核で一度滅んだ世界に転生した瞬間なんか死んだ件について 作:rikka
「やれやれ、エリーから話を聞いて驚いたよ。向こう側で散々噂を聞いたバンカーヒルのガンマンがウチを毎日訪ねていたなんて……長く留守にしてすまなかったな」
「いや、こちらこそ押しかけて申し訳ない。アポも取らずに飛び込みで駆け込んだんだ。ケチをつければ男が下がる」
ボロボロの黄色いトレンチコートにフェドーラ帽。
そして薄暗い事務所の中に
この崩壊した世界にしては実に探偵らしい事務所の中で探偵らしい格好をしている目の前の男は、だがその肌が所々破れていた。
しかしグールのような異臭がするわけではない。
破れた皮膚の先にあるのは放射能焼けした肉ではなく、機械仕掛けの機工が覗いている。
人造人間。
こうしてまともな身体に見える自分と同じ、だが間違いなく俺と同じ存在が当たり前のように人間の町の中にいる。
男の名は、ニック・バレンタイン。
このダイアモンドシティで唯一の『探偵』だ。
「さて、それで依頼とは? すでにアンタはここの有名人だ。レイダーを倒し、ミュータントを倒し、キャラバンやセキュリティを何人も助けている。すでに出来ない事の方が少ないと思うがね」
「依頼というよりは相談だ。身の振り方に困っていてね」
「
「そういう事だ」
このダイアモンドシティは『人造人間』に対しての忌避が強い。
旦那が奴らに誘拐されたと信じている
ここ最近のレイダー狩りで強すぎると思われたのか、人造人間判定を受けて売買拒否されている。
……いや、当たりと言えば当たりなんだが、あの人の場合ダイヤモンドシティの住人の99%を人造人間と疑っているからな。
数撃ってたまたま当たったって感じか。
それこそまさに昨晩、市長秘書のジェネバも愚痴ってたな。「私が美人だから人造人間だなんてどういうつもりなのかしら?」ってえらく度胸のある愚痴で滅茶苦茶絡まれた。
その後飲みに来たパイパーと口喧嘩になりかけて、仲裁と機嫌取りで死ぬほど疲れたな……。
「といっても行先とか働き口で困ってるという話ではない。単純に、俺の身の上をこのままにして、いずれ明らかになった時に困るが、じゃあ打ち明けるにはどうしたらいいのかって事だ」
「穏やかな響きじゃないな。なにかやらかしたのか? 素敵な隣人の町で騒ぎを起こしたとかか?」
「いや、生まれの話だ。つまり――」
「俺は人造人間なんだ」
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
全部話した。
と言っても、生まれ変わり? らしい現象は除いてだが。
記憶が曖昧という事で誤魔化したが、目が覚めた時に放射能への耐性が全くない身体を持つ、大戦争前に近い記憶を持つ何者かだった事。
大量の放射能を浴びて死に至る所を、人造人間に回収された上で記憶の移植実験を試された事。
そしてそのタイミングでレールロードという組織に救出され、とりあえずの名前を付けた上で『バンカーヒル』で働き始めた事。
そしてその中で『BOS』という組織と接触、その隊員を救うために正体を開示した上でそれを裏付ける行動を取った事。
「なるほど……。いや、確かに納得できる話だ。かくいう自分もそうだ。ニック・バレンタインと名乗っているが、この名前と記録は戦前のとある刑事の物だ」
「……記憶が?」
「ある程度はな。今のお前さんと同じく、『それは自分ではない』という感覚も確かにある」
目の前の探偵は明らかに機械の身体を持っているため、人造人間だと誰もが知っているしだからこそ呑み込みやすかった。
「まぁ、とにかくそういうわけだ。BOSが軍事組織である以上閉鎖で、かつこの連邦に根を張っていない以上今すぐどうこうなるとは思わない。ただ――」
「偵察隊が来ていた。という事は、今後は分からないと」
「ああ」
一応は完全な身体を持つ自分は……どうなのだろうか。
「だから先んじて公開しておくべきだとは思うんだが……」
「あぁ、間違ってはいないだろう。だがしかし……なるほど」
助手のエリーは、自分が人造人間と言っても信じられないようだ。
椅子に座っているニックの後ろで立ったままクリップボードに挟んだ紙に調書を取っているが、チラチラと自分の顔や腕、首を見てくる。
「確かにお前さんの存在は、ある意味で俺以上に不気味だろう。なにせ見た目が完璧だ」
「それでも人造人間なのは間違いない。
「そう、それだガンマン。ロストという存在の最大の特徴は、その腕前だ」
ニックが懐からタバコを取り出し、火を付けて一服する。
果たして機械の体に喫煙は意味があるのだろうか。健康――というか機能に問題はないのか気になる所だが……あるいは、話に出た『ニック・バレンタイン』という刑事の記憶の名残なのかもしれない。
「幸い、アンタという存在はかなり好意的に見られている。俺が帰ってくる前にあった……ゼラー軍だったか? 話だけでも
あぁ。そういえばミニッツメンの連中も俺の話をしていたな。
「ならばやりようによっては、自分の出自を好意的に公開させる事も不可能ではないだろう。幸い、アンタの周りにはすでにうってつけの人物がいる」
「………………パイパーか」
「最近は
市長か。
正直、信用できない人間だ。
先日のゼラー軍の件で分かったが、どうも市長はミニッツメンを疎んでいる。
それはケスラーの姉御と同じなのだが、姉御に比べてなんか……こう……薄い。
個人の恨みや懸念ではなく、かといって町の長としても理由が分からない。
ある程度情報収集して見たが、ミニッツメンはスーパーミュータントの襲撃からダイヤモンドシティを守った事で名を馳せた一団だ。
最近不穏な事は知っているが、かといって切って捨てるには早すぎる……気がするのだが。
ともあれ、確かにあの小心が漏れ出ている人間が恐れるという事は、パイパーの影響力は相当な物なのだろう。
「パイパーに俺という人間に関しての記事を書いてもらう。ロストという人造人間は、ダイヤモンドシティの味方だと。決して無意味に市民を害する存在ではなく、むしろ守る存在だと」
「それがいい。ただ――」
「分かっている。それでもダイヤモンドシティを拠点にするわけにはいかない」
紹介してもらった上で、良く分からない存在であった方がいいのだ。
下手にダイヤモンドシティにいれば、人造人間を曖昧な存在と受け取っている人間を刺激する。
マーナのような人造人間を敵視している人間ならば尚更だ。
人間にしか見えない存在というのは、間違いなくこの町に漂う疑心暗鬼を加速させる。
一方で、バンカーヒルからは俺の心が離れている。
キャラバンの皆はなんだかんだ好きだし、ことあるごとに俺をミニッツメン扱いする筋肉親父は酒を出してくれるのだが……。
「……本格的に、俺の拠点を見つける必要が出て来たか」
最初はナショナルガード訓練所――初めてアストリンと出会ったあの場所に陣取って、危うい位置関係にある連邦の北東部の物流ハブを作ろうと思っていたんだが……ケスラーの姉御と袂を別つんだ。あの位置はバンカーヒルに近すぎる。
適度に集落にアクセスできて、かつ現時点で人がいない所。
……出来れば程々に危険地帯で、だからこそ俺がそこを押さえる事で近隣住民が意味を見出だす所。
「難しい問題だ。だが、それはお前さんが答えを出さなきゃならない」
「居場所は自分で作る物だ。……そうだろう? ガンマン」
ああ。
まったくもってそのとおりだ。
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「それは……本気で言ってんのかい、ロスト」
「ああ」
「……自分が、人造人間だって?」
「詳細は書いてある通りだ。記憶の限りを思い返して整理している」
さすがに信じられなかったのか、この場所の家主であるにも関わらずパイパーが目をパチクリさせている。
ついでに昨日のジェネバとの口喧嘩と深酒で二日酔いが酷そうだ。
顔をしかめているのが現実感がないのか普通に気持ち悪いだけなのか判別がつかん。
ほら、俺のきれいな水を分けてやるから……。
あとシュガーボムもやるから少し食っとけ。二日酔いには糖分が効く。
くそ、バディムの奴が煽るから……。
「人造人間なの? ミスター」
「ああ。一度自分が死んだのは自覚しているし、実際人間離れした動きが可能だ。黙ってて悪かったね、ナット」
ナットは、正に姉が人造人間の危険を訴える記事を書いていたにも関わらず危機感がない。
伸ばして俺のうでをふにふにと揉んでみたり、逆に引っ張ってみたりしている。
割と頑丈な皮膚だから別に千切れたりしないぞ。
「じゃあ、ニックに会いたがっていたのは――」
「相談したかったのさ。この町で人造人間として受け入れられているなら、どうやって暮らせばいいのかって」
パイパーも半信半疑というようだが、それでも思い当たる節があるようだ。
「アンタの強さはそういう事か」
「あぁ。体力もそうだが、射撃なんかが正確なのは特に」
「元の体もそうだったのかい?」
「いや、普通のなんてことない体だったんだが……連中は俺の元の体をセカンド・サンプルと言っていたらしい。俺も、俺の記憶を保護しろと誰かが言っていたのをうっすら覚えている」
まぁ、これは本当にうっすらだ。
グローリーも言っていたがマジで無茶な実験だったみたいで、前世――らしき記憶なんてほとんどかっ飛んでいる。
頭の中真っ白ではなく、倫理なんかが残っていたのは幸いだった。
……幸いだったか?
いっそ俺も立派なウェイストランダーになっておくべきだったか?
そうしたらもうちょっと楽に生きていた気がする。
「……まぁ、正直記事にするのはいいさ。アンタはまともなのは分かっているし、記憶を写し取られた人造人間が連邦の平和のために立ち上がるってのはセンセーショナルだ」
パイパーがメモとペンを手に取っている。
実際の記事の内容を考えているのだろう。
「ただ、アンタの事は先日のゼラー軍との戦いを記事にしている」
「稼げたか?」
「当然だよ! ミニッツメンやセキュリティの証言があったんだ、アッパースタンドの連中までこぞって散々扱き下ろしていた『ミズ・パイパーのこそこそ話集』を買い漁りやがった!」
そりゃよかった。
ナットの服が新しくなっているのもそれか。いや良かった良かった。
どうにも、こんな世界で頑張って仕事を手伝っているナットのような子を見るとついつい何かしてあげたくなってしまう。
メグ、お前見習え。
お前、そこらのバンカーヒルの新顔に10キャップ徴収しておきながら雑な案内しかしてないらしいな。
「だから、そう……今ここでアンタが
「どうした?」
「もうちょっと……それ以外の材料が欲しいな。アンタが安全な存在で、人間のために銃を振り回しているっていう新しい情報を付け加えて報せたい」
「……なるほど」
情報の扱いに関してパイパーは専門家だ。
そういうならばその通りなのだろう。
にしても、存外すんなり受け入れてくれたな。
(……さて、どうするか。この近隣は掃除したばかりだしな)
掃除ついでに、ミニッツメンやセキュリティの部隊が休憩を取れるようなセーフハウスもいくつか設けていた。
まぁ、レイダーはどこからでもポコジャガ湧いてくるし、南側から野犬や虫が入って来る事もある。
おまけにプレストン曰く、どこかからスーパーミュータントの部隊が現れてはDCから見て東にある廃墟と化した古い街跡の中に基地を作ろうとしているらしい。
確かに、銃声を聞いて慌てて駆け付けると大体スーパーミュータントが相手だったな。
(まぁ、戦力が集まればしばらくは安定する。その間に俺が、違う所に安全な場所を築けば……)
「独立話はどうだ? 危険な場所に、俺という人造人間が地域を安定させるために拠点を築く」
「ふぅむ……。悪くはない、かな。その言い方じゃダイヤモンドシティじゃないんだろう?」
「ああ。まだ具体的にどことは決めていないんだが、その方向性で文章を考えておいてくれないか?」
「分かった。アンタは?」
「肚は決まった。というわけで――」
「バンカーヒルから離れる話し合いをしてくるよ」
ケスラーの姉御に、釘を刺しておかないとな。