私の夢は夢を持った他の子をシバくことです。   作:しゃけむすび

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 スペシャルウィークの主人公感割と好き。てか日本総大将て二つ名カッコよすぎる。


問答

(これでラーメン決定か。……醤油か味噌だな。)

 

 ゴールラインを踏み抜いた後は、ゆっくりと減速しながらそんな事を考えた。

 

 だが、それと同時にスペシャルウィークのフォームの復習もしておかなければならないだろう。不完全燃焼かと言われればそんな事は無いのだが、一応スペシャルウィークのフォームをもう一度確認して、再戦した時用に少し崩しておきたいのだ。

 というのも、推察の域を出ない話にはなるのだが、スペシャルウィークは恐らく今回で見せた改善されたフォームをほぼ確実に自分のものにする。でなければ、黄金などという御大層な二つ名はつかないだろう。

 

 目の前に私を見下ろすかの如く聳える電光掲示板に、今日の結果が映し出された。私とスペシャルウィークは2バ身程度の差がついていて、3着以下はそれよりも幾分か差があった。

 凡そ予定通りであったので、出来る事ならこのまま穏便に帰路につきたいのだが、残念ながらそうは問屋が卸さないらしい。

 

「……最後の直線、どうしてあんな事をしたんですか?」

 

 歩み寄ってきて、彼女はそんな事を口にした。それは、いつもの彼女からは想像もつかない様な低音での問い掛けであった。

 

「ン?あぁ、私の落ち度さ。なんか腹が痛く「ふざけないでください。」…おぉう。」

 

 変に声を荒げない辺りまだ少し理性があると見える。いや、時たまキレ過ぎると冷静になる奴がいるらしい。これは……マジギレか?マジギレなのか?

 ……()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「お前……勝てて嬉しくねぇの?」

 

 勝てば官軍の言葉が示すように、どんな理由があったって勝ちは勝ちで、負けは負けだ。少なくとも、命のやり取りでもないたかだかレースで、忌むべき勝利など無い筈だ。

 

「……は?」

 

「まぁ、今回は私の自己管理が招いた結果さ。いつか必ずリベンジしてやるから待ってろよ」

 

 ちょっと突っかかられるのが久しぶりなので少し遊んでみる事にした。わざと大袈裟に、身振り手振りで今の心情を表してみる。

 そうしてみると、スペシャルウィークは俯いて、何やら呪文を唱え始めた。

 

「……ざ………い…」

 

「ン?ぱーどぅん?」

 

 「ふざけないでください!!」

 

 おっと、草である。ようやく吠えてくれたか。やっぱり勝負事は私が感情に流れられない分、他の奴で楽しまなくてはな。

 

「分からないとでも思いましたか⁉︎あの瞬間の!あの減速が!故意である事に私が気づかないとでも思いますか⁉︎」

 

 興奮した様子で彼女は続ける。……わ、泣きながら言ってるぞこいつ。全く若人はこれだから素晴らしいな。

 

「貴女の眼には私がその程度に見えていたんですか⁉︎私が!手を抜かれたことも気づかないような!マヌケに見えたんですか⁉︎」

 

 実はちょっとそう思ってたってのは内緒にしておこう。一頻り怒鳴った後、またもや俯きがちに今までとは打って変わって静かな調子で彼女は続ける。

 

「………分かって……るんですよ。今の私が……貴女よりも弱いなんてこと。今日だって……調子は…良かった筈なのに……最後なんて…全部ぐちゃぐちゃで」

 

 ポロポロと大粒の涙が、宝石のそれよりも純粋な煌めきを持った瞳から零れ落ちる。彼女は今醜態を晒していて、私がそれの元凶である。しかし、何だか彼女のその様が、涙を堪える幼子のように見えて、ひどく愛おしく思えてしまった。胸の真ん中辺りが嫌に騒めく感覚がした。

 

「貴女の走りで……出来もしないのに…私の走り方を盗られた気になって……それで…」

 

「……私は、私は貴女にとって、勝負する価値すらありませんか?」

 

「聞かねぇと分かんねぇの?てかよ、そこまで分かってて良く文句言う気になったな。」

 

 もうちょっと虐めてみたい。ギリギリを攻めていこう。

 

「黙ってられる筈ないです」

 

 反論を呈す事も考えたが、周囲のウマ娘や観客が私達の異変にうっすら気づき始めたので、そろそろ切り上げる事にした。

 

「まぁ、いいか。とりあえず1着おめでとう。次は負けねぇよ?」

 

「!だ「デ〜イ〜ズ〜!大丈夫ぅ?」…っ」

 

 適当に締めて踵を返した。スペシャルウィークは何かを言おうとしたが、奇しくもこちらに駆け寄ってきたトレーナーの声により、それは掻き消された。

 

「ン、腹痛い。運んでちょ」

 

「おぉい、マジかよぉ。他は大丈夫ぅ?」

 

「ン」

 

 そう言うと、彼女は私の膝と背中の辺りを器用に抱え、俗に言うお姫様抱っこで運び始めた。

 

「え、こんな無様な運び方ある?めっちゃ恥ずいって」

 

「喧しいぞぉ。ただでさえ他の子泣かしてんだからさぁ、文句言うんじゃねぇの。」

 

「成程、厳正な処罰だな。甘んじて受け入れるわ」

 

─────二日後。

 

 あの後、医務室に行くまでに偽装工作の為、トイレに行くと嘘ついてトレーナーに隠れてウマ娘パワーで自分の肋を殴りつけ、全治一ヶ月程度に肋骨にヒビが入っていると診断された私は、特になんの疑いを掛けられることもなく学園で療養生活を送っていた。そりゃあ、そうである。肋骨にヒビ入ってるやつが手の抜きようなんてない。

 寧ろそれで入着して、観客目線では一着と互いに健闘を讃えあった(ように見えた)のだから根性が凄いという話になった。怒鳴っていたスペシャルウィークは、怪我までしてレースをやめなかった私を諌めていたという事になっているらしい。

 

 まぁ、そんぐらいなっていてくれなければ、ラーメンを代償にし、死にそうな思いをして文字通り骨を折った甲斐が無いというものだ。ある意味で予定調和である。

 

「今日は梨持ってきたからさぁ、これでクマさんつくってみようよぉ」

 

「シカがいい」

 

「角がむずすぎるよぉ」

 

 毎日律儀なもんである。トイレに行った担当が、数分後に出てきた時には這う這うの体になっていたのだからその時の彼女の驚き方は尋常ではなかった。記録として残しておきたいぐらいには面白かった。もっとも、その時の私にそれを笑うだけの気力は無かった訳だが。

 

「しっかし君も無茶するねぇ。あの後上司さんとかさぁ、色んな人に監督責任問われちゃったよぉ。体力とか大丈夫なのぉ?ガッツリスタミナつけるメニュー考えとこうかぁ?」

 

「いや、マジで反省してるから勘弁して。」

 

 今回の一件でちょっぴりの借りがトレーナーにできてしまった私は、彼女の指示に表立って反対できる立場では無くなってしまった。

 

「はい、嘘ついた〜。治ったら罰走決定ぇ〜。」

 

「ちょ、そんな殺生な」

 

 なんだかんだでいつの間にか手篭めにされてしまっていた。しかし、今は気兼ねなく話せる人間がいないので、これはこれで楽しかった。

 

 レースの結果については、スペシャルウィークやそのトレーナーが何か言ってくるかと思ったが、不思議なくらい何の音沙汰も無かった。流石に幾ら不正を吠えたところで事実がある以上無駄だと分かっているのだろう。少し勘繰りすぎていたようだ。

 

 そんな事を考えていると、トレーナー室の扉をノックする音が聞こえた。

 

「失礼します」

 

 そう言って入ってきたのは栗毛の、清楚な雰囲気のウマ娘だった。……こいつ確か、スペシャルウィークと当日一緒にいたやつか?あん時はどうせチームの先輩かなんかだと思って気に留めなかったが、このタイミングで訪ねてきたという事は、何だか嫌な予感がする。

 

「この時間帯であれば此方にいるとお伺いしたので」

 

「お〜?君は確か〈グラスワンダー〉だねぇ」

 

「はい、連絡も取らずに押しかけてしまい申し訳ありません」

 

 そう言うと彼女は綺麗にお辞儀をした。どうでもいいが今まで見てきた中で1番髪がサラッサラである。率直に言ってちょっと羨ましい。

 

「別にいいよぉ、それで今日はどんな御用かなぁ?」

 

「えぇ、その事なんですが」

 

 あ、やばい。何かこっちに目を向けてるぞこいつ。……え、こわ。すっげぇ底知れない感じの目だ。しかも絶対怒ってる。目がめっちゃ冷たいもん。

 

「デイズオブレストさん…ですよね?貴女にどうしても言いたい事があるんです。今は、お時間よろしいでしょうか?まぁもっとも、よろしくなくても聞いていただきますが」

 

 想像の5倍キレてた。

 

 

 グラスワンダーは清廉とした確かな歩調で、此方に歩み寄ってきた。何というか……こう、武士みてぇなやつだな。こいつ絶対九州産だろ。

 後に外国産と知るまでは、私の中のこいつのイメージはヤクザであった。

 

(だがなぁ……)

 

 これは良くない。別に口喧嘩なぞは幾らでも買って出てやるが、トレーナーがいるところでするには少々過激になる。

 

「おっと、ここではそこまでにしておこうぜ。そうだな……私の部屋にでも来るか?あんたも年頃の乙女だしな、ここは一つ腹を割って話そうじゃねぇかよ」

 

 そう提案してみれば、彼女は一瞬目を細め、何やら疑っていたようだが、すぐに私の意図に気付いたらしく、その旨に同意した。

 

 

 

──────寮部屋にて。

 

 彼女を先に通し、私は扉側に立つ。ここは三階なので、これで私が満足するまでゆっくりお話が出来るという寸法だ。そして、対面する形で対話は始まった。

 

「さて、……穏やかじゃねぇなお前。何の用だよ」

 

 この期に及んで何故こいつがキレてるか察しがつかない訳では無いが、念には念を入れておこう。

 

「ですから言っているでしょう。貴女とお話がしたいのです」

 

「その内容を聞いてんだ」

 

 グラスワンダーは訝しげな顔をして、今の心情をありありと乗せた怒気の篭った声で言った。

 

「まさか自覚が……無いのですか?」

 

 は、馬鹿でぇこいつ。その聞き方は悪手ってもんだろうに。

 

「……?っするてぇとアレか?私はスペシャルウィークになんかしちまったか?」

 

「……分かりました、単刀直入に聞きます。貴女のその怪我、レースの後に出来たものですね?」

 

 あぁ……要件て仇討ちかなぁ。別にお互い良い経験だったと思うんだけどなぁ。どうにも容量が悪い。

 

「なんかさっきからお前マジでムカつかせんな。次似た事言ったらぶちのめすぞ。幾ら何でも度が過ぎるだろうが」

 

「それは此方の台詞です。ある程度レースに出た事がある者ならば、あれが怪我によるものかどうかなどというのは、看破するにそう難くないのですよ?」

 

 へへ、無理だわこれ。まぁ仕方ねぇや。パンピーならいざ知らず、こいつを騙くらかすのは厳しいよな。

 

 ……しかし、こいつは眩しいな。どこまで行ったって所詮は他人。その他人の為に確かな怒りをその胸に抱ける。あほくせぇタイプのウマ娘だ。

 私みてぇな三下からすりゃあ目が痛くなっちまう。

 

「成程、義憤てぇやつか!あはははは!こいつぁくだらねぇ。くだらねぇよお前!」

 

「………貴女」

 

 ヒヒ。ちょっとからかってみたくなっちまった。こいつは分かってねぇようだしここは一つ教えてやろう。

 

「てめぇ、“仁義”って言葉ぁ、知ってっか?」

 

 今にも憤慨しそうなグラスワンダーを手で制し、そんな事を聞いてみる。

 そう言うや否や、目に見えて分かる程にグラスワンダーは機嫌が悪くなった。さっきまでは眉間に皺を寄せていたが、今は至って真顔である。あんまり怒りすぎるもんだからプッツンしちまったのだろうか。

 

「知っていますが」

 

「はは、ならいいや。聞くがお前ぇ、飽くまで憶測の範疇でよ、怪我人を怒鳴りつけるってなぁどういうモンだい?善い事なんかい?」

 

「私は、レースに於いて礼を欠く輩に通す仁義を知りません。それに、」

 

 彼女は臆す事なく言った。

 

「私は善悪のみで物を考えている訳ではありません」

 

 お!いいねぇ……まぁそうか。ある程度察しはついてたが、こいつはこいつで、相当覚悟してここに来たってなぁ訳だ。

 

「ン〜。で?そのまま私をブン殴ったり「貴女、敗者について何か思ったことはありますか?」言わせてよ」

 

 うひぃ〜。 敗者ねぇ……

 

「ねぇかな」

 

「ならば、今一度考えてください。貴女は、己の努力や想いを、弄ばれたいのですか?」

 

「待てよ、私は負け犬だぞ?スペシャルウィークってのは残忍なやつだぜぇ、勝っても悔しいっつうんだからよぉっ」

 

 刹那、脇腹の辺りに言い表し難い激痛が走る。

 

「貴女という人は!デイズオブレスト‼︎」

 

 はは、胸ぐら掴まれてら。

 

「痛ってぇなぁ」

 

 そうすると、グラスワンダーは我を取り戻したかのように顔を顰め、その手を緩めながら二、三歩距離をとった。俄然その目には、迸る怒りを湛えたまま、しかと此方を睨みつけてくる。

 

「そのさ、誰かさんの想いだか努力ってなぁはよ、私に何か関係があんのか?」

 

「関係が無くとも、慮るのが礼儀というものです」

 

 マジかよ。マジで言ってんのかこいつ。

 

「その……何?慮って何になるんだ」

 

「何にならずとも、全力で戦い抜くくらいはできるでしょう」

 

「お前、競争の世界でそれは致命的だぞ。」

 

 思わず大真面目に言ってしまった。

 

「弱い奴が悪りぃだろ。弄ぼうが何しようが、そんなにされたく無かったら私より強けりゃいいじゃねぇか」

 

「敗者が敗者のまま終われるように」

 

 ム。

 

「最後は潔く“自分は戦った”と思えるように、終わらせるべきではないですか」

 

「私は、何もいちいち顔色を伺ったりしろと言っていません。」

 

「半端に過ごせればいいという心算で、この学園の門戸を叩いた者はいません。しかし、弱者と強者の境界は、明確にあります。」

 

「自分達と同じように、夢を見た者を降すのならば、例え何にならずとも、全力を尽くすのが“仁義”でしょう」

 

 

 ふむ、何か負けた気分だわ。あぁ、やだやだ。ただまぁ、ここまで言うんなら、こいつもちょっと試してみてぇな。

 

「ン〜、いいね。言葉じゃあ埒が開かねぇからさ、どっちが正しいか、脚で白黒つけてみるってなぁどうよ?ウマ娘らしくさ」

 

 乗ってくるかは一か八かの賭けであったが、意外にも冷静に彼女は言った。

 

「元より……そのつもりです」

 

「ただ、忘れるなよ?私は飽くまで怪我で二着に甘んじたんだ」

 

────────数分後。

 

 先程の会話を少しやんわりさせてトレーナーに話してみると、そういう事なら調整は任せろとの事だった。ここ最近苦労を掛けっぱなしなので、少し申し訳ない気もする。近々何か好きな物でも聞き出してプレゼントしてやろうと決めた。

 

「そうだねぇ……皐月賞の前座がねぇ、来年の三月にあんだけどさぁ、そこら辺で白黒つけてみれば良いんでないの〜?」

 

「なんてレースよ?」

 

「グレードは2でぇ、名前はスプリングステークス。これで三着以内に入ったら皐月の優先出走権を貰えるねぇ。」

 

「結構時間空くな。他はダメか?てかあいつ乗ってくるかな」

 

「いやさぁ、君の実力ならあと1.2回何かに出ればこのレースも問題ないしさぁ、余計な不安はあんまり呼び込みたくないんだよねぇ。それにまぁ、君ってやる気にさせるの上手そうだしぃ、何とかなるよぉ」

 

「ん〜、まぁそうだな。頑張れば何とかなるだろ」

 

 それに時間を空ければグラスワンダーも少しは成長しているだろう。急いては事を仕損ずるとも言うし、ここは大人しく待つのが賢い選択だろう。しっかしその間何してようかな。でももう頭が回らない。まぁ如何せん、今日はもう疲れた。

 何気にさっきグラスワンダーに掴み掛かられた反動で破茶滅茶に肋が痛いのだ。自分に非があるとはいえ、流石にグラスワンダーはちょっと荒ぶりすぎである。

 

(今日はもう大人しく過ごそう。深くは明日から考えよう)

 

 そんな事を胸に抱きながら、私は徐々に微睡んでいった。

 

 

 




 主人公ちゃんはメンタルが強いから大怪我しても平気に決まってる(暴論)

  Q トレーナーは担当が怪我したのになんでこんなに軽いの?

 A 当初は本気で焦っていましたが、故意だと知って一回物凄く怒りました。そのあと平常運転に戻ったのですが、そこら辺は割愛しました。

 Qちょっと都合よくない?

 A三女神の御加護です。

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