『いやあしかし、王の剣であるこの俺の主になる者が、迷宮あさりなんて下々の仕事についてるとはねえ』
「す、すみません」
『ああいや、謝ることはないさ。俺はあんたのこと好きだぜ、いつも綺麗に磨いてくれてただろ?』
というようなことを機嫌よく話しているのは、さっき椅子の上に、倒れないようにそっと立てかけてあげた、ひとふりの“剣”だ。
あのあと迷宮から無事にねぐらへ戻り、普通に解散し、たっぷり休んで疲れをとり、そして翌日の勤務時間の始まりと共に、我々はようやくこのペラペラしゃべる剣と対峙したのだった。
『まずは自己紹介からいこう。どうぞ』
「ルーファンです」
「アズールです」
『我が名はスケヴニング! 鍛冶神が手ずから造り上げた聖剣の一振りであり! 至高の神秘にして……! ……最近の若者言葉でいうと……! ……あの……アレだよ。“特級神器”! ハイ思い出した』
「ええっ! 本当!? それは、ほんとならすごい……」
『その反応見たかったよね~、ありがとうね』
新しい単語が出た。特級神器とは?
まあ聞かなくてもなんとなくわかるけど。
「神器っていうのは、神造兵装とほぼ同じ意味ですね。神々が創造なされた道具。人類にとってのギフト。星天教会ではそれに、上から、特級、一級、二級、三級……とランク付けしています。中でも特級の定義は、たしか……」
『全く同じモノはもはや神とて造り出せない、究極の一点ものである』
「そう。それです」
ルーファンの解説に目と耳を傾けていると、区切りがついたところで、ふと目が合った。
そしてルーファンくんはすぐに目をそらし、顔を伏せ気味にした。よく見ると耳が赤い。
おや。おやおやおやおやおや? この反応は? もうか? もうこのわたしに夢中に? かわいいですね。
この前耳元で好き好き♡って言ったのが効いてるな。
……あ、そうだ。ひとつ疑問。
「ならこの銃、ドラグーンは? 何級ですか」
「え、えっと……。一級ですね。特級よりひとつ下です」
『おっいいの持ってるじゃん、大事にしなよ』
ガチャのSSR武器が一級か。じゃあ、たぶん、ストーリー中に出てくる重要なやつだけが“特級”?
この銃を一発ぶちかましたときは、おそろしい量の魔力を持っていかれた。反動もきつかったし。これがけっこうな代物なのは、あのときの感覚でわかる……。
が、このヨボヨボお疲れ剣が、その霊銃ドラグーンより階級が上。ほんとかなぁ。口ぶりは偉そうだが……。
『む、なんだ胸の大きい少女よ、その疑うような目つきは。先に見せた通り、俺は多数の不思議機能を秘めた超高性能神器なんだが?』
でも、目くらましと短距離テレポートしかできてないだろ。しかもめっちゃ疲れてたし。
そんな
『よ、よーし。どうやらこのスケヴニングの真の力を見せるときが来たようだな。やるぞ主よ、この乳娘を驚愕の声で鳴かせてやろうぜ』
「え、ええ? なんで僕まで」
『さっきから言ってるだろ、おまえは俺の“主”だと。聖剣っていうのはな、その時代の担い手とセットじゃないと、なんにもできんのだ』
ん。
つまりそれは――、なるほど、うちの社長はやはり、主人公たる資質を持っていたわけだ。
この剣はルーファンとセットだと言った。つまりは、ルーファンにしか扱えないということではないか。
今のところ大した物には思えないが、もし本当に、特級と呼ばれるにふさわしい秘密を持っているのだとしたら。
『――さあ、“儀式”を執り行うぞ。魔力の源になるものをここにもってこい。たくさんでいいよ』
少し、ワクワクしてきた。
▽
さて。
特級神器・聖剣スケヴニング。
王のための剣である。その使い手となった者たちは、いずれも、王、君主、支配者といった形で歴史に名を残してきた。
そして。そのこと以外にも、彼らにはある共通の特徴があった。
『魔力を有してはいるが、いくら学んでも魔法・魔術のたぐいが使えないこと』。
今の時代に合わせて言えば……肉体に、新しく
その理由は当然、その者に戦士・魔術使いとしての才覚はなかったから――ではなく。
彼らが所持している
スケヴニングは、この固有魔法を持つものに贈られた拡張補助装置である。
王がこのつるぎを振りかざすとき、付き従う者たちは奮起し、狂い猛り、あらゆる敵を打ち砕く十二の刃となる。
魔法の銘は――、
『
『つまりすごく人を強化するすごい魔法だよ。すごいだろ』
バッファーか……。
つまりルーファンくんは、ガチャで引いた美少女を魔法で強化して戦わせるパワーを持つ人間である、と。むしろそれしかできないと。
あのとき。剣が喋り出したあのとき、少年の全身に
うーん。
選ばれし者、であることには違いないが、できることは結局後方支援職ってところか。今後も彼は、ガチャから出てくる美少女の背中に守られることになる。
これは年頃の男の子としては悔しいのでは。中坊のときのオレがルーファンくんの立場だったなら、やだぁあぁぁんもぉぉぉおんと泣きながら地面を転げまわっているところだ。
「あの……社長。気を落とさず」
思わず声をかける。視線をやると、実際にルーファンは、うつむいて、小さく肩を震わせていたからだ。
少しだけかがんで、表情をうかがう。あ、ついこうしてしまったが、泣いてたりしたら、泣き顔は見られたくないだろうなあ。これは、しまったかも。
しかし、少年は伏せていた顔をわずかに上げる。その表情が見えた。
「いえ。僕、僕、嬉しいんです……。この話が本当なら、魔物と戦うアズールさんの手助けができる。見ているだけなのは変わらないけれど、今よりもっと、役に立てるんだ……!」
よ、喜んでた。
まあ本人がいいなら、いいけど……。他人へのバフやヒールに喜びを見出す人間はたしかにいるしな……。
あとはやっぱり、口ぶりからしてオレにムチャクチャ惚れてるのかな……。それなら仕方ないかな……。
ふたりして、剣の前に姿勢を正して立つ。先生に教えを請う生徒のごとくだ。
『実践する前にこの魔法の仕様を説明しておこう。実際に敵の前で使用するまでには、段階が必要だ』
1、いまから儀式によって、おまえの強化したい人間と、いわば『主従契約』を交わす。
2、このまま戦場に行くのはまだ早い。従者とした人間に対し、魔石や神器といった神性由来のものを消費することで、戦場で行う強化の
3、さあ戦が始まった。おまえが魔法を発動することで、従者は事前にレベルを上げていた分、限界を超えた能力で暴れることができる。伸び幅も持続時間も、既存の強化魔法とは比べ物にならんぞ。楽しみだろ?
『それと、今は不可能だが、主よ、おまえがこれを使うことに慣れていけば、遠く離れた場にいる従者にも恩恵が届くようになる。そうなれば玉座でふんぞり返っていても仕事ができるぞ。真の
ははー、わかったかもしれない。
これがゲームでいう、キャラクターのレベルのことではないだろうか。
プレイヤーの分身であるルーファンくんは、消費アイテムを使って味方キャラ=従者のレベルを上げることができる。すると、戦闘パート時の能力が上がり、より強い敵に挑めるようになる、と。
やっと育成要素が解禁されたっぽい。長いチュートリアルだったな。
『さっそくやってみようじゃない。一応聞くけど主よ、おまえが
「ええっ、なにその言い方……し、支配って」
ルーファンの目は当然、唯一の戦闘要員であるこちらをチラチラと見ているが、スケベとかいう剣の言葉の強さにためらっているようだ。
支配だのしもべだの、いまどき穏やかではない言いぐさである。この剣がいつの時代に活躍していたのかを考えると、普通の物言いなのかもしれないが、ルーファンくんとしてはオレを仮にも下僕扱いするのは多分、いやな気分だろう……。
が。
まあ、べつに気にしなくていいのでは。あいつの言葉遣いが物騒なだけで、そういうゲームシステムだし。すでに社長と従業員の関係だし。そもそもわたしの強くて可愛くてでっかい肉体は、もうオレに支配されているわけだし? 元のアズールなら眉をひそめるくらいはしたかもしれないが、今の
ともかく、ぜひ従者とやらにしてもらおう。それで強くなれるんだから。
さて、なんと台詞を言った方が面白いか……。
「わたしはかまいませんよ、社長」
慌てるルーファンのほうをじっと見て、なるべくさわやかな笑顔を心がけ、目を細める。
「――あなたの
そのまま癖で、いひひ、とにやつきそうになったが、せめて声を出すのだけは抑えた。
ルーファンの困り赤面を見るに、なんかさわやかな顔ではなかったかもしれない。
『エロい顔する子だね~』
「なっ、いや、だからっ、言い方がおかし、おかしい、の、では……」
ずいっ、ずいっ、と大股で少年との距離を詰める。後ずさりされるわけだが、この狭いオフィスじゃ逃げようがない。
行き当たりに追い込み、例によって、互いの息の湿度がわかる位置取りになった。
「わたしを従者にしたいんですよね。いいですよ、なんでもいうこと聞くって、前に言っちゃいましたし」
顔を近づけていく。ルーファンのつくりのいい顔立ちの情報が、どんどん詳細になっていくので、あちらからも同じことだろう。
「うぁ、あ、アズールさ……」
「ただし」
そうして、鼻先がくっつく……より前に、進行方向をずらした。
ルーファンの身体に、自分を押し付けるように寄りかかり、耳に顔を近づけ、声を注ぎこむ。
「お賃金を増やしてくれるなら」
「…………は、はい……お給料、上げます……」
『なんか支配される側になってない?』
ひひ。やった、小遣いアップ。
『では契約を済ませよう。主よ、少女の身体に利き手で触れろ。位置はどこでもいい』
剣の前で、少し間をあけて互いに向かい合う。
位置はどこでもいい、という言葉を聞いて、いま、ルーファンの右手がぴくりと動き、わたしのカラダの上を、遠慮がちな視線が泳いでいった。
バカめ……どの辺を主に見ているのかすぐわかる。かわいいやつだ。
「はい、どうぞ。どこでも」
わざと両手は後ろで組んで、胸を張ってアピールしながら促すセリフを言う。手を繋ぐなんて絵面じゃつまらないからな。
途端にルーファンはうろたえる。
「あ、あの……手、手を……手を出してください、アズールさん……」
「男の子と手を繋ぐのは、ちょっと」
「うええ……なんで……?」
やがて目をきょろきょろと回し始めた。
思わずくすくすと笑いが漏れる。意地悪しすぎた……が、やめようとは思わない。
何を妄想しているのか、しばらく顔色を赤くしたり肌色に戻したりと点滅させたのち、ルーファンはうつむきながら、おそるおそるこちらに手をそっと伸ばしてきた。
んん、どうするか。おっぱいに誘導してあげるべきか、否か……。
「ん」
「うあっ、あっ、あの、すみません……」
ややあって。
とん、と。ある部分を手で触れられ、鼻から息が抜けた。
お……おお!?
服越しに触れられる感触があったのは、なんと、“お腹”だ。胸の下で見えないが、そこにルーファンの手が置かれている。
お、おまえ……! そこは……! ともすれば乳よりも淫靡……! それがわからんのか……!? やはりナチュラルボーンエロガキ……!
『では、二名の間に経路を繋げる。戦士アズールを、ルーファンを
「ん……っ!?」
触れられているあたり……腹部が、ぽかぽかと温かい。
その温かいものが、やがて一点に集中してきて、熱さへと変わっていく。肌の上を熱源がなぞり、まるでそこに何かを刻みつけられているかのようだ。
少し、汗が出てきて、吐息が漏れる。
『これで契約は終わった。手のひらに紋があらわれているはずだ。それが従者とおまえとのつながりである』
いつの間にか目を閉じていた。不思議な感覚に集中してしまっていたらしい。
はふぅ、と息をついて、ルーファンの方を見る。自分の右手の平を見つめていた少年は、こちらにもそれを見せてきた。
あー、よくあるやつだなー。伝説の勇者の左手とかにあらわれたりしがちな、不思議なマーク。まあ都道府県章みたいな……。
『従者にも同じものが刻まれているぞ。触られたところに。どうだ、繋がりを感じないかい、ボーイアンドガール』
「は?」
「えっ」
………。
何も言わず、早足で、更衣室に駆け込んだ。
そこには姿見がある。ぺら、と服をめくって、自分の下腹部を映した。へそのあたり。
――たしかにそこには、ルーファンの手にあるものと、同じマークがあった。まるでこの身体が、誰の所有物であるかを示すように。くっきりと。
「んぬおおお~……!」
可愛い声しか出ないはずのアズールの喉が、アホみたいな唸り声を鳴らした。
お前これ……これじゃ淫紋じゃねえか! バカッ!! 早く言えそういう仕様は! 人前でお腹見せられなくなっただろ!!
さすがに恥ずかしさを覚えているらしく、鏡の中のアズールは顔が赤く、不満そうに目を細めている。これ、洗ってもとれませんかね……。
……手。
あのとき素直に手を差しだしておくべきだったか……。
くそーっ、ルーファンめ。こうなったらもう恥の感情は振り切ったぞ、あいつめ、この後は徹底的に……!
なんかこう、あの……、
……もみくちゃにしてやる……もみくちゃにしてやるからな!
▽
顔の熱が下がるまで待って、オフィスに戻った。
ルーファンくんはさすがに察したのか、いかにも謝りたそうな表情で口を開いた。ので、適当に制した。これはこれでもういい、べつに。自分の身体だと思うとマジでバカだが、美少女の身体だからいい、もう。
『じゃあ次はレベルアップといこうか。持ってきた魔石はここに置いてちょうだいね』
剣がふんぞり返っている椅子に、いくつかの魔石のかけらをずらりと広げる。グランメイズもまだまだ儲かってはいないので、消費できる魔石はそんなに多くはない。
並べ並べ、と言われ、ルーファンと一緒に剣の前に立つ。そして自然と、互いに向き合った。
『ではこれより、契約経路を介し、従者の潜在能力を解放していく。例によって、主は従者の身体に、紋のある方の手で触れろ。位置はどこでもいいよ、ウププ』
こいつ今笑ったか?
まあいい。どこでもいいなら、さっき後悔したことを踏まえると、年頃の男女らしくおててを繋いでやるのが正解かもしれない。
が、あえて同じ個所にしよう。淫紋のあるところがルーファンとつながっている部分なら、こっちの方が、儀式とやらが効率よくスムーズに終わるかもしれないし。
オレは躊躇するルーファンの手をそっと掴み、引いて、自分のお腹にあてさせた。
さすがに少し恥ずかしい。触れられているのは、この身体の大事なところ、無防備であってはならないところだ。それを意識した途端、アズールの身体の本能が警鐘を鳴らしているみたいに、心臓がどくどくと、うるさくなってくる。
ルーファンも、顔をかっと赤くしながら、伏し目がちながら、おそるおそるながら、しかし、こちらの目を見上げてくる。それでなんだか、変な雰囲気になった。
自分から、やたらと熱い息が出ているのに気が付いた。口を結び、無表情を装う。
『では、主よ。俺が
「う、うん」
やがて剣が光を放ち始める。それに伴って、ルーファンの肌に、見慣れない文字列でできた幾何学模様が広がり伸びていく。彼の魔法刻印だ。
魔石がふわりと椅子から浮いた。……いや、ちがった。魔石から、それぞれと同じ色をした光が飛び出したのだ。椅子の上には、色を失った石くれが残されている。
石のエッセンスは、いくつかの小さな光の球となり、ルーファンの右腕にまとわりついていく。腕の周りをくるくると回りながら、それらは、オレの方へと近づいてくる。ルーファンを伝うかたちで。
そして、乳で隠れて見えなくなった。
「……ふあぁッ!?」
オフィスに、女の高い声が響いた。
今のは……自分から出た音だ。
「んぅ、んっ!? あ、ッ……」
「あ、アズールさん!? く、苦しそうだけど、これ……スケヴニング!?」
熱い、熱い、熱い。お腹が熱い。全身が熱い。
お腹の中に、熱い塊が入ってくる。それはゆっくりと溶けて、身体中にある魔力の通り道を、他人の熱いものが、ぐつぐつとかきわけながら進み入ってくる。それで自分の道のかたちが、勝手に変えられる。
全身に行きわたったそれは、今度は、じわじわと、人の身体に根を張るように、じっくり染み込んでくる。温度をそのままに。
こ、これ……、これは……っ、
『ああ~、ちょっとねえ。屈強な男を
「そんな……! 何やってるんだ、僕は! こんなの……!」
「ふ、ぐううっ! お゛お!? んおっ……んぇ……!?」
「うわっ! あ、アズールさ……」
どろどろの汗が出てる。目がぐるりと上を向く。口が勝手に開きそうになる。
それといつの間にか、目の前のルーファンくんを、肩の上から両腕を回して、抱き枕をそうするみたいに、思い切り締め付けていた。
そうでもしないと、おかしくなりそうだった。この熱いものを、外に逃さないと。
だって、これ、これ……、
気持ち、よすぎる――。
気が付くと、足腰に力が入らなくなっていたようで、床に膝をついていた。
ルーファンに抱き着いて、身体を預けたまま。
「はーっ、はーっ、はーっ……」
儀式は、終わった?
汗で、髪が首にまで張り付く。いつも髪で隠してるほうの右頬にも、べっとり。
「あ、あの、アズールさん……」
「!」
か細い声を耳のすぐ近くで聞いて、自分の体勢を理解した。飛び退く勢いで、少年から離れる。
ルーファンの表情が見える前に、わたしは、なんとか後ろを向いた。それでまたへたりこむ。
………。
たぶん、向こうも面白い表情してたと思うけど。それ以上に、こっちも、人様に見せられない様子だったのでは。
うお~やばい。おかしいだろこれ……。なにがどうなってんの。
『これで1レベルアップね。おめでと~』
仕様がおかしいだろ魔法のよ。なんでお前……なんでそんな刺激強いんだよ。これDMM版?
プレイヤーがキャラのレベルを上げるたびに、こんなことが行われていたというのか……。
『これでこの少女は、戦場での動きがさらによくなるはずだ。……ま、1レベルあげたくらいじゃあ、劇的には変わらないけどな。日々の積み重ねが大事さ』
………。
じゃあ、強くなりたかったら、これを何回も……何十回も、何百回もやるの?
「……えっと、じゃあ、今日はこの辺にして、アズールさんの業務はお休みにしましょうか。……いや、それとも、病院か治癒所に連れて行った方が……」
何回も、やっていい?
「あの……社長。スケベニングさん」
『スケヴニングです』
「…………だったら……もっと、やってみないと、ですよね……」
「えっ?」
「レベル……1じゃあんまり、変わらないっていうから……魔法が本当かどうか試すには、もっと上げないと……ですよね」
異様に熱のこもった言葉が、自分の口から出てくる。
おかしな理屈じゃない、よな。
床を見つめながら、背中の向こうにいる少年に向かって、とぎれとぎれに話しかけた。
「も、もう一回……。もう一回だけ、お願いします……その、レベルアップ」
「でも、アズールさんが」
「あ、あの。今度は、背中からで……」
さすがに、よがる顔を、正面からじっくり見られるのは、NGである。
ぺたんと床に座り込んだまま、黙る。ルーファンが何か言ってきても返さない。
やがて、背中に、手が触れてきた感触があった。ぞわわ、と背骨がしびれて、期待感に、鼓動が速度を上げていく。
背後で何かが光る。
――また、気持ちいいものが、入ってきた。
「ひう……」
口を手で押さえた。またよくない声が出そうだったからだ。
「あの、背中熱いですよ! 大丈夫ですか!」
「だっ、だい、だい、じょうぶ……」
ルーファンは、ちゃんとわかってないんだろうか。こっちに何が起きているか。
それとも、本当はわかってる……? もしかして、ぜんぶわかってて、いつもの扱いの仕返しをされてる? まさか、そんな。
変なことを考えてしまって、さらに、身体を駆け巡る熱いじわじわが、余計に頭を茹だらせてくる。
……。
………。
はぁはぁという息が耳に聞こえている。自分の声だった。
ルーファンの手も離れている。いつの間にか、作業は終わっていたらしい。
「これ、やっぱり、あんまりやらないほうがいいんじゃ……。アズールさん、苦しそうだし」
『いやいやいや~、むしろ健康にいいって。本当だって』
「……ルーファン、くん」
なめくじぐらいゆっくり振り返って、少年の顔を下から見上げる。
目を隠す前髪の隙間から、相手を覗き見る。とろけた目つきがバレないようにと思いながら。
「あの……。あと、もう一回だけ……できませんか……」
オレの喉は、勝手に、媚びるような声を漏らしていた。
▽
そのあと、12レベルぐらい上がった。