狂雷と一緒!
世の中本当にクソである。勿論、青いツナギを着た良い男が予備校に通っているごく普通の一般的な男の子と公園のトイレでくんずほぐれつして、結果的にくそみそになるという意味合いでは断じて無い。
いや、むしろそっちの方がどれだけマシだっただろうか。
夜な夜な男の尻を狙うヒャッハーとは鳴かないモヒカンが居る世界と、終末という世界の滅亡が確定している世界、誰だって前者を選ぶだろう。
訂正――――やっぱり前者の世界も嫌だ。と、いうかろくでもない。そんな前者の世界よりもろくでもない世界に、女神転生という神と悪魔が跋扈し世界を滅ぼしにかかる世界に転生を果たしたのである。
その事を知った切欠になったのは自分と同じ転生者達が集う掲示板で、後のショタオジというあだ名が付けられる事になった人が投下した爆弾が原因だった。
――――念願のメガテン世界に転生したぞ!!
思えばあの掲示板を見ていた事が全ての始まりだった。
【富士山覚醒体験オフ会】
当時のオレはまだ子どもだったから親に一人で行くのをかなり反対されていたけど、何とか説き伏せたのと神主――――もといショタオジが神社にお泊りする体験というチラシを出してくれたおかげで行くことが出来た。
そこで出会ったのは自分と境遇を同じくする転生者達。
出会った当初は昔何処かで見た事あるような、それこそ漫画やアニメに出て来るキャラの印象を覚えた。
まぁ、オレ自身も似たようなものだからあまり強く言えないけど。
兎も角、そこでオレは自分と同い年の転生者にも会う事が出来た。それだけでこのオフ会に参加しても良かったと思えるくらいだ。
二度目の生で初めて体験した超常の体験に一週間の修行生活。
老若男女関係なく行われた転生者達の枕投げ大会。
同年代の転生者達による今後どうするのかについての話し合い。
そしてそれらを台無しにするほどきつかったショタオジの拷問を超えた修行のような地獄。
本当に楽しかった。終末を皆で乗り越えようとガイア連合を作って、沢山の事があった。
嬉しかったこと、辛かったこと、苦しかったこと、ショタオジを煽って呪われてトイレに籠る羽目になったこと。
今でも思い出せる、大切な仲間達との思い出。
「どうして、こうなったんだろうな…………」
過去の記憶を思い返しながら、火の海に飲み込まれた街を見渡してそう呟いてしまう。
ここは日本ではない。遠く離れた異国の地、イタリアだ。
どうしてこんな場所に居るのか、どうしてこんな事になってしまったのか。
理由は簡単、今生の両親が突然「イタリアに旅行に行こう」と言い出したのだ。
今の国外は危ないと言っても平和ボケした日本で暮らし、悪魔などといった超常の存在を知らない両親は聞く耳を持たず、結局イタリア旅行をする羽目になった。
その結果がこれだ。
メシア教過激派がやらかしたで核攻撃でイタリアの大地が火の海に包まれ、呼び出された天使達が残された人々を殺していく。
見るも無残、聞くも悲惨、何もかもが地獄だった。
「くそったれ、折れるんじゃなかったよ」
あの時、両親の平和ボケした言葉に渋々とはいえ頷くんじゃなかった
何が結婚して20周年だから、だ。死んでしまえば何の意味も無いだろうが。
「本当、これからどうしようか…………」
こうなる事は分かっていた。だから対策の為にショタオジ特製の地獄を見て覚醒し、更に修行を重ねる事で強くなった。
飛んできたミサイルもいくつか潰して最悪の事態は免れた。
とはいえ、こちらもシキガミを全て失ってしまった。
おかげでこの身一つでこの状況を何とかしないといけないわけだが、日本に帰るだけならなんとかなる。
だけど――――、
「だ、誰か…………助けて…………!」
「逃げて! 貴方だけは!!」
「お母さん、お母さん!!」
「ぁああああああああああ、痛いぃいいいいいいいいい!!!」
炎に包まれた街の中から人々の悲鳴が聞こえる。
覚醒者になった影響からか、日本語じゃないのに理解できてしまう。
「なんと罪深いのでしょうか! この救われぬ魂に、神の救済を!」
「不浄の者達よ、悔い改めるが良い。そして懺悔せよ」
「おお! ハレルヤ!! 偉大なる主を讃えよ!!」
天使を称する悪魔どもが人々を救済という名の殺戮を実行する。
唯一神を讃えながらその戒律を破っていく狂信者が生き残った人々を殺していく。
本当に酷かった。この業界に入って長いけど、ここまで酷い光景は見た事が無かった。
いや、ガイア連合の皆がこうならないように頑張ったおかげ、見る機会が無かっただけなのかもしれない。
「あいつ等…………!」
胸の内から怒りが湧いてくる。
だけどここで手を出せば間違いなく日本に戻る事が出来なくなる。
今ならばここから逃げ出す事だって容易だし、日本にだって帰る事が出来る。
そうだよ。よく考えろ、ここに居るのは所詮赤の他人。助けたら暫くの間帰る事だって出来なくなるし、ガイア連合の皆に迷惑がかかる。
それにこんなに沢山の天使が居るんだ。中には大天使だっている。そんな中、たった一人で戦うなんて無謀にも程がある。
だから逃げたって良い、むしろ逃げなきゃだめなんだ――――。
「――――ごめん。やっぱ無理だわ」
ガイア連合の皆に一言謝罪し、近くに居た天使の頭部に拳を叩き込み顔面を吹き飛ばす。
首を失った天使の身体が霧散すると同時に、周囲の天使や狂信者達の視線が此方に向けられる。
「まさか天使を倒す事が出来る者が居るとは…………しかし、我等の行いの邪魔をするとは、なんと罪深い」
「罪深いのはお前等の方だろ。天使を殺して罪になるなんて何処にも記述されていない。聖人モーセだってカマエルを殺し、サマエルを失明させたんだ。別に罪じゃないだろ」
「その口を閉ざすが良い罪人よ。我等の救済を邪魔したその報い、このハニエルが裁こう!」
そう言って大天使ハニエルは此方に向かってくる。
「スマイルチャージ、コンセントレイト…………」
向かってくるハニエルを前にオレはバフを積む。
「アンティクトン!!」
そしてハニエルや天使、狂信者を含めた全員に万能属性の攻撃を叩き込んだ。
ハニエル以外の敵は今の一撃で全滅し、唯一生き残ったハニエルも決して無視できないダメージを受けて動きが鈍った。
その隙を見逃すわけも無く、そのままハニエルの顔面に拳をぶち込み地面に叩き落とす。
「がっ、き、きさ…………!?」
「天から地上に引き摺り下ろされた気分はどうだ?」
足で踏みつけて固定し、ハニエルの羽を掴む。
「じゃ、次はその羽を失って人間と同じようになろうか」
「や、やめ――――」
思いっきり羽を羽を引っ張って引き千切った。
大天使の悲鳴が響き渡る。その悲鳴に込められた悲しさと絶望には何が込められていたのだろうか。
まぁ、どうでも良い事だ。こいつ等は沢山の人を身勝手な理由で虐殺したのだから。
絶望に打ちひしがれているハニエルの頭部を踏み砕き止めをさす。
「…………本当に腹が立つ。霊視ニキの気持ちがよく分かる」
こんな奴等の身勝手な言い分で拷問を受けたのだ。
今ならその気持ちが少しだけ分かる。
「って、感傷に浸っている場合じゃ無いな」
チャクラドロップで魔力を回復しながら周囲に視線を戻す。
今のでここら一帯の天使達は倒せたが、天使はまだまだ沢山いる。
恐らくではあるけどハニエルクラスが数体、そして天使達は百や二百なんて数じゃないし狂信者だって居る。
圧倒的に人手が足りなかった。と、いうかこれを一人で何とかするなんて無理だよ。
「ショタオジなら一人で何とか出来るかもしれないけど」
むしろあの人ならこれぐらい余裕で倒せるだろう。
時間だって10秒も掛からないだろうし、今傷付いている人だって全員助ける事だって出来る。多分だけどあの人はメシアライザーが使えるだろうし。
だけどオレはあんなチートじゃない。回復魔法は使えないわけじゃないけど全員を助ける事なんて不可能だ。
「何とか、何とかする方法は…………」
天使の頭部を砕いていきながらこの現状を打開する方法を考える。
だけど思い浮ばない。詰み、完璧な詰みだ。
「くそっ、どうしたら――――」
「お困りのようだな、おい!」
一人頭を悩ませていると頭上から声が聞こえた。
その声は荒々しく豪快で、聞く者に畏怖を与えさせる。
「見事な戦いっぷりじゃねぇか。あのくそったれな天使どもをたった一人で殺して、すげぇじゃねぇか!」
声がした方向に視線を向ける。
そこに居たのは一体の悪魔だった。
右半身はギリシャの彫刻のような荘厳さを感じさせ、左半身は邪神のような邪悪さを感じさせる。
オレはその悪魔を知っている。その外見の悪魔の名を知っている。
「ゼウス…………!!」
「ほぅ、このオレを一目見ただけで分かるのか。良いじゃねぇか!」
ゼウスはそう言うとオレの傍に降り立つ。
敵意は感じない。が、所詮は悪魔。人の常識が通じない超常の存在だ。
いつ敵意を向けて来るか分からない。
「そう警戒すんな。お前とやり合うつもりはねぇよ」
「なら…………一体何の用だ?」
「困っているようだからな。少し手伝ってやろうかと思ってな」
「それはありがたいよ。けど、ただじゃないんだろ?」
「ああそうだ。ただじゃねぇ」
此方に笑みを浮かべながら言い放つゼウスの言葉。
分かっている、これは悪魔の契約だ。しかも断ればそのまま立ち去るタイプの。
でも受けるしかない。受け入れるしかない。この状況を打開する為には、この悪魔の取り引きに応じるしかない。
「…………仕方が無い、か」
本当にガイア連合の皆に会わせる顔が無い。
でも、やらなくちゃいけない。やらなきゃオレも、皆も死ぬのだから。
「オレは、これからここら辺に居る天使達を滅ぼす。そして、お前を主神として信仰する国を作ってやる。かつてのローマ帝国のように、偉大な国を造り上げてやるよ」
オレの言葉を聞いてゼウスは笑みを浮かべる。
「今はそれで良い。その約束、決して違うなよおい!!」
「誰が違うか。破ったら怖いからな!」
「良い根性してるなおい! そんじゃ、自己紹介といこうか! オレはゼウス! オリュンポス12神の主神だ!!」
ゼウスの宣言を聞いて、もう逃れられない事を理解する。
でも、自分で選んだみちだ。ならば逃げ出すわけにはいかない。
今生の自分の名前に恥じないように、覚悟を決めろ。
「オレは沢田綱吉、ガイア連合所属の中学2年生だ!」
※
「――――本当に、色々とあったなぁ」
あれから二ヶ月、オレは過去の事を思い返していた。
本当、我ながらよくもまぁあんな無茶をしたものだよ。
自分のやった大言壮語に思わず苦笑いする。
「綱吉、どうかなさったんですの?」
「何でも無いよデメテル。それよりも実りの方、お願い出来るかな?」
「任されましたわ! ハーベストですわー!!」
そう言って元気よく立ち去る女の子の姿をした悪魔、女神デメテルの後ろ姿を見て溜め息を吐く。
現在、オレは魔神ゼウスと手を結びイタリア、及びギリシャを治めることに成功した。生き残った人間や難民達を纏め上げ、神星ローマ帝国を立ち上げたのである。厳密にはガイア連合ギリシャ支部なのだが、大差は無い。
そしてオレの地位は神星ローマ帝国初代皇帝にしてガイア連合・ギリシャ支部の支部長である。
「本当なら適当な人に皇帝の座、譲りたかったんだけどなぁ」
分かってはいた事だが、ゼウスはオレを逃す気は無いらしい。
あの野郎、デメテルを使ってオレが逃げ出さないか監視しているのだから。
「まぁ、今更投げ出すわけにもいかないか」
こんなオレを慕ってくれてる奴が居る以上、後任を決めずに逃げるつもりは無い。
そう自分に言い聞かせて、城に戻ろうとする。
「陛下! 過激派の連中が天使と共に襲撃に来ました!」
「またかよ」
そして姿を現したメイドの報告を聞いて、本日三度目の過激派狩りに赴くことになった。