SPIDER-MAN ~Girls band party~ 作:通りすがりのゴキブリ
リサside
アタシ達が目標とされる音楽フェス、FUTURE WORLD FESの事を聞いてから酷く怯えているユウ。
「ユウ…一体…どうしちゃったの‥‥?」
アタシは今まで見たことが無い怯え様に、困惑しつつ、彼にその理由を尋ねた。
「別に…ちょっと嫌な事思い出しただけ。」
ユウは早口にそう言うと、再び俯いてしまう。
嫌な事…?一体何だろう?
勿論アタシがその事について知る資格はない。でも、その暈した様な言葉がどうしても気になった。
多分彼の言う『嫌な事』と言うのは、きっと口にしたくない事だろう。
「その…大丈夫?」
アタシは肩に背負っているベースを下ろし、ユウの隣に座る形でベンチに腰掛ける。
この様子、ヤブヘビである事は間違い無い、でもだからと言って、ユウを放って置くこともアタシには出来ない。情けない事に、アタシはユウの事を気遣う事しか出来なかった。
「うん、大丈夫…平気だから…」
本人はそう言うが、様子をからしてとても平気そうには見えない。
「…何も…聞かないの?」
隣に座っていると、ユウが不安そうな声でアタシに訊ねて来る。
確かに、気にならないと言えば嘘になる。でも下手に質問してユウを傷付けたくない。
「うん…アタシは…こういった事がちょっとニガテみたいで…」
彼に何もすることが出来ない歯痒さを覚えながら、アタシはそう言う。だが、それを聞いたユウは肩がビクリと上がった様な気がした。
「…そうなんだ…」
俯いたままでユウ表情が良く見えない。でも手の震えが少しだけ治まった様だ。
一体何が彼をそこまで怯えさせていたのだろう。一体何が彼を追い詰めていたのだろう。
駄目だ、やっぱり気になる。お節介だろうけど、アタシに話して‥‥それで少しでも気が楽になるなら…
「…その…何が有ったかアタシに相談できるカナ? その…お節介かもだけど…」
「‥‥‥」
黙り込んでしまうユウ。ずっと俯いているからか表情は見えなかったけど、更に雰囲気が暗なった様な気がした。
それから何分経ったのだろうか。
あれからずっとユウは俯いたままで、黙り込んでしまっている。
「その‥‥全部アタシのお節介だから、ムリならムリで良いんだけど…」
「‥‥だったらさ‥‥」
すると静かに消えそうな声だが、ユウは声を出した。
「これは‥‥全部独り言…ただ‥‥誰かに打ち明けた方が楽になると思って‥‥僕が言う独り言…」
ユウのその言葉を聞いて、不謹慎だが、アタシはほんの少し嬉しく感じた。
まるでユウがアタシを頼って、彼を助けられるようだったからだ。
例え、独り言でも。それを吐き出して気が楽にならそれでも良い。
「…今から1年前の話かな?FUTUREWORLDFES‥‥だっけ?あのフェス…実はさ、俺出場してたんだよ。」
「…え?!」
急な事で素っ頓狂な声が出てしまった。え?出場してたって…どういう事?
「うん…ピーター・パーカーって匿名で、ホラ…こんな白マスク付けて。こうみえてもバンドやっていたんだよ?」
「ピーター・パーカー…って、え?! もしかして、あの…『amazing』の?!」
「うん…そう…そのバンドの…」
バンド『amazing』…丁度1年前に結成され、FUTUREWORLDFESが終わると同時に突如解散した…巷では伝説と呼ばれているバンドだ。
「そ、そうだったんだ…」
色々リアクションが有ると思うけど、驚きが一周回って、これしか反応できない。
ずっと前から何となく『amazing』のボーカルとユウの声が似ていた様な気がしたけど、まさか本人だったとは。
そんなアタシの事を置いてけぼりにする様に、ユウは語り始めた。彼の過去について。彼の記憶についてを。
*
ごめん。色々急にこんな事言われても、ビックリするよね。最初から説明するよ。
今から1年前、僕はとある力を手に入れたんだ。
まぁ‥‥力と言っても色々あると思うけど…まぁ僕の場合、『才能を手に入れた』って言えば解りやすいかな?ホラ、テレビとかで良くやっているじゃん。雷に打たれて音楽の才能が開花したとか、雪山で遭難して死にかけたと思ったら超人的な計算力を身に付けたとか。
まぁ、僕の場合は雪山に遭難した訳じゃ無いし、雷に打たれた訳でも無い。ただ純粋にちょっとしたトラブルだったけど…僕はそのトラブルがきっかけで力を得たんだ。
僕が手に入れた力は色々有って‥‥全部を言うとキリが無くなっちゃうから大半は省略するけど…そうだね‥‥簡単に言えば『頭が良くなった』のかな? まぁ、それだけ聞いてもピンと来ないよね。
一言で言えば、『何でも一度見ただけで覚える事が出来る』って言えば解るかな?
そう、そんな感じ。自分で言うのも何だけど、僕はそのトラブルをきっかけに『天才的な頭脳』を手に入れたんだ。
ははは、僕が毎回テストで満点を取っている理由が解ったかな? なら…僕が何故FUTUREWORLDFESに出場できたか、ある程度解ったよね?
そう、僕は力を手に入れてから、音楽を始めたんだ。
と言っても、続け始めたって言えば良いかな? 力を手に入れる前からギターを少しだけ弾いたりしてたけど、やっぱり難しくてね…
あの時は…色々浮かれていたんだ。
だって何もかもが一度見ただけで完全にマスターできる様になったんだから、そりゃ誰だって浮かれる。
色んな事をした。
物理学の論文を色々読んで知識を身に付けた時も有った、学校のテストで良い点を取っている事を自慢している奴に、100点の解答用紙を見せて見返してやった時も‥そして‥‥
トップクラスの音楽フェスに出場したり。
*
そう…あの時は…朝早く家を出たんだっけ…
それで…確かおじさんに会場まで送って貰ったんだ。
俺には両親は居なくて、叔父さんと叔母さんで暮らしているんだけど、二人は俺の事を本物息子の様に育ててくれた。
でも…俺は馬鹿だった。
そう、あれは会場に着いて、車から降りようとした時だった。
「ああ、待て。ユウ。」
これからライブで気分が高揚感に身を浸していた時に、突如現実に戻され、その時の僕は苛立っていた。
「‥‥何?」
「聞く所によるとこのフェスはプロでも落選が当然らしく、出れるのは相当な実力者との噂も聞く。」
「ごめん急いでるんだ…それ今話さなきゃいけない事?」
「ずっとお前と話せていないから、お前の事が解らなくなって来た。家の手伝いもせず、部屋に籠って作詞作曲ばかりしている。話をするにもここ最近出来た彼女の話ばかり…他のバンドと喧嘩をしたって噂もーーー」
「あれは俺が始めた喧嘩じゃない!」
「でも相手を…殴り飛ばしたんだろ?」
「じゃあ、逃げれば良かった訳?」
「ユウ…俺もお前くらいの時は同じ様な経験をした。……お前の年頃でどう変わるかによって人間として生きていくかが決まる…どう変わるか慎重に決めるんだ。お前と喧嘩したアーティストも殴られて当然かもしれないが…お前に殴る権利が有る訳じゃない。…忘れるな。『大いなる力には大いなる責任が伴う』。」
「やめて、おじさん。父親でもないのに…」
「違うユウ。俺はただお前が心配ーーー」
「じゃあ父親の真似事をしないで。見ててイライラする。」
「……ああ…そうだな…すまない……20時には迎えに来る…」
「いや、自分で歩いて帰るから必要ない。さっさと帰って。」
僕が車から降りた後そう言う。おじさんは一瞬悲しそうな表情を浮かべると、車を走らせ家へと帰って行った。
でも僕は知らなかった…これがおじさんとの最後の会話になるなんて。
*
その後…会場に着いた俺は、リハーサルもせず、本番まで時間を潰す為に、控え室でバンドメンバーと共にくつろいでいた。
そして前のバンドの演奏が終わり、俺達の出番が目前となった時。
「おい、誰かー!誰か来てくれー!」
控室のソファーに横になっていると、突如廊下からそんな声が聞こえた。
今から本番だってのに、何なんだよ。
内心イラつきながら、一言文句を言ってやろうと控室のドアを開く。
「ちょっと!何?! 五月蠅いんだけど!」
だがドアを開き、廊下向かってそう言った直後、何者かが僕の前を全力疾走してきた。
「その男、捕まえてくれー!」
遠くから突如そんな声が聞こえ、突然の事に思考がフリーズしてしまう。
「…は?」
すると何処からかドシンと衝撃音が聞こえ、何事かと思い、音の聞こえた方向に振り返る。そこには先程全力疾走していたであろう男が転んでしまったのか、うつ伏せに倒れており、立ち上がろうとしていた。
「その男、泥棒だ! スタッフに化けて大勢の財布盗みやがった!」
「あっそう、俺には関係ない事だし。あんまり騒ぐなよー。」
そう言うと俺は、廊下から背中を向け、控室に戻ろうとする。この事は自分には関係ない事、多分俺の財布が泥棒に盗まれたら全力で捕まえるだろうけど、そうじゃない以上僕に関係ない事。
それに本番前にこんなくだらない事で労力を使いたくない。正直こんな事に関われば面倒な事になるのは明白だし、ファンが待っているのに時間の無駄だ。
「…ありがとう…」
泥棒はもう既に倒れた状態から立ち上がった様で、一言俺に礼を言うと何処かへと逃げ去って行った。そして、財布を盗まれた一人であろうフェスのスタッフはと言うと、こちらに辿り着くなり、大声で僕怒鳴りつけてきた。
「お、オイ!今の捕まえられただろ?!なんで何もしなかった!」
「なら、貴方が勝手にどうぞ。俺はこれから本番だから。」
「クソッ!」
スタッフの一人はそう吐き捨てると、何処かへと行ってしまった。
「ユウ。何かあったのか?」
すると楽屋で騒ぎ声が気になったのか、同じバンドメンバーである海斗が声を掛けて来る。
「いや、ちょっとしたトラブルらしい。俺達には関係ないことだよ。」
まぁ、何が有ったのか知らないが。俺には関係の無い事。取り敢えず今はステージの上の事だけをイメージしよう。
「そっか、それよりそろそろ本番だぜ。」
「ああ、まぁいつも通り。気楽に逝こうぜ、ハリー。」
「ははは、まぁそうだな。今日も頼むぜピーター。」
今回は千聖も見に来てくれている。特別気合を入れる必要も無いと思うけど、大勢のファンが待ってくれているし、ちょっとは本腰入れて取り掛かるか…
でも僕は気付かなかった。この瞬間、選択肢を間違えていた事に。
*
「じゃあ俺はこっちだから…」
「ああ、じゃあね海斗。」
千聖とも別れ、海斗とも別れ、ライブが終わった帰り道。それは起きた。
そう、あれは家から数メートルも離れない歩道のど真ん中だったか…
「…ん?」
妙な人集りに疑問を覚える。それに奥にはパトカーや救急車も居るようで赤いランプの光が見える。
事故でも起きたのか?でも救急車が来てるって事は、只事じゃないよな…
「まぁ、僕には関係ない事だけど。」
そう呟きながら他人事として片付けようとするが、突如隣から聞こえた会話に、思わず自分の耳を疑った。
「小林さんちの旦那さんが、通り魔に刺されたらしいよ。」
「この辺りで小林さんって…もしかして、鳴さんの旦那さん? 災難ねぇ…」
瞬間、冷汗が体から飛び出た。
通り魔に刺された、同じ小林って苗字、そして鳴さんの旦那という言葉。
…まさか…
心の中に出来た不安が徐々に膨れ上がり、俺はその不安を晴らして安心する為に野次馬達を退けてパトカーたちが集まっているだろう中心部へと走った。
駆け出してから人集りの中心部に向かうまで、距離は50mも無く、走って向かうのなら1分も掛からないだろう。
だが俺はその短い間に何度も、繰り返し心の中で願った。
どうか弁おじさんでありません様に…と。
だがその願いは無残に打ち砕かれた。
「…そんな…嘘だろ…!」
その場を囲っているテープを潜り抜け、警察官たちを押しのけ、中心部に倒れている人の前に駆け寄る。
この服、そしてこの体形。間違いない。
「お、おじさん‥‥!」
顔を見た瞬間、頭が真っ白になる。
何となくそんな気はしていたが、最後まで認めたくはなかった。
だが顔を見た瞬間、認めるしかなくなってしまった。
そこに倒れていたのは、俺の家族であり、俺にとって父親同然の存在、弁おじさんだったのだから。
「お、おじさん! 俺だよ。分かる? ユウだよ。…おじさん。」
震える声で必死に呼び掛けるが、おじさんは倒れたままで、目に光が無い。
仰向けに倒れており、お腹には通り魔に刺されたのであろう傷痕があり、そこからは大量の血が流れている。
何度呼び掛けても反応せず、この出血の量。
「おじさん、ねぇ…おじさんってば!」
返事はない、何をやってもただその場に冷たくなったおじさんが横たわるだけ。
おじさんは既に死んでいた。
ぽつりぽつりと雨が降り、神様が僕に天罰を落としている。
でも天罰が雨だけならどれだけ良かっただろうか。
犯人はもう捕まっていた、どうやら現行犯で逮捕されたらしい。
でもおじさんを殺したであろう犯人の顔写真を見た瞬間、俺の頭は衝撃に襲われた。
なんせその犯人はつい数時間前に会った男。そう、その男は俺が本番前に楽屋前を通り過ぎた男、あの時廊下でスタッフから逃げていた泥棒だったのだから。
あの時、俺がスタッフの言う事を聞いて、泥棒を捕まえていたらこうはならなかった。
いや、そもそも俺がフェスに出ず、家に居ればこんな事にならなかったかも知れない。
おじさんを喪ったあの日、降りしきる雨の中俺はずっと後悔していた。
でも後悔しても、もうおじさんは戻らない。
雨の日の旅に、僕はあの日を思い出し、自分の罪を悔いる。
雨は僕に罪の意識を改めさせ、僕を罰する。
この前の紗夜さんの時もそうだった。
でもやっぱり、あの日の事は、思い出したくない。
…雨の日は。嫌いだ。
最近、また新しいバンドリの小説を書こうかと思ってます。
次回予告
想像以上の出来事に唖然とし、途方に暮れるリサ。
休息の一時も水泡に返し、自分の罪を改めて意識させられ、打ちのめされるユウ。
だがそんな中、ユウはとある人物と出会う。
次回『今すぐ出来る事は何だろう?』
さぁ、立ち上がれスパイダーマン!
貴方が望むこの物語のエンディングは?
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ユウが闇落ちする
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ユウがヒーローから解放される(死ぬ)
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大勢の為に大切な一人を犠牲にする
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ユウに関する記憶が全て消える