もしも毘沙門天の兄が勇将だったら   作:サンサソー

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どのイベントに出すか決めました。さて、後は……。


駆けよ

「晴景さまが景虎さまと戦い始めたぞ」

「よし、私たちもやるべきことをやろう」

「ああ……晴景さま、いずれあの世にて会いましょう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

陽も沈みかけ、辺りは暗く。

 

しかし、未だに屋敷からは剣戟の音が鳴り響いていた。

 

「ゴホッ…ォオアッ!」

「………………」

 

発作が起き、今にも意識が飛んでしまいそうなほどの苦しさ。それでも、晴景はその才を発揮し刀を鋭く振るう。

 

その一撃一撃が、雑兵であれば急所でなくとも死に至らしめるほどの威力だった。

 

が、相手は北方の守護神、毘沙門天であった。

 

晴景は打ち合いによって息切れが激しく、しかし景虎は息一つ乱していない。

晴景の刀は槍にいなされ、軽々と受け止められた。

 

晴景の刀は、神仏のごとき…人を超えた力と才を持つ景虎には届いていなかった。

 

この打ち合いも何度目か。晴景はもう、数えるのをやめた。

 

 

わかっていた、景虎の強さは。だが、私が殺す気で打ちかかろうとまったく手応えもなしとは……。ああ、この手応えのなさは……。

 

 

再び太刀と槍がぶつかりせめぎ合う。今度はそのまま押し込もうとするが、ビクともしない。

 

やはりと、晴景は気づいた。

 

「はぁ…はぁ…こうして打ち合うのは、私が家督を継ぐ前からだったな…はぁ…」

「………………」

「稽古をしながら…はぁ…戦の教えをお前に…はぁ…説いた」

「……はい」

 

景虎が返事をした。肯定の返事をした。

 

これが、晴景を激昂させた。

 

「ならば何を聞いていたぁああっ!!」

 

刃を返し、剣術も何もない横振り。晴景の怒鳴り声に面食らった景虎は咄嗟に反応できず、しかしかろうじて身をそらすことで衣を切り裂かれるまでにとどめた。

 

「常在戦場!義と愛!重き意志の荷!私の知りうる全てを教えた!その教えの中にあったであろうが!骨肉の争いと武士の誇りが!!」

 

口から咳と共に血が出る。しかし晴景は構わず続けた。この身を糧とさせるために戦っているというのに、相手にその気がないのでは意味が無い。

 

「剣を持ち殺気を放つ者は斬れ!従わぬから殺すことは義ではないが、その誇りまで傷つけることもまた義ではない!()()()などしおって、私を……私の意志を、愚弄するつもりかぁ!!」

 

景虎の力であれば、晴景の刀を受け止めそのまま押し斬ることすらできた。景虎の才があれば、病による剣術の荒らさを突くこともできた。

 

晴景を殺す機会は何度もあった。しかし景虎はその全てを見送っていた。

 

怒りのままに剣を振るう。剣術を意識しない大振りではあるが、景虎は避けるでもなくその全てを槍で受け止めた。

 

「私は力が無く!また人望も無い!ゆえに天下布雅という夢を持てど何もできなかった!しかし、最後に残った意志までも弄ばれることだけは決して許せぬ!」

 

打ち合いが激しくなるにつれて、屋敷にも変化が起きる。どこからか火が起こり、瞬く間に燃え広がったのだ。

 

「っ……これは…?」

「お前にかぶれぬ者もいたわけだ…ゴフッ」

 

口から血が飛んだ。病に犯された身で無理をしすぎた結果、肉体は悲鳴をあげていた。

 

「人が人である理由……それは、人の意志。意志持たぬ堕生に生きる者はことごとく無価値。私は、起きてから寝るまで…お前たちと過ごす時も常に、私自身に問うていた。このまま死病に流され死ぬか、意志と才覚を示し生きるか!」

 

剣が槍に弾かれる。晴景は脇差しを抜き斬りかかった。

 

「どのみち死ぬ身なれど、お前たち乱世を駆ける者を見ていれば、天下布雅などと宣う一人夢に微睡むことに満足できなくなった!」

 

脇差しが砕かれた。武器もなしに、晴景は殴りかかった。

 

「人がわからず、感情が欠けていようとも!人の意志を背負い生きることはできよう!それすら放棄するというならば、お前にその覚悟が無いのであれば!お前に将たる資格は無い、義を語る資格も無いわ!いい加減に目を覚ませうろたえものが!!」

 

 

 

静かになった。聞こえるのは屋敷が燃え落ちる音のみ。

 

庭には倒れた晴景と、そばに座る景虎の姿があった。

 

「うろたえ…もの……が……」

「………………」

 

晴景の身体は血に濡れていた。しかし、その身体に傷はなく。景虎は晴景に攻撃しないまま、ついに限界を迎えた晴景が倒れたのだった。

 

「景虎…お前に義を……教えたというのに…」

「……兄上は言いました。義とは、己のうちにある大切なものを守りたいという気持ち、人と人をつなぐ絆を守ろうとする気持ちであると。ならば、どうして兄上を殺す事が出来ましょう。兄上の意志は、その夢は、よくわかりました。後は万事、この景虎にお任せください」

「……ぬるま湯…よ……」

「はい、しかしいかに乱世という熱湯があろうといずれは泰平のぬるま湯に変わる。先に浸かり、後から来た者たちを笑ってやるのも一興でしょう」

「そうか…そうだな……」

 

晴景はゆっくりと息をしながら、夜空を見る。数多の星が集まり、月の周りを埋めつくしていた。

 

「見よ…景虎、星が月を立てておる……」

「本当ですね……見事です」

「……志は、束を成して…初めて形を現すもの……志持ちし後は、志を同じくする者……共に歩める者とともに駆けよ……よいな、これが私の遺言だ……」

「……はい、しかと心得ました」

 

遺言。その言葉を聞いた時、景虎の頬を一筋の涙がつたっていた。景虎はそれを指で掬い、不思議そうに眺める。

 

「……?これは…」

「……ふふ、やはりな。神仏だ妖だと…言われてはいるがしかし……私の思った通り。生を惜しみ…死を嘆く…人がわからずとも、お前は…人であったのだな…」

 

安堵の笑みを浮かべた晴景の手が落ちる。景虎が晴景の顔を見るも、その顔は安らかで。その体は冷たくなっていた。

 

 

 

 

後に、景虎は名を上杉政虎、上杉謙信と変え活躍することになる。

 

その活躍の中にも、晴景の残した義や人の和の教えが影響したと思われるものは多々あった。

 

北条や武田との戦では、討伐よりも上杉に味方した諸侯への救援を目的とした。

 

宿敵である武田が北条・今川による塩止めに苦しむと、甲斐信濃の民を思い信玄に塩を送った。

 

また、景虎は陣中にて戦や自然を題材にした詩や歌を作っては読んだという。

 

死した後も、景虎の中に晴景の意志は生き続けていたのだった。

 

 




天文22年(1553年)、2月10日━━━━━
長尾晴景は42歳にして、戦国の世から姿を消した。

これにて、晴景の生は終わりです。
皆さん、今までこの作品を読んでくださりありがとうございました。





さて、イベントの話を書かねば。

タイトル「勇将」を変えるか否か

  • 勇将
  • 義将
  • 心将
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