美少女ソシャゲ人気キャラ憑依   作:もぬ

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13 Sentinels: Aegis Rim

 近頃全然使っていなかった応接室に、ふたりの鎧騎士様を通す。掃除だけはしておいてよかった。

 

「グランメイズ代表、ルーファン・グランドーダと申します」

 

 対面、狭いソファに座るお二人に向かって、自己紹介をする。

 

「あら、本当にあなたが……」

 

 向かって右にいる女性は……、おそらく、ひと回りは年上の方だ。赤い色の髪が印象的だけど、髪型は、長いそれを一つ結びにして肩に垂らす、っていう落ち着いたスタイル。この人の表情や雰囲気も穏やかで、おっとりした方なのかなと思わせる。派手な頭の色とはかみ合っていない気もする。

 ……あと、その………胸が……アズールさんくらい……いやいや。変なこと考えるのはなし。

 左の女性……アズールさんや僕と同世代くらいだろうか。身長は低めで、かわいらしい容貌の人だった。長い金髪と、白銀の鎧の組み合わせがなんとも高貴だ。座る姿勢もきれいで、どこかのお嬢様のような印象を受ける。

 ……あと……鎧騎士なのに、なぜか白いふとももが思いきり見えてて……しかもそれがアズールさんくらい……いや! なにもない。

 初対面のお客様の容姿をじろじろ見るやつがあるか。最近の僕はおかしい。

 

「こほん。……初めまして、ルーファンさん。我々は星天教会・教会騎士団の者です。本日は、あなたさまに依頼したいことがあって参りました」

 

 優しい微笑を浮かべながら、金髪の女性が言う。教会騎士から、うちに、仕事。

 現地迷宮のガイド……あたりだろうか。

 

「と、その前に自己紹介をさせてくださいまし。……私はアスーニャ・アルセーニエヴナ・ロマノヴァ・“ダインスレイフ”。17歳です。そしてそして、なんとこの若さにして、白銀騎士(シルバーナイト)を拝命した身なのです」

「……!! よ、よろしくお願いします」

「ええ」

「アスーニャ、あなた、そんな自慢げにねえ」

 

 彼女……ロマノヴァさんは、自分を誇るようにして身分を明かした。

 シルバーナイト、つまり、“白銀騎士”である、と。

 

 昔うちに勤めていた人が元騎士で、その人から聞いたことがある話。興味のある内容だったからよく覚えている。

 星天教会騎士団には、3つの位階があるという。これは主に、戦闘力と任務達成能力の評価によって決められるものである。

 まずは鉄騎士(アイアン)。最も人数が多く、最も下位の騎士たち。下位といっても、そもそも星天教会の騎士というのは、“聖戦”や、“外敵関連犯罪”に対応することもあるプロフェッショナルであり、選び抜かれた人だけがなれる。堅牢で荘厳な鎧姿も相まって、市民にとってはこの星を守るヒーローたちだ。僕も子どもの頃は、騎士様たちに憧れていた。

 次に、白銀騎士(シルバー)。これはもう、エリート中のエリートたちである。鉄騎士(アイアン)たちの先頭、あるいは最後方に立ち、彼らを率いるリーダー。非凡な才能が認められた者や、大きな功績を成し遂げた者だけがなれる。人が目指せるヒーローの中では、てっぺんに位置する職業と言えるかもしれない。

 ロマノヴァさんはこの白銀騎士だという。……すごい。僕より2つ年上でしかないのに。

 

 ……それと、最後の3つ目。最も高位の騎士。

 彼らは現在、この世界に、たったの十数名しかいないという。これだけ大きな組織の中に、十数名。

 どのような基準でこの位に選ばれるのかは、誰も知らない。雲の上の存在。噂では、戦闘力は並の騎士千人分に相当するなんて言われてる。生きる伝説のような騎士たち。それが――、

 

「初めまして。私はエレナ……エレナ・スカーレット・“ガーンディーヴァ”。今後ともよろしくね?」

「スカーレットさんは星煌騎士(セイオウキシ)――プライムナイトのひとりです」

「え?」

「あ! ちょっと、もう、恥ずかしいから言わないでって……」

「最初に言っておいたほうが、よく効きますわ」

 

 星煌騎士(プライム)……この人が?

 気が付くと、僕はあいさつも返さず、冷や汗を流していた。本当の話だろうか。星煌騎士って、戦争に投入されたら状況をひとりで塗り替えるくらい強いって聞くけど、この人が……?

 本当だとして。そんな人たちが、どうしてこのグランメイズなんかに?

 ややあって。赤い髪のスカーレットさんは、こちらに目を合わせて、微笑みかけてくれた。しまった、またじろじろと無遠慮に……。

 スカーレットさんが口を開く。

 

「今の話、あまり気にしないでくださいな。とにかく、私たちはただの騎士です。そう思ってくれればいいの」

「……あ、は、はい。よろしくお願いします。スカーレットさん、ロマノヴァさん」

 

 正直、何が何だかわからなくなった、互いの自己紹介。

 それで。うちには、一体、どんな用事で。

 そう切り出そうと思ったときだった。こんこんこん、と応接室のドアがノックされる。

 

「失礼します」

 

 事前に言っていた通り、カップの並んだお盆を持って、アズールさんが入ってきた。ありがとうございます。

 そうだ、どんな仕事内容にしろ、迷宮に入るなら僕にはアズさんがいないと始まらない。ちゃんと紹介しないと。

 ソファの後ろ側に立つアズールさんを紹介しようと、腰を上げる。

 

「紹介させてください。こちらは従業員の――」

「……ア、アズールちゃん……!? ヤバッ、本物……!?」

 

 遮られる。

 驚いた様子で、かつなぜか顔を赤くしているのは、ロマノヴァさんのほうだ。

 ……アズさんのことを知っている。知り合いですか?

 

「……?」

 

 アズールさんは、あまり表情は変わってないけど、たぶんあれは、きょとん、とした表情だ。こちらはロマノヴァさんのことを知らない。

 

「アスーニャ、お知り合い?」

「……はっ、あ、いえ、その……前にいた学校で、有名な子でして。ほら、学園のマドンナ的な? も、もちろん、一番かわいかったのは私ですが」

 

 マドン? 何?

 どうやら、面識があるわけではないようだ。

 とりあえず、もう一回紹介からやり直そう。

 

 と、さっきみたいに。

 簡単に自己紹介があったのだが、ロマノヴァさんのほうはなぜか、緊張した様子だった。

 そして。

 

「それで? 乳……星煌騎士さまと、ふとも……白銀騎士さまが、うちのような零細企業へ何のご用でしょうか」

「ちょ……アズさん……!」

 

 小声で注意する。いつもちゃんと仕事してくれる人なのに、今日なんでそんな態度なんですか……!

 丁寧にお茶を出してくれたはずなのに、つっけんどんな口の利き方だ。相手方の気に障ったらどうしよう。

 机の向かいを見る。……ロマノヴァさんは……、ちらちらとアズさんを見ている? なんかぼうっとしている。

 スカーレットさんは……、特に気にしていない様子で、口を開いた。

 

「お仕事の依頼に参りました。そちらのお二人は、“階層違い”と呼ばれている魔物に遭遇したとか?」

「あ……は、はい」

「そして……特級神器を自称する剣の力で、それを切り抜けた、と」

「!」

 

 なぜそれを。

 と思ったけれど。あのときのことは、お役所に報告してある。それと、行政区に出かけて、発掘した神器としてスケヴニングの存在を登録し、それを迷宮内で使用していく申請もした。神器の利用者はそれをする決まりだからだ。

 星天教会は、政府の星神庁と強い繋がりがあるため、これを教会の人たちが知っているのは、おかしくはない。

 特級神器を回収しているという話も聞くし。

 ……あっ、まさか。

 

「もしかして、スケヴニング……神器を、回収しに……?」

「まさか。ルールに従っている方から、大事な商売道具を取り上げるなんてこと、私はしたくありません。それが神々のご意思でもあります。ただ……」

 

 少し言いづらいことなのか、スカーレットさんが言葉に間を置く。

 

「あなたの持つ十三号聖剣、スケヴニングは、我々(教会)が探し回っている『極めて高性能な、十三の剣型兵装』のひとつでして。言ってしまえば、持ち主のあなたがどのような人物であるか、精査するように上から命じられています」

「……なるほど。それで、基準にかなわない人物なら、結局とりあげてしまうつもりですか?」

「ア、アズールさん」

 

 刺々しい言い方だった。でも、それは僕の思ったことでもあった。

 

「……そうですね。神はそうでなくとも、人間はそう考える。……所有者が不適格であれば、聖剣を回収せよ。適格ならば、聖剣の担い手ごと騎士団(ウチ)に引き抜いて来い。そういう任務ですね」

 

 思わず息を呑む。

 不適格であれば、聖剣を回収せよ。それを述べたときのスカーレットさんの目は、少し冷たく、事務的なものに感じた。この人は、たぶん、本当にやる。

 自分の中で、相手への緊張感が増していく。

 しかし。スカーレットさんは表情を和らげ、あくまで優しい声色で、話を続けた。……気を遣ってくれているのだろうか。

 

「そう硬くならないで。私は、お仕事の依頼に参りました、と最初に言いましたね。お話したように、いろいろと思惑がからんでいますが……クライアントとしてそちらにお願いしたいことは、単純です」

 

 その、依頼内容は。

 

「我々を、第八迷宮アンダーアビス、その第113層へ案内してほしい。以上です」

 

 113層。

 100層以降となると、かなりベテランの探索者でないと案内できない場所だ。

 ウチは……まだそこまで潜ったことはないけれど……例の魔法というズルがあるから、多分、いける。実際、そのくらいの階層を次の作業場として考え、準備はしていた。

 しかし、なぜその113層へ? 数字が具体的(ピンポイント)だ。

 スカーレットさんに、理由を尋ねた。

 

「そこが“階層違い”たちの巣だからですね」

「えっ……!」

 

 彼女は実にあっけらかんと、重要な情報を口にした。

 

「あなたがたには、これを排除する任務と、我々があなたを見極める任務……この2つに付き合ってもらう形になります」

 

 ……騎士たちは、既にやつらの出所を突き止めている。一体どうやって。

 そして、そんな、敵の強さが不透明な戦場に、同行を求められている。

 思わず、アズールさんを見てしまう。113層の()()()敵なら、もしかすると、アズールさんはもう、倒せる強さになっているかもしれない。

 しかし待ち受けている敵は、113層の強さとは限らないんだ。それ以上の敵が出てくる可能性は非常に高い。彼女をそんな危険なところに連れていく、なんてこと……。

 

「危険度が高い上に、うちの社長があなた方にじろじろ監視される。引き受けるのがはばかられる、面白くない話ですが?」

「……はっ。いえっ、アズールちゃ……アズールさんは、私がお守りいたしますわ!」

「なんですかあなたは」

「アスーニャちゃん? 今日はちょっと黙っていてね」

 

 ……あれっ。なんかいつの間にか、アズールさんが社長みたいになってる。さっきから僕の言わないといけないこと、アズさんが言ってくれてる。

 比べて、気が付くとぽかんと口を開けて聞き役になっている僕。ダメすぎる。

 

「アスーニャも言っていたけど……心配しないで。“階層違い”が出たら、そこからは私たちの仕事。ふたりのことはお姉さんが守るわ。なんたって星煌騎士ですもの」

「それは……ありがとう、ございます」

 

 危険な仕事ではあるけど、一緒に戦え、ということではなかったみたいだ。

 現地まで連れていくだけなら、うまくできるだろうか……。

 考えながら相手の表情を見る。スカーレットさんが、目を細めた。

 

「まあその、私ってたまに周りのこと忘れちゃうから、いざというときアレかもしれないんだけど……そこはこの、白銀騎士さまのアスーニャちゃんがカバーしますので。ねえ?」

「いや、ちゃんとしてくださいねスカーレットさん、本当に……」

「まあまあ。……力量が足りないようなら、無理に案内させたりしないわ。途中で引き上げてもらってもかまいません。まずは迷宮のお散歩だと思って、私とお喋りしながら歩きましょ。……ね?」

 

 スカーレットさんは小首をかしげ、片目をつぶる仕草をした。

 ――少し、ドキッとした。あまりこういう、おっとりとした雰囲気の、大人の女のひとは、周りにいたことはなかった。あと、その、美人だし。

 えと。依頼……その条件なら、受けてもいいだろうか。

 

「むっ。社長……?」

「それと、報酬額の相談ですが。アスーニャ」

「はい。他の騎士たちを下がらせたので、人件費とかうまいこと抑えて……任務費用としてこれだけもぎとれますね。……どうぞ、こちらの予算ですわ」

 

 ロマノヴァさんがさらさらと走り書きし、机上に差し出された小さな紙切れを、アズさんとふたりで覗く。

 ……ゼロがいち、にい、さん、しい……

 

「こっ、こんなに!?」

「社長、受けましょう」

 

 はやい。

 こころなしか、アズールさんの目の中にお金のマークが浮かんでいる気がする。昔読んだことあるマンガの中だったら、たぶんそう。

 

「ふふふ。あなた……ルーファンくんが聖剣使いなら、うちに転職したら、たぶんいっぱい給料出るわよ」

「ん。さっそく引き抜きですか……」

「もちろん、アズールさんも一緒に来ていいのよ。いきなりの勧誘だけど、これも任務だからごめんね。……どうかな?」

 

 いつの間にか、そういう話になっていた。

 でも……。自分が特級神器の持ち主に相応しいかとか、アズールさんに負担をかける仕事を引き受けるのかとか、そういうのには悩むけど。

 こういう話に対してなら、答えは決まっている。

 

「すみません。僕はまだ、このグランメイズを、終わらせたくないので」

 

 もちろん、もっと遠い未来には、どうなるかわからない。でも、少なくとも今は、この店から離れる気はない。

 じいちゃんや父さんがいた、この会社のこと、僕は好きだから。

 

「へえ……その歳で、ちゃんとやりたいことがあるのね。感心しちゃうな」

「社長。今のは、なかなかかっこいいです」

「へっ。えっと、あの? ……あ、あはは。ありがとうございます」

 

 なんか褒められた。ちょっと、うれしい。

 

 とりあえず、話はまとまった。

 僕たちグランメイズは、この騎士様たちの依頼を受け、第113階層へ共に潜る。

 目的地にたどり着くまでの行程を詰めないといけないので、お二人には、翌日、またここへ来ていただく運びになった。

 外部の探索者から受ける、迷宮の案内(ガイド)。初めてやる仕事だ。しっかり成功させて、実績と経験にしたい。

 

「ところで、ルーファンさん。十三号聖剣……スケヴニングはどちらに? 実物を見てみたいのですけれど」

「あ、今テレビ見てます」

「えっ」

 

 

 

 第八迷宮アンダーアビスでは、探索者が階層を楽に移動するための転移門、外の世界でいうところのエレベーターが、5階ごとに設えてある。それらは誰かの手によって一度起動されれば、すべての人が利用できる仕組みだ。最前線を攻略する探索者がいたおかげで、僕ら後追いはこの恩恵を享受できる。

 しかし、5階ごと、なのは地下第100階層までの話。

 それ以降は、20階ごとの設置になってしまう。

 つまり、113層に行くためには、120層から7つさかのぼるか、100層から13進むしかない。この不便さは、アンダーアビスを創造した神からの、人間への試練のひとつだと考えられている。

 

 騎士たちを伴って、転移門から一歩踏み出す。

 ここからは、第120層だ。これから僕たちは、自分の脚で上の層へと昇っていくことになる。100層より下の階層は広大かつ道のりは困難で、目的地までは24時間前後はかかると予測される。途中で休憩を挟むつもりだ。

 周囲の情報と、手元の地図とを照らし合わせる。じいちゃんの代の社員たちが残してくれたこれは、アンダーアビス浅層が構造変化の性質を基本的に持っていないため、今でも貴重な財産・仕事をするうえでのノウハウになっている。

 

「では、我々が先導します。行きましょう」

 

 先頭を任せたアズールさんに、ルートを指示しながら進んでいく。それがいつものスタイルだ。加えて今回は、後方を騎士のお二人が警戒してくれることになるので、初挑戦の階層だけど、とても安心感があった。

 

 歩き出すと同時に、いつものようにアズールさんに強化の魔法をかける。見た目にはなんの変化もないが、たしかに僕とスケヴニングの魔法(スキル)……『狂える戦士らの支配者』がかかっている。

 この魔法の運用について。以前スケヴニングから説明を聞いた通り、僕からアズールさんへの強化は、四六時中常に・永続的に効力を発揮する、というものではない。アズールさんを、さらなる強敵と戦えるほどの能力にまで押し上げられたとしても、それは僕が魔法を発動している間だけの話だ。(素の実力も徐々に伸びているみたいだけど……。)そのため、不意打ちなんて喰らおうものなら大変なことになる。

 これを解決するために、迷宮にいる間はずっと、魔法を発動し続けることにしている。最初はすぐ僕がバテてしまっていたけど、この頃はうまい加減、魔力の節約の仕方がなんとなくわかってきたところだ。

 この前まで、魔力なんて自分にはないと思っていたから、扱い方がこれでちゃんとあっているのか、自信はないけど。

 

「あら。いま、そちらのお嬢さん……アズールさん、もしや聖剣スケヴニングの固有魔法がかかっていますか?」

 

 と。後ろにいるスカーレットさんが、こちらが驚く発言をした。

 

「え……、わ、わかるものなんですか?」

「んー。なんというか、存在感が増したので」

「は、はあ」

 

 僕はいま、魔法を発動するにあたって、従者(ガード)であるアズさんに何も合図はしていなかった。今はもう、迷宮で『狂える戦士らの支配者』を使うことは、暗黙の了解になっていたからだ。

 星煌騎士ともなると、人目にはわからないはずの変化も簡単に見分けられるのか。……すごいなあ。なんでだろう。

 

 静かな迷宮を進んでいく。僕の足音。アズールさんの足音。そして、騎士の靴が鳴らす規則正しい足音が、ふたつ。

 そこに。

 がしゃ、がしゃ、という、テンポの悪い、鎧を着た者の足音が、ひとつ加わってきた。

 これは……僕らのうち、誰のものでもない音だ。近くに何かがいる。

 誰からともなく、僕たちの歩みが止まる。全員で横並びにはなれない狭い通路、向こうの角から姿を現したのは……。

 その姿を見て、背筋を冷たいものが走った。あいつは!

 大柄の人間のシルエット。分厚くリーチの長いつるぎ。主のいない古びた鎧が、ひとりでに戦場を闊歩している。

 空洞の騎士、アインヘリヤル・ドール……!

 以前、“階層違い”として浅層にあらわれ、アズールさんを追い詰めた魔物と同じタイプ。そうか、僕らはもう、あいつが当たり前に現れるレベルの階層にいる!

 気を引き締める。アズールさんは既に臨戦態勢にある。スケヴニングの柄に手を置き、彼女の強化率を最大限まで引き上げる。

 そうだ、後ろのふたりにも、敵のことを伝えておかないと。

 

「あ、あいつ、遠くから衝撃波を飛ばしてくるんです。お二人も、戦いの余波に気を付けて――」

「その必要はありません、社長。攻撃は届かせないので」

 

 アズさんの声。同時に、遠間にいるヤツの剣が振り上げられる。懸念していた、遠隔攻撃の魔法(スキル)だ。

 思わず身構え……た、ときには、もう。ずがん、と音がして、鎧騎士の剣は、手元から弾かれていた。

 アズールさんは、もう撃っていた。

 そのまま、歩いて距離を詰めていく。急いでもいない、余裕のあるようなそぶり。敵が行動を起こそうとするたび、アズさんの銃撃がそれを阻止する。

 やがて、アズさんは、自分よりうんと大きい相手の懐にたどり着き、そして……いつの間にか持っていた光の剣を、2回……3回ほど、振った。

 それで、敵の四肢が、胴体から切り離された。

 

「ふん」

 

 アズさんは、壊してしまったおもちゃのようになった鎧の腹部を、片足を上げて、乱暴に踏みつけた。それがこちらからも見えた。

 踏みにじり、身をかがめ、銃口をごん、と当てる。そして……、

 何度も何度も何度も、撃った。がんがんがん。あと剣も出して、ごすごすごすと突き刺していた。攻撃のたびに、ちかちかと光が瞬いて、アズさんの無表情を照らす。

 ………。

 こ、こわい……。

 やがて、武器をしまったアズールさんは、ゆっくりとこちらへ戻ってきた。

 上着のポケットに両手を入れて、静かに歩いてくる。

 ……すごい。身のこなしのすごさはもちろん、あのときは通じなかった武器の威力を、あそこまで上げて、魔力の消費量も増えているはずなのに、アズさんは平然としている。確実に強くなっているのはもちろんわかっていたけど、同じ敵を相手にしたことで、そのことが鮮明になった。

 どきどきする。アズさんとなら、僕は。僕たちグランメイズは。

 

「――アズさんッ!」

 

 ……喉が、切羽詰まった大声を出していた。

 彼女のすぐ後ろ。斬り飛ばされたはずの四肢と、穴だらけの胴体しかない鎧が、一緒に宙に浮いて、アズさんに刃を向けていたからだ。最初から、人体とは仕組みが違っていた。

 心臓と背骨が爆発する。スケヴニングに手をかける。だめだ。敵の剣のほうが速い。

 目を閉じることだけはせずに、その光景を必死で見る。アズさんは――、

 向こうを振り向きながら。いつの間にか右手に握っていた大きな銃、神器ドラグーンの、トリガーを引いた。

 巨大な光の砲弾が放たれる。鎧騎士の人形は、四肢も胴も面も残さず、あとかたもなく、そこから消えた。

 

「ふっ」

 

 アズさんは、銃口から排出される余剰魔力の煙を息で飛ばし、ドラグーンを懐に仕舞った。

 ……か、かっこいい。

 すごい。すごい、アズさん。前と全然違う。すごい、やった、やったんだ。

 

「は、はわわ……アズールちゃんやばみ……つよくてかわいい……あと揺れがでかい……でかかわ……」

「強いわね。白銀騎士に匹敵する戦闘力です。十三号聖剣とその担い手の力……だけではなく、あなた本人の素質によるものでしょうね」

「………。」

 

 あっ。アズさんの頬が少し赤い。もしかして、うれしいのかも。

 僕もなんだか嬉しい。アズさんは、うちのホープだから。騎士様たちがこの人を認めてくれたのは、とてもいい気持ちだ。

 

『……まあ、このアズールちゃんとうちの主は、もうレベル上げ依存症かってくらい何回もヤったからなぁ』

「あら」

「なっ!? その言い方……まさかレベルアップの手段って……あっ、アズールちゃんと……ぶふっ」

 

 スケヴニングの言葉を聞いたロマノヴァさんは、綺麗な顔をいきなり真っ赤にして、アズさんをじろじろと見て。そして、鼻から赤い血をぷっ、て出して、その場に倒れた。

 えっ。

 ………。

 

「わ、わあっ、ロマノヴァさん!」

 

 突然の出来事すぎて、何が起きたのかわからなかった。今もわからない。

 とりあえず、倒れてしまった彼女を介抱する。けれど、アズさんと、そして上司のスカーレットさんまでもが、なぜか彼女を思い切り無視していた。

 そしてそのロマノヴァさんは、鼻から血を流しているのに、何故か幸せそうな表情をしていた。

 

 

「なんだ、手を当てて儀式をするだけ? 健全じゃないですかあ。もう。私、驚いてしまいましたわ。ウフフ」

「そうですね、とても健全です。ね、社長」

「え、ええ……」

 

 とりあえず、道のりは順調だ。僕を見極めると言っていたスカーレットさんの視線も、事務所で一瞬見せたような冷たい感じはない。

 階層を上に昇っていくというルートの都合で、この先にはアインヘリヤル・ドールよりさらに強い敵はいない。このままいけば、無事、仕事を終わらせられそうだ。

 

「……あ、れ……」

 

 足が止まったのは、そんなときだった。

 最初はなぜ、自分が立ち止まったのか、わからなかった。けれど、心臓がやたらと速く動き出して、冷や汗が出てきてから、なんとなく理由はわかった。

 すぐそこから、魔物の気配がする。魔物の気配なんてこれまでわからなかったのに、今はそれが感じ取れた。

 いや。

 感じ取らされている。

 

 やがて、僕たちが立ち入っていた大部屋の、向こう側の通路から、それが、のっそりとやってきた。

 

 猿。

 のような、姿の魔物だった。ただし人間の大男より二回りほど巨大であり、身体中に、鎧のような甲殻を纏っている。あの丸太のような前足で無造作にでも殴られたなら、それで人は死ぬ。そう思った。

 そしてそいつは、人間になど関心はなさそうな表情をしていて。でも、その2つの眼は、僕たちをずうっと見ている。

 ああ。うちの記録では見たことがない。もっと、もっと下から来た魔物。そう。あいつも、“階層違い”だ。

 今のアズールさんのレベルなら、多少のトラブルは切り抜けられると思っていた。でも、階層違いなんて言われているんだ、120層よりうんと下のやつもいるに決まっている。

 僕でもわかるこのプレッシャー。すぐそこに、死のにおいがする。

 ……怖い……!

 

「あ、ああ……」

「……社長。逃げますよ。事前の打ち合わせ通りにするだけです、しっかりして」

「っ! は、はい」

 

 アズさんの声で、自分を取り戻す。

 絶対に勝てない相手と遭遇する……迷宮の探索者には、当然に起こりうることだ。ここの神様だって、ずっと甘い設定のままにしてくれるわけじゃない。

 敵から逃げおおせる算段。相手に隙を作る手段を、逃げる道順を、頭の中で組み立てる。

 それが。

 

「……! そ、そんな……」

 

 そのとき、この魔物の特性のひとつがわかった。

 “集団で現れること”だ。向こうの通路からさらに1匹、そして、逃げ場をふさぐように、僕たちの後方に2匹が、いた。

 ――囲まれた。1匹でも恐ろしい相手が、4匹。

 血の気が引いて、顔と手先が冷たくなる。心臓はばくばくと動いているのに、血が巡らない。

 耳鳴りがする。くらくなっていく、周りの景色。

 そこに、一点だけ、色がついているものがあった。

 ……アズールさんが、こっちを、見ている。あの、透明な青い瞳で。

 ……いや、あきらめるな。逃げる手段はまだあるじゃないか。これぐらいどうにかできないやつが、「僕はまだグランメイズを終わらせたくない」だって? 恰好つけるのなら、まずはそれにふさわしい自分になるんだ。

 僕は、大猿たちを刺激しないように、ゆっくり、ゆっくりと、剣の柄に手を伸ばした。

 そして。

 

「ふ……よろしくてよ。次は私の番ですわね」

 

 優しく、凛とした声が、緊張を破った。

 ひとりの騎士が、悠然と、怪物の前に立ちはだかっていた。

 

「ロマノヴァさん! そいつは、間違いなく“階層違い”で……!」

「おかまいなく。いいところ見せたいので」

 

 そう言って彼女は、腰の豪奢な剣も抜かずに、一歩踏み出した。あ、と僕の喉から、声が出た。

 攻撃圏内に自ら進み入ってきた獲物に、凶暴な唸り声を返す獣。そして、あの、暴力の塊みたいな腕が、華奢な少女に向かって振るわれた。

 叩きつぶされる。

 そう思った。

 

「……へえ。なかなかの力ね。でも、腕相撲なら負けないわ」

 

 騎士アスーニャ・ロマノヴァは、巨大な暴力を、小さな片手で受け止めていた。

 ぎし。

 細い指が、ぴくりとも動けないでいる大猿の腕に食い込む。

 金切声の悲鳴が上がる。魔物の悲鳴なんて、僕は初めて聞いた――。

 そして次に。

 猿の巨体が、ふわりと浮いた。

 

「おおっ……らああッ!!」

 

 目を疑う光景だった。乱暴に投げ飛ばされた魔物が、すごい勢いで、後ろに控えていたやつに叩きつけられたんだ。

 さらに、当然にひるむ2匹に対し、ロマノヴァさんは拳を握りしめて走り寄る。

 そして――長くて迫力のある脚による、見事な蹴り。格闘家のそれだ。鎧騎士のはずなのに脚を大胆に出していて比較的軽装なのは、このためだったみたい。

 連撃が続く。次々と叩きこまれる両の拳が、大猿の肉体を破壊していく。

 いや……あんな、あんなに可愛くてきれいな、お姫様と騎士の中間みたいな見た目で……ステゴロ? 腰の剣は飾り……?

 ……そして。1匹目が、動かなくなったあたりで。

 

「さて……! 必殺技といきましょうか! パワー系の魔物が私の前に立つなど、100年早いですのことよ!」

「搦め手に弱いくせに」

 

 ぼそ、とスカーレットさんの声。

 そして、ロマノヴァさんはついに、腰の剣を……鞘ごと、帯から外した。

 そのまま剣術の構えをとる。鞘に収まったままの剣を、そのまま刃も見せずに。どうして抜かないんだ?

 ……だというのに。刀身を見せていないのに。ぞく、と、なにか危険なものを見たときの、あの感覚が背中を走った。

 

「あなたのお顔は見飽きましてよ! ――神技(しんぎ)! 『フェイタリティブラスト』ォオオーーッ!!!」

 

 ロマノヴァさんが、魔物を、剣のフルスイングでかちあげた。

 魔物の巨体が浮く。ただその高さ! やはりすさまじい怪力だ。

 宙にいる魔物の身体に、何かが光る。そのいくつかの煌めきはやがて、ドドドドドワォ、と謎の爆発に変化した。音と、ここまでくる風が、そのすさまじい威力を物語っている。

 ……まともに喰らった魔物は、当然。あとかたもなく、粉々に砕け散った。

 後に残ったのは、得意顔でこちらに身体を向けてポーズを取るロマノヴァさんだけだった。

 

「割と楽しかった……ゼ!」

 

 す、すごい。爆破の魔法か何かかな。筋力も、アズさんと同じ年の女の子とは思えないくらいだ。

 本当に、すごすぎた。信じられない。あの魔物を、あっさりと。もしかしたら僕の感じていた恐怖は嘘で、敵は見掛け倒しの弱い魔物だったんじゃないか。そう思わせるほどに圧倒的。でも、絶対に弱い魔物なんかじゃなかった……。

 ……これが。昔あこがれた、人々のヒーロー。星天教会の、白銀騎士(シルバーナイト)の力なんだ。

 

「……アズールちゃ……アズールさ……こほん。あ……あ、アズさん? 見ていただけましたか、この私の強さ」

「馴れ馴れしく呼ばないでください」

「んぉお゛っ!? 冷たい態度が脳にキく……っ!」

 

 なんか自分の身体を抱いてぷるぷるしているロマノヴァさん。

 

「アスーニャ、なんですかその技は。初めて見ましたが。真面目にやりなさい」

「い、いやあ。かっこいいかなと思いまして。……そう言うなら、スカーレットさんもやってくださいまし」

 

 ロマノヴァさんが、後ろを指した。

 そこには、仲間をやられて臨戦態勢になりながらも、こちらにかかってこれていない、残り2体の大猿がいた。

 

「……そうね。こっちのふたりにはまだ倒せない相手だし……」

 

 スカーレットさんが、二本の剣を、手に取った。

 ……星煌騎士(プライムナイト)。そうだ。この人は、さっき横暴なまでの強さを見せつけたロマノヴァさんより、さらに上位の騎士。世界に、十数名しかいない、最強の。

 思えば。大猿たちが一斉に襲い掛かってこなかったのは、この人がいたから――?

 気が付くと、その人の姿を、凝視していた。もし、本当に、星煌騎士だというのなら。その戦いぶりなんて、一生見られるものじゃないはずだ。

 

「な、なんか視線を感じるわね……」

 

 スカーレットさんが手に取った二本の剣は、反りが強く、持ち手の形状や刀身の長さからして、片手で保持するもので、そして何より、デザインが全く同じものだった。

 双剣使い。

 

「ギャラリーがいるとなんか恥ずかしいんだけど……」

「未来の英雄を目指す少年少女に、星煌騎士(セイオウキシ)の戦いぶりを見せてあげてくださいな」

「これじゃだめ?」

 

 え。

 そう声が漏れた。一度瞬きをした間に、スカーレットさんの手から剣が消え。魔物の一体に、二本のそれが、深々と突き刺さっていたからだ。

 それで、そいつは絶命した。生き物が活動するのに必要な個所を、正確に貫いていたから。

 

「そんなの面白さに欠けますよ」

「む。だったら、お姉さん必殺の! えーと……み、みじん切り」

 

 ごう、と風が巻き起こる。思わず目を細めると、そこにいるはずのスカーレットさんの姿が、()()()

 一度瞬きをすると、あの人はまだ生きている魔物のそばに立っていて。

 もう一度瞬きをすると、もう死んでいる魔物の身体を、細切れに解体していた。

 

「そんな技初めて見ましたわぁ、スカーレットさん? もっと魅せる動きを追及するべきでは? 私みたいに」

「だ、だってぇ……わからないしそんなの……ほら、あなたみたいにマンガとか、読んだことないもの……」

 

 ぽかん、と口が開いてしまう。

 思わずアズールさんを見る。どうやら同じような感想を持っていたようで、さすがの彼女も、目を丸くしていた。

 

 星天教会の騎士、ロマノヴァさんと、スカーレットさん。

 なんというか。

 ……すごいひとたちも、いるものだなあ。

 

 ▽

 

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