もしも毘沙門天の兄が勇将だったら   作:サンサソー

28 / 29
新たに8人もの方々から評価を頂きました!評価バーも全てに色がついて…本当にありがたい限りです、ありがとうございます!

今回は少し短めです。


その者のいる価値

それは、晴景が綾御前を連れて遠乗りに出た時のこと。

 

「心持ちのよい日よ。どうだ綾、出て来て正解であったろ」

「外に出ること自体禁じられていますのに……」

「今更よな、はっはっはっ!……お?」

 

暖かい陽の光を浴びながら馬を走らせるのは気持ちがいい。しかし、またもや言いつけを守らず遠乗りなどしている晴景、小姓らの雷が落ちるのは確定であろう。

 

そんな中、ふと向かいから馬が一つ来ている。何者かと目を凝らしてみると、見覚えのある白髪が見えた。

 

「おや、あれは景虎では?」

「……あやつ、また放浪癖か。今頃春日山城も慌ただしかろ。哀れな…」

 

景虎もこちらに気が付いたのか、早駆けに近付いてくる。かくして、もはや恒例ともなる三人組での遠乗りが相成ったというわけだ。

 

 

 

 

「兄上。あそこに良さげな木があります。あの辺りで小休憩を入れましょう」

「おお、そうだな」

 

合流した景虎と話しながら進み、丁度よい日陰場で小休止。晴景は身体を休め、景虎と綾御前は小さな将棋盤を出し指していた。

 

しばらく指しあい、音を上げたのは綾御前である。

 

「……景虎は強すぎます。私ばかり負けて、寂しいです」

「将棋は戦のようなもの。つい夢中になってしまうのです」

「……戦のようなもの、か。私も一局、景虎に教授願おうか」

 

晴景が腰を上げ二人へ近づく。綾御前が将棋盤から退くと、晴景が景虎と対峙した。

 

「ただし長考は禁じる。三つ数える内に一手指せ」

「三つの内に…ですか。面白そうですね」

 

やはり景虎は上手く将棋を進めた。しかし綾御前との相対の時よりも荒く、失策を重ねてしまう。時間に縛られ、少しばかり焦っているようだ。

 

晴景も悪手を連発するも、お構い無しにどんどんと駒を切ってくる。しばらくして後、景虎は自分の将棋ができぬままに敗北してしまった。

 

「ま、まさか……兄上に負けるとは」

「実際の戦場に長考の時間は無い。人は失敗を重ねつつも、邁進しなければならぬ」

 

晴景は将棋盤を片付けると、頭の熱が冷めやらぬ内に次の行動に移った。

 

「ここに一両の重さの銀が十一ある。今、そこに一つの石が混ざった」

 

懐から銀を取りだし地面に並べると、転がっていた石を拾いその中へ置く。

 

「銀の中から石を取り分けてみよ。ただし…」

 

携帯用の秤を取りだし、綾御前と景虎の前へ置く。

 

「秤を使ってよいのは二回までだ。さあどうする」

 

綾御前と景虎は悩むも、少しばかり時が経つ内に綾御前が言った。

 

「兄様、それは不可能ですよ。最低三回は使わなければ」

「はっはっはっ!そうかそうか。景虎も同じか?」

「………………」

 

景虎は潔くも根は負けず嫌い。深く長考するも、ついにはガックリと肩を落とし白状した。

 

「……わかりません」

「ほう、戦上手のお前がか!わからぬと!あの戦馬鹿が!はっはっはっ!」

 

手を叩き腹を抱える晴景。一つ拳を握ろうかと顔を顰めながらも、景虎は続きを促した。

 

「どれ、ここは一つ見本を見せてやろう。そら、このようなものはこうしてやればよいのよ」

「え…?」

「あ…」

 

晴景は秤を使うことなく、石を掴み手の中へ転がすと、二人へ見せた。

 

「秤を使うのは二回まで、とは申せども。必ず使え、とは言っておらぬ。銀と石とは見た目から異なり、重さも違う。何より、私が置いたところをしかと見ていたはず」

「それは……」

 

晴景は微笑みながら石を放り投げ、取り出した銀の五枚を綾御前へ、五枚を景虎へ、残りの一枚は自分の懐へと分けた。

 

「お前たちは正しい。が、真理など、無価値。どのような時にも必ず正しき真理は、今、この時のこの一点の真実にあらず。心せよ」

 

座ったままであったためか肩を回す晴景。未だ固まっている二人を見ると、面白そうに笑った。

 

「どうせならば、秤を二回用いた見つけ方を考えて欲しいものだがな」

「兄上、あまり意地悪く言わないでください。兄上でさえまだ見つけられぬものを……」

「ははは!だがそれもまた生の一つ」

 

晴景はまたもや笑うと、綾御前と景虎の頭に手を乗せ撫でた。突然のことに固まる二人へ、優しく諭すように晴景は言う。

 

「誰かができることを言うのなら、そこにお前たちがいる価値は無い。できないことを言え。そこで初めて、お前たちがいる価値が生まれるのだ」

「私たちのいる価値、ですか……」

「うむ。そして、その不可能へ挑戦し、邁進し……ついでに成し遂げてみよ」

「……ついで、でいいんですか?」

 

何がおかしいのか、いよいよ晴景は大笑いする。ついてこれているかはわからないが、二人は揃って顔を見合せた。

 

「そうだ、ついででよい。大事なのは邁進すること、できなくともよいのだ。お前たちが邁進している様が、気概が、それを見ている者を動かし世が動く。共に駆ける者も見つかるもの、そして支え合いできないことを成し遂げる……それこそが『闘争』よ」

 

晴景は言いながらも立ち上がると、服に着いた砂を払い馬へと向かった。

 

「真理に目を覆われるな。世界を見よ」

 

いたずらっ子のように笑うと、二人を置いて我先にと馬を走らせる。少しばかり唖然としていた二人も急いで馬に乗り、晴景の後を追って駆けて行くのだった。

 




そういえば前にいただいた感想たちを見返していたんですが、どうやら壱与さんのイベントの前に『お茶ノブ』と返信にて発言していたようです。すごい偶然。


モルガン祭楽しみですねぇ。40連回してお迎えしました。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。