。その信頼が、熱い力となってこの身体を突き動かす。

 

「いきます! これがわたしの、最上級魔法(エクストラスキル)――!!」

 

 

『ウワァァアア!!』

 

 ソシャゲなら必殺技演出はスキップできる。当然だよな。これができないソシャゲなんか見たことないね。

 

 

 詳細は省くが、とにかくすさまじいパワーで、オレはイオナルを八つ裂きにしたのだった。日々の鍛錬の成果、そしてルーファンからの親愛の力だろう。

 その身体はチリになっていき、やがて目の前から消えた。死んだのだろう。

 オレはルーファンと勝利を喜び、たたえ合い、抱き合い絡み合い汗のにおいを擦りつけ合ったのだった。混ざろうとしてきたアスーニャには冷ややかな視線と言葉をかけた。

 

 そして、今回の依頼も達成だ。

 不思議パワーが解けたらしく、牛ノ助氏が地面を崩しながら出てくる。となれば、こちらの騎士様ももう動けるはずだ。ようやく間抜けな彼のご尊顔を拝める。

 アスーニャがその両足を掴み、救出する。砂埃まみれの姿で出てきたのは……、

 

「あれっ。ここどこ……ですか……? あれっ、アスーニャさん?」

 

 美少女。

 長い髪の色がピンクの、清楚系の、華奢な美少女だった。さっきまで地面に突き刺さっていた人間とは思えない。

 聞いていた話と違う。男じゃないじゃん。完全にガチャから出てくる(SSRなので出てこない)顔だろ。

 

「なんと、探索者の方でしたか。誰かに救出されるなど初めての経験です。感謝を」

「あ、い、いえ」

「この御恩は忘れません。私には戦うことしかできませんから……機会があれば、あなた方の力になりましょう」

「えっと、そんな、身に余るお話で」

 

 騎士クラウスは可憐な笑みを浮かべ、籠手に守られた手でルーファンの両手を握った。少女漫画のごとく背景に花を出現させながら、互いに自己紹介などしている。

 ちょいちょいちょい!! やめろ!!! 実装されるんじゃない!!!

 

「き、きれいな人だな」

 

 ルーファンの小声を鍛えた耳が拾った。そんな……。

 オレが、アズールがどんなに美少女でも、ソシャゲの初登場補正持ってるやつには瞬間火力で負けてしまう。

 ……こんなの、嫌だ。ルーファンくんは、わたしだけを見ているべきなのに。

 

「この人男ですよ」

「えっ」

 

 えっ?

 

 

 




『ダンジョンロード』登場人物紹介

アスーニャ
白銀騎士の中でもかなり組織から期待されており、特級神器『聖剣ダインスレイフ』を与えられている。しかし剣に認められていないため使うことができず、ステゴロで戦う。ゲーム上での性能は普通。エロ画像がよく描かれる。
恒常SSRキャラクター。

クラウス
設定上は死ぬほど強く、ゲーム上でも強い。ゲーム上では微妙な性能になっている星煌騎士もいるのに対し、クラウスはしっかり強いため、ファンからは本物星煌騎士と呼ばれている。しかも男。エロ画像もある。
期間限定SSRキャラクター。

牛ノ助
迷宮の管理者(ダンジョンロード)のひとりで、ルーファンのパパとは同僚。ストーリーの終盤ではルーファンに試練を与える大ボスとして再登場する。いい人なのに海外絵師がよくNTRの竿役にしている。
非プレイアブルキャラクター。
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