今回は少し短めです。
それは、晴景が綾御前を連れて遠乗りに出た時のこと。
「心持ちのよい日よ。どうだ綾、出て来て正解であったろ」
「外に出ること自体禁じられていますのに……」
「今更よな、はっはっはっ!……お?」
暖かい陽の光を浴びながら馬を走らせるのは気持ちがいい。しかし、またもや言いつけを守らず遠乗りなどしている晴景、小姓らの雷が落ちるのは確定であろう。
そんな中、ふと向かいから馬が一つ来ている。何者かと目を凝らしてみると、見覚えのある白髪が見えた。
「おや、あれは景虎では?」
「……あやつ、また放浪癖か。今頃春日山城も慌ただしかろ。哀れな…」
景虎もこちらに気が付いたのか、早駆けに近付いてくる。かくして、もはや恒例ともなる三人組での遠乗りが相成ったというわけだ。
「兄上。あそこに良さげな木があります。あの辺りで小休憩を入れましょう」
「おお、そうだな」
合流した景虎と話しながら進み、丁度よい日陰場で小休止。晴景は身体を休め、景虎と綾御前は小さな将棋盤を出し指していた。
しばらく指しあい、音を上げたのは綾御前である。
「……景虎は強すぎます。私ばかり負けて、寂しいです」
「将棋は戦のようなもの。つい夢中になってしまうのです」
「……戦のようなもの、か。私も一局、景虎に教授願おうか」
晴景が腰を上げ二人へ近づく。綾御前が将棋盤から退くと、晴景が景虎と対峙した。
「ただし長考は禁じる。三つ数える内に一手指せ」
「三つの内に…ですか。面白そうですね」
やはり景虎は上手く将棋を進めた。しかし綾御前との相対の時よりも荒く、失策を重ねてしまう。時間に縛られ、少しばかり焦っているようだ。
晴景も悪手を連発するも、お構い無しにどんどんと駒を切ってくる。しばらくして後、景虎は自分の将棋ができぬままに敗北してしまった。
「ま、まさか……兄上に負けるとは」
「実際の戦場に長考の時間は無い。人は失敗を重ねつつも、邁進しなければならぬ」
晴景は将棋盤を片付けると、頭の熱が冷めやらぬ内に次の行動に移った。
「ここに一両の重さの銀が十一ある。今、そこに一つの石が混ざった」
懐から銀を取りだし地面に並べると、転がっていた石を拾いその中へ置く。
「銀の中から石を取り分けてみよ。ただし…」
携帯用の秤を取りだし、綾御前と景虎の前へ置く。
「秤を使ってよいのは二回までだ。さあどうする」
綾御前と景虎は悩むも、少しばかり時が経つ内に綾御前が言った。
「兄様、それは不可能ですよ。最低三回は使わなければ」
「はっはっはっ!そうかそうか。景虎も同じか?」
「………………」
景虎は潔くも根は負けず嫌い。深く長考するも、ついにはガックリと肩を落とし白状した。
「……わかりません」
「ほう、戦上手のお前がか!わからぬと!あの戦馬鹿が!はっはっはっ!」
手を叩き腹を抱える晴景。一つ拳を握ろうかと顔を顰めながらも、景虎は続きを促した。
「どれ、ここは一つ見本を見せてやろう。そら、このようなものはこうしてやればよいのよ」
「え…?」
「あ…」
晴景は秤を使うことなく、石を掴み手の中へ転がすと、二人へ見せた。
「秤を使うのは二回まで、とは申せども。必ず使え、とは言っておらぬ。銀と石とは見た目から異なり、重さも違う。何より、私が置いたところをしかと見ていたはず」
「それは……」
晴景は微笑みながら石を放り投げ、取り出した銀の五枚を綾御前へ、五枚を景虎へ、残りの一枚は自分の懐へと分けた。
「お前たちは正しい。が、真理など、無価値。どのような時にも必ず正しき真理は、今、この時のこの一点の真実にあらず。心せよ」
座ったままであったためか肩を回す晴景。未だ固まっている二人を見ると、面白そうに笑った。
「どうせならば、秤を二回用いた見つけ方を考えて欲しいものだがな」
「兄上、あまり意地悪く言わないでください。兄上でさえまだ見つけられぬものを……」
「ははは!だがそれもまた生の一つ」
晴景はまたもや笑うと、綾御前と景虎の頭に手を乗せ撫でた。突然のことに固まる二人へ、優しく諭すように晴景は言う。
「誰かができることを言うのなら、そこにお前たちがいる価値は無い。できないことを言え。そこで初めて、お前たちがいる価値が生まれるのだ」
「私たちのいる価値、ですか……」
「うむ。そして、その不可能へ挑戦し、邁進し……ついでに成し遂げてみよ」
「……ついで、でいいんですか?」
何がおかしいのか、いよいよ晴景は大笑いする。ついてこれているかはわからないが、二人は揃って顔を見合せた。
「そうだ、ついででよい。大事なのは邁進すること、できなくともよいのだ。お前たちが邁進している様が、気概が、それを見ている者を動かし世が動く。共に駆ける者も見つかるもの、そして支え合いできないことを成し遂げる……それこそが『闘争』よ」
晴景は言いながらも立ち上がると、服に着いた砂を払い馬へと向かった。
「真理に目を覆われるな。世界を見よ」
いたずらっ子のように笑うと、二人を置いて我先にと馬を走らせる。少しばかり唖然としていた二人も急いで馬に乗り、晴景の後を追って駆けて行くのだった。
そういえば前にいただいた感想たちを見返していたんですが、どうやら壱与さんのイベントの前に『お茶ノブ』と返信にて発言していたようです。すごい偶然。
モルガン祭楽しみですねぇ。40連回してお迎えしました。