待ちぼうけの魔王信長は激戦の末敗れた。ついでにちゃっかり洗脳されていた岡田以蔵もしばかれ牢へ入れられた。
残るは西の極楽浄土とやらのみ。渚の水着ノッブと対峙した際に摩玖主のキャスターと名乗るサーヴァントと接触した一回を除き、接点は無かった。
魔王信長によって隔てられていたために仕方ないが、やはり相手の情報が無く、その実態は全くの未知数である。
「皆さん集ま……ってませんね。景虎さんはどうしたのでしょうか?」
「たぶん地下牢だろ。なんか付きっきりだし、生前に因縁でもあったんかね」
「ちびノブなのでそういうことはないと思うんですけどね……さて、そろそろ現実を直視しましょうか」
ゆえに西をどう扱うか評定を始めようといった所なのだが……何かしらの問題のネタに困らないのがカルデア家である。沖田はなるべく視界に入れようとしていなかったソレに、ようやく向き声をかけた。
「……で、なんですかノッブ。その姿は?」
身長は180程度にまで伸び、燃えるような赤髪をたなびかせる。服装も軍服ではなくどこかスカサハ師匠を思わせる。
つまるところ、つい先日に打倒した『魔王信長』その人の姿となっていたのである。
「あー、それな。実のところ我にもよくわからんのよ。でも我ながら超かっこよくない?我」
「一人称まで『魔王信長』になってるじゃないですか。取り込みでもしたんですか」
「あながち間違いではないかもしれんの。ま、それよりも見よ!この天女と……あいや、魔王と見まごうばかりの姿を!もう沖田の太ももを超えて胸まであるとか最強じゃね?完全勝利じゃね?のう立香!」
「え?あ、うん、そうだね」
「雑ぅ!もうちょっと見とれてもいいと思うんじゃけど!」
「だって中身ノッブじゃないですか。それはそうと先程の発言は我慢ならないので表出てください」
しかし姿が変わった程度でどうこうなるほどカルデアもヤワではない。驚きもそこそこにいつも通りの風景が展開されていく。
「うはははは!随分でっかくなったな大殿!なにその背中のトゲトゲ、傾いてんじゃねーの!だいたい昔の大殿こんなだったか?いや、こんなだったか!よく覚えてねーな!」
「相も変わらずじゃな……」
「し、しかし、これは一体どういうことなのでしょうか?」
カルデアの良心、常識枠のマシュの一言によってなんとか事態の詳細を詰める流れとなった。しかしそこへさらなる爆弾が投下される。
「うろたえるな。この地に散った、信長様という存在が統合されたにすぎん」
「なるほど……えっ?」
いつの間にやら、そこに立っていたのは明智光秀。魔王信長の家臣としてカルデア家と戦ったサーヴァントであった。
「ん?ミッチーではないか……って、貴様!敵であったはずであろう!?なにをしれっとここにおるのだ!」
「例の吉法師が消えたと思ったら、軍を退いて降伏してきたもんでな」
あの合戦の時、魔王信長が倒れたと同時刻に織田吉法師の姿が消えてしまったという。明智光秀の言葉が真であればこのノッブに統合されたということなのだろう。
「私がお仕えするのは信長様ただお一人。その信長様がここにおられる以上、私がここに馳せ参じるのも当然の事」
「なんじゃ、信勝と同類か」
「姉上!?こんな奴と一緒にしないでください!というか僕の姉上、美しかっこよすぎません?というか男なのか女なのかわからないのでちょっと確に━━━」
信長の鋭いかかと落としが信勝の頭に突き刺さり、へにゃりと緩んだ顔のまま信勝は沈んだ。
「で、ミッチー。貴様のことじゃ、なんぞ手土産ぐらいは用意しておるのであろうな」
「はっ、信長様、これより我らの真の敵についてお伝えしたく思います」
「真の敵?」
最大の敵であった魔王信長は倒れた。それを差し置いて『真の敵』と断ずるのは何故か。そしてその『真の敵』とやらは何者なのか。皆が敵であったことも忘れ、光秀の言葉に耳を傾けた……その時であった。
「評定中失礼いたします!」
「あなたは…モブ足軽!」
「ノブ?」
「いえ、あなた方ちび『ノブ』兵を言ったわけではなく」
「そんなことどうでもいーだろ。んで、どうした!」
「はっ、ご報告いたします!摩玖主のキャスターと名乗る者が参り、謁見を申し出ておりますが如何致しましょうか?」
摩玖主のキャスター。ちょうど彼らについての評定中であった面々は顔を見合せた。その中でただ一人、光秀だけは目を鋭くし顔をしかめる。
「来たか……信長様、ここはカルデアの者に任せて、我らは奥座敷へ。立香殿、まずはかのキャスターの用向きを伺っていただけますかな?」
おそらく最も情報を知り得ているであろう光秀はすぐさま対応する。しかし、元は敵。未だ信じられるほどの材料が無い今、素直に従うものは少ない。
「てめぇ……何を企んでやがる」
「今は何より、摩玖主のキャスターとお話ください。私の首を刎ねるのは、その後でも遅くはありますまい」
「いかがしましょう、
鬼面も土方の問答も風のように流す。しかし首を話上に出す以上、立香の選択に迷いは無かった。
「わかった、そうして。まずはとにかく会おう」
その返事を満足気に受け取った光秀は、信長とともに奥座敷へと身を隠そうとするが、ふと振り返り一つ付け加えた。
「あ、そうそう。奴との話で我々の事が出ましたら、私と魔王信長はあなた方に討たれたと、お答えいただければと」
「うん、わかった」
「それでは失礼」
光秀と信長が去り、しばらくして後。先程のモブ足軽に連れられて、摩玖主のキャスターが姿を現した。
「これはこれはお久しぶりです、カルデア家の皆さん。あの魔王信長を打倒するとは、流石はカルデア家の方々。我が主も大層お喜びです」
「ふん……それで?てめぇは何の用で来たってわけだ?魔王も居なくなって、いよいよ宣戦布告にでも来たか?」
「いえいえ、滅相もございません」
土方の圧に眉毛一つ動かさず、涼しげに摩玖主のキャスターは言葉を紡いでいく。
「此度は魔王を下したカルデア家の皆さんに、私の主の言葉を持参いたしました」
「摩玖主の主……あなたのマスターですか」
「はい。我ら摩玖主はカルデア家と和議を結び、共にこの戦乱の世に安寧をもたらしたく思います」
摩玖主のキャスターから提示されたのは和平。戦もなく統一を迎えようというものであった。しかし、これには必ず何かしらの裏があるはずと、カルデア家の面々は油断無く疑いにかかるのだった。