私の夢は夢を持った他の子をシバくことです。   作:しゃけむすび

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 記念すべき一人目を2話かけて折りにいきます。

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幸運

 トレーナーと契約してから、早数週間が経とうとしていたある日。

 

「ちょっと味見いっとく〜?」

 

 トレーナーはそんな事を言った。何の味見かと問えば少し面倒臭そうにしながら彼女は二の句を告げた。

 

「同期〜」

 

「いく」

 

 彼女が言うには、黄金世代の一人が近々G3のレースに出るらしい。何でもそいつは先々月の辺りにデビューしていて、私の同期の中では結構上位の実力を持っているから、何か私の成長の足しにでもなればと思ったのだそうだ。

 

「2000mでぇ、別にダートとかでも無いからさぁ、練習は今まで通りで良いと思うよぉ。」

 

「そいつの名前は?」

 

「えっとねぇ、何とかエブリデイみたいな感じだったかなぁ…。」

 

 成程、名前は結構分かりやすい。それならばすぐに大方の検討はつくだろう。時期が時期だから現時点ではちょっかいをかける必要は無いが、如何せん暇だったから丁度良い。実戦で複合を使う練習にもなるだろうから気合いを入れていこう。

 

────────

 

 

 そんな訳で、授業や練習の合間を縫って対戦相手の情報収集に東奔西走しているのだが、困った事にまずトレーナーの言っていたヤツが見つからない。まだ一年目であるから公式の記録なぞは期待出来ないし、ならばと思ってグラウンドに出てもパッと見そこまで図抜けて強い同期は見当たらない。

 しかし、クラスメイトにそれとなく聞いてみればどうにか名前までは絞り込めた。だが、困った事にエブリデイなんて文字の入った名前がその中には見当たらない。

 そのせいで無駄に長い廊下を右往左往するハメになった。トレーナーに聞こうと思っても連絡手段を持ち合わせていない。かと言って、彼女を探すのはちょっぴり難儀である。

 少々躊躇われるのだが、思い切ってこの中で1番エブリデイに近しい名前はどれか偶々近くを通りかかったウマ娘に問うてみる事にした。

 

「ひゃわぁっ⁉︎」

 

 くそったれである。声かけただけでそこまで驚かなくたっていいじゃないか。

 

「……悪いね、驚かせて。聞きたい事があんだけどさ、今大丈夫?」

 

 そう聞けば、多少怯む様子を見せたものの彼女はそれに応じた。

 

「え?あっ…ごめんなさい、今はちょっと…」

 

「んん?何か用事でもあんの?」

 

 おっと、これは申し訳ない事をした。しかし一度こいつと決めたのだから出来ればこいつに答えて欲しい。見たところ火急というよりは楽しみって感じだしほんのちょっとなら良いだろう。

 

「あ、は、はい。実家から荷物が届いたので、少し急いでるんです。」

 

「でけぇの?」

 

「えっと…大きめのダンボール6箱分くらいです。」

 

「結構多いな。そんならまぁ、足止めちまったし半分手伝うよ。」

 

 そう提案すれば彼女は多少困惑していたものの、一回で全て運べるぞ、とダメ押しの一言を言えば最後は了承してくれた。

 そんな事をするぐらいならトレーナーを探した方が疑問の解決は早いだろうが、自分の不始末で招いた事にはキチッと責任を持ちたいのだ。でなければ、他のウマ娘を泣かす時に快く楽しめないからな。この何だかよく分からないポリシーもまた、少し偏屈な性格によるところである。

 

───────────────

 

 

 そんなこんなで場所は先程の廊下から少し離れて〈栗東寮〉。こいつの部屋は入り口から少し離れた所にあるらしいので、そこに荷物を運ぶまでの間に色々聞いてしまう事にした。

 

「そーえばあんた、名前は?」

 

「あ、そう言えば自己紹介がまだでしたね!私は〈スペシャルウィーク〉って言います!夢は日本一のウマ娘になる事です!」

 

 …色々と情報量が多いな。まさか件の黄金世代の一人だったとは。こいつは僥倖である。一気に手間が省けたが、ここで焦ったって面白くない。

 てか初対面で夢を語るのか。すごいな。

「ん〜、あはは。さっきよりも偉く元気じゃねぇかよ。」

 

「……正直、手伝ってもらうまで怖い人だと思ってて。その…」

 

 予想外の返答である。やはり、先程のオーバー気味なリアクションはそういう理由があったらしい。

 ……ちょっぴり傷ついたぞボケが。

 

「あはははは!私にビビってたのかよ⁉︎」

 

「す、すいません!」

 

「はは、良いって良いって。てかそんな事よりさ、私達同期みたいだしよ、これからもよしなに頼むぜ?」

 

「あ、はい!勿論です!初対面でこんなに優しい人が悪い人な訳ありませんもん!」

 

「はは、快活だなぁ!」

 

 ん〜、ちょっと元気が過ぎるけどまぁ、話だけ聞いてれば少し抜けてる良い子ちゃんだな。しかし今は、内面よりも余程気になる事がある。こいつさっき、日本一がどうとか言ってたよな。

 

「てかさ、さっき言ってた夢って……」

 

「はい!日本一のウマ娘になることです。」

 

「へぇ、良いね。夢は大きくないとつまんねぇもんなぁ。」

 

 そう言ってみると、スペシャルウィークは平時でさえキラキラした目を、一層に爛々と輝かせてこう言った。

 

「ありがとうございます!」

 

 やっぱり根っから良い子なんだろうなぁ。人を疑うってのを知らない顔してるわこいつ。……ン?

 

(スペシャルウィーク………エブリデイ………ウィーク…エブリデイ…)

 

 成程、合点がいった。あのトレーナーあの齢にして既に痴呆を患っている可能性が出てきた。とんだ間抜け話もあったもんである。

 

「あ、着きましたよ。ありがとうございました!」

 

 そんな事を思っているとスペシャルウィークはそう言った。大方全ての疑問は解決したので試しに一つ、ほくほく顔のスペシャルウィークに聞いてみる事にした。

 

「お前ってさぁ、もしかして近々レース出たりする?」

 

「え⁉︎何で分かったんですか⁉︎」

 

 そんな事を聞かれたって仕方が無い。元々貴方をシバく為に私も出る予定でした。なんて言える筈もない。仕方が無いからひどく驚いた顔のスペシャルウィークには、気のせいだとか言って適当にはぐらかしてからその場は退散した。

 

 しかし今日の私は運がいい。実は、少し気を揉んでいたのだ。もし、件のレースに出るそいつが、夢など持ち合わせずにのらりくらりしていたらどうしようと。しかして、そんな考えは杞憂に終わった。

 

 良いじゃないか、日本一のウマ娘。この種族に、この島国で生まれ落ちたなら誰もが一度は考えつくだろう。それほどに尊大な夢を、彼女は本気で叶えようとしている。いや、もはや夢でも無いのだろう。黄金と比喩される才能と、この学園に辿り着くまでの努力に裏打ちされた確かな自信。きっと今まで、幾度もの苦難を乗り越えてきたのだろう。それでも尚、曲がる事なく、ただ愚直に、それだけを追い求めて。

 しかし、眼を見れば分かるものだ。何を他人の分際で偉そうに、とは思うがそれでも、分かってしまう。

 

(苦難はあっただろうけど、挫折は無かったんだろうなぁ…)

 

 別に嘲笑しようとかいう訳ではない。ただ素晴らしく良い、と思っただけだ。今まで一度だって折れなかったその誇り高き精神を、もうすぐブチ折れるのだ。

 

 来るレースにて、彼女の人生で培ってきた何もかも全て、奪って舐って遊び尽くしてやりたくなった。そう思えば今からやる気がムンムン湧いてくる。今日は厄日だと思っていたが、そんな事も無いらしい。

 

 

 

 

 

 

 




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