私の夢は夢を持った他の子をシバくことです。   作:しゃけむすび

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今回少なめ。そろそろ他の娘とも戦わせたいなぁ。


確認

 あれから最初に言われた通り数本併走を行ったが、終ぞ、会長さんより先にゴールラインを踏む事はなかった。と言ってもあれからは勝敗これこれよりも、シンプルな対戦形式の経験を積みたくなったのでそれに付き合ってもらう形になった。そして、眼鏡がそろそろ切り上げようと言い出したので、今日はここら辺で終わろうという事になった。

 

 私は、主観以外の意見も聞いておきたかったので、会長さんに私の走りを批評して欲しいと頼んだ。

 

「ふむ、そうだね。ならこの後時間はあるかい?君は多分、ただ指導されるよりも、互いに意見を交えながらの方が思考しやすいだろう?少し議論形式で話してみよう。」

 

 了承の旨を伝えると、幾分かグラウンドの片付けをした後、小さなミーティングルームの様な部屋に案内された。

 

「まずはお礼と謝罪をさせて欲しい。今日の併走は私にとって非常に有意義な物だったよ。そして先刻、君の技術を猿真似と揶揄した事を謝らせて欲しい。君の模倣は、予想の遥か上を行く素晴らしい物だったよ。」

 

 最初の一本以外大した事はしてないし、最初に仕掛けたのは私だから世辞を言われずとも大丈夫だと伝えた。

 

「まさか、お世辞なんてとんでもないよ。君は気付いて無いのかもしれないが、数を重ねる度に君の走りは格段に成長していってる。技術とかではなく、勝負勘とかの意味合いでね。最後の方なんて数年レースに参加している娘と遜色無いレベルだったよ。断言してもいい、君程のレースの才能の持ち主はそう居ない。」

 

 何故、前にいたのにそんな事が分かるのか全く分からないがこんな場面で嘘をつく事も無いだろうから、ただ漠然と皇帝たる器量の深さを感じた。

 

 そんな事より本題に入らねばならん。一本目の走りを私は追究しなければならない。

 

「そうだね、君は2つほど技を披露してくれたから、順番にいこう。1つ目は模倣だね。アレについては驚くというよりも、恐ろしいと思ったのが正直な感想だよ。」

 

 何故そう思った?そしてそう思ったのなら何故動じなかったのか。という主旨の疑問を呈した。

 

「何故ってそんなの決まっているだろう。何処か見覚えのある走り方で前に出てきたと思ったら、目の前に自分がもう1人現れたんだ。一瞬夢かとすら思ったよ。なのにそれは、夢なんかではなく自分と同じく走っているウマ娘だと言うんだからね、恐ろしくも思うさ。まだ安っぽいB級ホラーの方が信憑性があるよ。」

 

 成程、以前の娘には聞きそびれたが、真似されるとこんな感じに思うのか。皇帝様でこれならあの娘はどんな風に思ったのか、あの時とっ捕まえて問い詰めれば良かった。

 

「それにまぁ、動じなかったというよりはアレで更に集中できたんだよ。」

 

「そりゃあまた……なんで?」

 

「嫌らしいことに、君は注視しなければ分からない範囲でオリジナルを改変するだろう?大抵の子は君に模倣をされると、無意識にそれを目で追って自分のペースを崩してしまうけど、私のフォームは自分で言うのもなんだが、改変の余地が無い程度には完成しているからね。」

 

「…ん〜。ン、成程なぁ。」

 

「君のそれは、もはや姿写しのレベルで私のものと合致していたんだ。だから私は、それを目で追う事で自分の走りに没入し、通常よりも深く集中力を高められたんだ。」

 

 模倣が領域の引き鉄になった訳だ。これまた、思わぬ弱点というのを見つけた。しかしそんな芸当が出来るのなんざ会長入れたって、この学園に片手で足りるくらいしか居ないだろに。

 化け物め、と内心で悪態をついた。

 

「2つ目については、発展途上とだけ言っておこうか。あんな事を出来てしまうのには些か舌を巻いたが、まだ無茶苦茶だ。現にあの時、複合させたは良いが、上手く噛み合って無い箇所があったせいで思うようにスタミナが続かなかっただろう?そこら辺を危うげなくこなせれば更に強力になると思うよ。しかし、不思議だ。君の技術はまだまだ改良の余地がある様にも思えるが、アレ以上は無いとも思う。全く、末恐ろしいな君は。」

 

「なんか…あざます。」

 

 やっぱりいい人である。なんだかんだ褒められるのは悪いもんじゃ無い。

 

「しかし、安心したよ。今日のような走りができるのならメイクデビューも危うげは無さそうだからね。君が早く重賞の舞台に上がってくるのを楽しみに待っているよ。」

 

 そんな事を1時間程度話したら、今日はもうお開きでいいだろうという事になった。だが最後、会長はこんな事を言った。

 

「新しい技の目処が立ったとはいえくれぐれも油断しない方がいい。君の上下の世代には、一癖も二癖もあるような娘がたくさんいるからね。この先、重賞を狙うなら必然的に彼女らとかち合う事になるだろう。立場上どちらの味方にもつく気は無いが、これだけは伝えておくよ。」

 

 成程、最後まで聖人君子である。ありがたいお言葉だが、今は何も考えられないくらい今日はもう疲れてしまった。眠気もひどいから反省はまた明日にしておこう。

 そんな事を考えながら、少し遠い寮までの帰路についた。

 

 

 




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