季節は冬にさしかかり、この世界でアズールの身体を乗っ取ってから、もう半年はとうに過ぎている。
今日までにいろいろとソシャゲらしいイベントがあった。
キャラクターデザインの凝った美少女がグランメイズに仕事を持ち込んできて、主人公であるルーファンとの出会いを果たし、なんか最終的には「縁があればまた」「いつでも私を呼んで」……みたいなことを言って終わり。
みたいなパターンが多い。そしてそれらを経るたびに、ルーファンもまた強くなっていった。
自分が遊んだことのあるソシャゲを思い出す。新キャラが来るとよく興奮したもので、そうしてキャラが増えてくると、以前からいたキャラクターに向ける目が減っていくのは必然だった。そういう風にできてるコンテンツなんだから仕方ない。
きっとこれからも、新キャラは増えていくことだろう。
今はまだ、そのうちの誰もグランメイズの従業員にはなっていないけれど、もう時間の問題だ。ルーファン父のいる迷宮の奥を目指す大目的がある以上、ルーファンはどこかでさらなる人手を求めるはず。
ああ……。
ああ。
ある日、事件は起きた。
強くなりたいというルーファンに頼まれ、戦闘訓練ということで、お互いに摸擬剣を持って事務所の外でチャンバラしていたときのことだ。
アズールの身体なら剣使いとして一日の長ありということで、先輩ヅラして剣を打ち付けあっていた。これが終わったら助言と称して手取り足取り密着してやろう……というたくらみはあったが、試合に負けるつもりはなかった。油断はなかった。はずだった。
「ぜあっ!」
「!!」
不意に目の前の少年は、予想もつかない身のこなしで攻撃をかわし、知っていたものよりずっと強い力で、こちらの剣を弾き飛ばした。
一瞬、呆ける。剣を飛ばされた。これは、そう。負けだ。
ぎり。
口が、勝手に歯を食いしばっていた。
「あ、僕――うわッ!?」
小柄な体躯に組み付き、腕を取り、足をかけ、地面に引き倒す。
そのままマウントを取る。胴にのしかかり、腕を押さえつけ、顔を見下ろす。
目が合って、数秒間そのままになる。はぁ、はぁ、という互いの荒い息だけが時間を動かしている。
わたしの汗がルーファンの目元に落ちて、彼が反射的に目を閉じる。
顔を汚してしまった、と思った。
わたしはようやく全身の力を抜いた。
少年の上から退く。社長を尻に敷いてしまった。さぞ重かったことだろう。
「すみません。……摸擬戦はわたしの負けです、社長」
「え、どう考えてもアズさんの勝ちですけど……」
「剣を弾かれた時点で負けです」
そう。だというのに、それが悔しくて、衝動的にこんな真似をしてしまったらしい。
まったくどうしたことだろう。ここはオレに勝ったルーファンをチヤホヤ褒め殺すのが正解のはず。負けを認めずに食い下がろうとするなんて。
これではオレが本当に、10代の思春期だからそういう気分の日もある、青く甘酸っぱい悩みを抱えた巨乳のSSR美少女のようじゃないか。まったく。
「……さて、摸擬戦といえば、負けた方がなんでも言うことを聞くのがルールです。さぁ、なんでも申し付けてくださいよ。さあ!」
「アズさん? なんで上着脱ぐんですか!? シャツのボタンから手をはなして!」
………。
最近のルーファンは、けっこう強い。
仕事での出会いを通して、戦闘能力を開花させていっている。
彼はソシャゲの主人公といっても、実は、後ろから美少女に指示を出す系の主人公ではなかった。パーティー編成に一緒に入り、横並びで戦うヤツだったのだ。その才能がここに来て目覚めている。
喜ばしいことだ。主人公は強いほうがいい。
この成長具合ならもしかしたら、きっといつか、あの化け物みたいな星煌騎士たちにも追いつくかもしれない。そうしたら、この第八迷宮を踏破して、父親の元へたどり着くかもしれない。
そのとき、彼の横には……。
どの、キャラクターが、いるのだろうか。
最近のアズールは、けっこう、何もしてない。
▽
[ルーファン]
「アズさん、それは?」
迷宮の採掘業務日。支度を整えたアズールさんの装備が、いつもと違うことに気が付く。
事務所から転移門への道すがら、彼女の手を見る。
アズールさんは両手に、金属製の……いや、機械のガントレットを装備していた。
「これはですね。討伐兼採掘作業用振動破砕衝撃腕装です」
「……なんかすごそう!」
「剣や銃撃で破壊しにくい、硬い魔物なんかに有効なんですよ」
拳を握り、武装を見せてくれるアズールさん。この手のマシンアームを使っている探索者の人もいるけど、アズさんも使えるんだ。かっこいいなぁ。
「しかも振動によるマッサージ機能付き。そぉれ」
「あっ! なにこれ……あっ、あっ、アズさん、あっ」
「フフフ」
アズさんがゴツゴツとしたそのアームで僕の肩や腰に触れると、とても気持ちのいい刺激が伝わってくる。なんとも絶妙に、事務仕事で凝り固まった筋肉をほぐしてきて……ああ。
「どうです社長。これからいつでも、お身体のあちこちを気持ちよくして差し上げますよ」
「ふわぁ……」
振動の気持ちよさだけでなく、いつのまにか耳から、アズールさんの甘い声が入ってきて、僕の頭の中に浸み込んでくる。
「ですから、いいですか? ルーファンの役に立つのはアズールだけ。アズールだけがルーファンのしもべ……。はい復唱」
「へあ、あ、アズールさんだけが、僕の……ハッ!? 僕は一体何を」
「ちぃっ」
一瞬、意識がもうろうとしていた。何かヘンなことを口走りそうになっていたような気がするけど。
気を取り直して、再び歩き出す。アズールさんもいつも通り、横並びでついてきてくれる。
ちら、とアズールさんの様子をうかがう。いつもと同じで、アズさんはそこにいるだけで僕に元気をくれる。なんというか、そういうエネルギーを持っている人なのだ。この人と一緒だから、僕は毎日仕事が楽しいんだ。
……あれ。
いつもと同じ? いや、そうだろうか。アズールさんの雰囲気は、少しいつもと違う、気がする。
新しい装備をしていて、最初はいつもより機嫌がよさそうだったけど。ふとしたときに見せる顔は、何と言ったらいいか。……気分が良くなさそうだ、と思う。
浮ついた気持ちを改める。
社長として、彼女の調子が悪いようなら、業務中止の判断をしなければならない。危険な仕事だ、新しい装備を初めて使う日なんてなおさら怖い。注意深く見守らないと。
「……。社長。どうしてさっきからわたしの胸をじろじろ見てるんですか? セクハラ?」
「えっ! ち、違……!」
アズさんはフッと柔らかく笑う。
「いいんですよ別に。訴えたりしません。もっとじっくり見ますか」
「あっ、あっ、あの」
一歩、一歩、一歩と僕との距離を縮めてくる彼女から、一歩、一歩と逃げる。
やっぱりいつも通りかもしれない。
▽
「……よし」
アズールさんが小さくつぶやく。その目の前では、迷宮の壁が粉々に崩れ、新たな道が開けていた。
ふしゅう、と彼女の腕武装から、余剰魔力の煙が吐き出される。
アズさんは新装備の機能で壁を破壊してのけた。予想通り、その向こうには隠し通路があった。こういう場所には大きな資産となる魔石の鉱床や神器が隠されている。
「やった。アズさん、すごい! ありがとうございます!」
「社長の予測こそすごいです。向こうに通路がある、破壊可能な壁だと見抜いた」
「へへ。前からこういう場所、気になってて」
「今後は探索の幅が広がりますね」
いそいそと先へ進もうとすると、アズさんが一回り大きくなった手で僕を制止した。
魔物だ。
「これは。いいチュートリアルです」
狭い通路をふさぐように現れたのは、岩石でできた巨大な人形。ゴーレム系列の魔物だ。
いま探索している階層はそれなりに深い。相応に頑強だろう。
アズさんはあの腕部装を、硬い魔物に有効だと言っていた。今も勝気に拳を握っているが、果たして期待通りに通じるだろうか。
ゴーレムが動いた。人間のそれよりずっと太い腕、大きな拳を振りかぶり、まっすぐアズさんに突き出す。単純な攻撃だけど、岩の身体から放たれるそれはとても重そうで、なるべく避けるのがセオリーだろう。
アズさんには既に僕からの強化魔法が届いている。彼女は――、
巨大な拳を避けようとせず、真っ向から、そこに自分の拳を叩きつけた。
ゴン――、と大きく重く響く音。
剣を片手に、汗を流して、結果に目を凝らす。
ゴーレムのパンチは、アズさんのパンチによって、その腕を粉砕されていた。
彼女はそのまま格闘技の姿勢を崩さず、ゴーレムを攻め始めた。やつの身体にダメージを与えているのが武装の機能だとしても、しっかりそれを使いこなしているのはアズさんの経験と努力によるものだろう。さすがだ。
剣と銃、魔法の腕もすごいのに、格闘武器も使えるなんて。拳で相手を圧倒する様子は、まるで……、
「すごいや。アスーニャさんみたいだ」
戦闘集団である星天教騎士団の、騎士アスーニャ。その戦いぶりに負けていない。アズさんは、やっぱり強い。
ぴたり。
アズさんの動きが止まった。
「…………しゃ、社長? いま、なんて……?」
「アズさん後ろ!!」
ゆっくりと振り向くアズさんは様子がおかしかった。けどそれを心配するより先に、敵の反撃が来た。
僕は剣で庇うこともできず、声しか出せなかった。
アズさんは、後ろを見もせずに、しゃがんで敵の腕をかわした。そして。
顔を険しく歪めて、歯を食いしばっているのが、見えた。
振り返りざまに拳の一撃。
そのまま目で捉えられないくらいの、パンチのラッシュ。マシンガンみたいな。でも一発一発が砲弾の威力みたいで、ゴーレムは手も足も出ずに身体を崩壊させていく。
しばらくすると、そこには何も残っていなかった。肩で息をするアズールさんが立っているだけだ。
「すごい……」
「ルーファンくん」
「は、はいっ」
「あの子よりわたしのほうが有用ですよ。違いますか」
「え? えっと」
あの子? となんの話かすぐにわからず、答えまでに間をあけると、じろ、とアズさんが視線を向けてくる。
――え。お、怒ってる? アズールさんが、僕に?
「……!!」
僕は何か、不必要なことを言ったんだ。あるいはもっと前に、彼女を怒らせるような、嫌なことをした。
もしかしたら、様子が変なのはそのせい?
ちゃんと、謝らないと。
「アズールさん、あの……!」
「振動マッサージ!!」
「あっあっ、あっ気持ちっ」
▽
アズールさんの様子が微妙にいつもと違うこと。そしてどうも僕のせいらしいことに気が付いてから、三日が経った。
アズさんはその間、仕事を休んでいた。アズさんのほうから休みを申請してくるのは、初めてのことだ。
やはり何か、こう、嫌なことがあったんだ。そして原因はこの仕事。というか僕。かもしれない。
この前はごまかされた。確かめない方がいいことなのだろうか。社長として、僕はどうすれば……。
「社長!!! 労働に行きましょう!!!」
「うわぁっ」
ばーん! と事務所のドアを開けてきたのは当のアズールさん。
元気にあふれた大声だったけど、僕は彼女を見て思わず息を吞んだ。顔が少し、やつれているように見えたからだ。
「アズールさん、あの」
「ジャーン!」
「うおっ」
アズールさんは事務所の作業机に、かなり大きい機械を置いた。ごと、という重そうな音。
銃? いや大砲。いや剣……掘削機にも見える。迷宮で使うものであることは間違いない。新しい武装だろうか。
「アズさん。これは?」
「これはですね。アンチマテリアルエネミーパイルブレードプラズマカノンです」
「……なんかすごそう!!」
「取り回しが難しい形状と重量ですが、魔物相手の大幅な火力アップが期待できますし、前衛に出るようになった社長との連携パターンも増えます。……これで、もっと役に立って見せますから」
「アズさん?」
「フフフ……財布に響いたけど、これで……フフ……」
アズさんは虚ろな目で、ふらふらと事務所を出ていった。
「大丈夫かな」
そう口にしつつ、いや大丈夫じゃないだろう、と心中で言い直す。
怒っている、という印象はなくなったけど、様子が平常ではないのはもう間違いない。
……最近、何か悩みでもあるのだろうか。
アズールさんは目上の女性。僕みたいな小僧からは悩みなんて聞きづらいし、簡単に解決もできないだろう。でも、管理職として彼女をケアする努力をすべきだ。
▽
アズールさんの新しい装備に合わせ、僕たちは新しい戦い方を考え、試した。
僕が剣で魔物をけん制し、彼女が大きい一撃を叩きこむ。これなら、強力な魔物にも有効な攻撃力が出せる。アズさんが迷宮探索のために、いろいろと尽くしてくれているのがよくわかった。感謝しかない。
装備の価格について尋ねると暗い顔をしていたので、こういうのは経費で購入すればいいということを再確認すべきだろう。
そして、本日の業務開始より3時間ほど経過したときのこと。
順調に探索を進めているように思っていたけど、おろしたての武器では、小さなほころびがあった。
「くっ……!」
小さい魔物の群れに囲まれてしまうパターン。これまでのアズさんは、こういった場面を切り抜けるのに適した魔法と武器を使っていた。
けれど、今装備している……あの……なんとかブレードは、見るからに重い。身体能力を強化したアズールさんでも、まだうまく扱えていない。だから、『強力な一体』には強くても、『弱い群れ』の一体一体を倒すのに時間がかかっていた。
アズさんが作ってしまった隙に、魔物が飛び込んでくる。
「この人に触るなッ!」
こういうときこそ僕が、アズールさんをカバーするんだ。そのために僕はこれまで……。
不格好に、でも思いっきり体当たりをして、そいつを弾き飛ばしてやった。
転びそうになったのを立て直して、考えていた指示を口にする。
「広範囲に電撃の
「! は、はい」
立ち位置を調整しながら、アズールさんに魔法を使ってもらう。相手に隙を作るための一手だ。
閃光が鮮やかにほとばしる。魔物たちが痺れて動きを止める。
ここだ。
剣を握り、ずっと鍛錬していた技の動きをなぞる。
いくぞ、スケヴニング……!
「はあああっ!!」
横一閃。
刃が届かないはずの距離にいた魔物たち。それらのすべてに、斬撃が入ったのを目で確認する。
やがて魔物たちは、魔石を遺して残らず消え去った。
「や、やった」
遅れてやってきた手ごたえに身を震わせる。
「強い剣士たちは、剣の届かない敵をどうやって斬っているのか。」その問いに応え、トールさんが教えてくれた技術がこれだ。自分の魔力を使い、攻撃の範囲を延長する。
昔の僕じゃ、どうやってもできるはずのない技だ。それを実戦でうまく使えた。
「アズさん……」
自分の口をついて出た言葉に、はっとする。
ここまでできるようになったのは、強くなる努力を続けられるのは、父さんに会うためだけじゃない。
そうだ。アズールさんがいるからだ。彼女が、僕の中の、大事なもののひとつだから。
といっても、綺麗な心じゃない。
かっこいいところを見せたい。一緒に戦いたい。背中を守りたい。ほめられたい。
僕はそんな欲望でいっぱいだ。でもそのためだったら、一生懸命になれる。アズールさんと出会う前の自分とは、もう違う。
「アズさん、見てましたかっ」
興奮して、浅ましくそんなことを言いながら、僕は彼女へと振り返った。
ここでさらにひとつ格好いいセリフを……なんて、考えながら。
アズールさんは、ぽかんとしていた。
そして。
少し寂しそうに、悲しそうに、笑った。
どうして、そんな顔をしているんだろう。
▽
それから事務所に戻るまで、アズールさんとの会話はなかった。
お互いいつもの席について、そのまましばらくの時間が経ってから。ようやく僕は意を決し、彼女に近づいた。
「あ、アズールさん。何か悩みはありませんか?」
席に座って携帯端末をいじっていたアズールさんは、顔を上げず、目だけで僕をちら、と見上げた。
視線はすぐにそらされる。どうしてか、胸がずきんとした。
「いえ」
「……あ、そ、そうですか」
悩みはないとのこと。そうは見えない。
アズールさんの状態を探ろうにも、会話が始まらない。なにか、なにか話題を……。
「そ、そうだ。もう少しで、スケヴニングの言う儀式の素材が集まりますよ。ここまで長かったけど、そうしたらまた、迷宮探索の進度も」
「ルーファンくん」
話を遮られる。
「それ……本当に、わたしでいいんですか」
「え?」
「これまで、あなたの稼業を手伝ってくれそうな美少女たちとたくさん出会ってきました。最近くるようになった入社希望者にも逸材ばっかり。ルーファンくんもどんどん強くなる。この会社はこれから大きくなる」
とつとつと、彼女の口から言葉が出てくる。アズールさんの声色は平坦だけど、何かの気持ちを押し隠しているのがわかる、そういう喋り方だ。
「だったら、わたしなんて」
――あ、だめだ。その先を言わせたら。
「わたしなんて、リリース初期に実装されてどんどん環境インフレに置いていかれるクソ雑魚SSRキャラみたいなものですっ」
「えっちょっとよくわからない」
アズさんの前髪の間から、暗い瞳がこちらを覗いていた。
「役立たず、ってことです」
……言わせてしまった。
徐々に怒りがわいてくる。それを、大事な人に言わせてしまった自分自身に。
「違う!」
なんとなく、わかった。アズールさんが何に悩んでいたのか。自分を実力不足だと、そう言っている。自分を役立たずだなんて卑下している。
その気持ちを――僕は、誰よりも知っているはずだ。
アズールさんに気持ちを伝えるんだ。励ますんだ。人を励ますには、ええと、そうだ。
僕は、他でもないある人の真似をして、彼女に一歩、一歩と近づいた。
アズールさんは、困惑した様子で椅子から立ち上がる。
「アズールさんは役立たずなんかじゃない。どうしてそう思うんです。そんなはずがない」
「……だって。社長、最近、いろんな女……の人と共闘して、いい戦果出してたし。社長自身も強くなってるし。わたしよりいい人材に、あの魔法を使えば」
「他の誰かなんてっ」
アズさんの手を掴む。最近は寒いからか、ちょっと冷たかった。
反対に、自分の身体が熱くなっていく。
「僕は! あなたに戦わせるだけじゃなくて、一緒に戦いたいから強くなりたいんですっ。それにこの魔法は、他の誰かになんか使わない。これはアズールさんだけに捧げるんだ。そのための魔法なんだ。役立たずだなんて的外れです。あなたがいないと、僕は……」
正面にあるアズールさんの白い頬に、表情を出さないようにしている顔に、少しづつ、赤い色が差していく。
あれ。なんか、僕、変なこと言ってる? というか何を言おうとしてるの?
「僕は……っ、その……なんでしょうね……? ううっ」
顔が熱い。目を合わせていられなくて下を見ると、自分の手が、彼女の手を握っているのが見えて、慌てて手を放した。
でも、今度は、相手にこちらの手を掴まれる。両手で、両手を握られる。
僕は顔を上げる。
「……ありがとう、ルーファンくん」
さっきとは違う、あったかい、温度のある笑顔。
それを見て、ああ、よかった、と思った。
▽
[アズール]
ルーファンに背を向ける。
沈んでいた心が浮き上がってくる。今起きた出来事を、ゆっくりと噛みしめる。
……………。
……………や、
やったーーーーーーー!!!
なんか、らしくなく我ながらいろいろ迷走して、年上お姉さんヒロインムーブも保てなくなってたかもだけど……。
しかし! 怪我の功名! 雨降地固!!
「アズールさんだけに素材を捧げたい。アズールさんがいないと生きていけない。無限に素材を捧げたい」
って言わせたーーーーーーーー!!!
「ルーファンくん……」
「はっ、はいっ」
さっきまで落ち込んでいた女が今はトロ顔になっているのはさすがに見せられず、背中越しに声をかける。
いやはや、やっぱりソシャゲ主人公だよ君は。コミュニケーションでここまで人を喜ばせてくるとは。欲しい言葉を的確に投げてきたよ。オレもルーファンのために頑張りたくなっちゃうよ。
手が熱い。ルーファンからうつされた熱い温度。
はじめは片手で、やがて両手で頬に触れると、その熱が顔にうつってきた。いや、自分が出した熱なのだろうか。それはどうにも、しばらくは冷めないらしい温度だ。
動悸が結構なもので、落ち着かず、身体をふりふりと揺らしてしまう。両手で頬に触れたまま。
「本当に、わたしでいいんですね?」
「もちろんです」
乙女回路が体内に形成されていくのを感じる。
たまにはルーファンにリードを譲ってしまうのもいいな……。
「初めての上限解放は、やさしくお願いしますね……」
「は、はぁ」