SPIDER-MAN ~Girls band party~   作:通りすがりのゴキブリ

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リサさんには何も出来ないと思う。

リサside

 

「逃げる様に出て行って、一体どうしたのかしら。」

 

ユウが何処かに走り去ってしまった直後、友希那が不思議そうに呟く。

 

「気にしても仕方ありません。惜しい人材を亡くしたのは事実ですが、やる気がなければ意味ありませんし。」

 

どこか冷たい口調でそう言う紗夜。ユウの事を軽視している様な台詞に、アタシは僅かだが怒りを覚えた。

 

今日、紗夜が練習に来た時、前の練習でいきなり大声を出して抜け出した事をみんなの前で頭を下げて謝罪してきた。

 

勿論アタシ達は謝罪を受け入れた、でも急に謝罪してきた事に疑問に思ったアタシは紗夜にその理由を聞いてみた。何やら紗夜はRoseliaの皆の前では言いにくそうだったし、二人きりの時、昨日同じくアタシが体験した事を話したら、すぐに話してくれた。

 

紗夜の言う、理由はこうだった。

 

昨日、母親の見舞いに病院へ行っていた紗夜だったが、帰り道、なんとスパイダーマンに直接会いに来て、紗夜の母や家族たちが巻き込まれた銀行強盗の事件について謝罪したそうだ。

 

どうやら紗夜はスパイダーマンに関して、それまで事件などの首を突っ込む無責任な自警団と言うイメージを持っており、その無責任さ故から母親が重傷を負ったと考え、彼の事を恨んでいたらしい。

 

紗夜の母が巻き込まれた銀行強盗事件。アタシがそれを知っている理由、頭の中で何かが繋がった様な気がした。

 

そう、それは紗夜にだけ話した昨日の出来事。急にスパイダーマンから電話が掛かって来て、急に謝られた事、そして紗夜たちが遭遇した強盗事件の事、強盗の手榴弾の爆風で紗夜の母が重傷を負った事を説明された事。

 

正直、事件の詳細を聞いた時、スパイダーマンが紗夜に恨まれる理由は無いんじゃないか? 紗夜が彼を恨むのは御門違いではないのか? と思った。でも電話越しから聞こえるスパイダーマンの声はまるで血を吐いてる様に苦しそうで、辛そうだった。

 

ただ辛そうに、『自分の責任だ』と語っており、ただ苦しそうだった。

 

何故辛そうな思いをしながら、紗夜やアタシにそのことを謝罪したのかはアタシには解らない。急に電話も切られちゃったし…きっとスパイダーマンの強すぎる責任感故なのだろう。

 

アタシが解る事はただ一つ。

 

スパイダーマンのお陰でRoseliaの皆がバラバラにならずに済んだ事だ。

 

かなりの規模の大喧嘩になるかと思ったけど、まさか一晩で片付き、翌日から多少の気まずさは有るものの、普通に練習ができるまで関係が回復するとは思わなかった。でも今この状況、喜んでいい物かと考えると、どうにも素直に喜べない。

 

だが、スパイダーマンに感謝はするべきだ。そしてもう一人、おそらく今回の騒ぎをスパイダーマンに伝えてくれたであろうもう一人の立役者。

 

小林ユウ‥‥

 

アタシが通う学校のクラスメイトで、普段は難しそうな本を読んだり、目立たないタイプの男の子。

 

何時もは挨拶を交わす程度の関係だったが、数日前に彼との関係は急変した。

 

学校にて、数日前のお昼休み。食堂でクラスの友達と昼食を摂っていた時。いきなりユウの友達が立ち上がり、何とユウがスパイダーマンと知り合いだと言う事をアタシ達に言ってきたのだ。

 

普通なら「急に何?」と困惑するのが普通だろう。でもアタシは違かった。

 

「…それ…本当なの?」

 

真っ先に口に出たのはその言葉だった、色々段階を吹っ飛ばしていたと思う。

 

でもその時のアタシは、暴漢に襲われそうになっていた所をスパイダーマンに助けられて、一言感謝の言葉を言うためにも、スパイダーマンに会う事で頭が一杯だった。今だって同じだ。

 

「うん…本当だよ。」

 

その日からアタシと彼の交流が始まった。と言っても、劇的に距離が縮まった訳じゃ無い。

 

ただ時折、彼からスパイダーマンの情報を聞き、アタシもネットで調べたスパイダーマンの情報を話すだけ。ただの情報交換だ。

 

だが今回の一件が起きた時、紗夜にどう言葉を掛けるべきか相談した時、ユウが言った言葉は衝撃的だった。

 

「リサさんには何もできないと思う。」

 

最初はその台詞に怒りも覚えたし、現状を突き付けられたようで苦しかった。

 

でも今ならユウがそんな事を言ったのか解る様な気がする。きっとあの時ユウは下手に紗夜を刺激せず、任せて欲しいって事だったのだろう。

 

Roseliaのメンバーではなく、スパイダーマンが今回の件を解決したのは少し悔しいけど…スパイダーマンとユウに今回アタシが助けられたのは事実だ。

 

彼がどんな手段を使ってスパイダーマンにこの事を伝えたのかは解らない。でも彼も今回の一件を解決へ導いてくれた者である事は確かだ。

 

今、そんな彼が辛そうな表情を浮かべながら何処かへ去っていく。

 

友希那達は残念そうな声を漏らしながら、カフェテリアを後にする。これから練習を再開するのだろう。

 

「全く、何故彼のせいで貴重な練習時間が削れてしまいました、早く再開しましょう。」

 

再び紗夜のユウを軽視するような発言。まただ、またその言葉にアタシはムッとした感情、怒りを覚える。

 

今回の一件、紗夜がバンドから離れずに済んだのはユウのお陰でもある。

 

なのに紗夜はユウの事をまるで相手にしてないかの様な発言をしているのだ。

 

正直、今すぐ紗夜を引き止めて、文句を言ってやりたい。でも、そうしたらまた紗夜は怒り出し、また喧嘩になるかも知れない。

 

大事なのは、今アタシが本当にするべき事。

 

このままスタジオに戻って練習を再開する事? 喧嘩する事を覚悟して紗夜に文句を言って、ユウのお陰で今回の一件が片付いた事を教えてあげる事?

 

ちがう。

 

理屈では説明できないけど、何となく違う気がする。

 

「……」

 

ユウが去って行った方向を見る。既にユウの後ろ姿は見えなくなっており、彼が何処に言ってしまったのかは、もう解らない。

 

解ってる。

 

今アタシの本当にするべき事。それは本能的に理解している。

 

「‥‥‥」

 

きっと、今までのアタシならすぐにユウの後を追っていたのだろう。でも、今は違う。いざ一歩踏み出そうとする時、どうしても躊躇ってしまう。

 

『リサさんには何もできないと思うよ。』

 

あの時、廊下でユウに言われた言葉が脳内でリフレインする。

 

もしアタシが今ユウの所に行っても意味はないのだろうか? 仮に行ったとしても紗夜の時みたいに逆に彼の怒りを買ってしまうのではないか? 

 

怖い、進めない、踏み出せない。

 

正直ユウの事が心配だけど、彼の元に行く勇気が出てこない。

 

だがその瞬間、ある人物の声が再びリフレインした。

 

『そうだね…後悔したくないからかな?』

 

その人物はユウではなく、アタシの恩人であり、今回の一件を解決してくれた張本人。

 

「スパイダーマンなら…どうするかな?」

 

自分自身に問い掛けて見る。答えは耳に聞こえなかったけど、頭の中に有った迷いが晴れた気がした。

 

「…ゴメンッ!友希那!アタシ、今日は早退するね!」

 

急いでスタジオに入り、アタシは有希那にそう言うと、楽器や学校の鞄を取って大急ぎでユウが去って行った方向へ駆け出すのだった。

 

アタシがユウの所で向かった所で、何ができるか。それは解らない。でも理屈ではなく、何となく本能で理解できる。

 

 

例えアタシが何も出来なくても、無力でも、何かを抱えているなら、力になりたい。

 

相談できるような事じゃなくても、アタシには無関係な事でも、このままユウを放っておいたら、きっとアタシは後悔する。

 

後悔は、したくない。

 

「ユウ…何処…?」

 

スタジオを出て、まずはCircleの周辺を探してみる。

 

ユウが出て行って数分しか経っていない今、そんなに遠くには行っていないはず。

 

でも居ない…何週も探してもユウの姿は見えなかった。

 

「本当に、何処に行っちゃったの…?」

 

少しずつ範囲を広めても、ユウは見つからない。

 

ユウ…もう帰ってしまったのだろうか…

 

ここはもう既にCircleから離れており、商店街も抜けて住宅街に入ってしまっている。

 

「学校で話すしかないのカナ…」

 

それでも会う事は出来ると思うケド、また何やかんや有って、理由を付けて逃げられそうだ。

 

「…どうしよう。」

 

アタシとユウはただのクラスメイトだ。ただ単に今回の一件で手を貸してくれた恩が有るだけで有って、友希那やRoseliaの皆の様に特に深い関係と言う訳じゃ無い。

 

でも…何なのだろう。この不快感は。

 

アタシ自身体験した事のない不快感に耐えながら、ひたすらユウを探す。

 

「やっぱり学校で話すしかないのかな…? …!」

 

そう呟き、内心諦めかけた時、アタシの目は一転に集中した。

 

そこは住宅街の真ん中に有り、良く子供たちが遊んでいる公園。だが今はもう夕方を過ぎ、遊んでいる子供たちはもういない。

 

だが一人、見覚えがある羽丘の男子生徒がブランコに揺られてながら俯いている。…アレ?一瞬デジャヴを感じたけど…気のせいカナ?

 

いや、今は目の前の事が優先だ

 

「ユウ…!」

 

アタシはようやく見つけられた喜びから、思わずそこに駆け寄る。

 

「リサ…さん?」

 

アタシに気付いたのか、顔を上げ、声を上げるユウ。

 

だがその表情は、学校に居る時や、楽器を演奏している時とは比べ物にならない程暗く。何かに怯えている様だった。

 

「ユウ…」

 

…彼の手が震えている。

 

それにこの怯え方…尋常じゃない。

 

一体彼に何があった? Circleに居た時から思ったけど、FUTURE WORLD FESの事を聞いてから様子がおかしくなった。

 

「ユウ…一体…どうしちゃったの‥‥?」

 

 

 




次回遂にユウの過去が明らかになります。

と言っても、あくまで一部ですが。


次回予告

今井リサ。心の準備はもう出来たか。

今から貴方が知るのは彼の深い闇の部分。そして彼の原点となる事

次回「大いなる力には、大いなる責任が伴う。」

後悔しても、もう戻らない。

最初のスーパーヴィランは誰が良い?

  • リザード
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