私の夢は夢を持った他の子をシバくことです。   作:しゃけむすび

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見切り発射


プロローグ

 私はこの春16歳になるウマ娘である。名前は特に言う必要はない。

本来であれば花の高校デビューと行くべきところだが、私は中高一貫の学校に通っているので残念ながら通常の進級とそう変わらない。

 

 そんでまぁ、突飛な話にはなるのだが、私はある障害を持っている。と言っても足がないだとか体が弱いだとかの身体的なものではない。寧ろ今まで怪我らしい怪我なんてした事はないぐらいには頑丈にできている。

 

 では何だという話になるが、ざっくり言ってしまうと私は本能の一部が欠落しているのだ。要は、ある種の感情欠落のようなもので、ウマ娘特有の走る事で得ることのできる快感だとか楽しさだとかを、私は一切感じ得ない。先天性の失感情症、というのが私が小さい時に医者に告げられた病名だ。と言っても軽度のものなので、怒りもするし、楽しいと思うこともあるのだが。

 

 ただ本当にレース、ひいては走る事に楽しさを見出せないというだけなのだ。しかし、それは家族や周りの者からすれば非常に深刻な問題であったようで、医者にそう診断された時、両親は泣くし、祖父母も泣いたし、親戚もちょっと泣いてた。猫は鳴いてた。

 

 何故そこまで大々的に露見したのかといえば、それは母親による処が大きい。何でも現役の頃に名のあるレースでいくつも一着を掻っ攫っていたらしく、そんなウマ娘の子供であれば、と私は随分将来を嘱望されていたらしい。私からすれば勝手に周りが言ってただけなので知ったことでは無いが、問題は母親の方だ。母親は、今でこそだいぶ良くなったが、医者に行った日から目に見えて憔悴していった。

 何かしら顔を突っつき合わせる度に、変な顔で見てくるし、終いには「ちゃんと産んであげられなくてごめんね」等と抜かしやがった。その時ばかりは流石に腹が立ったものだ。自分が何とも思ってない事を憐れまれる事ほど悔しい事は無い。

 この時、初めて親に腹を立てた私は、あろうことか泣き崩れていた母親の胸ぐらを掴んで、お前よりも強いウマ娘になってやるから今に見ていろと啖呵を切ってしまった。この日の事は数年経った今も尚、後悔している。

 

 啖呵を切った手前、やらない訳にもいかず全く興味ないレースの為の練習を次の日から始めた。最初の頃は、元トレーナーだと言う親父が何かと指図してきたが、自分以上に自分を理解できる者はいない。と信条を掲げていた私は何やら吠え立てる父を無視して1人山奥に突き進んでいった。とりあえずは朝起きてから日が沈むまで走り回って、もし疲れたらその都度休んで、を繰り返した。一度も疲れずに走り回れるようになればとりあえずは体力の心配は要らないだろうと、今思えば阿呆も此処に極まれりだが、当時はひたすら根性のみで動いていた。

 しかし現実はそう優しくない。どんな凶猛な獣でも山の地形では全速力で動けないだろうと高を括っていたが、そんな甘い事はなく、ある日とうとう脇腹の辺りに少し深めに傷をつくってしまった。勿論、それを親が看過する訳もなく、這う這うの体で帰ってきた私を病院に運び込んだ後、父親は大層な剣幕で怒鳴りつけてきた。しかし一度やると決めた物を投げ出す事が何よりも嫌いだった私は、父を説得するのを試みた。そして、数分ぐらい話していると何を思ったのか父親はさめざめと泣き始めた。当時は何で泣いてるかなんぞ知る由も無く、慰め方が分からないのでただ見つめていた。やがて泣き止んだ父親は、しばしの逡巡をしていたが、最後はいくつかの制限を設け、山でのトレーニングを許可してくれた。何事もやってみるものだ。母親には、日頃の特訓も父親と行なっていると言い張っていた為、怪我についてもそれとなく誤魔化しておいた。

 

 そんなこんなで数年経った今も、その山にちょくちょく足を運んでいる。未だに、ぶっ通しで走ることはできないが、獣も容易に撒けるようになったし日没まで1時間程度まで持続する様になったから特訓の成果は出ているようだ。

 

 だが、無駄に体力があるだけでは、レースには勝てない。ならば、何かこう、私の必殺技を考えなければいけないと思い立ったのは小三の時だった。

 しかし、ここで1つ問題ができた。私は前にも書いた通り本能が無いので、この走り方が嫌いだとか、苦手だとかそういうのが無かったのだ。それに加えて身体能力的にも均整が取れた体だったようで、どんな脚質の走り方でもある程度はこなせてしまうのだ。

 このままでは器用貧乏になると日に日に焦りを募らせていたが、思わぬ発想が解決の糸口となった。

 

 それはある日、親父に走り方の参考までに、と幾つかのレースのテープを借りて見ていた時だった。私は、ふとこんな事を思った。

 

(わざわざ自分の走り方を作る必要があるのか?)

 

 ビデオの中ではウマ娘の中でも上位の上位である強豪達が鎬を削っていた。目の前で、自分よりも遥かに経験を積み、数多の戦場を勝ち上がってきたウマ娘がその努力の結晶を惜しげもなく披露している。私はどんな距離も、走法も不得意ではない。ならば、今画面の中にいるウマ娘の走り方を模倣できるんじゃないか?

 

 試しに一つ、見ていたレースで一着を取ったウマ娘の走りを再現してみる。試行すること数回、やがてしっくる走りができたのでビデオで自分の走りを確認する。

 

(完璧じゃないか。)

 

 そう、完璧だったのだ。速度は絶対的に劣ってしまうから仕方ないとして、それ以外は一分の狂いもなく、フォームを再現できていた。

 これを活かさない手は無い、極めれば間違いなく全国レベルと渡り合える。と確信した私は、次の日から寝る間も惜しんでフォーム研究に勤しんだ。

 そしてある日、母親の知り合いの子供達とレースをすることになった。どうやらある年齢までいったらお披露目会の様な形で模擬レースをするのが通例としてあったようで、私の噂は広まっていたものの、母親が頑張ってくれたらしく私も参加できる運びとなった。

 

 誰かと競えることなどそうそう無いので、この機会に自分の必殺技がどの程度通用するか試してみることにした。

 

 結果は大成功。走ってる最中に隣の娘の走り方を真似してみればそれが驚くほど体に馴染む。この技のあまりの強さにハイになった私はそのまま勢いに任せて一着をもぎ取ってきた。しかも成果はそれだけに留まらなかった。真似をされた娘が動揺してペースを乱していたのだ。その娘は結局、最後方に沈みそのまま最下位となった。

 

 状況に応じて対応できるだけでなく、対戦相手のペースも乱せるのだからこんなに強い武器はない。私はこの技の伸び代に内心小躍りしていた。

 

 

 

 そして現在、トレセン学園所属のウマ娘となった私は兼ねてよりの計画を実行に移すことを決意した。

 

 

 




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