狂雷と一緒!   作:霧ケ峰リョク

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本当ならメルカバーも処理したかったんですが長くなりそうだったので切り上げ。
次回、第一部終了の予定。


マザーハーロット

 曰く、大淫婦バビロンとはローマ帝国の暗喩であるらしい。

 それが事実かどうかは分からない。だが悪魔とはそういった噂、逸話からは切り離せない。だからこそマザーハーロットが神星ローマ帝国の皇帝に興味を抱いたのは当然の事だった。

 神星ローマ帝国の躍進を聞いていく内にその思いは強くなり、中華から離れて会いに行くことを決意した。

 

――――そしてその決意をして良かったとマザーハーロットは強く思う。

 

 マザーハーロットと戦っているローマの皇帝、沢田綱吉は強かった。

 魂からくる霊的才能と素質、肉体に秘められたある悪魔の血。未だ目覚めていない力こそ数あれど、魔人に匹敵する、否、魔人を凌駕する戦闘能力は非常に脅威だ。

 メシア教の天使共が警戒するのも頷ける。その上、まだまだ強くなる。

 これがガイア連合の幹部、黒札を有する実力者。

 

「良い、実に良いぞ!! さぁ、もっと死合おうぞ!!」

「うるさい。とっとと死ね」

 

 ぶつかり合う互いのマグネタイト、荒れ狂う魔界魔法、そして互いに傷をつけ合う剣と牙。

 どれもこれもがこの地上に降り立って以来、初めて味わうものだった。

 

「銃はあんまり使ってないから得意じゃないんだけど!!」

 

 綱吉がそう言うと同時に、いつの間にか右手に携えていた拳銃で獣の頭部を打ち抜く。

 マザーハーロットが騎乗する黙示録の獣(マスターテリオン)の残された首は残り二つ。

 

「狩人ニキなら遠距離から首を二つ落とせるんだけどな…………やっぱり銃は苦手だ。まぁ、本当は剣も得意ってわけじゃないんだけど」

 

 慣れた手つきでマザーハーロットが放ったバビロンの杯を左手の剣を振るって相殺する。

 

「アンティクトン」

 

 そして、綱吉が放ったアンティクトンが襲い掛かる。

 万能属性の攻撃、アンティクトンの追加効果によりマザーハーロットの肉体が弱体化する。

 今まで受けたダメージ、そして最大限のデバフにより身体を動かす事すら億劫だ。

 魔人であるこの身がここまでの無様を晒す事になるとは思いもしなかった。

 

「スマイルチャージ、メシアライザー」

 

 そんなマザーハーロットに対し、綱吉は魔力を減らしこそすれど五体満足だった。

 腕を損なう、下半身を失う等のダメージを受けても即座に回復する。状態の異常も治される。

 

「これではどちらが魔人か分からぬな」

 

 数多の天使を滅ぼして、地上に豊穣と富を齎し、国を興した。

 成程、これは確かに魔人だ。自分よりも魔人に相応しい。

 

「見事なり沢田綱吉。魔人討伐、ここに至り」

「■殺しの剣」

 

 マザーハーロットは自らに振り下ろされる刃を受け入れた。

 

   +++

 

 魔人とタイマンで戦うなんて馬鹿を通り越して愚かである。

 本当に、心からそう思うよ。そんな事やるのはエンドコンテンツを極めた奴とかショタオジぐらいなものだ。

 後者に関しては正直微妙だとは思うけど、やらなくちゃいけないならやるだろう。

 

「だからって、オレもその仲間入りをすることになるとは思わなかったなぁ」

 

 何が悲しくて社畜道を真正面から突き進む羽目になったのか。

 ローマの皇帝になるとゼウスに宣言した時からか、それともガイア連合として働き始めた時からか、それともここがメガテン世界だと知った時からか。

 社畜道を突き進むのはショタオジだけで良かったというのに。

 

「まぁ、良いか。ここまでやったらやれるだけやらなくちゃ」

 

 進むと決めた以上、進むだけだ。

 例え道が逸れても、真っ直ぐでなくても命ある限り進むしかない。

 一度背負った以上は荷を下ろすその時までは背負い続けなくてはいけないのだから。

 

「にしても最後の攻撃、アカシャアーツを放ったつもりだったんだけどなぁ」

 

 口から出た言葉は別の名前に、放った技は覚えの無い技に困惑する。

 まぁ、新しくユニークスキルが生えて来たんだろう。

 転生者なら別に珍しい話じゃないし。

 

「――――勝ったのに嬉しそうにもしないのだな」

 

 床に転がっているマザーハーロットがそう呟く。

 その身体は左肩から右脇腹にかけて大きく切り裂かれており、最早死を待つのみとなっていた。

 獣に至っては全ての頭部を失い、マグネタイトに戻り始めている。

 本当、よく殺せたものだ。

 

「勝ってもまだメルカバーが居るからな」

 

 城の外で戦っているのはなんとなく分かる。

 まだ戦いは終わっていない。全て終わるまで気は緩められない。

 

「そうか、ならば勝者である其方にプレゼントといこうか」

 

 そう言うとマザーハーロットは二つの物を出現させた。

 一つはマザーハーロットが持っていた杯、もう一つが多枝燭台(メノラー)だった。

 

「我の力が込められた杯に美のメノラーだ。受け取るが良い」

「いらねーよ」

 

 心の底からそう思ってしまうくらいに要らない代物だった。

 

「そう言うな。良いから受け取れ」

「ちょっ、まっ!!?」

 

 マザーハーロットの手から杯と美のメノラーが浮き、オレの身体の中に溶けるようにして入り込む。

 瞬間、全身に力が漲る。自分の物ではない、悪魔の力が染み込む。

 だがそれも一瞬だけ。入り込んできたマザーハーロットの力はオレの中のマグネタイトに取り込まれた。

 

「では、さらばだ。ローマの皇帝、クィリヌスの末裔よ」

 

 そう言ってマザーハーロットの身体は霧散した。

 この世界において未だ果たされていなかった、魔人の討伐をここに成し遂げたのだ。

 とはいえ、あまり嬉しくはなかった。

 

「どうしようか、これ」

 

 オレの身体に溶け込んだメノラーを取り出して確認する。

 確か、これを持っていたら最強への称号を賭けて魔人に命を狙われるとんでもない代物だった筈だ。

 ぶっちゃけ最強の称号なんてどうでも良い。

 

「取り敢えずこれはショタオジにプレゼントするとして」

 

 ショタオジならこれを押し付け――――もとい渡しても問題無い筈だ。

 実力的にも申し分ないし、こういった珍しい物なら喜んでくれるに違いない。

 ただ王国のメノラーって事で渡したら絶対に受け取らないだろうから他の荷物に紛れ込ませよう。

 呪い対策も忘れないようにしなければ。

 

「問題はこっちだよなぁ」

 

 マザーハーロットに渡された杯を取り出す事は出来ない。こちらは完全にオレの中に溶けてしまったのだから。

 

「一応、使い方は何となく分かるけど」

 

 魔人の力なんて物騒なモノ、本当の事を言えば使いたくない。

 だがそうも言っていられない。こんな残酷な世界で生きるのにえり好みしていられる余裕なんて無いのだから。

 と、いうか使い方ぐらい分かってないと何かあった時凄い困る。

 

「えっと、こんな感じかな?」

 

 マザーハーロットから貰った力を使う。すると肉体が男から女のそれに変化した。

 悪魔に変身するデビルシフター、アウトサイダーだろうか。こういう事はショタオジに聞かないと分からない。

 どちらにしろ今の自分の姿を確認してみなくては。

 そう思いながら権能で生み出した鏡で自らの姿を確認する。

 

「はっ?」

 

 鏡に映った自分の姿は金色の髪に緑色の瞳を有する、はっきりいって美少女だった。

 ただその姿に見覚えがあった。金髪碧眼に小柄な体格、そして特徴的なアホ毛に小さい背丈ながらも良いスタイル。

 その姿こそ、オレが求めていた理想の姿――――赤王ちゃまだった。

 

「Oh…………」

 

 鏡に映った現実という名の残酷な事実に思わず膝をつき、絶望に打ちひしがれる。

 

「確かに赤王ちゃまは好きだけどさ…………大好きだけどさ…………」

 

 地面に拳を振り下ろして叫ぶ。

 

「だからって自分がなりたいわけじゃねぇんだよぉ!!!」

 

 オレが求めていたのは赤王ちゃまとイチャイチャしたい事であって、決してオレが赤王ちゃまになる事だなんて事ではない。

 今生に存在しなかった推しの姿を再び見る事が出来たのは嬉しいさ。

 でもだからってその中身がオレじゃあ台無しにも程がある。イチゴのショートケーキの上にカップラーメンをかけるようなものだ。

 

「くそぅ!! くそぅ!! ちくしょぉおおおおおおおおおおおお!!」

 

 恨めしい、こんな不条理を強いたこの世界が恨めしい。

 自分の口から出る声が赤王ちゃまと同じだという事が少しだけ嬉しくなるのが腹立たしい。

 腹の奥底から沸き上がる怒りと憎悪のまま世界に対して叫ぶ。

 

「殺してやる…………殺してやるぞ女装ァ!! 四文字ィ!!」

 

 それがどうしようもない程の八つ当たりだと知っていても叫ぶしかなかった。




四文字「私ぃ!!?」
女装「関係なくない!!?」
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