もしも毘沙門天の兄が勇将だったら   作:サンサソー

5 / 29
評価・感想・お気に入り登録ありがとうございます。
どれもが次を書くための励みになりました。



八年当主

春日山城内の一室。家臣たちはひそひそと何かを話していた。

 

「……どうも、晴景殿は病弱で困る」

「なっ、無礼だぞ!」

「しかし事実。これでは士気が上がらぬ」

「やはり合戦には大将が出てくれねば」

 

晴景は病弱であり、戦に出ることも稀だった。家臣を鼓舞し戦局を見定める大将がいなければ、兵の士気も下がるというもの。それでは戦に勝つことも難しくなる。

 

「政務はこなすが、蹴鞠に闘鶏などの芸も頻繁にするというぞ」

「越中や信濃も睨まねばならぬというのに、なぜ殿は遊戯に浸ることができるのか……」

 

諸芸は所詮遊戯。それは共通の認識であり、晴景の考えもまた稀のものであった。晴景自身、話したのは景虎へのみ。家臣団がよく思わぬのも無理はなかった。

 

「虎千代さまは立派に育ったそうだが」

「そうだ、景虎さまは黒田の反乱もすぐさま鎮めてしまった!」

「城主としての器も申し分ないじゃろう」

 

ここで晴景の求心力の無さが糸を引いた。もはや晴景に忠義を尽くそうと考える者は少数。晴景の義を慮る政策は、武士以上に自分たちと国を思う家臣たちの心を引きつけることは無かった。

 

「景虎殿に当主となってもらおうではないか!」

「如何する、景虎さまを立てて戦をしかけてみるか?」

「いやいや、骨肉の争いでは長尾家の力が弱まる。そうなれば上杉が黙ってはおるまい」

 

一度、上杉定実は長尾家を倒し実権を取り戻そうとした。春日山城を占拠するまでには至ったがしかし、為景に敗北しさらに威信を失った。それでもこりず、晴景を伊達氏との養子縁組により家中分裂を計ったりと暗躍していたのだ。

 

「上杉を調子づかせるわけには……む?そうか、上杉!」

 

家臣の一人が妙案を浮かばせた。家臣たちはそれに賛同し、手配を進めるのだった。

 

 

 

 

 

一五四八年、春日山城━━

 

雪の降る中、晴景は綾御前とともに酒を味わっていた。美味なる越後の酒、肴は綾御前の漬けた梅干し。

 

晴景は酒を含むと、梅干しを口に放り入れた。

 

「………………」

 

酸っぱさに思わず顔をしかめる。酒で少々緩んでいた表情は微妙なものとなってしまった。

 

「ふふふ、どうやら漬けすぎてしまったようですね」

「……いや、これぐらいが丁度いい。酒に緩んだ気が正される」

 

酒を飲み干し、もう一つ梅干しを頬張る。またもや微妙な表情となった晴景を見て、綾御前は笑った。

 

そんな平和の中、駆ける音が聞こえ、襖が開き小姓が一人顔を出した。

 

「晴景さま!上杉定実さまがいらっしゃいました!門を開けよと仰っています!」

「そうか…うむ、そろそろ来る頃だと思っていた」

「如何致しましょう!?」

「通せ、会う」

「承知致しました!」

 

小姓が走り去る。綾御前はどこか不安そうに晴景を見、晴景は心配いらぬと首を振った。

 

 

 

「定実殿、よういらした」

「久方ぶりですな、晴景殿」

 

上杉定実が晴景と対面した。にこやかにしているが、その目は決して笑っていない。それどころか、どこか嘲りを含んでいた。

 

「お身体の調子は如何かな?」

「うむ…このところ、かなり怪しい。これが一時限りのものなのか、このまま終わるのか、まだわからぬ状態だ」

「ふむ。では、そんな晴景殿に相談があるのだが」

 

定実が笑みを深くする。それを見た綾御前が口を挟もうとするが、晴景は手でそれを制した。

 

「……して、相談とは?」

「近頃、家臣たちの間でも頻繁に景虎殿の功が噂されていてな。わしの耳にも届いた……率直に言おうか。家臣たちはおぬしよりも景虎殿を望んでいる」

「無礼者!」

 

綾御前が立ち上がり叫ぶ。しかし定実は変わらず笑みを浮かべながら続けた。

 

「家臣たちは病弱たるおぬしに不満を持っていてな。乱を鎮めた景虎殿のほうが頼りになるのじゃろうて」

「兄上!もはや話を聞く必要はありませぬ!義と愛を貫く兄上にそんな…!」

「やめよ綾。こうなることは、私はわかっていたのだ」

「兄上…!」

 

晴景はため息を一つ。そして、未だに笑みを浮かべている定実へと口を開いた。

 

「景虎であれば私よりも扱いやすいとでも思ったか。それとも……お前も()()()()()()()()()

「…………」

 

晴景の言葉に、今まで笑みを浮かべていた定実から感情が消えた。

 

「心配せずとも、私は景虎に家督を譲ろうとは思っていた。が、それは今ではない。まだまだ、あやつには教えねばならぬことが……っ!?」

「……っ!兄上!」

 

晴景が突如、胸を押さえた。表情を歪め、脂汗が出始めている。綾御前が駆け寄るのと同時に、定実は立ち上がり晴景から背を向けた。

 

「ぐっ…はぁ…定実、お前が行こうとする道は破滅が待っているぞ…!」

「……いや、景虎()()に仕えることこそ。それをわかっておる者は多い。お前如きがどう足掻こうと、神仏の化身たるあの方には及ばぬ。お前のその苦しみこそ、天の答えよ」

 

定実が去り、残ったのは苦しむ晴景と必死に介抱しようとする綾御前のみ。晴景は苦しみながらも、綾御前を振りほどき、叫んだ。

 

「綾、景虎を…景虎を呼べ!今すぐここに連れて参れ!」

「しかし兄上!」

「行け!ぐぶっ!?……くっ、早く伝えねばならぬ事がある。早く連れてこい……っ!」

「う……承知致しました。誰ぞ!兄上を寝床へ!」

 

駆けつけた小姓が晴景に肩を貸し、寝室へと向かう。それを見届けると、綾御前は景虎がいるであろう栃尾城へと馬を走らせたのだった。

 

 




今さらだけれど、病弱で戦にも出ず家督をすぐに譲るのに題名の『勇将』はおかしいかな……意見求む!

カルデアでの話、いる?

  • いる
  • いらない
  • どうせなら何かのイベントに出して
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。