核で一度滅んだ世界に転生した瞬間なんか死んだ件について 作:rikka
「個室は四部屋か。存外大きくないんだな……」
ミスティック・パイン。
車椅子に乗った亡骸が多く、そして裏側には当時の方のための墓地まであるこの建物は、恐らく療養所か老人ホームのような物だったのだろう。
シンプルに『口』の字の形をした施設で。内側部分は中庭になっている。
ここに居住すると決めた俺が最初にやったのは、ここの地下――施錠されていた扉をピッキングで開けるのに苦労したが――に残されていたジェネレーターの修理だった。
ただ隠れ住むだけならばまだしも、ここを安全地帯にするとなれば防衛のための設備が必要で、それを動かすにはエネルギーがいる。
ついでに簡単な農業も行うには、裏手の離れた所を流れている川から水を引き込む必要があり、それにはやはり電力が必要だったために最優先でこれの復旧に力を入れていた。
運良く、使用されていた標準型フュージョン・コアは無傷だった。
すぐさま消費の激しいパワーアーマーに使用しても問題ないレベルで、むしろ問題だったのは配線周りだった。
配線周りだけで本体はほぼそのまま稼働していたというの本当にデカい。幸いだった。
(……パイパーの記事が出まわる前に、銅資材やパーツ取り出来そうなスクラップを買い漁っていたのは正解だったな)
すぐにでもダイアモンドシティで家を買えそうなレベルのキャップが消えていったけど仕方ない。
そのおかげでもっと快適な生活が可能になったのだからトントンだ。
周囲にタレットを設置、接続して対レイダー戦に備えた。
なにせ初日の夜から突然襲われているのだ。
単独でも負けるつもりはないが、それでも防衛を固めているという姿勢を見せるのは大事だ。
配線確認をしてから建物内の電球を取り換えて明るくして、ついでにファンを回しているために気休め程度とはいえ換気も出来る。
給水ポンプも引いて、やっつけ仕事だけど浄水器も設置した。
裏手で魚を取っている漁師さんと場所やらでちょっと揉めたけど、釣り場から離れた所に給水口を作る事でどうにか合意した。
おかげで資材を想定より多く消費したけど、まぁ問題ない。
引き込んで浄水器を通した水を実際口にして体内センサーでの検査も無事完了。
飲用として十分すぎる綺麗な水がいつでも飲めるようになった。
玄関前には街路樹も兼ねてマットフルーツの樹を。
そして中庭にはテイトを植えている。
まだ空いているスペースや施設内部のプランターには、今度カーラが持ってきてくれるトウモロコシやレイザーグレイン、ニンジンなんかを植えるつもりだ。
穀物と果実、野菜が揃えばどうにかなる。
肉に関しても、外側に柵を建てて近くをうろついていた
解体時の内臓を刻めば魚の撒き餌に使えると、漁師さんが解体小屋を建てる時は協力してくれると約束もしてくれた。
電気も復活して持ち込んだクーラーボックスも使えるようにしたし、ついでにコーラの自販機も冷蔵庫代わりに復活させた。
後は俺の好きなように、この家を改装するだけだ。
中の亡骸――この世界ではそこらに転がっている白骨死体をそれぞれ裏の墓地区画に埋葬して落ち葉なんかを箒で全て外側に掃く。
ここから西にだいぶ歩いた所に残っているダイナーの中に住みながらトレーダーをやっているトゥルーディっていうおばちゃんがいるんだけど、よく白骨死体そのままの閉所に寝泊まりできるな。
俺には無理だ。絶対無理。
巨大ゴキブリなんてものがいるこの世界では尚更。
餌になりそうな物は放置できない。
その結構な重労働を終えた今、俺が手を付けているのは床の修理だ。
どうもこの周辺はフェラルだけでなくモールラットも活発なようだ。
まぁ、モールラットならまだいいんだが
シャベルで余計な土を排除して、コンクリートを流し込んで土台を固めて上から板で補強する。
……いっそ床を張り直した方がいいかもしれない。
埃臭さが染みついているし、水拭き一回程度で拭える汚れではない。
とりあえず、床が終わったら壁とドアの修理に手を付ける予定だが。
バンカーヒルの宿もそうだが、この時代はとにかくプライバシー空間が貴重だ。
正確には、安心できるプライバシー空間が。
グッドネイバーのレクスフォードホテルはそういう意味で寝泊まりには最適だったな。
ダグアウト・インも……少し騒がしかったが同じく。
「ロスト! 表のタレット見たよ、ド派手に敷いてるじゃないか!」
「クリケット姐さん、来たのか。ちょうどよかった」
それでも、壁に囲まれてベッドがあるというだけでキャラバンやトレーダーにはもう重宝されている。
トゥルーディのダイナーに立ち寄る事が多いカーラ。
ここから北に相当歩いた所にある『テンパインズの断崖』と呼ばれる居住地を巡回しているルーカス。
なんかアチコチを彷徨っているフレッド・オコネル。
そう言った連中が休憩所としてここを使う事が非常に増えている。
恐らく、客のバラモン用に専用の柵と防衛体制を整えたのが大きいのだろう。
なんかこっちを襲ってきたガンナー連中をぶっ飛ばしてやった時に回収できたレーザーガンを分解してパーツ取りして、バラモンスペース専用のタレットとして活用しているのが好評だった。
「そっちの補給品はある? あれば拾った奴こっちで回収して、冷えた奴を提供するよ。ガードもゆっくりしてくれ」
「あぁ、道中で拾った酒だ。これでいいか?」
「オーケー。一通り洗浄した後こっちで使わせてもらうよ。……グインネット・スタウトか。今出す」
なによりも、ここでは冷えた飲み物が飲めるのが大きいのだろう。
あれから会っていないが、パイパーがこっちまで来た時が楽しみだ。滅茶苦茶驚くだろう。
キンキンに冷えた瓶という物を知っている人間がいない為、初めて触ったガードの女の子が「熱っ!!」って叫んで取り乱したのは本当に笑った。
その後もう一度触って「違う、冷たい!」と叫んでもう一度笑った。
パイパーには是非同じくらいのリアクションを期待したい。
「すまないロスト。俺達ガードのために新品のベッドまで用意してくれて……本当にありがとう」
「汚すのがもったいなくて、横になるのがちょっと怖いけどね」
玄関口から入ってすぐ左手には団欒の場としてソファーやステレオ、テレビなんかが残っていたのだがそれをどかして、新調したベッドを二つ並べている。
「なに、一番身体を使う仕事をしているのだから、ちゃんと体を休めるべきだよ。内装が整ったらバスルームの設営と洗濯機の修理も試してみるつもりだ。完成すればシーツなんてすぐ綺麗に出来るし、そもそも気にせず眠れるようになる。気長に待っていてくれ」
出来れば風呂を作りたいけど、給湯器は作れてもエネルギーを結構使う計算になるからなぁ。
それにどこに作るか。
……網で囲まれている倉庫部分があったな。施錠されたままのセキュリティゲートで侵入に手間取った所。
壁を張り直してあそこにするか?
他にはジェネレータールームの真上が空いてると言えば空いてるが、さすがにあそこに水を貯めて流せるようにするのは少し勇気がいるしなぁ。
「さすがは人造人間って所かい、ロスト?」
すっかりここを拠点としているクリケット姐さんはソファーに腰を沈めて冷えたエールを口にしながら、他の人間が触れない所に容易くブローを入れてくる。
さすがだよ姐さん。
「ああ。知識や技術はなかったんだけど、バンカーヒル時代にエネルギー武器の分解整備を繰り返している内になんか分かるようになった。修理が出来たのはそれがデカいな」
「いい事さね。ダイアモンドシティの奴ら、例の新聞でアンタにビビっている癖にトレーダーからここの話を聞いて羨ましがっているからね」
「おや。誰がビビってるんだい?」
「怖がりのマーナさ、もちろんね。それにあそこの農民ら。……セキュリティは半々って所だね」
「半々か」
「アンタに助けられた連中は大丈夫だよ。むしろ強さに納得していた」
それに関しては本当にそうだからな。
人造人間ボディになってターゲットアシストが出来る体になっていなければ、元の体が残っていても死んでいただろう。
身体も思い通りに動かせるし。
「ま、あそこには元々人造人間の探偵がいたんだ。もうしばらく待って適当なトレーダーに護衛として同行すりゃすんなり入れるだろうさ」
「トレーダーか」
「ああ。……そうだ、ロスト」
「ん?」
「近いうちにアバナシーん所に顔出して来な」
「……ブレイクさんの農場に?」
「そうそう」
こっから滅茶苦茶西――トゥルーディのダイナーから更に北西に相当歩かなければならない所に家族で開いている
「まぁ、タレット網のターゲッティングに使ってるAIもそろそろ調整完了するから数日は開けられますけど……また急ですね?」
「アンタがここをこの勢いで拡張すれば、ここいらは第二のバンカーヒルになる。そうなった時のお得意様になる可能性が高いからね」
「あぁ……。先に顔合わせしておけって事か」
「アンタは出自が出自なんだ。早い方がいい」
確かに。
まずは足場を固める方が先だと思っていたけど、そういえば挨拶回りしたのがトゥルーディの所だけだったな。
「コベナントも駄目だったんだろう?」
「駄目処か、なんか訳わからんテストさせられた上に不合格宣言されたんですけど」
姐さんどころがガードの男女ペアまで爆笑しやがる。
チクショウ、アイツらホントになんなんだ。
近場のコミュニティだから頼りになると思ってたのに取引すら無理なんだから……。
ここに来たばかりの時に、服はバラバラなのに防具だけ統一している変なレイダーに襲われ返り討ちにした後その報告してやったのになんか余所余所しいし。
「奴らはそうなんだよ。ルーカスの所は合格もらったけど、他にも不合格もらって締め出されたキャラバンはゴロゴロいる」
「フレッドの隊も以前不合格もらったって言ってたぜ、ロスト」
「私も耳にしているわね。数年後にまた受けに来いって言われて本気で腹を立てたって」
……訳わかんねぇ。
まぁ、人造人間って公開したから信用されない可能性は当然考えていたけど、安全圏の確保に関わる話を突っぱねられるとは思わなかったなぁ。
居住地の生命線であるキャラバンを締め出すなんてマジか……。
(最近ガンナーの襲撃多いから気を付けろって忠告しに行っても態度微妙だったしなぁ)
「それでロスト。これからはどうするつもりなんだい? このまま拡張?」
「ああ。幸い目の前が広い空き地だ。作物は植えられるし、やろうと思えば何か施設を用意してもいい」
反対側は真っ直ぐ行けば水場に辿り着くけど、急な坂だからな。
今は比較的平らな部分を客用のバラモンスペースにしているが……他に使い道が思いつかん。
コンクリートか鉄資材が山ほどあれば土台を作って何かに利用出来ない事もないんだろうが、非常に手間がかかる。
やはり最初に色々やるなら、玄関側の空き地を活用するべきだろう。
「当面の目的はレキシントンの封鎖だ」
「? 封鎖?」
「東側だけだがな。すぐそこのレキシントンは今ちょっとヤバイ連中がゴロゴロいる」
「……ジャレドか」
そう、ジャレド。
レキシントンの中のデカい工場を根城にしているレイダー集団のボス。
多分、人数で言えば上位に入るレイダー組織だ。
「こっち側を狙ってチンピラ差し向けて来たのを全滅させてからは大人しいけど、それでも未だ大勢力。警戒は必要だ」
すぐそこの建物に籠ってこっちの様子を伺っていた二人組は夜中に侵入して背後から暗殺して、タレットは機能停止させてそのまま持って帰った。
とにかくここいらはレイダーの勢力圏なんだ。
ちょっと目を離すとどこからかレイダーが増えている。
「しかも、レキシントンといえばフェラルの目撃情報が多いわ。気を付けてね、ロスト」
眼の下に二本のラインの入れ墨を入れてるこの美人のガードはクリケット姐さんの専任ガードで、初めての行商の時に助けた事で仲良くなった人だ。
俺が人造人間だと知らなかったそうだが、それでもこうして変わらず接してくれるのは有難い。
「まぁ、そういうわけで今すぐレキシントンを綺麗にするのは無理だし、フェラル対策を考えるとそもそも人手が要るんですよ」
「確かにそうだね」
「ええ。なのでレキシントンの東部。つまり、このミスティックパインから真っ直ぐ南に延びてる道へ繋がる部分をどうにか封鎖して、安全な迂回路を確保しようと思っています」
レキシントンの中は高い建物が多くてレイダーが住み着いているから、高所に隠れられてバカスカ撃たれる可能性が高い。
その上フェラルがそこらにいて、どこから出てくるか分からないと来た。
だからいっそ、その外側を安全にしながら内部に押し込めて行けば一時的に安全を確保できるのではないかという計画だ。
(まぁ、ヌカランチャーやらミサイルランチャーがあって弾が十分にあれば滅菌作戦も取れなくはないが……)
フェラル対策となれば、アイツらどこにでも現れるから細かい隙間を徹底的に塞いで、隠れて居そうな場所……工場がある程大きな町だったとなると、排水路とかが怪しいか? そこらへんも綺麗にする必要がある。
…………滅茶苦茶弾と人手が必要になるな。
「となると、かなり廃材が必要になるな。木材はもちろん、鉄もかなり」
「一応自分でもスカベンジで集めるつもりだけど、姉さんやカーラには相当世話になると思う」
そのためのキャップも稼がないとな。
……いっそ水売りになるか?
ついでに本当の意味でダイナー開くか。
冷えたドリンクはそれだけで客寄せになるだろうし、俺ならきれいな水を安定供給できる。
料理は……近くのモールラットらを狩って肉を集めるか。
保存用にデカい冷蔵庫を作れれば……。
「ロスト」
「ん?」
「ここの修理を終えたら、小屋を建てな。五人くらいは泊まれる奴だ」
「小屋?」
「出来るだろう?」
「まぁ……資材があれば」
それらしい物は建てられるだろう。
プレハブみたいな物になるだろうけど。
「ここは綺麗で埃はなくて、まるでグールが話す戦前のようだけど、大人数は泊まれないだろう」
「ですね」
元々あった個室――ベッドは四つ。
そこに自作のベッドを二つ追加したから計六つだ。
食堂部分を片づけたらもう少し寝床を追加できるかもしれないが、そんなに多くは無理だ。
「水はある。飯も出来そうだ。となれば、ここの手入れにせよ防衛にせよ数がいる」
「……必要……うん、必要だな」
当初の予定と違いコベナントの協力が得られない。
一番近い所だとトゥルーディの所だけど、労働力になりそうな息子さんはなんかフラフラしてたしな。
「最終的にどうなるか分からないが、とりあえず入れる『箱』だけは作っておきな」
……一理ある。
「そして広くなるならそれを守る武器が必要だよ! そうだろうロスト!! ね!?」
「…………商品見せてもらえますか?」
「そうこなくっちゃ!!!」
これさえなければなぁ。