核で一度滅んだ世界に転生した瞬間なんか死んだ件について 作:rikka
その日のバンカーヒルは、朝から仄かに緊張を孕んでいた。
一月ほど前、このバンカーヒルでその腕を多くの者が知るガンマンのとあるニュースが入って来てからだ。
キャラバンの巡回など、一度このバンカーヒルを旅立ち戻ってくる時には欠員が出ているのが当たり前。
それが、その男が付いてくるだけで確実に皆帰ってこれるとまで言われた銃の申し子。
ロスト。
自らを『迷子』だと冗談めかす男が、とあるレイダー集団を殲滅した。
その知らせが入ってから、この町を統率する女性があからさまにピリついている。
何かを怒っているのか、あるいは恐れているのか。
女性――ケスラーはダイアモンドシティで連日活躍しているガンマンの情報収集に力をいれるようになり、同時にバンカーヒルの安全確保のために裏で進めていたレイダーとの取引を控えるようになった。
「さて、姉御。こっちの話は分かっていると思うんだが……」
そしてロストがバンカーヒルに帰って来た。
そしてすぐさまロストはケスラーとの面会を希望し、ケスラーは会談する部屋の周辺から人払いを命じた。
何かが起こったと、バンカーヒルの誰もが感じていた。
△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼
「ゼラー軍と名乗るレイダー集団を滅ぼした」
俺がそう切り出すと、ケスラーの姉御は少し顔色の悪い顔で頷く。
「奴――判事を名乗るクソ野郎はこう言っていたぞ。『このゼラーの後ろには、バンカーヒルがついている』ってな」
姉御は何も言わない。
もうそれが答えだ。
あの拷問狂の言っていたことは真実だった。
バンカーヒルがあのレイダーを育ててしまったんだ。
「さらにはこう言っていた。いずれはバンカーヒルも制圧する……ともな」
それを聞いた姉御は真っ青になった顔を跳ね上げる。
「ロスト、彼らは――」
「殺した。全員。……仮に取り逃した奴がいたとしても、アンタと奴の繋がりを知る奴は殺し尽くしたと思う」
別に姉御への情けではない。
情けがあったとすれば、どちらかと言えばクリケットの姐さんやサヴォルディのおっさん、ケイとメグの親子への情だろうか。
「姉御、組む相手を間違えたな」
「……キャラバンの規模拡大と安全保障には、武力が必要だったの」
「だから間違えたと言っている」
選択肢は他にもあっただろうに。
ミニッツメンとの確執は……まぁ、置いておこう。
だけど、せめて傭兵を自称しているガンナーと話は付けられなかったのか。
それならば、仮に結果として今回のような事態になったとしても姉御の責任は分散できた。
「……貴方が、バンカーヒルに所属してくれれば」
「俺は一人だ、ケスラー。それではどうしようもなかった。だから数を持つレイダーに目を付けたんだろう?」
「……………………」
「なぁ、姉御。どうしてガンナーじゃ駄目だったんだ?」
「……今、私達は北はテンパインズ、南はクインシー、いえワーウィックまで手を伸ばしているわ。それをカバーするだけの戦力を雇うには……」
「キャップが足りないと? 姉御、犠牲が出ているんだ。ダイアモンドシティのセキュリティだけじゃない。ここに関係するトレーダーも巻き込まれている」
あの場所に打ち捨てられていた拷問死した遺体を埋葬している中で、見覚えのある顔があった。
俺がここに来たばかりの頃にいたキャラバンガードだ。
見ないとは思っていたが……。
「姉御、貴女とバンカーヒルには恩がある。だけど、今のやり方には着いていけない」
「独自の道を行くと? 貴方一人で?」
「やりようはある」
うん、俺も本当はもうちょっと味方を増やしてからのつもりだった。
ダイアモンドシティはニックとパイパーが着いてくれたから問題ない。
出来るのならば、グッドネイバーやユニバーシティ・ポイント、クインシーあたりから有力者の支援を引き出したかったけど……。
(可能な限り殺したとはいえゼラーの末端を取り逃した可能性はあるし、なにより他のレイダー集団の事がある)
しかもゼラー軍――『バンカーヒルの後援を受けたレイダー集団』を潰したのが『バンカーヒルのガンマン』ときた。
ミニッツメンも絡んでいるとはいえ、パイパーの記事で俺の名前も出ている。
レイダーがそれを耳にするかどうかは不明だが、もしそれを知る事があればバンカーヒルに対してどう出るか。
今後どうなるか分からない以上、所属キャラバンの万が一に備える意味でも手を打たなければならない。
グローリーがここを紹介してくれた以上、なにかしらの繋がりはあるのだろうしそれを無下にはしたくない。
「……一応、俺自身が保険となるように動くつもりだ。だからこそ独立を認める事で俺とバンカーヒルの間の手打ちとして欲しい」
「それでチャラだと?」
「俺とはな。……だが、他にもレイダーと手を組んでいるなら今すぐ処分するべきだ。それが繋がりを持った者の責任だろう」
「…………そうね」
さすがに食い下がりはしないか。
下手に口論になれば今回の一件が爆発的に広がりかねない。
そうなれば本当にバンカーヒルは終わりだ。
「ロスト、貴方は行く当てはあるの?」
「一応、候補に目を付けてある。……あぁ、そうだ姉御」
「何かしら?」
「餞別と言う事で、掃除道具一式を少しまけてくれないか?」
「? 掃除道具?」
「新居はちょっと手入れに時間がかかりそうでね」
△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼
バックナンバーの発行はいつでも受け付けている。
先日、ロストは深刻な顔で当パブリック・オカレンシズを訪れ、告白しておきたいことがあると告げた。
そうして語られた事実に、私は驚きを隠せなかった。
なんと、彼は自らが『人造人間』であると恐れず認めたのだ。
彼の記憶の始まりは曖昧な所がある。
なぜか『大戦争』前らしき記憶を持ち、そして実際放射能に対して全く耐性のない身体を持っていた事は間違いないそうだ。
なぜそんな体で生きていたのか。
なぜそんな体で外に出たのか分からない。
大事なのは、倒れたその身体を人造人間に回収され、その体をサンプルに、そして記憶を調べ尽くすために人造人間の体に無理やり『移植』を試みたというのだ。
曰く、外見も変化している。
口にする言語すら変わっている。
(彼が本来使っていた言葉は、大戦争のもっと前に核による攻撃を受けた『ジャパン』という国の言葉らしい)
そうしてすでに死にかけている体から意識を移されたタイミングで、読者の皆様も噂を聞いたことがあるだろう組織が偶然襲撃を掛けたというのだ。
そう、レールロード。
人造人間のインスティチュートからの解放を宣言している秘密結社だ。
そうして居場所を失くした彼はバンカーヒルに辿り着き、そして後は読者の知る通りということだ。
読者諸君はここまでを読んでどう思っただろう。
彼が単に狂っていると思うだろうか。
彼を危険だと思うだろうか。
彼を敵だと思うだろうか。
筆者はそう思わない。
ロストは文字通り、連邦の脅威を掃い続けている。
彼に助けられた命はどれだけあるか。
彼に感謝する声を多く聞いている。
そしてその意思に、声に狂気を感じたことは一度もない。
インスティチュートによって死にかけた体を浚われ、実験に使われるハズだった男は確かに存在し、今連邦の一員として脅威と戦っている。
そしてその男は私に対し、連邦の安定のために拠点を設け、各居住地のために働く事を宣言した。
その地とは――
△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼
「ボロボロの建物も、中を片づけて布で磨けばこうも見違えるものなのか」
「むしろ他の皆はどうして昔の人間の白骨死体をそのままにしてるんだよ、気味悪いだろう」
新しい家――新しいというか、この世界に生まれて初めて買う家か。
宿住まいから成長したものだ。
近くに立ち寄っていたというカーラが設置したばかりの真新しいソファーに腰を掛けて、さっそく煙草を楽しんでいる。
「それで、ここを拠点に人を集めると?」
「まずはキャラバンらの一時立ち寄り所を目指すつもりだ。この地点は連邦北西部へのアクセスにちょうどいい」
「テンパインズ。それにアバナシー農場か」
「その二つは特に孤立しがちだ。テンパインズはたまにルーカスが立ち寄っているようだが、アバナシーは……」
「ああ。たまに道で一緒になるよ。作物をギッシリ乗せたバラモンを引っ張ってダイアモンドシティまで歩いている」
危険すぎるにも程がある。
武装しているならともかく、このご時世パイプ銃が精々。
場所によっては銃どころかバットしかない所もあるし。
「そういう人間の危機に気付きやすいここを中心に動く事で、連邦へ貢献できる」
「アンタが人造人間だからこそ?」
「……知ってたのか」
パイパーが例の記事をばら撒くのは確か今日だったよな?
「バンカーヒルの連中の大体は知っていたよ。ルーカス、ウェザース、ケスラーにストックトン」
「……姐さんは?」
「クリケットか? 当然。お前が危ないと思えば報告していただろうさ」
おぉう。さすが姐さん。
容赦のなさもウェイストランダーだわ。
「だが、奴はお前を信頼した。バンカーヒルにわんさかいるワーカーもガードも、そしてキャラバンの連中もだ」
「……貴女は?」
俺がそう聞くと、彼女は「クヒッ!」と独特の笑い声を上げる。
「お前がいきなり狂いだして、銃を振り回したりはしないと思うくらいには信じているよ」
「……そうか」
まぁ、でなきゃわざわざここまで出向いて、キャラバン用のトレードスペースの設営を手伝ってくれたりはしないか。
気分屋のウェザーズはともかく、ルーカスやクリケット姐さんが時折ここに立ち寄ってくれるそうだ。
だからこそ、修復を急いで防衛を確実なものにしないといけない。
――パァン! パァン!
耳をひそめればどこかから銃声がするくらいには、この『屋敷』も危険なんだ。
「あぁ、そうだ。サヴォルディの親父からお前へのプレゼントがある」
「プレゼント?」
「正確には、代金をもらって私とデブが仕上げたんだが」
カーラは立ち上がると外に止めているバラモンの背のバッグに手を差し入れ、そしていくつかの小包を取り出す。
「ネオンサインだ。ここには電気が通ってないが、お前なら用意出来るだろう? 通ったら飾ってやれ」
そうして開かれた包みは、輝いてこそないがガラスのチューブによって、この『屋敷』の名が模られていた。
北西部、レキシントンの端の端に昔から存在しているそこそこの建物。
おそらくは病院か、あるいは介護施設だったのだろう静かな屋敷。
俺の新たな家としたその屋敷には、立派な名前が残っていた。
『ミスティック・パイン』という名が。