Asyl perspective
「うぅ、ぐすん、うぇぇ・・・」
私は前世でも案外泣き虫だったのでしょうか・・・
最近ガチ泣きする事が多くなって、そう思うようになりました。
ガチ泣きしている私に、同じ部屋にいたヴァルターと、先程ヴァルターに引っ張られて部屋に入ってきた大妖精が固まっている。
うぅ・・・きっと、自分たちの主が泣き虫である事に呆れて失望しているに違いありません・・・
こんな情けない主は嫌だから出ていく、なんて言われちゃったらどうしましょう・・・
そんな事を考えてしまって不安が募っていき、流れる嗚咽と涙は止まってくれない。
「うぅ、うぇ、ぐすん。」
「ちょ、ちょうど良い所に来てくれました、大妖精!お願いします!助けてください!」
「・・・え?・・・ぇあ!?」
私がガチ泣きした途端にヴァルターがオロオロし始め、部屋に引っ張ってきた大妖精に助けを求めている。
大妖精は何故か手にバナナを握りしめたまま、顔を真っ赤にして驚いている様子だ。
「だ、大妖精!ア、アズール様が泣いてしまいました!わ、私、こんなの初めてで、ど、どうしたら良いのか・・・」
「ヴァ、ヴァルター様!?・・・初めてなのに鎖で拘束して、そ、その、そんな事しちゃうなんて・・・な、なんでそんな無茶しちゃったんですか!?」
「違っ、わ、私はアズール様の事を思って・・・」
「そんな事言っても、アズール様泣いちゃってるじゃないですか!いくらアズール様の事が好きでも無茶しちゃダメです!」
しばらく惚けていた大妖精だったが、ガチ泣きしている私を見て、ヴァルターにプンプンと怒り始めた。
どうやら私の為にヴァルターを叱ってくれているみたいだ。
「大丈夫ですか、アズール様?よしよし。・・・ヴァルター様に激しくやられちゃったんですね・・・怪我とかはしてないですか?」
大妖精は鎖でベッドに縛り付けられている私の傍に来てよしよしと頭を撫でてくれた。
あぁ〜。
良い子。
大妖精は良い子ですぅ。
見捨てられなかったという安心感とともに、大妖精の優しさに感動して、また涙が溢れてくる。
そのまま、大妖精にバブみを感じながら泣きつく。
「うわぁぁん。大妖精〜。ヴァルターが酷いんです〜。ぐすん、ひぐ。私を縛り付けて酷い事を・・・」
「あわわわ!アズール様!もう大丈夫ですよぉ。よしよし。・・・ちょっと!ヴァルター様!アズール様が嫌がってるのにそんな激しい事しちゃ駄目じゃないですか!」
「ち、ちがっ。わ、私はアズール様の為に・・・」
「そうは言ってもアズール様こんなにも泣いてるじゃないですか!そういう事は優しくしないといけないのですよ?女の子はデリケートだって本にも書いてありましたし!」
「で、でも・・・」
「でもじゃありません!ヴァルター様!アズール様を大切に思っているのならもっと優しくしてあげて下さい。」
「・・・うぅ。・・・た、確かに大妖精の言う通りですよね・・・分かりました。少し私も厳しくし過ぎちゃったかもしれません。流石に鎖は解いてあげます。」
ヴァルターが指をパチリと鳴らすと、ルーミアちゃんの闇の鎖が弾けてようやく私の身体が自由になった。
「そうです、ヴァルター様。確かに鎖を使った特殊な愛し方もあると、私が読んだ本には書いてありましたし、そういうのにも理解をしないとダメかもですが、アズール様は病み上がりですし、もっとノーマルな方法で・・・」
そう言って大妖精は持っていたバナナをヴァルターに手渡した。
「さぁ!私は席を外しますので、まずはそれを使って、仲直りして下さいね?優しく、ですよ?」
「大妖精・・・。分かりました!ありがとうございます!私は貴方の様な立派な妖精を部下に持てて幸せです・・・」
「いえいえ。私もヴァルター様にはお世話になりっぱなしでしたし、これくらいで恩返しできたとも思いませんよ。・・・あ、でも少し声を落とした方が良いかもです。部屋の外に丸聞こえでしたからね!・・・それでは、ごゆっくり!」
そう言って大妖精は小走りで部屋を出ていった。
そうして2人きりになった部屋の中で、ベッドにポフンと座り直した私とバナナを持って立ち尽くすヴァルターは向き合う。
「・・・で、これをどう使えば良いのですか?」
ヴァルターは困った様に手に持った立派なバナナを見て首を傾げている。
・・・確かに、今の話の流れ的に仲直りの為にバナナを使え、とはどういう意味なのだろう?
妖精にしか分からない方法なのかな?
手に持ったバナナを見て少しの間考えていたヴァルターはしばらくして、深呼吸した後、スっと膝を付いてベッドに座っている私に目を合わせてきた。
「先程は申し訳ありませんでした。アズール様。アズール様を心配するあまり少し度が過ぎてしまいました。ごめんなさい。」
そう言って素直に謝ってくれるヴァルター。
「仲直りの証として、このバナナを食べてくれますか?」
そう言っておずおずと立派なバナナを差し出してくるヴァルター。
・・・あははははっ。
そ、そんな使い方するのですね。
あまりにもシュールな光景に、思わずくすくすと笑ってしまう。
そしてヴァルターに差し出された立派なバナナの先っぽをパクリと咥えて、はむっ、と食べる。
「・・・うん!美味しいバナナでした!このバナナと大妖精に免じて、許してあげます!ヴァルター!」
そう言うと、今まで不安顔で泣きそうだったヴァルターがパァと明るい笑顔になった。
「これで良かったのでしょうか?バナナの使い方。っはむ。もぐもぐ。・・・あ、はい、どうぞアズール様。」
「ありがとうございます。っぱく。もぐもぐ。まぁ、それは私にも分かりませんが、妖精達には仲直りの為の独自の文化とかあるのですよ・・・多分。」
「もぐもぐ、ごくん。・・・な、なるほど。妖精にしか分からない文化ですか・・・執事として知っておかないと・・・今度大妖精に聞いてみます。」
仲直りした私達は2人仲良くベッドに座って談笑する。
ヴァルターの手には食べかけの立派なバナナがあり、都度都度、丁寧に私にバナナを食べさせてくれる。
でも、この立派なバナナは私には大きすぎるので、ヴァルターにも食べてもらっている、といったような状況です。
「良いですね!今度は大妖精が知っている、ちゃんとした方法で仲直りしてみましょうね!」
「あ、はい!アズール様!」
仲直りするなんて、1回喧嘩しないと出来なさそうだし、いつ出来るか分かりませんけどね!
それはそうと、バナナを使った仲直りの方法は私も気になりますし、今度大妖精に私も聞いてみましょう。
「あ。」
「ん?どうかしましたか?ヴァルター。」
バナナを食べ終わって一息ついていると、ヴァルターが何か思い出したように、気まずそうに私の顔を伺ってくる。
「あの、アズール様。・・・その・・・お召し物は・・・」
「え?・・・あ、そうです。実は・・・」
「わ、私はアズール様がおもらししたとしても幻滅したりなんかしませんよ!後始末だって喜んでします!」
「うわぁあ!ヴァ、ヴァルター!声が大っきいです!さっき大妖精も言っていましたが、部屋の外に丸聞こえなのに、おもらしとか言わないでください!」
さっきまでのやり取りが外に丸聞こえだったなんて、この館の壁の防音は頼りなさすぎでちょっとビックリです。
今度絶対に防音方法を考えます。
ヴァルターがおもらしと言った途端、部屋の外でガタガタと物音がしましたし、大妖精が心配して覗き見ているみたいなのでこれ以上恥ずかしい事を言わないで欲しいです。
「じ、実はその事については大丈夫です。
自分で言っていてすっごく恥ずかしいが、1日1回しか使えない最後の手段の空間倉庫を開いて何とかおもらしは回避できた。
初めからそうすれば良かった、と思うだろうが今は妖力と魔力が封じられている状況なので、扱いづらい霊力を用いた空間倉庫の開閉は時間が掛かるのだ。
本当にギリギリセーフで、安心からかさっきは涙が止まらなくなっちゃった訳なのです。
「・・・ま、まぁでも、気持ち的には今すぐ身体を洗いたい気分ですし、今からお風呂に入ろうかなとは思います。」
「分かりました!すぐに用意します。お背中もお流し致しますね!」
「おぉー!ありがとうございます!では久しぶりに一緒にお風呂に入りましょうか!」
そう言ってさっそく2人で大浴場に向かう為に部屋の扉を開けて外に出る。
ガチャり
「ひゃあぁぁ!?」
扉を開けるとそこには惚けた顔でしゃがみこんでいた大妖精が居た。
やっぱり心配で様子を覗き見ていてくれたのだろうか?
覗き見ていただけなのに、汗がびっしょりになっている様子でちょっと不思議ですが・・・
あ、そうだ!
「ちょうどいいところに。今から私とヴァルターで大浴場に行くのですが、大妖精も一緒にどうですか?」
せっかくなので大妖精もお風呂に誘ってみる。
すると、顔を真っ赤にした大妖精がガクガクと子鹿のように震える足でゆっくり立ち上がった。
「わ、私にはまだ早すぎましたぁぁ!!覗き見しちゃって、す、すみませんでしたぁぁぁ!!!」
と言って走ってどこかに行ってしまった。
あ、あれぇ?
振られちゃいました・・・
まだ妖精達にとってはお風呂の時間には早すぎたのかな?
・・・まぁなんにせよ、無理やり誘うのもなんですし、こうなったら久しぶりにヴァルターと2人きりでお風呂と洒落込みましょうか!
そんな、久しぶりのヴァルターとの混浴に、ウキウキ気分の私はヴァルターの手を引っ張って意気揚々と大浴場へと向かった。
Walter perspective
「はぁぁぁ。良いお湯ですねぇ、ヴァルター。」
「そ、そうですね。アズール様。」
今、私は2人で入るにはかなり広い大浴場の湯船に入っている。
隣では先程、ガチ泣きさせてしまった我が主、アズール様が湯船の中で気持ち良さそうな顔でググッと伸びをしている。
広い湯船なのに、もう少しで肩が触れてしまいそうなほどに、アズール様との距離が近い。
・・・何度も言っているが私は元狼
それにしても先程は、主であるアズール様に酷い事をしてしまった。
良く考えてみると私は監禁まがいのことをアズール様にしてしまっていたのだ。
アズール様から許すとは言っていただきましたが、こんな酷い事をした私をアズール様は本当に許してくれたのだろうか・・・
隣でリラックスしている様子のアズール様を見て、その様子とは逆に私の心には不安が募っていき、緊張がゆっくりと高まっていく。
「あれ?どうしたんですか?今更一緒にお風呂に入るのに緊張してるのですか?・・・ふふふ。こそっと裸の私の胸を触っちゃダメですよ?」
「そ、そんなの、ぜ、絶対に、触りません!」
「ガーン。そんなに全力で否定しなくても良いじゃないですかぁ。うぅ。ちょっとは膨らんでると思うのですよ?100年前よりミリ単位では膨らんでるはずなんです!」
「な、何の話ですか!?」
「おっぱいの話です。ほらほら、どうです?ちょっとは膨らんでるでしょ?」
そう言ってずいずいと詰め寄ってくるアズール様。
ち、近い・・・
正直言って、アズール様と一緒にお風呂に入るのは物凄く恥ずかしい。
今までアズール様とは沢山一緒にお風呂には入ってきたがやっぱり狼男としての感覚がいまだに残っているからか、恥ずかしい事は恥ずかしいし、慣れそうにない。
しばらくして、ちぇーっと不満顔で再度肩まで湯船に浸かったアズール様を見て、ふぅと一息つく。
この方と二人きりでお風呂に入る時は毎度のことであるが、心臓がもたない。
ドキドキが止まらなくなる。
そうして、早鐘を打つ心臓を落ち着かせようと深呼吸する。
深呼吸してから、ふと先程の会話の中でもあった100年と言う言葉を思い出す。
・・・そう言えば、私はこの方と出会ってもう100年近くなるのか・・・
ふと、隣にいるアズール様をもう一度見てみる。
隣で湯船に浸かるアズール様は幸せそうな顔で湯を楽しんでいる。
・・・こんな幸せ空間に私がいられるだなんて、あの頃の狼男だった私が聞いたら絶対信じないだろう。
『お前みたいな落ちこぼれはこの世界に必要ないんだよ。』
『周りの足を引っ張る役立たずの貴方なんて生きてる価値なんか無いわよねぇ!』
『生きてるだけで迷惑をかけるてめぇなんざ、この世界に求められてねぇんだよ。』
『・・・なんだ。まだ生きていたのですか?他の子の面倒も見ないといけないので、早く死んでしまいなさい。』
『満場一致でお前が生贄に選ばれた。分かってた事だがな。ははっ。ようやくお荷物が消えていなくなってくれる訳だ。嬉しいねぇ。あひゃひゃひゃ。』
いつものように胸に激痛が走り始める。
「どうしたのですか?ヴァルター?」
「・・・なんでもありませんアズール様。」
アズール様が少し心配そうな顔で私の顔を覗き込んできた。
痛む胸を必死に我慢しながら、慌てて顔を逸らし笑顔を取り繕う。
昔の記憶がこうやってフラッシュバックする事は良くあることだ。
未だに慣れないし、あの頃を思い出すと今みたいに胸が締め付けられるように苦しくなる。
痛む胸を自分の中でなんとか誤魔化して、心配をかけないように得意のポーカーフェイスでアズール様の方を向く。
そんなポーカーフェイスで見たアズール様は変わらずに心配そうな顔で私を見ていた。
能力でもダイレクトにアズール様からの心配の念が感じられる。
その優しさに
甘えてはならない。
私はどうせ、誰からも必要とされない落ちこぼれ。
あまり、アズール様に甘えすぎていては、邪魔に思われて、いつかアズール様に捨てられてしまうかもしれない。
それだけは、絶対に嫌だ。
私の大好きな家族。
念願だった家族。
そんな家族を失いたくない・・・
でも・・・この方の隣にいると、私が・・・こんなどうしようもない私が、この世界に生きていても何も問題ないんだ、と錯覚してしまう。
世界にとって、必要とされずに生まれてきた私が。
世界にとって、迷惑をかけてばかりの私が。
世界にとって、無価値の私が。
世界にとって・・・
「ヴァルター。」
柔らかい手で段々と熱を失っていた私の手が握られる。
「私は貴方が居てくれて幸せです。私には貴方が必要です。私にとって貴方は宝物です。・・・私は貴方を家族として愛していますよ。」
まるで、私の暗く冷たい思考を全否定するかのごとく、温かく眩しい言葉が掛けられる。
「例えどんな事があっても、どんな時でも、どこへ行っても、私が貴方を大切に思う気持ちは変わりません。絶対です。」
手を引っ張られて熱を失っていた私の身体が、優しく温かい身体で抱き締められる。
「だから、そんな寂しそうな、辛そうな顔しなくても、良いんですよ?ヴァルター。」
アズール様の温かく柔らかい身体で抱き締められた私の顔は、湯船が揺れて生じた水飛沫によってピシャリと濡れる。
目に水が入る。
「あ、あずーるさま。な、なにを」
鼻の奥がツンとして、上手く言葉が話せなくなる。
「ヴァルター。貴方には『機微を悟る程度の能力』があるのでしょう?その能力で私を見てみて下さい。」
そう言われて、改めて目の前の心優しい少女を見てみる。
湯に浸かって張り付く美しい銀髪が垂れている少女の心情には、冷たくなった私を溶かし尽くす程に莫大な庇護、愛情の心情が能力によって垣間見えた。
「ね?・・・だからヴァルター?そんな辛そうな顔しないのですよ?」
・・・私は今まで、『機微を悟る程度の能力』という、私の生まれ持った能力を呪われた能力として嫌って生きてきた。
今まで、垣間見てきた悪感情は積もり積もって私の心の中に残り続け、燻っていたから・・・
・・・でも、私はこの方に出会って、その愛情を能力で感じる事で救われた。
悪感情にばかり晒されて、凍ったように冷たくなっていた私の心はたった1人の小さな少女によってゆっくりと温められて溶かされていった。
そして、生まれ持った能力を
今では、私はこの呪われた能力・・・いや、私が私である為の証明を愛している。
私を救ってくれた、目の前の少女とともに・・・
得意だったはずのポーカーフェイスがパラパラと崩れ落ち、情けない泣き顔が現れ始める。
「あ、あじゅーるしゃま。あじゅーるさまぁ。あずーるさまぁぁぁあ。」
「大丈夫ですよ、ヴァルター。私が付いていますからね。よしよし。」
まるで、今まで溜め込んできたものを一気に解き放つかのように、私はしばらくの間アズール様に泣きついてワンワンと泣いた。
「あ、あの。ア、アズール様。」
「はい。何ですか、ヴァルター?」
「お、落ち着いたので、そろそろ離して貰っても、いいですか?」
ギュッと抱き締めてくれるアズール様にもう大丈夫だと伝えて離れようとする。
それでも、アズール様はギュッと抱きしめる力を少し強めて離してくれない。
さっきまでは泣きついていて気が付かなかったが、私の顔に、や、柔らかいものが当たっている。
「だ〜め〜で〜す〜♪傷心の執事を労るのはその主の務めですからぁ♪」
「も、もう十分です!だ、大丈夫ですから!・・・そ、それと、柔らかいのが、あ、当たってるので」
「ふふん♪当ててるんですよ♪これ一度言ってみたかった言葉です。」
「な、何言ってるんですかぁ!?」
とんでもない事を言い出したアズール様の抱擁からなんとか抜け出す。
抜け出してからザバザバと、湯船の中で動いてアズール様から少し離れる。
「あらら♪振られちゃいました。別に良いじゃないですか、女の子同士なんですから。」
そう言ってニコニコ、というかニヤニヤとした微笑みで私を見てくるアズール様。
心臓がこれまでに無いくらい早鐘を打っている。
「ふふん♪初めてヴァルターの本心が知れてとっても嬉しいです♪」
「う、うぅ。…/////」
あぁぁぁぁああああ!!!
めっちゃくちゃ恥ずかしいぃ!!
アズール様の前で、またガチ泣きしてしまった。
そ、それにお互い裸で、だ、抱き着いてしまった。
は、恥ずかしすぎる…/////
ぶくぶくぶくと湯船に鼻まで浸かって真っ赤になっているだろう顔をアズール様から隠す。
顔だけじゃなく身体全身がポカポカと温かくなる。
これは、からかわれて恥ずかしいからか、それとも・・・
「ふふふ♪最近ヴァルターが甘えてくれる事が多くて嬉しいですよ!また、いつでも泣きついてきて良いですからね?」
「(うぅぅ…/////)ぶくぶくぶく」
・・・間違いなく恥ずかしいからですね。
ここぞとばかりにアズール様はニヤニヤと笑って、私をつんつんと細い指で突っついてからかってくる。
これは絶対、私がアズール様をベッドに鎖で縛り付けた事を根に持ってる。
うぅ。
まだ許してないじゃないですかぁ・・・
そうしてしばらくの間私はアズール様に突っつかれながら、湯船の中でぶくぶくと真っ赤になっているだろう顔を隠し続けていた。
「(…/////)ぶくぶくぶくぶく」
「あははは!あー満足しました!じゃあ、私は先に上がってますね?ヴァルターは顔を洗ってから出て来ると良いですよ。」
ひとしきり私を突っついて満足した様子のアズール様は、そう言って1人先に脱衣所に出ていった。
うぅ。
アズール様に泣きついてかなりスッキリしたけれど代わりにとても恥ずかしい思いをしました・・・
・・・しばらくこの事でいじり続けられそうです・・・
・・・とにかくアズール様の言う通り、確かにガチ泣きしてしまったし、顔を冷水で洗っておこう。
冷水を身体にかけて、顔を洗う。
火照った身体に冷水の冷たさが心地よい。
ゴシゴシと目元を擦り、最後に頭からパシャリと冷水をかぶっておく。
・・・凄く冷たい・・・けれど、その冷たさが心地良い。
そうしてそのままアズール様を追い掛けて脱衣所に出る。
「ア、アズール様。今上がりました。・・・あれ?」
アズール様が上がってからすぐに出たつもりだったのだが、脱衣所にはアズール様の姿はおろか、気配すら、まるで霞のごとくなくなってしまったかのように消えていた。
「アズール様?・・・っ!!?そこにいるのは誰ですか!!!」
私の獣の直感とでも言うべき直感が脱衣所内に何者かの気配を感じた。
その気配はアズール様や月光館の他の皆のものでもない。
間違いなく侵入者のものだ。
しかし、気配を感じた辺りには大浴場から流れてきた湯気しか見えない。
「おやおや!あんたも私に気付くんだ?いやはや、はるばるこんな所までやってきたけど、大当たりだったよ。ここには面白そうな奴が多くいる。」
知らない少女の様な声がどこからともなく聞こえてくる。
声は聞こえてくるが姿が見えない。
その声に併せて湯気が増えてきて、まるで濃霧のように脱衣所に漂い始めた。
「っ!?貴方は何者ですか!?姿を現しなさい!」
「あははは!姿ならもうずっと現してるんだけどねぇ。さっきの子は私の正体にも気づいたよ?まぁ、かなり細かく分散してるし、あんたには分からないかもね。」
謎の声は楽しそうにくつくつと笑っている。
くっ、今すぐこちらに危害を加えるつもりは無さそうですが、姿が見えないのは不気味ですね。
それに、私の能力は相手の顔、主に目を見なければ発動しないので、こちらからはあまり打つ手がありませんね・・・
侵入者と思しき謎の少女の声に、どう対処しようかと頭の中で冷静に考えていると、謎の声の言葉の中に1つ気になる言葉があったのにふと気がついた。
『さっきの子は私の正体にも気づいたよ?』
「・・・さっきの・・子?・・・まさかっ!!!」
さっきの子とは、まず間違いなくアズール様だ。
でも、今のアズール様は妖力、魔力を封じられて人間の少女と大差ない状態となっている。
そんな状態で敵の妖怪に会ってしまったら・・・
「・・・先程、私より前にここに来た少女・・・アズール様は・・・一体どこ・・ですか?」
「・・・あはははは!」
謎の声は楽しそうに笑っているだけで答えない。
「どこだと言っている!!答えろ!!」
思考の中の最悪の想定に瞬時に冷静でいられなくなる。
言葉遣いも荒くなり、全身の毛が逆立ち、普段抑えている妖力が吹き荒れる。
「おぉ!良いねぇ。良いねぇ。あんたも気に入ったよ。」
次第に脱衣所に溢れた湯気が集まってきて1つの塊を形成し始める。
それと同時に恐ろしく強い妖力の匂いがし始める。
「さっき、ここに来た可愛らしい女の子はねぇ。・・・一体どうなったのかな?・・・知りたい?」
その湯気の塊から、先程までの謎の声が発せられる。
「だったら、力ずくで私を屈服させて聞いてみなよ?」
そう言うのは、湯気の塊から現れた1人の少女。
薄いロングヘアは先っぽで1つにまとめられ、その頭の両側からはねじれた角が存在感を放っている。
その少女が纏う雰囲気は、スカーレット夫婦やスキマ妖怪、夢幻館の主人が纏っているような強者の風格。
私なんて吹けば消えてしまいそうなほどに強大な力を発している目の前の妖怪。
普段の私なら何かしら考えて行動を起こすものなのだが、今の私はどうやら冷静ではいられないようで。
「貴様ァ!!アズール様に何をしたァァァ!!!!!」
今まで執事として紳士でいるように、と抑えられていた獣の本能に従って、目の前の敵に咆哮する。
「あははは!せいぜい楽しませておくれよ?」
対するねじれた角を持つ少女も獰猛な笑みを浮かべて身構えた。
【後書き】
・・・お久しぶりでございます・・・皆様・・・
・・・はい。
色々あって2ヶ月近く更新できませんでしたァァァ
平に、平にご容赦をぉぉぉぉ
この2ヶ月、色々ありました。
体調不良による仕事の休職。
せっかく休職になったのだからと、実家への帰省。
帰省後の体調悪化。
エルガドでのディア周回。
Tarkov市でのゴミ拾い活動。
ドヴァキンとしての色々な活動。
・・・・・・・・つまり。
体調不良によって仕事が休職になったのを良いことに遊び尽くして更に体調崩して長期休載しておりました。
実は依然として体調不良は続いているので、次も2週間以上空きが開くかもですが、次話は5割は完成してるのでなんとか2、3週間で仕上げようかと・・・・
それはそうと、49話です!
前話から新章突入したところでしたが、章構成を見直して、1章追加することにしました。
ので、【第6章:命を運んでくると書いて運命~優しい運命の帰結~】は次の章に持ち越しとなりました。
変更して【第6章:皆と離れて一人旅~顕在化してきた巻き込まれ体質~】となりました。
すっごくややこしくしてすみませんm(_ _)m
さて、今話の話ですが、少しエッチな内容が多かったかもしれません。
タイトルは確信犯です
・・・はい。
今話の展開は7、8割作者の性癖に引っ張られてます。
内容ははっきりと明言していませんし、行間を読んでいただく部分が多いかもです。
改めて言いますが、この小説はR15作品なので、ガチエッチではない限り、ちょっとエッチな内容や、ギリギリを攻めた内容を・・・
すみません。
調子乗りました。
自重します。
さて、今話での行間の内容をここでひとつまみ。
今話序盤に登場した大妖精はとんでもない勘違いをしたまま、部屋をあとにしましたが、今話にもあったように扉の前で覗き見ていました。
原作キャラ崩壊かもですが、本小説の大妖精さんはちょっとだけえっちなので、こっそり花園を覗こうとしていました。
結局、ヴァルターに渡した立派なバナナをアズールとヴァルターでシェアしているのを見て、目を回しかけていました。(大妖精の勘違い加速)
中盤ではヴァルターがトラウマにさいなまれているのをアズールに助けられました。
ヴァルターは今話時点まではトラウマの想起やメンタルがやられちゃうことが多かったのですが、今話でアズールにカウンセリングされてから、トラウマも鳴りを潜める様になっていきます。
終盤では、前話に引き続き原作キャラクターが登場いたしました。
湯気で見えない・・・と言いつつがっつり挿絵で見えているので言いますが、日本最強妖怪【鬼】の伊吹萃香さんの登場です。
ネタバレすると、萃香さん本人にはあまり危害を加えるつもりはないようです。
でも、なんか気が乗ってきちゃったから、ノリノリで相手してる、みたいな感じです。
察しの良い方ならわかったかもですが、萃香さんは前話に登場した射命丸文さんにひっついて日本からこっそり着いてきていたみたいです。
誰にも気づかれずに外国まで着いてきているあたり、能力的にもスニーキングミッションとか得意そうだなぁと、執筆中の私は思っていました(小並感)
それは、そうと今話での作業用BGMを紹介したいところなのですが、前回から2ヶ月も更新が空いているため、作業用BGMもまた、莫大・・・
なので今回はプレイリストやらはなしの方向で・・・
基本的には東方Projectの原曲や、そのオーケストラアレンジとか聞きまくっていました。
もちろん伊吹萃香さんのテーマ曲も聞きまくってました。
というわけで、恥ずかしながら戻ってまいりましたので、これからもよろしくお願いします!
もちろん次話はでき次第投稿しますので楽しみに待っていただけると嬉しいです。
今後も庇護録はまだまだマイペースに続いていきますので、これからもよろしくお願いいたします!!