SPIDER-MAN ~Girls band party~ 作:通りすがりのゴキブリ
今井リサside
アタシがスパイダーマンのアプリ、「親愛なる隣人」をインストールした翌日。
「ねぇりんりん!スパイダーマンって知ってる?」
あこがそんな事を言い出したのは、私達Roseliaの練習が終わった土曜日の夕方の事だった。
CiRCLEと呼ばれたオープンして数ヶ月ほどのライブハウスで、アタシ達はRoseliaと言う名のガールズバンドとして活動し、音楽の祭典と謳われる「FUTURE WORLD FES.」への出場を目標に、今日も私は自身と志を同じにする最高のメンバーと共に練習に励んでいる。
何度も衝突したし、バラバラになりかけた事も有った。でもアタシ達は何度も困難も乗り越え、Roseliaは着実に力を伸ばしつつある。
それを感じている今、彼女たちとのバンド活動をしている時間が楽しく思えるようになっていた。
故に、普段のように練習を終えて今日のように物足りないと感じたことは数知れない。
そんな時だった。あこ…Roseliaのドラム担当の宇田川あこが珍しく、その話題を挙げたのは。余程夢中なのか、彼女の顔の横ではふわふわのツインテールが楽しげに揺れている。
「うん…知ってるよ…その‥‥ヒーローだよね?」
その話題は自分も知っているのか、少し嬉しそうに静かに語るのはRoseliaのキーボード担当、白金燐子。
それもそのはずだ、スパイダーマンが活動を始めてもう1年になる。何せSNSやニュースで引っ張りだこなのだから、この近辺でスパイダーマンを知らない者は殆ど存在しないだろう。
「あこ…もしかしてスパイダーマン好きなの?」
「え?! もしかしてリサ姉も知ってるの?!」
スパイダーマンの話題なら是非アタシも混ざりたい、そう思いつつあこに話しかけると、彼女は待ってましたと言わんばかりに興奮しながら声を弾ませる。
「知ってるよ~、あのアクロバットとか凄いしカッコいいよねー☆」
「うん!スパイダーマンはね!シュって手首から糸を出して、バシバシッてあっと言う間に悪い人達をやっつけちゃうんだ!」
シュシュ!とシャドーボクシングをしながら高いテンションでそう言うあこ、あこの言う事はたまに擬音だらけで意味が解らない時有るけど、今のは何が言いたいのかはっきり解る。
「友希那さんは知ってますか?! スパイダーマン!」
「ごめんなさい……名前は知っているけど、詳しくは知らないわ。」
あこは話題を広める為に、今度は友希那に問いかける。だが友希那はあまり知らない様で、静かに首を横に振った。
するとあこは、ならば自分が解説してやろうと一気に捲し立てる。
「それじゃあ!あこが教えてあげます!スパイダーマンはシュバって現れてシュッて糸を出すヒーロ―でね‥‥」
スパイダーマンの話題が本当に好きなようで、ぴょんぴょんと小さくジャンプしながらテンションMAXなあこ、そのテンションの高さに圧倒されて有希那は実感引き気味に「そう…」「凄いわね」と相槌を打っており、そこには年長者である友希那があこに圧倒される珍しい光景が広がっていた。
もう少し困っている友希那を見てみたい気もするけど‥‥そろそろ止めておこう。
アタシはあこをクールダウンさせる為に、あこに近づこうとするが、丁度一歩踏み出そうとした時、「ダンッ」と大きな音が耳に入った。
「‥‥‥‥」
皆が思わずビクッと肩を跳ねる程の音。
何事かと思い音のする方角を見てみれば、そこにはテーブルに置かれた紗夜のペットボトル。
先程の大きな音は、水分補給をしていた紗夜が勢いよくペットボトルをテーブルに置いた事による物であると、すぐに解った。
「…紗夜?」
明らかに様子がおかしい紗夜、アタシ同様それを有希那はそれを感じ取ったのか、少し怪訝そう表情で訪ねる。
「‥‥宇田川さん‥‥」
ペットボトルから手を放し、ゆっくりとこちらへ振り返る紗夜。
その時初めて見えた彼女の顔は、何処か苦虫を嚙み潰した様な悲痛な表情で染められていた。
「‥‥…二度と、私の前でソイツの話をしないで…!」
紗夜の口から苦しそうに、悲しそうに放たれた言葉。
その言葉にどんな意味が籠っているのか、アタシ達には理解できなかった。
「……もう遅い時間ね……あまり遅くなると家の人が心配します。今日はここで解散にしましょう。」
紗夜は感情を押し殺す様にそう言ったあと、そのままスタジオから出て行った。
紗夜が出て行った後、Circleのスタジオは何処か気まずそうな雰囲気に包まれていた。
きっと皆、予想外の事が起きて何を話せば良いのか解らないのだろう。
でもこの状況、何故紗夜があんな事を言っていたのか。
スパイダーマンを知っている者でも、あこの様なファンも居れば、同様にアンチも居る。
世間ではヒーローを求めている肯定派と、「犯罪者を倒すのは警察官だけ」「覆面を被って、得体の知れない奴に自分達を信用できない」等と言う考えの否定派も存在する。
スパイダーマンは非公式のヒーローであり、悪く言えば自警団まがいの事をやっている人間、紗夜が否定派の考えを持つのも解るけど…あんな苦しそうに、悲しそうにあんな言葉を口にするだろうか?
一体何が有ったのか聞いてみよう…もしかしたらアタシが力になれる事かも知れない。
「ゴメンみんな!アタシこれから用事あるから先帰っていて!」
アタシは有希那達に早口でそう伝えると、急いでスタジオを出て紗夜を追ったのだった。
***
「紗夜‼」
Circleを出て少し距離を歩いた道。
アタシが走りながら放った声に反応したのか、紗夜はピタリと足を止める。
「今井さん? どうして‥‥?」
『解散』と言ったにも関わらず、追ってきたアタシが以外なのか、紗夜は一瞬驚いた表情をするも、すぐに無表情に戻る。
短距離とはいえベースを持って走るのは流石にこたえる。アタシは息を整えると、すぐに口を開いた。
「あの状況で追いかけるなって…無理があるよ…」
「……」
それを聞いた紗夜は、少し不機嫌に目を逸らす。
「あのさ…一体どうしたの? いきなりスパイダーマンの話をした瞬間不機嫌になって。」
「別に……何でも有りません、ただ私が彼の事が…スパイダーマンの事が嫌いなだけです。」
不快感を隠そうとせず、顔を顰める紗夜。
「でも、それだけだったらあんな事言わないよ!あの時の紗夜…凄い苦しそうな顔してた…」
「お節介な人ね…」
「それは紗夜が良く分かっている事でしょ?」
呆れたように呟く紗夜、そんなの性分だって自分が一番解ってる。
「…あれは宇田川さんだけでなく、皆さんに向けて言った言葉なのですが……言葉が足りなかったようね…」
紗夜はそう呟くと、今度は苦しそうな悲痛さを感じない、怒りに満ちた表情で口を開いた。
「…貴方も…湊さんも白金さんも宇田川さんも!二度と…私の前でソイツの話をしないで‼」
今まで見た事が無い程の怒りが込められた言葉、この前「妹」の事についてあこが話した時、爆発した時も有ったけど…それと同じくらいの「怒り」。鋭く強い意志が込められているが深い闇を感じさせる眼光に、アタシは始めて紗夜に対して恐怖を覚えた。
「‥‥!話はそれだけです、ではまた……」
アタシのその様子を見て、紗夜は我を取り戻したのか、少し気まずそうに別れを告げると、再び背を向けて帰り道を歩いて行く。
アタシは何もできなかった。先ほどの紗夜の表情、そしてスタジオでの苦虫を嚙み潰した様な悲痛な表情が頭の中にこべりついて、アタシはただ紗夜の後ろ姿を眺める事しか出来なかった。
「‥‥‥」
紗夜の姿が見えなくなった後、思わず頭を抱える。
あの時なんで引き止められなかったのだろう…もしかしたらあともう少しで紗夜に何が有ったのか聞き出せたのかも知れない、少しでも紗夜の心を楽にできたかも知れないのに……
「‥‥何やってんだろ…アタシ…」
自分自身に問い掛けて見るが、答えは見つからなかった。
一方その頃スパイダーマンと海斗は
「おー!良いね良いね!」
「‥‥このポーズはどうだ?」
「おお!絵なる!最高だぜスパイダーマン!今度は蜘蛛が威嚇する様な奴プリーズ!」
呑気にも月曜日リサに渡す為の写メを撮影している真っ最中だった。
ご感想等お待ちしております。
次回「ふぇぇ…ここ何処~」
色々スパイダーマンの小ネタを挟んで来たけど、この中でどのオマージュを見てみたい?
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雨の中、逆さ吊りのユウとリサがキス
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ベランダで千聖をウェブで引き寄せてキス
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テンションが上がり、町中で闇落ちダンス
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池にドボンしたユウをミッシェルが救出
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列車の暴走を怪力で止める