SPIDER-MAN ~Girls band party~ 作:通りすがりのゴキブリ
翌日、学校にて。
あの後、千聖は泣いている俺を慰めた後。家の前まで送ってくれた。
何と言うか…昨日の千聖は喫茶店の時とは比べ物にならない程優しかった。
海斗から事情は聴いていたとは言ってたけど…まさかあんな雨の中まで来て、一緒にずぶ濡れになってまで来てくれるなんて…
「……」
内心勘違いしてしまいそうになるが、頭をぶんぶんと振ってその考えを捨てる。
そうだ…千聖とはもう終わった事、僕はもう振られているんだ。
すると後ろから海斗が声を掛けて来る。
「おう、おはようユウ。」
「あ、ああ…おはよう海斗」
昨日の事も有ってかテンションが低めな海斗。止せよ、らしくない。
「大丈夫だったか? 昨日の事。」
「うん、平気。ありがとね。その…千聖に連絡したのって海斗でしょ?」
「あ、ああ…お前が気を取り直すのに一番の適任は彼女だと思ってな…」
一応昨日も千聖に言ったけど、近い内に改めてお礼を言おう。
そんな事を考えつつ、教室へ向かっているとちゃぱつの女子生徒が挨拶して来る、昨日僕と…スパイダーマンと電話したリサさんだ。
「おっはよーユウ。」
「あ、う、うん。おはよう…」
「…あれ、どうしたの? 元気ないみたいだケド…」
リサさんは勘が良いのか僕の異常にすぐ気づき、心配そうに顔を覗いてくる。
普段の僕なら嬉しく思うだろうけど、今の僕にとって彼女に心配されるのは少し苦しかった。
「いや…何でもないよ。」
僕はリサさんから目を逸らし、否定する。リサさんも何かを察したのかそれ以上の追及はせず、新しい話題を振る。
「あ、そう言えば。この前話してたバンドの子との件、無事解決したよ。」
…昨日の紗夜さんの事だ。
「そうなんだ。」
「昨日丁度メールが来てさ、ギターの子、バンドのRINEグループでいきなり謝ってたんだ。」
「良かったね。」
「うん…それがね…ビックリした事なんだケド…」
きっと昨日僕がリサさんに電話して紗夜さんが関わった事件の顛末について話した事だ。
ぶっちゃけ言うと、今は聞きたくない。
ただでさえ昨日の事がメンタルに響いているのに、傷口を抉られる様で少し苦しい。
「ごめんリサさん、今から俺達ちょっと用事が有るので…これで失礼します!」
僕の様子を察したのか、隣で話を聞いていた海斗が横から口を挟み、僕の背中を押しながら教室へと連行する。
「あ、ちょっと! ユウ!」
「ゴメン、リサさん。話はまた後で…」
海斗に押されながら僕は教室へと連行される。普段の僕ならリサさんと話す時間を邪魔した海斗に不満を抱いていただろうけど、今は少しだけ海斗に感謝した。
「…大丈夫か?」
教室を向かう途中、海斗が心配そうに訊いてくる。
「…ゴメン…今はちょっと厳しいかな…放課後のパトロールまでには持ち直すよ。」
「‥‥」
海斗が心配そうにこちらを見る、実際放課後まで精神状態を持ち直せる自信は無い。
でも…パトロールを…ヒーローとしての活動を休むわけには行かない。僕がこうして落ち込んでいる時にも犯罪に巻き込まれたり、何かのトラブルに巻き込まれている人が居る筈なのだから。
「ユウ…」
「大丈夫だよ! こんな事でスパイダーマンを休む訳には行かないからね!」
気丈に笑顔を作りながらそう答える。でも表情を偽ることが出来ても自分の心までは偽ることが出来ない。声が震えており海斗が見ても、僕自身から見ても平気じゃない事は明白だった。
「ユウ…お前今日はヒーロー活動を休め。」
「…なんでさ。」
予想はしていたけど、やはり改めて聞くと苦しい。
海斗は今回の件で俺が結構メンタルを削られた事を知っているのだろうけど、改めて彼の口から聞くと『自分の心が弱い』『ヒーロー活動をする資格は無い』と言われている様で、自分が情けなかった。
「…悪いけど今のお前の精神状態はかなり危ない。…確かにお前はヒーローだが、同時に健全な男子高校生だ。お前にも欲求は有るだろ?お前千聖と別れてから全く息抜きしてないだろ?」
「…まぁ…そうだけど…」
欲求、それは勿論僕にもある。
僕だって人間だし、17歳の男子だ。自分の幸せだって守りたい。
毎晩深夜のパトロールに出ないでぐっすり眠りたい。
友達を多く作って皆でカラオケに行ったり、中学の頃に組んでいたバンド活動を再開してライブで思いっきり歌いたい。
リサさんを誘ってデートもしたい、ちゃんとお付き合いして恋愛を楽しみたい。…千聖とも機会が有れば復縁したい。
…でも…それはできない。
僕はヒーロー。僕はスパイダーマン。息抜きなんて名目で一日でもヒーローを休んだら? 前みたく僕が休んでいる間にリサさんが暴漢に襲われていたら? もし千聖が…おばさんが…海斗が襲われたら? もし被害に遭う人間が他人だったとしても、被害者の家族や恋人達はどんな気持ちを味わう? どれ程の苦しみを味わう?
現に僕はその苦しみを既に知っている、あんな思いをするのは二度と御免だし、他人にもその苦しみを味わって欲しくない。
だから僕はヒーローとしての活動を休む訳にはいかない。
「…はぁ…」
仕草や様子を見て、僕の考えている事を察したのか海斗は溜息を吐く。すると海斗はズボンのポケットからスマホを取り出し何か操作をし始めた。
「おーっとっと! この街の監視カメラ200台が全部ハッキングされてしまったー! 町の役人どもがこの異常に気付くのに少なくとも丸一日は掛かるー!」
まるで競馬の実況者の様な口調でスマホをこちらに向ける海斗、その証拠にスマホの画面には監視カメラの物と思われる映像が、何分割も小さく分けられており、この街のある程度の情報を表していた。
監視カメラのハッキング…基本的に市民のプライバシー侵害に繋がる可能性が有る為、余程の事が無い限り使わないと二人で相談して決めた手段。
「…お前…何でそこまでして…」
「…自分でも分かっている事だろ?今の精神状態でヒーローなんて出来ないって事…今日の放課後は俺がカメラの様子見てるし、何かトラブルが有ればアプリの方にもメッセが来るだろ?」
「……」
「たまには良いんじゃない? ずっと肩張ってるのはキツいだろ?」
…海斗…お前…
「でも・・・お前だけ悪いよ…お前こそ一日中パソコンと睨めっこするのはキツイだろ?」
「俺の事は気にすんな。それに…この前…お前がギャングの抗争止めている時寝落ちしちまったろ?あれ結構反省してるんだぜ。」
「俺がアベンジャーズの仮面付けた強盗と戦っている時はエロ動画見て一息吐いていたしな。」
「そ、それは忘れろ!」
慌てて会話を制止し、周りをキョロキョロと見て先程の話が誰かに聞かれていないか確認する海斗。
コイツにもエロい動画見ているの他人に知られたくないって言う羞恥心が有ったんだな…
「解った…今日一日は羽を伸ばすよ。」
「ああ! 町の事は俺に任せろ!」
「でも、休むのは今日一日だけ。それから…もう二度とこんな事で監視カメラをハッキングするのは止めて。」
「解ってるって!今回だけだ。」
どこか嬉しそうな表情でそう答える海斗、コイツ本当に解っているのか?
「でも一つ問題が有る…海斗。」
「ん?何だよ?」
「休みって何をすればいいんだ? 僕半年間休みなしでスパイダーマンやっていたから何をすべきか解らないよ。」
「‥‥‥‥」
暫しの沈黙。
廊下の端で話していたからか、同級生の話し声や笑い声が僕と海斗の間で反響する。
その沈黙が10秒ほど続いた時、突如海斗は堪え切れなくなったのか吹き出し、腹を抱えて笑い始めた。
「…ぷっ…あはははは!あーっはっは!いーっひっひ!」
それはマジで悶える感じの爆笑、そう…お笑い番組を見ている鳴おばさんと同レベルの爆笑っぷりだ。
「オイ何故急に笑い出す?! こっちは真面目に聞いてんだぞ!」
「いや…まんまお前ブラック企業の社畜みたいな事言い出しているから‥‥やっべぇ、ツボった!あーっはっは!」
手を叩きながら爆笑する海斗。解っているよ、どうせ僕は年中パトロールやっている社畜顔負けのヒーロー中毒者ですよ。
「そ、そんじゃあ。昼休みにゆっくり放課後どうするか考えようや!ほれ、もう予鈴なるぞ!」
「あ、ヤバっ!」
海斗がスマホで時刻を表示し、予鈴が鳴る5分前である事に気付く。
「早く教室行くぞ! 海斗。」
「…あー、先に行ってくれ。ちょっとトイレ行ってくる。」
急かす僕をあしらう様にトイレに向かう海斗。…まぁアイツの事だからサボるなんて事は無いだろう。
あー、1時間目日本史か…
僕は気怠さを堪えながら教室へ向かうのだった。
海斗side
俺はユウと別れた後、急いでトイレに向かいスマホを取り出す。
基本的に学校でスマホはマナーモードにしており着信音は鳴らない様にしてあるが、現在俺のスマホは電話の着信を知らせる表示を映しており、その着信名を見た時、俺は小さく溜息を吐いた後通話ボタンを押し、スマホを耳に当てた。
表示された着信名は『白鷺千聖』ユウの元カノであり、かつてアイツの精神を安定させていた存在だ。
『…もしもし?』
「…何の様だ?」
正直俺はコイツが嫌いだ。
あれだけユウに求められて助けられても、ユウの気持ちに一切答えようとせず、挙句の果てはユウを一方的に振って捨てた。…それも自分の保身の為に。
『昨日はありがとう。ユウの事、教えてくれて。」
「…あの時、一番ベストな人材が誰か考えたまでだ。…要件はそれだけか?」
俺はそれだけ言うと耳からスマホを離し、通話終了ボタンを押そうとする。だが刹那『待って!』と白鷺はそれを制止し、俺は再び溜息を吐きながら再度スマホを耳に当てる。
「…なんだよ。」
『その…ユウの様子はどうかしら?』
「…お前にはもう関係の無い事だろ?」
『そうね…虫が良すぎるのは自覚してるわ。…でも…昨日会った時相当疲れていたみたいだから…」
…今更何を言っているんだ…コイツは…
「…昨日よりは多少マシになった…でも…相変わらず意気消沈している。」
『そう…』
「…得意のお芝居も効果が無かったみたいだな。」
『昨日のあれは…お芝居なんかじゃないわ。』
強い語気で否定して来る白鷺、だが俺は騙されない。
「いや、芝居だよ。もし本当にユウの事を気遣っているのなら復縁しようとするだろうし…第一あんな事で別れたりしない。何故一方的に別れを切り出した?! 普通相談の一つくらいするだろ?! お前はあの時自分がユウにとって重要な存在である事を知っていた筈だ、何故ユウを捨てた?!」
『…それは…』
「…白鷺…お前本当にユウの事が好きなのか?」
『…ええ、好きよ。…今でも。ずっと…』
「じゃあ何故それをユウに伝えようとしない?」
『‥‥…』
黙り込む千聖。…言えない…か…
「もういい、お前と話していると反吐が出る。」
結局コイツは自分の保身の事しか考えていない奴だった…少しでもこの女を信じた俺が馬鹿だった…そもそもこの女はユウを一方的に振り、裏切った。信用できない。
俺は電話を切り、行き場の無い怒りを堪えながらトイレから出る。
だが…違う…今白鷺に怒っても何もならない。大事なのは今の俺でどうやってユウを支えられるかだ。
ユウ…安心しろ。
俺はお前に助けられた事を忘れたりしない。
あの時…お前から貰った物、教えて貰った物は死んでも忘れない。
お前が立ち止まった時は背中を押してやる、迷った時は一緒に悩んでやる、転んだときは引っ張ってやる。
お前は俺にとって、唯一無二の『友』なのだから。
少し海斗君の胸の内を明かしましたが、友希那とリサ以上の強い友情をユウに抱いてます。
まぁ具体的に言えばユウを傷付けた奴は老若男女問わず顔面目掛けてドロップキックをかませるレベルですかね。
次回予告
ヒーローとしての休日をどう過ごすか話し合うユウと海斗。
考えた末、ユウは楽器を演奏する為にライブハウスへ行く事に。
だがそこに居たのは…
次回、「…辞めた理由知ってるだろ?」
是非ご期待ください。
ご感想お待ちしております。
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