私の夢は夢を持った他の子をシバくことです。   作:しゃけむすび

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兆し

 あの模擬レースから早数日、変わったことと言えば練習内容にフォーム研究の時間が増えたことだ。昔取った杵柄というか、スタミナは既に有り余るほどに備わっているので技術を磨く事に専念する事にした。技術面の一応の目標として、歴代最強に名を連ねるウマ娘の走りを模倣したいのだ。

 しかし、現実というのは儘ならないもので、私の戦力強化はすぐに行き詰まってしまった。というのも、あまり誇れる事でも無いのだが、私は幼少の頃から逆境だとか敗北だとかと無縁の人生を送ってきた。その為、悔しさだなんだというのはイマイチ分からない。

 山で怪我をした後も翌日にはこっそりトレーニングをしたし、根性が無い訳では無いと思うのだが…。

 そもそも私は、今までレースに出た数が少ないということもあり、自分より速いウマ娘と戦った事がないのだ。成長という概念を語るならば、敗北は必ずついて回るものだが、私にはそれが無かった。つまりは可及的速やかに、強者と対戦し、出来れば全力を尽くした上で敗北しなければならない訳だ。

 

 そしてもう一つ大きな課題がある。それは、自らの身体能力と技術目標である古豪ウマ娘の身体能力の齟齬だ。

 先の戦いで模倣した走りは、ちょっと綺麗だなという程度だったが、レジェンド級のウマ娘は文字通りレベルが違う。

 他には類を見ない天性のフィジカルがあるからこそ、彼女達は各々の武器を絶対不可侵に昇華させてきた。フィジカルと一口に言ってもその実、様々な分野に分かれている。

 

 例えば、〈神〉と謳われた初代生徒会長は〈鉈の切れ味〉と讃えられる程の末脚を持っていた。讃えられる程に、下半身が他の追随を許さないくらい恵まれていたのだ。勿論他の要因もあるが、加速の元である瞬発力を生み出す速筋が異常な程に発達していたのだと思う。だからこそ後世に語り継がれる程の末脚が生まれたのだろう。

 

 対して私は、他に比べれば遥かに恵まれた身体能力を持っているものの、初代生徒会長と比べるのなんて烏滸がましい程度だ。これでは、完全再現は到底不可能。末脚の加速の度合いが絶対的に劣っている。

 

(まぁ、悩んでても仕方ないかぁ。)

 

 今考え分からないのであれば無理に答えを出す必要も無いだろう。とりあえず出来ることから始めてみるべきだと思い直したのだが、ここでもまた問題が発生した。

 

 知り合いと呼べる人間が、いないのだ。

 やってしまった。考えてなかった。クラスメイトの名前すら覚えている自信が無いのに、どうやって強いウマ娘に併走を申し込むというのか。私が仮所属として練習に時々参加しているチームに頼ることも考えたが、弱小もいいとこの彼らがそんなツテを持っているとも思えない。

 かといってチームに所属している娘たちでは何回走ったところで負けようがない。

 

(かくなる上は…)

 

 数分思案した後、余りの八方塞がり具合により、半ば自棄になった私はとある場所へ歩を進めた。

 

「そういう事なら喜んで協力させて貰おう。」

 

 絶対に門前払いをされるだろうと覚悟して向かった生徒会室で、シンボリルドルフはこともなげにそう言った。まず入れてすら貰えないだろうと思ったのに何故かすんなりと通されたので、先の思索をオブラートに包みに包んで慎重に話し、そういう訳だから誰か名のあるウマ娘を紹介してくれないか、と聞いた結果が上記の通りである。

 

「私は以前君の力になると言ったからね。それに個人的にも1人のウマ娘がレースに興味を示してくれているのは嬉しいんだ。」

 

 成程、聞けば聞くほど聖人君子である。通常のウマ娘がこなす課題や生徒会長としての業務もあるだろうに。しかし、何事も頼んでみるものだ。この学園の教職員を除くトップなのだからさぞ、やりごたえのあるウマ娘を紹介してくれるだろう。

 

「ただ、申し訳無いんだが今すぐにという訳にはいかないんだ。…そうだな、今週の土曜なら久しぶりにオフの予定だから、その日でも構わないかい?」

 

 ん〜…流石に業務やら何やらに忙殺されている輩にわざわざ休日を割いてもらいたくは無い。それに紹介してくれれば結構だからそう時間は取らせないだろうと思いその旨を会長に伝えると、

 

「うん?」

 

 会長さんは一瞬呆けた顔をした後、すぐに何かに気がついたらしくこう言った。

 

「いや、紹介はしないぞ?君は私と併走するんだ。」

 

 衝撃の事実に硬直している間に会長は続けた。

 

「少し噂になっていてね。何でも最近、人の走りを盗んでしまうウマ娘が現れたらしい。彼女の走りを見た者たちが言うには、フォームから足運び、更には仕草まで完璧に模倣していたそうだ。しかも普通なら他人に気を回す余裕なんてある筈もないレース中に、オリジナルの子よりも隙が少なくなる様に手心まで加えていたんだとか。」

 

 …やってしまった。年頃の生娘の情報伝達能力を舐めていた。

 

「君の為とか、温情とかではなく、私は噂を聞いた時から、そのウマ娘と手合わせしてみたいと思ってたんだ。何せ相手の走りを盗むなんて、聞いた事がないからね。そこに件のウマ娘が現れて願っても無い相談をしてくれた。その好機を逃す手は無いだろう?」

 

 合点がいった。私はどうやら虎穴に入り込んでしまっていたらしい。どうりで嫌にすんなり相談に乗ってくれた訳だ。さっきレースに興味がどうの言っていたのは何だったんだ。

 

「まだレースに参加し始めたばかりのウマ娘と戦ってみたいなんて、自分でもどうかしてると思うよ。でも、そんな事すら気にならない程に、未知の走りをするウマ娘に興味があるんだ。分かってくれとは言わないが、君は相談をして、私はそれを引き受けた。理由としては充分だろう?」

 

 棚からぼた餅とはこういうのを言うんだろうか。しかしこの会長のアグレッシブさにはつくづく肝を抜かれる。

 

(もうちょっと易しくてもよかったんだけどなぁ。)

 

 私の初併走はいきなりラスボスとの一対一に様変わりしてしまったようだ。喜ぶべきか否かは神のみぞ知る。

 

 

 

 




 会長の口調むずい。
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