私の夢は夢を持った他の子をシバくことです。 作:しゃけむすび
※原作の時系列と乖離が発生してしまう為、この作品はアプリ版に近い謎時空という設定でいきます。コメントでご指摘して下さった方々、ありがとうございます。
併走の約束を果たした後、メイクデビューに出る為に私は仮で所属していたチームに正式に加入した。ゆくゆくは専属のトレーナーをとっ捕まえてとっとと離脱する腹づもりだが、まだ一度しかレースに出たことのないウマ娘をスカウトしようなんて物好きがいる訳もなく、大人しく日の目を浴びるその日まで待つ事にした。
因みにチームメイトは先輩が5人、同輩は2人である。先輩に1人G2の賞を狙っている人がいるが、他は特に強くない。
一度も喋った事が無いので何か因縁をつけられる謂れは無いのだが、どこか敬遠されている気がしなくも無い。まぁ、出られさえすれば良いのでこのチームに興味は無い。
こんな悠長な事を考えているが、既にメイクデビューは来週までに迫っていた。前回の模擬レースはともかく、今回は是が非でも勝たなければならない。このレースで一着を取らなければ未勝利戦に出場しなければいけなくなるので、そうなっては非常に面倒くさいのだ。
幸いな事に、対戦相手のデータは既に手中にある。今回のメイクデビュー、特に警戒すべき相手はいないが万が一の可能性もあってはならないので念には念を入れていく。複合はまだ実践段階に無いので模倣だけで今回は行く事にした。
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そんでまぁ、メイクデビューは特に危うげなく勝利を収めてきたのだが一つ気になる事があった。それはレースの終盤、ゴールまで残り50mというところまで来たので、何となく観客席を見てみた時に見つけた。
何かいるのだ。そいつは私に走りを真似された子よりも余程面白い顔をしていた。何というか親の仇みてぇな目でこちらを見つめていたのだ。
今まで数えるほどしか不興を買ってないはずなのに何故かそいつは、私に対して激しく憤りを感じているようだった。まぁ大方、真似されたやつの友達かなんかだろう。その時は興味が無かったのですぐに忘れたが、何故か終わって数時間した今頃思い出した。多分、虫の知らせってやつだ。
(まぁ…いいかぁ。)
そんな事よりも、一刻も早く複合をモノにしたい。不完全でありながら皇帝の背中に迫ったのだから、完成させれば打倒も夢ではない。というか何より、このまま負けっぱなしではいつまで経っても彼女の泣き顔を拝めない。それは非常に良くない。
「ねぇ、今ってお話できるかなぁ?」
校内のトレーニング室に向かう途中、何か気怠そうな目をした女が話しかけてきた。
「何?」
「えへへ、実はわたくし、こういう者でしてぇ。」
そう言うと女は名刺を突き出してきた。どうやら、トレーナーであるようだ。しかも、新人であるらしく、名刺を渡されるまで気付かなかったのだが、胸元には真新しいトレーナーバッジがついていた。
「探すのに苦労したよぉ。話しかけようと思ったらもう会場にいないんだもんさぁ。」
「それで?」
「むぅ、愛想が悪いなぁ。もっと優しくしてくれよぉ。」
「何の用だって聞いてんだ。」
「あぁ、そうそう。いきなりで悪いんだけどさぁ、君ぃ私の愛バになってよ。君の走りを見た時ビビってきたんだぁ。頼む、このとーり。」
凡そ新人とは思えない勧誘の仕方をするこいつは見た目通りに少し抜けているようだ。だが、まさか新人が引き抜きなんてしようと思うのには少し驚いた。こいつ心臓に毛が生えているらしい。
正直、チーム契約より専属のトレーナーを見つけた方が、何かと動きやすいから渡りに船だと思った。それにまぁ、レースの後初めて声かけてきたのもこいつだしな。
「ん〜、あんまり指導とかされても聞かないよ?」
「全然良いよぉ、その内聞かす〜。」
「てか私、もうチーム入ってるけど。」
「全然良いよぉ、何とかする〜。」
なんかやばい匂いがしてきた。
「その反応ってことは良い?契約してくれる?」
しかし悪くない。今のところ、こいつに対する興味と契約したことで起こりうる事に対する不安が鬩ぎ合っている。しかし、好奇心には抗えない。
「•••まぁ、そこまで言うん「やったぁ〜」聞けや。」
やばい、何だこいつ。
「私のことは気軽にトレーナーって呼んでよ。」
「気軽じゃねぇだろ。」
こうして後はチームを脱退すれば1人でもレースに出れるというところまできた。
あれから早数日経ち、分かった事がある。この女、便宜上トレーナーと呼ぶが、トレーナーは非常に準備がいい。口約束を結んだ次の日に私が所属していたチームの監督に掛け合い、話をつけてきてしまった。そしてその日中に私は彼女と正式な契約を結ぶ事となった。
そして現在、秒で正式なパートナーとなった私と彼女は、今後の指針の擦り合わせをしていた。
「えっとねぇ、君って中距離のメイクデビューに出てたよねぇ。でも別にメイクデビューの後とかでもスプリンターとかの道に行ける訳だからぁ、今んとこ君には2つくらいの道があるんだけどさぁ。」
嫌に間延びした声が部屋に響く。まだ無名のウマ娘と新人トレーナーなので貸し与えられる部屋も少しショボい。
「一つは短距離路線でぇ、2つ目は中距離とか長距離の路線。」
「でも君がやんならまぁ、ステイヤーのが向いてんだろうねぇ。因みに目標とかある〜?」
「ン、一応G1で4勝出来ればいいかな。」
「あぁ〜、そんならまぁステイヤー路線で三冠獲って適当に一回勝てば達成できんねぇ。」
「あははは!まだ一回も担当ついた事ねぇのに随分達者な口だなぁ!」
「わはは〜。だって君なら3年あれば余裕だもんね〜。」
「はは!分かってんじゃん。」
緩い雰囲気の中、大体の方針が決まってきた。目指すは三冠らしい。
「でも油断はしない方がいいかもねぇ。」
「ていうと?」
「そうだねぇ」
そう言うとトレーナーはホワイトボードに何やら書き始めた。
「まずは今年、君の同期には〈黄金世代〉って呼ばれてる子達がいんだけどさぁ〜、この子達は将来、あのシンボリルドルフに届き得るって言われてんだよねぇ。先々週も黄金世代の2人がいきなりメイクデビューでかち合ったらしいしもうバッチバチだよ。」
ホワイトボードに適当な絵を描きながらトレーナーは続けた。
「次はぁ、君の上の世代だね。ここら辺もまぁ化け物ばっかでさぁ、まずは3冠バの皇帝とかシャドーロールの怪物とか。後は最近どこ行ってっか知らないけどミスターシービーとかの辺りも手強いかなぁ。」
「今言ったのは代表格ってだけで、本当なら1時間は講釈を垂れないといけないくらい色んな子がいるんだよねぇ。」
成程、難敵は少ない方が嬉しいんだが仕方ない。寧ろこれからいっぱい心を折れると思えばまぁ、悪くはない。
「でねぇ、進路は決まったから後は道順を作ろうよ。」
「今年中にはまだジュニア級な訳だし獲りにいけないしさぁ、そうだなぁ…一先ずは来春の皐月を狙って一年間は準備期間って事にしようか。」
「まぁ、…そうだな。」
そんな事を話しながら、この日はトレーナーと終日親睦を深めて終わった。
という事でトレーナー登場回です。