ある日、達也が告白を受けたのを知り、奈緒の心はざわつく。
この正体は何?
「浜野くんって、よく見ると格好いいよね」
浜野達也、あたしの幼馴染み。幼稚園から高校までずっと一緒。腐れ縁だよねって笑ったけど、本当はタッちゃんが一緒で心強かった。
タッちゃんが離れて行くなんて考えたこともなかった。あたし以外の女子と親しく話している姿を見たことなかったから、心のどこかで安心してた。
頬を真っ赤に染めた女の子がタッちゃんの前にいる。あの子、隣のクラスの鈴木さんだ。あたしの目から見ても彼女はとっても可愛い。
告白、かな……。
タッちゃん、なんて答えるんだろう?
ちらっと顔を上げたタッちゃんと視線があった気がして、慌てて止まっていた脚を動かす。覗き見なんて悪趣味だよね。
結局タッちゃんは次の授業に遅れて来て、先生に注意されていた。
『今からそっち行ってもだいじょうぶ?』
五分ほどして返事が返ってきた。
『鍵、開けてあるから』
よかった。断られることは滅多にないけれど、やっぱり安心する。
勉強道具をつめたバッグを持って、急いでパジャマの上にセーターを重ねて出かける。
冷気が痛い。鍵は開いている。晩秋の寒風をドアが遮った。
「お邪魔します」
「どうぞ」
部屋の中はタッちゃんがいつもつけている爽やかな香りがした。
あたしは平日の夜に勉強を教えてもらうのが恒例になっていた。
学年トップを争う成績のタッちゃん。比べてあたしの頭は出来がよろしくない。授業でついていけなかった部分をこうして教わりに来ている。
幼馴染みだからか、あたしがどこで躓いているのか本人より理解している。
定位置であるローテーブルに陣取るとクッションを渡された。
「奈緒、何か飲む? ココアかホットミルク、どっちがいい?」
「えっと、ココア」
タッちゃんは頷くと一階へ下りて行った。気を遣わないでといっても聞いてもらえないので、ありがたくいただくことにしている。
ほどなく湯気の立つカップを手にタッちゃんが戻ってきた。
お礼をいって掌に包みこんだカップから甘い香りが漂い、自然と頬がゆるむ。タッちゃんも微かに口の端を上げた。
タッちゃんは同性の友達が多い。さりげない気配りが出来るからだろう。
今日のことを思い出す。いつからだろう、手を繋がなくなったのは。
女子と喋っている姿はあまり見たことがない。
つるんで遊んでいるのは男子ばかりだったから、学校で目撃した光景がショックだった。
先に予習を始めていたタッちゃんは、一向にテキストを広げようとしないあたしを不審に思ったようだ。
「今日の授業そんなに難しかった?」
「……勉強じゃなくて」
葛藤を続けるのは不毛だ。だってずっと考えていたのは、タッちゃんが鈴木さんと付き合うのかどうかってことだけ。お母さんにもうわの空ねと呆れられたぐらいだ。
「……あのね、タッちゃん、付き合うの?」
意を決して言った台詞は、小さな囁きになってしまった。
タッちゃんは眉を寄せて聞き返した。尋ねたいことが前面に出て主語が抜けてしまった。
「ごめんね。今日偶然見ちゃったの、鈴木さんと一緒にいるところ……。告白されたの?」
「そうだよ」
あっさり肯定され、予想以上に動揺してしまった。
高校にあがってから急に大人っぽくなったタッちゃん。友達の間で恋愛の話題になると必ず名前が出る。
「奈緒は傍にい過ぎて分かんないんだって!」
こう親友からも断言されたくらいだ。
もし、タッちゃんが彼女を作ったらどうなるだろう?
彼女と過ごす時間が増えて、友達と過ごす時間が減って。割合が変わるのは仕方ない。
そう思うけど、なんか嫌だ……。
「……それで、鈴木さんと付き合うことにしたの?」
「どうしてそんなこと聞くの?」
「き、気になったから。あたしも付き合ったことないし、参考になるかもって思って……」
苦しまぎれの言い訳に眼を細め、タッちゃんはシャーペンを器用に回した。骨ばった指の間を踊るシャーペンを見つめ、じっと返事を待つ。
「まだ考え中で、返事も待ってもらってる。俺も興味があるから、付き合うってことに」
「あのさ、好きだから付き合うんでしょう?」
「好きも何もほとんど喋ったことのない子だよ」
「……じゃあ鈴木さんに興味があるんじゃないの?」
「男女交際って、俺ぐらいの年頃なら誰でも興味あるんじゃないかな」
ポンと投げられた言葉が理解出来るまでしばらく時間がかかった。
沈黙の中、残っていたココアを飲む。くるくるとカップを回して沈んだ粉を混ぜ、濃くなった最後のひとくちを飲み干した。
「……考えたんだけど、興味あることするの、あたしじゃ駄目?」
ココアを飲む間考えていたこと。だったらあたしでもいいのかもしれないって思った。
もちろん彼女みたいに可愛くもスタイルも良くないから、タッちゃんが断る可能性だって高い。
するとタッちゃんはすっと真顔になり見つめてくる。
「奈緒、俺の話ちゃんと聞いてた?」
「……うん。……ちゃんと聞いて、考えた」
本当は誰とも付き合って欲しくない。
「鈴木さんだって可哀そうだし、タッちゃんがそんな理由で誰かと付き合うの、嫌」
あたしの一番はずっとタッちゃんだったから。
「俺が何をしたいか分かってて言ってる?」
「……え、えっちなことでしょ?」
微笑んだ眼がほんの少し怖く感じたのはなぜだろう。
シャーペンを置いたタッちゃんはとんでもないことを言った。
「キス、させてくれる?」
「え!? い、今から……?」
「嫌ならいいよ。彼女に返事するのは明日だから」
あたしに決断をゆだねながらタイムリミットを示すところが巧妙だ。二つの影が一つになり、香りがあたしを包み、ぎゅっと目を瞑る。
「じゃ、舌出して」
すっかり気に呑まれてしまい、促されるままおずおずと出した舌。タッちゃんが身をかがめ、唇を塞いだ。
熱烈で、呼吸する隙間もないくらい重ねられた唇。
鼻から抜ける声は、本当にあたしのものだろうか。甘ったるくていやらしい声。
やっと解放された時、あたしは手足に力が入らなくなっていた。
「シャンプーの匂いがする」
「……お風呂、入ってきたから」
「奈緒は俺のこと、男だって思ってないよね?」
嘆息とともに吐かれた言葉。
「そんなことない」
「シャンプーの匂いがする髪だって、触りたくなるんだよ」
額にかかっていた髪を払い、サイドの髪を梳いてタッちゃんが呟く。
「それから、時々下着をつけるの忘れてること気づいてないと思ってた? 無防備ってそういうこと」
絞り出された呻きは苦痛に満ちていた。
「俺は奈緒が好きなんだ」
物心ついたときから傍にいてくれるのが当たり前だった。失くしそうになって気がついたもの。自分の気持ちも分からないなんて、あたしって本当に馬鹿だ。
「……あたしも、タッちゃんが好き」
今だから分かる。タッちゃんが格好いいって聞くと胸がざわめいたのは不安だったからだ。
「好きって、幼馴染みとしてって意味?」
「男の人としてって意味だよ」
タッちゃんはあたしの言葉を吟味するみたいに考えこむ。
「それ、本当?」
「うん。本当。で、タッちゃん、あたしを不安にさせたんだから、耳かきしてよね!」
「なんだよ突然」
「あたしのやってもらいたいこと。キス付き合ったんだし、すっごくキモチイイんだよあれ」
丸い目に納まった澄んだ瞳がちらりとタッちゃんを見て、すっとそれた。
「わーったよ!」
よかった。口調こそぶっきらぼうだが怒ってはない。タッちゃんは桜色に染まった入り口をのぞき込み、手にしたモノを柔らかな入り口にあてがう。
「ん、……っく」
あたしの細い肩が震えた。
「奈緒。力を抜いて」
タッちゃんに言われてあたしは自分の身体が強ばっていたことに気付いた。
「ご、ごめんね」
「じゃあ、始めるぞ」
タッちゃんは慎重にソレをあたしの中へと侵入させ、繊細に、あたしの内側を探る。
軟らかく繊細な内側を丁寧になぞってゆっくりと舐るようにソレを引き抜く。
具合を確かめてタッちゃんは再びあたしの中へ。撫で回すように肉壁をなぞりながら徐々に奧へと進んでいく。
「んっ……」
色の薄い唇が微かに開いてぴたりと閉じた。
痛かったのか尋ねようとしたタッちゃんに、あたしは視線で続けてと言った。
「痛かったら言えよ。俺も奈緒に気持ちよくなってもらいたいから」
「うん」
呟く様にそう言ってから、あたしは瞼を閉じる。
「じゃあ、続けるぞ」
タッちゃんは微かに濡れた棒を繊細に操り、あたしの内側を優しく撫でる。
胸の奧が疼き、あたしは堪らず息を漏らす。白い頬が仄かに桜色に染まりだし、伏せた瞳が潤み始める。
沸き上がってくる幸福感。それに抗うことは難しい。
「どう?」
「綺麗だよ」
落ち着いた声が優しく答える。
綺麗……か。噛みしめたその言葉もあたしの心を優しく撫でる。
胸の疼きがため息になって漏れだす。
けれど、甘い時間は長くは続かない。 奧から浅い部分へと、タッちゃんはゆっくりと撫でるように引き抜いていく。
「終わったぞ」
「あ、ありがとね」
あたしは静かに身体を起こした。全てが痛いほどに甘い、夢の様な時間が流れていく。
影が二つ、それがひとつに交わるまで、あとちょっと。
いかがだったでしょうか。