もしも毘沙門天の兄が勇将だったら   作:サンサソー

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晴景征伐

甲斐の虎始動す。

 

父を追放し武田家当主となった武田晴信が、本格的に信濃侵攻を開始した。

 

武田晴信は知略に長け、必滅の策を用いる鬼謀の将。兵を手足のように操り、小笠原氏や村上氏へと攻撃した。

 

南方の武田に警戒を示した景虎は、隠密頭を複数放ち状況を逐一確認。信濃には景虎と縁がある者たちが多くいる。彼らが潰されぬように援助の姿勢を示した。

 

武田と長尾及び上杉の対立が激しくなってきた時、春日山城にて事件が起こった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「火事じゃー!」

「早く周囲を壊せ!火が移る!」

「馬が暴れておる!なだめよ!」

 

春日山城の馬小屋が火事にあった。戦が起こるかもしれないいま、貴重な移動手段である馬が襲われた…それは相当な痛手となってしまう。

 

幸いにして火が放たれたのは一つだけ。それが何の手によるものかはすぐに察しがついた。武田側の回し者がいるのだ。

 

すぐに忍びか間者がいないか捜索がなされた。その結果、馬小屋の近くをうろついていたという者が一人見つかった。

 

その者こそ、晴景の世話をしていた小姓の一人であった。

 

小姓は簡単に口を割り、ことの全てを口にした。

 

「晴景さまの命で火事を起こしました。晴景さまは、武田と繋がり長尾家当主に戻ろうとしているのです」

 

「やはりか。晴景は人に告げず屋敷を抜け出していたという。武田と会っていたに違いない!」

「景虎さまや綾さまと共にいたのは隙を伺うためであったのか!」

 

家臣たちは次々に晴景への怒りを示した。景虎にもそのよしが伝えられ、家臣らの声を無視することもできず……。

 

「晴景を抑えます。兵を集めなさい」

 

家臣らの働きにより速やかに兵は集まった。景虎は自ら大将を務め、晴景の屋敷を包囲したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「晴景さま!景虎さまの軍勢が屋敷を囲んでおります!」

「………………」

 

晴景にもその報は知らされた。晴景はただ目を閉じ、立てた茶を飲んでいる。

 

「景虎さまは門を開け、投降せよと仰っていますが…!」

「……お前たちは投降せよ。私だけ、この屋敷に残る」

「なっ!?しかし…!」

「こうなることはわかっていた。私はここで死ぬと決めていたのだ。お前たちまで地獄に落ちるつもりか」

「……かしこまりました」

 

小姓たちが去り、晴景は静かに茶を飲み干す。そして立ち上がり、立てかけてあった刀を取った。

 

「うろたえものどもが。欠片も案じていないというのに、なぜ私にその姿勢をとるのか。どれもこれも景虎にかぶれおって」

 

門が破られる音がした。晴景は刀を抜き、庭に出る。その中心で、静かに構えた。

 

「馬小屋の火事……ふふ、()()()()()()()()()()。だが、天が……乱世が私の命を欲するというのならくれてやろう」

「いたぞぉ!晴景を捕らえろ!」

 

足軽隊長らしき者が複数の兵を侍らせ晴景へと駆ける。

 

景虎の命は晴景を捕らえること。刀を抜いている晴景に武器を向けながらも捕縛しようとする。

 

「だが、タダでこの首くれてやるつもりはない」

 

晴景の刀が振るわれる。その刃は首を、脇を、斬り裂き絶命させた。

 

「我は為景が子、長尾晴景なり!農民上がりの雑兵などで我を卸すことかなうと思うな!」

 

屋敷の外にも響くように、声高らかに名をあげる。大声を出したことで少々咳が出たが、これから死ぬのだ、気にしている場合ではない。

 

晴景の宣戦布告を聞いたのだろう、次々と現れる兵は殺気を放ち、その刃を晴景へと躊躇なく向けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

屋敷の外にて、景虎は晴景の声を聞いた。

 

「なぜです、兄上」

 

景虎は悲しみも何も感じない。もとからそれらがない代わりに、あるのは困惑ただ一つ。

 

「投降すれば命だけは助けられた。兄上程の者であれば何もしようと勝ち目はないことはわかっていたはず……なぜ、ただ一人でそう戦うのですか…」

 

 

 

 

 

 

 

まるで景虎の問いに答えるように、晴景は呟いた。

 

「それが、よい」

 

すでに息切れをし始めている。軽い発作も起こりつつある。しかし、その身に傷はほとんどなく。晴景の周囲には死体の山が出来上がっていた。

 

「全ての命は等しく尊い。つまり、全ての命は等しく無価値。この私を倒せぬ意志なき兵など、お前には不必要だ」

 

晴景は病弱であったが、為景の息子であった。その才は他のものを凌駕しているが、死病がそれの邪魔をする。

 

それでも、民兵卒の雑兵ごときにくれてやる命は持っていない。

 

また、血が飛んだ。兵の命が終わる。

 

人の和を説いたというのに。義を通すことをなにより第一に考えていたというのに。

 

未だに死せず、命を繋ぐ。

 

そうして幾人かを斬り続け、ついに膝をつく。そんな晴景に、一つの影がさした。

 

「……やっと来たか。うろたえものめ」

「………………」

 

長尾景虎自ら、晴景を討つために出陣していた。兵は晴景の威と強さに士気を下げられてしまい、自ら出ることで鼓舞している。

 

いや、そんな打算はない。景虎は晴景へ……自らその命を終わらせるためだけに現れた。

 

「………………」

 

景虎、晴景ともに武具を構える。ただ互いに黙りながら、晴景の剣と景虎の槍は交差した。

 

 




とうとう戦国時代にて、終盤。
晴景は己の意志をもって景虎へと挑む。

タイトル「勇将」を変えるか否か

  • 勇将
  • 義将
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