もしも毘沙門天の兄が勇将だったら   作:サンサソー

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今回は……うーん、難産。あとちびノブの現状によって原作と同じ部分が多々あります。ご了承ください。


極楽の有様

「和平…ですか」

「ええ、和平が成った時には、我ら摩玖主はカルデア家の為、衆生の為、あらゆる援助を惜しみません」

「……どういうつもりだ。それでてめぇらに何の得がある?」

「我ら摩玖主は元々衆生救済のための組織。魔王信長に対抗するため仕方なく武器を取り自衛をしておりましたが、それも魔王信長亡き今となっては無用となりました。ここは互いに手を携えて、平和のための一歩を踏み出そうではありませんか?」

 

演説じみた話の内容に、ますます疑惑の念が強まる。しかし、摩玖主のキャスターも餌だけをぶら下げるつもりもなく。トゲの着いた釣り針を投げ入れた。

 

「それとも、カルデア家にとって『天下統一』とは、民の平和ではなく、己の私欲を満たすものであり……魔王信長と同じく、我らを迫害し攻め滅ぼそうというのでしょうか?」

「よし、殿様。コイツいっぺん首刎ねるわ」

「ステイ、森くん」

「おう!殿様がそう言うならやめるぜ!」

 

侮辱じみた挑発に暴走しかけた森長可を立香がなだめ、摩玖主のキャスターへ向き直る。小僧であっても彼は一国一城の主。その面構えもまた立派な戦人となっていた。

 

「そういうわけではないけど……魔王信長と敵対していたのは何故?」

「はあ、それが魔王信長はこうして交渉の席に着くことすらありませんでした。我らの領内を荒らし、衆生を無闇に殺める文字通りの魔王でしたので」

 

「具体的な和議の条件などはあるのでしょうか?」

「はい、それなのですが我らの主と会見頂き、直接協議させて頂ければと思います。場所は、我が摩玖主の総本山である……『摩玖主本能寺』にてお願いしたく」

 

 

 

 

 

 

カルデア家当主、立香は数名のサーヴァントと共に山を越え、摩玖主教領の境目に差し掛かっていた。

 

「京の周辺一帯が摩玖主の勢力圏というわけですか……わかっていたつもりでしたが、将軍も帝も居ないのですね」

 

上杉謙信と言えば、義に厚く将軍の命を遵守していた大名。特に有名なのは、武田の今川攻めに対し同盟よりも将軍の勅命を優先し出兵しなかったことか。信玄の策略であったとはいえ、同盟の規約を犯したことで北条との仲に亀裂が入り、同盟は崩壊してしまった。

 

そんな景虎は、やはり思うことがあるのだろう。歩みは確かだが、少し顔を俯かせていた。

 

 

越後のちびノブを抱えて。

 

 

 

 

 

『ああ、危ない危ない。一つ言い忘れるところでした』

『……まだ何か?』

『いえ、実はこちらからのお願いなのですが……こちらにちびノブのサーヴァントの方がいらっしゃいますね?』

『うん……何か知っているの?』

『ええはい。持ちうる情報は渡しますので、どうかその方も摩玖主本能寺へとお連れしてください』

『……連れていく理由は?』

『まあ……それはおいおい説明しますよ。悪いようにはしませんので、なにとぞお願いしますね』

 

 

 

 

「なんで摩玖主のキャスターはちびノブを連れてきて欲しいなんて言ったんだろう」

「…わかりません。ですがちびノブさんの状態をなんとかする方法を知っているかもしれませんし……ここはやはり連れていくしかないかと」

 

越後のちびノブ、しかしいつもの活発さは見えず、ピクリとも動かない。

柴田戦を経て牢へ繋がれた彼は、やっと意識を取り戻すも何もせず何にも反応せずのままだった。数日経とうともそれは変わらず、まるで抜け殻のように微動だにしないまま今日に至る。

 

「…………」

「大丈夫だよ景虎さん。きっと良くなるよ」

「……はい、そうであることを願います」

 

 

 

 

しばらく進めば、一行は小さな村を見つけた。道中の疲れと空腹を癒そうと立ち寄ると、村の人々は朗らかに立香らを受け入れた。

 

「なんと、越後から。それはそれは遠いところをよくおいでくださいましたな。ゆっくり旅の疲れを癒してくださいませ。酒も食事も自由にしていってください」

「見ず知らずの我々にご親切にしていただきありがとうございます」

「いやいや、わしらも摩玖主様のお陰で食うには困らんで、気にすることはありませんよ。働かんでも食うに困らんとは、ほんとに摩玖主様々ですわ」

「……働かずとも食うに困らない?」

 

少し、空気がピリリと痺れた。立香らは景虎の雰囲気が変わったことに気づくも、村人は笑顔でその質問に答えた。

 

「ここらは摩玖主様のお膝元ですんで、摩玖主様のお恵みで生活させていただいてるんですわ。お陰でよそより暮らし向きも良いですし、ほんにこの世の極楽みたいなもんですわ。あくせく働いていた昔が馬鹿馬鹿しゅうて……」

「……極楽、ですか。それで村の者が働いている様子もないと」

 

景虎の顔に笑みが浮かぶ。それと同時に空気が戻り、ただ困惑する立香らだけが置いてけぼりとなった。そんな場を変えるべく、長可は訪れた当初から抱いていた疑問を口にする。

 

「おいおっさん、ガキの姿が一人も見えねぇが何してんだ?こんな村でも一人や二人はいるんじゃねーの?」

「へぇ、子供らは摩玖主様の総本山で教えを賜るためにお山へ上がっております。いずれは摩玖主様の僧にして頂けるらしく、ほんにありがたいことですわ」

「摩玖主の僧ねぇ……」

 

 

 

村で十分な休息を挟んだカルデア家一行は、再び摩玖主本能寺目指して出発した。その道中、話題に上がるのはやはり先程の村、そしてこの国のことである。

 

「そろそろ摩玖主の総本山が近いですね。それにしても先程の村…いえ、この国は……」

「働かなくても生きれるんなら、まあこの時代なら極楽と言えるのかもな。俺はあんな、ただ生きてるみたいなのはごめんだけどよ。退屈で死んじまう」

「極楽か…どうなんだろう?」

「……無価値」

「え?」

 

ポツリと落ちた言葉。それを拾った立香は景虎へと目を向けた。景虎は笑うでもなく、顔をしかめるでもなく、無表情のままに言葉を紡いだ。

 

「私は生前、よく兄様にお世話になりました」

「景虎さんのお兄さんというと……長尾晴景ですか」

「その人って?」

「豪将と謳われた長尾為景の長男。景虎さんの実兄なのですが、生まれ持った病弱が祟り、僅か8年で景虎さんに当主の座を明け渡したそうです」

 

何やら懐かしむ様子で、景虎は口元を綻ばせた。思い浮かぶのはかつての日々、唯一景虎の『人』を見出した兄のことである。

 

「……少し、昔話になります。聞いてくれますか」

 

景虎はいつにない弱った顔そう言うと、力ないままにほんの少しだけ、笑った。

 

 

 

 




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