核で一度滅んだ世界に転生した瞬間なんか死んだ件について   作:rikka

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024:スカベンジ

 ミスティックパインという新たな我が家は最高である。

 

 修理にこそ手間暇と金がかかったが、このご時世には珍しい完全な個室が出来た。

 

 加えて綺麗な水は使い放題だし、今では電気まで使い放題だ。

 

 その豊富な電力を利用して、緊急時のためのバッテリーまで内蔵したタレット網も敷いたために防衛も十分。

 

 危険な虫や獣が沸いてもすぐに反応するし、もっと危険な敵が出てきてもすぐに屋根に逃げられるように梯子も設置済み。

 

 先日はついに水や電気を照明や冷蔵庫だけでなく給湯器や洗濯機に乾燥機、完全なお風呂まで完成させる事に成功した。

 

 夜に薄暗い小さな明かりを頼りに周囲を警戒し続ける必要もない。

 

 マックやイザベルら楽しく団欒をしている中、ふと気になって嗅覚センサーのレベルを下げる事もここでは少ない。

 

 いつでもキンッキンに冷やした水や酒を口にする事が出来て、暇なら子供向けとはいえ昔のラジオドラマや、ダイアモンドシティのラジオが聞ける。

 

 新しい商売のタネになりそうな、ロボット作業台も先日ついに完成した。

 

 唯一問題があるとすれば――

 

 

 

 この一帯はモールラットが湧きやすいという事である。

 

 

 

「悪いな、ジェゼベル。護衛役にしてしまって」

『問題ない。先日の対ガンナー戦をみると、お前の戦闘能力は随一だ。あの愚かな女といるよりも生存確率は遥かに高い』

「……イザベルの奴、本当によくコイツと旅出来てたなぁ」

 

 その最大の理由がミスティックパインの北にある。

 なぜか大量のゴミが山のように積まれている、嗅覚センサーをカットしないと探索すら辛いロケーション。

 

 ありとあらゆるジャンクが積み上げられ、そして腐敗している事からモールラットの巣となってしまっている。

 

――クギャアアアアアア!!!!

 

 スカベンジには最適な場所なんだが相応に危険で――やっぱり臭い。

 

「光ってる奴がまだいたか」

『廃棄物の隙間にまだまだ多くの個体がいる様子だ』

「こりゃ一通り掃除しても、しばらくしたらまた地表に群れが居座ってるんだろうな……」

 

 ボコォ、という地面の一部が崩れる音と共に、よく見るモールラットより一回り大きくて、RADを多く蓄積したためにうっすら緑色に輝いている個体が飛び出して来る。

 

 だけど、さっきまでみたいに大量に数で押しつぶそうとして来るならともかく一匹だけでは意味がない。

 

 処理速度が俺並みに早いジェゼベルの腕のレーザーと、俺のマグナムの弾丸が同時に敵を貫く。

 

 当然だが、無駄玉は一発もない。

 俺とジェゼベルで、しかも相手が普通の獣ならば当然だ。

 

 レーザーと鉛弾によって焼き貫かれた巨体が、少しのけぞって地面に落ちる。

 

「……周囲に反応なし。お前は?」

『同じく。少なくとも今すぐにこちらを襲える範囲にはいない』

「よし。じゃあしばらくスカベンジに集中するから、その間の警戒を頼むよ。ジェゼベル」

『了解した』

「一応言っておくが、人間が近寄った場合発砲は待てよ? 人間に限り専守防衛だ。キャラバンの可能性あるしな」

『……了解した』

 

 コイツまじで命令の裏取ろうとするの好きだな。

 なんというか、露悪的だ。

 

『ちなみに、目的のジャンクは?』

「前言った通り銅とゴム。……電気回路もガッツリ欲しいんだけど、これに関しては運がいるからな。一応各雑貨店に発注は出してるんだけど……」

 

 ミスティックパインは今日も平和だ。

 いや、平和にした。

 

 カットやイザベル達を迎え入れた数日後に、元々狙っていたのかあるいはロボットが目を引いたのか、ガンナーの一団がウチを攻めて来た。

 

 数は三十。

 それにアサルトロン五体まで引き連れての本格的な攻撃だった。

 

 だがこれを逆に好機と見て俺はマックやイザベル、それにカットから預けられた『ガス』や『ジェゼベル』の協力を得て徹底的に応戦。

 

 元々連中の襲撃で豊富だったレーザー兵器とフュージョンセルを大量に使ったレーザータレット網の援護を利用して敵攻撃部隊を壊滅させた。

 

 元より以前の襲撃の際に連中の装備を奪っていたのもあって、装備での差はなかった。

 

 その上でタレット網を知っていた事により数の差もある程度抑えられていた所に、数をひっくりかえしうる『セントリーポット(ガス)』という鬼札を得た事で、防衛に関しては普通のレイダーやガンナー部隊ならば誰(・)か(・)一(・)人(・)い(・)れ(・)ば(・)十(・)分(・)なレベルにまで上がっていたのが大きい。

 

『鹵獲したアサルトロンも修理するのか? あのセントリーの修理にはすでに十分な資材があると思うが』

「ああ。カットもウチを拠点にすると言ってくれているが、行商人である以上ガスを連れてアチコチに行く必要があるからな。変わる防衛戦力は必須だ」

『先日の鹵獲品で更にタレット網は強化されているのにか』

「上には上があるものさ。特に子供を抱える事になった以上、準備に準備は重ねたい」

 

 本音を言えば、カットにはもうウチに住んで欲しいまであるのだが……この無法時代の中で行商人としての生き方を選んだのは彼女の意思だ。

 これを止める事は出来ない。

 

 家主権限でカットの部屋はもう作ったけど。

 

 マックとイザベルとの共同でも凄く頑張った。

 

 この時代の中では恐らく最高レベルの――行商の中での寝泊まりが嫌で一日でも早くウチに帰ってくれるだろう最高の部屋を作り上げた。

 

 イザベルも本当にありがとう。

 おかげで放射能嵐対策はもちろん、冷暖房も完備の一番いい部屋になった。

 なんなら俺の部屋よりもいい。

 

「それに、修理に十分な資材はあっても強化にはまだ足りない」

『……セントリーの、か』

「やっぱりアレは攻撃型の試作……いや、多分実験機だな。より重量のある装備を搭載することにより変化する重量バランスや、その調整のための部分軽量を試すための機体だ。だから防御面に不安がある」

 

 イザベルが旋盤(マザーマシン)の性能を向上させてくれたおかげで部品製造も弾みがついた。

 一人旅をするカットの『友達』をより万全にしてやれる機会を逃したくない。

 

『……シュラウド』

「ロストだって言ってるだろうが。今日はシュラウドスーツ脱いできてるし」

 

 さすがにここでの作業にアレ着てここに来たら匂いが付いてしまう。

 防御性能では少し劣るが、前みたいに普通の服にコンバットアーマー一式をセットしてヘルメットを被っている。

 

 こっちならば丸洗いしやすい。

 

『お前の善(・)意(・)とやらには……あぁ、感謝している』

「今の間はなんだ貴様」

『お前のおかげで私の身体も元に戻り、メンテナンスまで行えるようになった。だが――』

 

 だが……。

 なんだよ。

 

 

 

『お前がバスルームやランドリーに資材を投入するのを後回しにしていれば、今頃セントリーは強化されてアサルトロンも戦力に加わっていたのでは?』

 

 子供がいるならそこ大事なんだよ!!!!

 

 あ、俺がスカベンジしている間、状態のいいモールラットの血を抜いておいてくれ。

 持って帰ってカットと一緒に干し肉にしよう。

 

 

 

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 

「イザベル、お風呂上がったよ」

「ちゃんと体を拭いてね、カット。お風呂から出た後体が冷えちゃったら、お湯を大量に使った意味がないわ」

 

 ミスティックパインという変わった居住地――今はまだ、古い療養施設を修理しただけの大きな家だけど――の最大の特徴は、きっとこれだろう。

 

 シャワーとかじゃなくて、お湯を貯めた水場に裸で飛び込んでじっくり体を洗えることだ。

 

 シャワーなら毎日浴びてよくて、そして三日に一回はお風呂が解禁される。

 ロストはシャワー・入浴は自由なんて言っているが、実質ここに住んでいる者には義務みたいになってる。

 

 お風呂の日は石鹸まで使えて、体のガサガサした所やパリパリになってる所を、石鹸でモコモコになった泡だらけの濡れタオルで擦って落とす。

 

 本当はガスもそうしてあげたいんだけど、ガスの場合は磨くだけでいいってイザベルが綺麗にしてくれた。

 今はワックスまで付けてくれて、ガスまでビックリするくらいピカピカになっちゃった。

 まだ強化が終わってないから前のまんまなんだけど、それだけで三倍は強くなったように見えちゃう。

 

 きっと、『綺麗』って事はこういう事なんだろう。

 

 ここまで一緒に来たイザベルも、旅をしていた頃に比べて凄く綺麗になった。

 

 私達がしばらくここに住むとなってからロストが修理した洗濯機のおかげで、服だってそうだ。

 溜まっていた砂埃が全部なくなって、少し生地が柔らかくなった。

 

 いつもならお昼に歩き回る時も寝る時もおんなじ服だったのに、ここに来た次の日には、ロストがわざわざ『寝る時用の服』なんてものを用意したおかげで、服を洗う余裕が出来たから。

 

「マックは入らないの?」

 

 ちょっと茶色くなっているけどフワフワのタオルで濡れた体を拭いてバスルームを出ると、イザベルがそのタオルで髪を包んでくれる。

 

 イザベルはちょっとうるさくて、髪からちょっとでもお湯が滴ってるとタオルを片手に叱りながら捕まえてくる。

 

 だから昨日はしっかりタオルで包んでワシャワシャってしっかり拭いていたら、今度は「乱暴すぎる」ってまたタオルで包み直された。

 

 細かい機械いじりが好きだからか、イザベルは細かい。

 

「俺は朝入った。朝風呂はいいぜカット、最高だ」

「そうなの?」

「ああ。夜の中で蛍光灯に照らされてるのとは違って、自然な光の中で昨日の汗を流すと、一日が始まったって感じになるんだ」

「アナタは汗だけじゃなくてアルコールもでしょう?」

「ヘッヘッヘ。そういうなよ、イザベル。昨日は珍しく客がいなかったから仕方なかったのさ」

 

 人と話す時はいっつもどもっていたイザベルも、私やバーテンダーのマック相手ならば一応普通に喋れるようになった。

 ロスト相手は……シュラウドの格好している時たまにドモり始める。

 

 キャラバンみたいな人相手だともう駄目。

 

 この間キャラバンガードにナンパされていた時なんて、見てられなくて助けてあげた。

 

「そっか。パイパーいないもんね」

「あぁ、クリケット達と一緒にダイアモンドシティに帰ったからなぁ。いつもならばどこかしらのキャラバンだったり、向こう側の雑貨屋の婆さんが冷えた酒を買いに来たりするんだが……」

 

 ここに住み始めてだいたい三十日。

 来たばかりの時はちょっと快適なだけのただの居住地は、少しずつだけど大きくなっている。

 

 まだ完成してないけど、もうじきキャラバン達のために寝泊まり出来る宿泊場が完成する。

 

 ロボットの修理に使う作業台も完成してるし、まだ苗こそ植えてないけど畑として使うエリアは小石をどけて縄を張った。

 ついでにタレット網も。

 

 この前襲ってきたガンナー達からたくさん回収したレーザー銃をロストとイザベルが分解してパーツを取って、タレットやそのセンサーを強化していた。

 

「時期的には、例のアバナシーって人が来るんじゃなかったっけ? ダイアモンドシティに作物卸しに行くついでに」

「ああ。ここでキャラバン隊待って一緒に行くってのが段々定着して来てるからな」

 

 修理や農作業の時以外はわりかしのんびりしているロストだけど、忙しい時はとことん忙しい。

 

 強いからだ。

 この間ガンナーが攻めてきた時に改めて分かったけど、本当に強い。

 

 ほとんど大破したアサルトロンが顔のビームを撃とうとした瞬間、首を動かすパーツに弾を当てて動けなくしたうえで羽交い絞めにして、バカスカ撃ってきていたガンナー達を文字通りビームで『薙ぎ払った』時は爽快にスカッとした。

 

 そして強いから、ケントって人のシュラウド・ラジオや直接訪ねてくるキャラバンの人間から依頼されて厄介な場所の掃(・)除(・)に出掛ける事がある。

 

 この前もこの近くの川沿いに大量に住み着いていた虫の群れを駆除するために、大量の火炎瓶を作っていた。

 

「そういえば、今ロストに依頼って来てるの?」

「んん? おぉ、来てるぞ。ガスの足周りの強化が終わったら向かうって言っていたな」

 

 ガスの修理は一応終わっている。

 ロストが出かけている間に、イザベルがやってくれた。

 

 ガンナー戦での瑕も含めて修復も補充も終わっている。

 

 それでも、強化したいからもう少し待ってくれとは言われているけど。

 普通ならばそんな大人の言う事なんて聞かないけど、ちゃんと約束を守ってくれたここの人達は少しだけ信用している。

 

「なんでも、居住地内部にマイアラークが侵入しているスペースがあるらしくてな。普段は鍵かけて出て来れないようにしているんだけど、最近数が増えたせいか扉を破ろうとして来る奴らが出たから間引いて欲しいんだとさ」

「ふぅん……。どこ?」

「ユニバーシティ・ポイントだってさ。オーナーもよく引き受けるぜ」

「遠いじゃん。ダイアモンドシティの向こう側とか」

「おうとも。そうなったら、俺は当面の間イザベル・ジェゼベルのコンビと留守番だな」

「ふぅん」

 

 冷たい水って気分じゃないから、キッチンの給湯器からお湯を出してマグカップに注ぐ。

 いつもはbarとして開いている場所は扉を閉じているので、今夜は完全に私達三人の場所だ。

 

 また新しいタオルを手にしてイザベルが待ち構えているソファに腰を下ろす。

 

「ガスの強化が終ってからなら、ミスティック・パイン所属初の行商って事で私も行こうかな」

 

 ここ最近、ロストがスカベンジで余った物を商品候補としてまとめてくれている。

 いざ出発するとなれば、改めて商品を精査する必要があるけど、ウチならば干し肉だけでも十分な商品になるだろう。

 

 バラモンとモールラット、ラッドスタッグの肉はウチは欠かない。

 ロストがよく狩ってくるし、私も解体とか加工なら手伝っている。

 

「おう、いいんじゃねぇか。オーナーもカットの事は気に掛けているし」

「……ん」

 

 私の部屋。

 ロストが用意してくれた、鍵付きの私の部屋。

 

 壁は白くて分厚い紙が貼られて明るくて、クローゼットにテーブル、椅子がセットされている。

 

 いざという時屋根の上に逃げられるように隠し梯子まであって、わざわざ部品から磨いて組み直したギディアップ・バターカップまで用意してくれた、私だけの部屋。

 

「……私も、マックやイザベル程じゃないけど一人で生きてきてさ」

 

 今着ている、寝るための服はロストが縫ってくれた物だ。

 夜でも寒くならないようにと、グッドネイバーのケントから出来るだけ良い生地を買って縫い合わせた、温かい服。

 

「でも、ロストみたいな人って死体はともかく生きているのは初めて見た。なんでああなの? 人造人間だから?」

 

 普(・)通(・)の(・)人(・)なら絶対しない事を、平然と行う奇妙な自称人造人間。

 

 とっくに持ってる物全部奪い取られてそこらに死体が転がっていそうな真似ばかりしているのに、こうして立派な居住地を持ってる男について訊ねてみる。

 

 なのに、マックもイザベルも笑ってお酒を飲むだけだ。

 

 子供が訊ねているのに笑うだけだなんて、なんて失礼な大人達なんだろう。

 

 私はちゃんと子供に向き合う大人になろう。

 

 人としては結構危ない生き方をしてるなぁとは常々思ってるけど、そこだけはロストを見習おう。

 

 でも、それはそれとしてロストはもうちょっといい加減に生きていいと思う。

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