もしも毘沙門天の兄が勇将だったら   作:サンサソー

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少しづつでもUAやお気に入り登録が増えていく……なんだか初心に帰れた感じです。
そうだなぁ、こんな風に嬉しかった。



蹴鞠や蹴鞠、茶を据えて

人ならざるもの、そう呼ばれ、人をわからぬままに生きていた虎千代を、晴景は危ぶんでいた。

 

自分は病弱だ。いつ大病にかかりこの世を去るか分からない。そのような状態で、自分の跡を継げる者は虎千代しかいない。

 

やはり心配になるものだ。人を知らぬ虎千代は、家臣の心もわからずただ戦い続けることになるだろう。

 

そんなことは、そんな惰性は、晴景にとって到底耐えられるものではなかった。

 

「わからぬままに、父に言われたように、家臣に言われたように動き続ける。ならばいっそ」

 

その命を終わらせてやるのが、せめてもの情けではないか。

 

そう考え、稽古をする時は決まって殺しにかかるようになってから何年経ったか。

今や晴景は長尾家当主。そして虎千代は寺にて五常の徳を積み、栃尾城の主になったという。

 

元服を果たした後の名は景虎。長尾景虎だ。

 

「何も成せぬ……景虎を止めることも、倒すことも。なんと無力であろうか」

 

立派に成長した景虎に、もはや武では勝てまい。兵を集めるにしても、景虎の方に家臣の心は向き始めている。

 

打つ手なし。もとより、戦より芸事を好んでいた晴景に勝機はなく、戦のことに目を光らせる景虎を嘆くのは当然のことであった。

 

「兄上、戦勝の報告に参りました!」

 

襖をあけ、景虎が姿を現した。晴景は景虎へ一瞥のみくれると、手にしていた書簡へと目を戻した。

 

「此度は乱を鎮め、互いに義を通し合いました。これで中条氏も従うことでしょう」

 

晴景は少し身体を揺らすと、景虎へと目を向ける。普段のように笑顔を浮かべている景虎は、どうかしたかと首を傾げていた。

 

中条氏とは、二人の父である為景の頃から長尾家に仕えていた将。為景に習わぬ晴景の穏健な政策を批判し、上杉定実の伊達氏からの養子縁組の話を巡り対立していた。

 

景虎の言った乱、それは晴景と中条氏らの対立によって、晴景を見限り独立をしようと画策した黒田秀忠が起こしたもの。景虎は見事に鎮めてみせ、これによる家臣らの支持はより一層強化されることだろう。

中条氏も、実際に従うのは景虎の方である。景虎の求心力は、もはや晴景以上のものとなっていた。

 

「……潮時か」

「兄上!もし暇を余しているのであれば、久方ぶりに稽古をしませんか!?此度の乱では十どころか二、三も出すことができなかったのです!」

「……いいや、稽古はしない。それよりも景虎、蹴鞠をせぬか」

「蹴鞠ですか?はい、身体も動かせますし私は大丈夫です。しかし、兄上のお身体は?」

「心配するな。今日はいくらか気分がよいゆえ、少しばかり動いてもよかろうよ」

 

蹴鞠、それは鞠を蹴り上げ相手に渡し合う芸事。あらぬ方向へ飛んだり、見事な返しを楽しみながら身体を動かせるのだ。

 

「そら、取ってみよ」

「なんの!この景虎、勝負ごとでは兄上に負けませぬ!」

 

高く蹴り上げたり、うってかわり低く蹴ったり。これは技術とともに相手をどう崩すかの楽しみ方もできる。

 

軍略の全てを発揮できなかったらしい景虎にはうってつけだろうと、晴景は確信していた。

 

「あはははは!兄上!これは楽しいですね!」

「そうか」

 

言葉少なく、しかし笑を零した晴景は、意地悪にも空高く蹴り上げた。少々面食らった景虎はしかし、笑みを浮かべて鞠の落下地点へと滑り込んだ。

 

「あはははは!にゃー!!」

「むっ!?」

 

しかし、気分がほぼ限界まで高まってしまった景虎は、かなりの高さから落ちてきた鞠を全力で蹴り上げてしまった。

 

凄まじい落下速度と御仏の如き力を持つ景虎の蹴り。これらが真正面から衝突した結果、あわれ鞠は耐えきれず割れ潰れてしまった。

 

「「………………」」

 

建付けが悪い戸の如く、角張った動きで首を晴景へと向ける景虎。たかが鞠一つ、されどその鞠は長年晴景が大事にしていたものだった。

 

「……兄上」

「過ぎたことはどうにもならぬ。来い、景虎。茶を馳走してやろう」

 

踵を返し部屋へと戻る晴景。その背はどことなく弱々しく見え、それがさらに景虎への追撃となったのだった。

 

 

 

 

 

「兄上、茶の湯も修めていたのですね」

「うむ。芸事は一通りな……景虎も諸芸を嗜んでみるか」

「いえ、私はいいです。そもそも、長尾の家風に合いませぬし」

「……なるほど。景虎、お前は勘違いしておるな」

「勘違い…?」

 

茶を一口含み、その味をもって心を鎮める。茶の湯とは仏道の禅の修行でもあるのだ。

 

「景虎、お前は戦のことばかり考えておるな」

「はい」

「その戦は多くの命を奪うものであることもわかっておるな」

「はい。闘争とは愉し…忌むべきものです」

「……忌むべきものであることはわかっておるのだな?」

「はい」

「……では、一つ問おう」

 

茶で口を潤し、一拍置いてから口を開く。いつになく真剣な晴景の表情は、景虎に無意識にも居住まいを正させた。

 

「戦とは。なにゆえに連続して起こるものか、わかるか」

 

人の争いが長引き、連鎖を引き起こすこと。その理由を、晴景は景虎へと投げかけた。

 

 




意外と一話に収まらなかったなぁ。見立てが甘かったか。

カルデアでの話、いる?

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