私の夢は夢を持った他の子をシバくことです。 作:しゃけむすび
10話目で主人公の名前が初登場ってマジ?
さて、スペシャルウィークの味見まで残り1週間程度に迫ってきているのだが、ここで一つ面白い事案が発生した。それはもうすぐ昼休みになり賑わうであろう、この学園の食堂にて起こった。
「あ!と…そういえば名前をまだ聞いてなかったような……」
というのは、食堂の入り口付近にて再び話す機会にあったスペシャルウィークの談である。
「あぁ、また会ったねスペシャルウィーク。ん〜、まぁ名乗ろうか。……こほん。私の名前は〈デイズオブレスト〉。親しみを込めてデイズと呼んでくれていいぜ。」
「わぁ、カッコいい名前ですね!改めてよろしくお願いしますデイズさん!」
「ん」
そんな風に何気なく会話をしていると、
「あぁ、やっと見つけた!スペシャルウィーク、貴方まだ私の数学のノート…って、え?」
そんな風に何やらぼやく声が私の後方から聞こえてきた。何だと思って声のした方を振り向くと、
「な、何で貴方が?」
いつかの模擬レースで私を睨み散らかしていたウマ娘がそこに突っ立ていた。
「あ、わ、忘れてました!今取ってくるので待っててくださいキングちゃん!」
どうやら今のこいつの呟きは聞こえていなかったようで、スペシャルウィークは大急ぎで何処かへ行ってしまった。そして、キングと呼ばれたウマ娘と二人きりになったので、少し会話を試みることにした。
「ん〜、あんた名前は?確か私の模擬レースにもいたよな、暇だし友達になろうぜ。」
「なっ…!あ、貴方まさか、覚えてないの?」
んん?私の数少ない知り合いであるのならば覚えていない訳がない。ということは、何か昔に会った事があるのかな。マズイぞ、相手が覚えていて自分が覚えていないこと程気まずい事も中々無い。
「ごめんな、会った事があるんなら私覚えてねぇや。会った時の事教えてくんねぇか?」
そう言ってみれば、彼女はその内プルプルと震え出して、面白いことに声まで震わせてこう言った。
「─ーふ、ふざけないで、デイズオブレスト。私の名前は〈キングヘイロー〉よ。披露会での事を忘れたとは言わせないわ!」
おぉ、二言三言交わしただけで怒られるとは思っていなかった。キングヘイローといえば黄金世代の一人だな。しかし披露会か……あぁ、いつだか私が初めて実戦形式で模倣を使った時のやつか?
「ん〜、てことはお前、もしかしてあん時ドベだったやつか?」
「‼︎あ、貴方って人は!私はあの時の事を一度も忘れた事は無いわ!」
「覚えてねぇっつってんだろタコ」
「な、なん「キーング!」ぐぇっ。」
今日は乱入者が多いな。何か言おうとしたキングヘイローの横っ腹から勢いよくマスクをつけたウマ娘が飛び出してきた。
「やっと見つけマシター!もう、置いてくなんてひどいデスヨ!」
「は、離しなさいエルコンドルパサー!貴方がまた先生に呼び出されるのが悪いんでしょう!」
「それは仕方ないことデース!……ン?誰ですカ、この怖い人ハ?」
おっ、良い度胸だ。エルコンドルパサーか…覚えたぞ。てかこいつも黄金世代じゃなかったか?
「あははは!初対面で随分ご挨拶じゃねぇかよ⁉︎まぁ、いいや。用事があるから私はここらで失礼するぜ、またな。」
「あ、ちょ!待ちなさい!」
───
(しかしまぁ、中々厄介そうだな。)
会場に向かうトレーナーの車の中でしばらく思索に耽っていたがやはり彼女たちの実力が気になり始めた。あの二人、まずキングヘイローの方は多分、筋肉の発達具合からしてマイラーの路線に行けば活躍するだろう。あいつの瞬発力は可能なら是非一度見てみたい。エルコンドルパサーはパッと見でしかないが、中々のパワーを持っている。まだ発展途上である事を含めれば将来は計り知れない。
別に楽しみとかでは無い。もしクラシックから上で当たることになれば物凄く面倒臭そうなのだ。あの手の輩はガチガチの天才肌である。しかも努力を怠らないタイプの生真面目な天才である。出来る事ならかち合いたくはないが、万が一を考えて色々とマークしておいた方が良さそうだ。
「おぅい、着いたぞ〜。」
「ン、てんきゅ」
会場に着けば中々の熱気が私を出迎えてくれた。あまりグレードが高いわけでないのにやたらと客の入りがいい。レース場に向かう観客は皆が皆どこか興奮しているようだった。成程、これも全てスペシャルウィーク目当てなのだろうな。黄金世代と褒めそやされるだけの事はある。
「なんかめっちゃ人いんね〜。」
「淡白が過ぎるだろうが。」
このトレーナーは中々フワッとしているので、初めて担当が公式レースに出るというのにこのリアクションである。
「嘘だよ嘘。今日は勝っても負けても楽しんでくれたらいいよぉ。」
そう言うとトレーナーは少し笑みを深めた。……参ったな、まさか
「……やっぱ駄目?」
「わはは、まさかぁ。実はねぇ、一瞬でも長く、担当の子が笑っていられるようにするのが私のモットーなんだぁ。だからねぇ、君がどんな道に進んだって、最後に笑えてればそれでいいよぉ。」
……不覚にも少しうるっときた。多分、本気で勝ちを目指すウマ娘からしたらこいつはあまり良いトレーナーでは無いのだろう。しかし、私の様なならず者の自覚があるやつからすると、こういう事を言われるとちょっと心に刺さるのだ。
「…ン、さんきゅ」
「頑張りたまえよぉ。因みに今日はぁ、勝ったら焼肉でぇ、負けたらラーメンに連れてくからねぇ。」
手厚い事である。そんな事を話していればもうパドックに出る時間が迫っていたので、トレーナーに別れを告げて向かうことにした。
「あ!デイズさんじゃないですか!」
何の気なしに歩いていれば、そんな事を言いながらスペシャルウィークが駆け寄って来た。
「おぉ、スペシャルウィークじゃん。今日はお手柔らかに頼むよ。」
「もぉ〜、出るなら先に教えてくれたって良いじゃないですかぁ。」
「あはは、言うの忘れてた。てゆーか、出走者の名前とか事前に出てたんじゃねぇのか?てっきり知ってるもんだとばかり。」
「はい!トレーナーさんに言われた気がしますけど、お腹が空いてたので覚えてませんでした!」
何故こんなにも恥ずかしげなくそんな事を言えるのだろう。いや、これも愛嬌か。……愛嬌だよな?
『18番人気○○○○○○。今日が初めての──』
お、アナウンスが始まった。そろそろゲート入りの時間である。
「今日はお互い全力でやりましょうね!」
そういうと彼女は駆けて行った。さっきお手柔らかにって言ったのが聞こえてなかったんかな。……まぁ、いいや。
『6番人気5枠デイズオブレスト。メイクデビューから短い間隔での出走となりました。好走に期待したいですね。』
6番人気て結構いい数字じゃないだろうか。今日はスペシャルウィーク以外だと差しの脚質で気になるのが一人いるが、彼女と比べるとそこまで警戒する必要は無いように思える。
『1番人気4枠スペシャルウィーク。実力は完全に上位ですね。貫禄すら感じます。』
成程、高々ジュニア級風情に一体何の貫禄を感じたのかは知らないが、司会も彼女が勝つ事を心無しか期待しているように思える。
話は変わるが、前も言ったように私は本能というものが欠如しているので、ゲートに入っても特に何も感じない。精々がちょっと狭くていいなぐらいの気持ちである。ゲートの中が苦手なウマ娘は多いらしいが、私からすればゲートにビビれるのは少し羨ましい。ちょっと気になるのである。
『…………ガチャン!』
「あ、」
下らないこと考えてたらちょっと出遅れた。スタートから出鼻を挫かれたが、最悪差しで行くので問題無い。スペシャルウィークは……、先行であるようだ。今日はフルゲートって訳でもないから彼女以外はそこまで注視する必要もないだろう。全貌を見渡すには一度最後尾に行かねばならないし、相手が強ければ強いほどレースは不確定要素が増える。少しでも敗因に繋がる懸念は無くしておきたいのだ。
とはいえ、中盤の辺りまでは少し後方で観察に徹する腹づもりである。逃げは、いるにはいるが特段の脅威は見られない。そして、気になるスペシャルウィークのフォームだが……
(ン、まぁ同期ん中じゃ上位ってだけはあるわな。確かに綺麗っちゃ綺麗だけど……ちょっと粗いなぁ。)
メイクデビューを除けば最後にマトモに模倣したのが会長さんになるので目が肥えている可能性は否ないが、それを差し引いても改善点が目立つ。フォームというのは、細部までこだわるというよりは、自分にとっての最適解を探る上で徐々に洗練されていくのが普通なので、経験の足りない彼女のものに粗が目立つのは仕方が無いのだが、ハッキリ言ってしまえば興醒めである。
しかし、自称フォームソムリエの私は、ガッカリするだけでは終わらない。もっと言うとこのままだと普通に勝つだけになるのでそれは面白くない。
(良い健脚だよな。少し間隔を広げて、上半身……いや、リズムはもっと呼吸と振りを合わせるのがベスト。ここら辺は場数を積まないと無理か。こいつは勢いに乗って加速するタイプかな……、なら相手を抜く時の加速は見せてやるか。後はバ郡に呑まれた時のも見せておきたいけどな、運がちょっと絡むかな。)
もうそろ1000m地点なのでちょっと前に出る事にした。とりあえずは彼女のフォームを見せて潰しにいってみる。出来る事なら今回で私が見せたやつを吸収してもらえればお互いに有意義なものになるのだが、果たして気づけるかどうか。
戦況は時間が経つにつれて少し煩雑になってきた。今のところ先頭は逃げだが、アレなら終盤に潰れる。スペシャルウィークは4番手に位置しており、このままであれば充分1着を狙えるだろう。
少しずつ加速する。彼女から1バ身程度距離を離してからやろう。一人抜いた。後二人、ちょっと煩わしいので更に加速する。すると一息に抜けた。中々スッキリする。草とりで良い感じに根っこごと引っこ抜いた時のあの感覚である。中々どうして今抜いた奴らも弱くはないのだろうが、黄金世代のネームバリューによる会場の熱は、大多数のウマ娘にとってアウェイの空気感だ。気圧されても仕方がない。そんなわけで、残るはスペシャルウィークただ一人である。
徐々に、それでいて確実に距離を詰め、……抜いた。抜かれても変にペースを乱さないのは流石といったところか。
さぁここからが本番である。さっき予め考えておいた彼女のフォームに切り替える。今回は前のウマ娘と距離が詰まっているので下手に後ろは見ない。その代わり耳を澄ませる。
彼女は何とかペースを保っていたが、1500m地点に差し掛かった頃、少し息が乱れてきた。流し目で見やれば、スペシャルウィークは少し前傾になってきている。
(ン〜、こいつ加速の脚残ってるかな。)
残り400m。逃げのウマ娘はいつの間にか沈んでいたので、後は二人抜けば私がトップである。しかし、そんな心算をしている内に埒外から面白い事が起きた。
(お、加速してきた。)
驚いた事に、既にスタミナが尽きかけていたスペシャルウィークが、私を追い越さんと加速を始めたのである。一か八か勝負に出たと見た。いや、この場合は賭けに出た事よりそれをする気力があった事に感心してしまう。
とはいえ、そういう事なら話は別である。
(一人目、もうすぐ加速するかな、けどまぁもう遅いな。ギリギリ……腕がぶつかるのは避けたいかな、強く踏み込んで左のスペース。二人目はその反対。)
ン、中々悪くない感じに抜け出せた。残りは200m。
「む、むりぃぃ!」
一人落ちたか、根性無いなぁ。スペシャルウィークは……お、結構粘ってる。頑張れ黄金世代、1番人気だぞ。
(やっぱりするしかないかなぁ。)
残り100m地点。後続とは2バ身離してそのまま進んでいる。このまま順当に行けば私の勝ちなのだろうが、果たしてそれで良いのだろうか。
碌に成長しきってないウマ娘を嬲り散らして1着を獲ったって私は嬉しかないし、楽しくもない。そもそも若い芽を摘むというのは褒められた行いじゃない。G3ならばわざわざ勝ちに行く必要もない。
ここまで言えば私が何をしようとしていたか大体察しはつくんじゃないだろうか。
『残りは50m、先頭はデイズオブレスト、2バ身離───おぉっと?これはどうしたデイズオブレスト。見る見る内に失速していきます。何かトラブルでもあったんでしょうか。』
名付けて、勝負に勝って試合に負けたろ作戦である。内容は至ってシンプル。もう他のウマ娘が減速する間もないとこまで来たらしれっと速度を落としてワザと勝ちを譲るのである。あれはどういう事だとか聞かれてもなんか腹が痛くなったとでも言えば何とかなる。
そして25m。後続に呑まれ、追い越されていく。と言ってもいつの間にかスペシャルウィークの前にいたやつはいなくなっていて、彼女が私と二人旅している状況になっていたので、追い抜かしたのはスペシャルウィークだけである。しかし、追い越される瞬間おもろいものを見た。
(ん〜?ン、い〜い顔してんじゃん。)
彼女、スペシャルウィークは追い越す瞬間、目ん玉からゲロ吐きそうな顔で、今にも泣きそうになりながら口を固く結んでいた。
『──スペシャルウィーク1着でゴール!3バ身離して黄金世代の意地を見せつけました。───2着はデイズオブレスト。途中アクシデントに見舞われたようですが───』
そんな実況の声が聞こえる。
負けはしたが楽しめた。惜しむらくは叩き合いとかにならなかったからイマイチ観客の盛り上がりに欠けたかもしれないという事だ。私の初公式レースは2着という結果で終わったが、存外に悪くはない気分で完走できたからまぁ、良しとしよう。
2話掛けると言ったな。アレは嘘だ。(訳:3話使いますごめんなさい。)
主人公の簡単なプロフィール
髪型:プリンカラーのセミロング
身長:160後半
好きなもの:たこわさ
嫌いなもの:グロイ系
趣味:昔のウマ娘のレース鑑賞
備考:何故か瞳には一切の虹彩が無くドス黒い。何もしてなくても眉間に皺が寄る癖があるので話した事ない人にはちょっと怖がられる。