次回からはゆっくりになっていきます。
そして今回、この作品のラスボスが登場します。
「弱い魔法やスキルをどうやったら覚えられるかだって?」
星霊神社の本殿にて、オレは神主に質問した。
「はい。お、えっと…………僕はその」
「ああ、変に畏まらなくて良いよ。同じ転生者、同胞なんだから。いつも通り、普段通りにしてくれて構わない」
「…………分かった。じゃあショタオジ、どうすれば良いの?」
覚醒したオレが覚えたスキルはアカシャアーツにアンティクトン、どちらも強力な極めてスキルだ。しかし、どれだけ優れた力であってもそれを使うハードがポンコツ、脆弱だと力を発揮する事は無い。
レベル1の奴がそんな物語後半に出て来るような奴が覚えてるスキルを使う事が出来る訳が無かった。
だからこそ、身の丈にあったスキルが欲しかったのである。
しかし、そんなオレの思いとは裏腹にショタオジは困ったような表情を浮かべる。
「ゴメン。正直な話、きみのような例はあまり見ないから断言は出来ない」
「ショタオジでも分からない事があるんだ」
「分からない事だらけだよ。それに、覚醒した瞬間にそんな強力なスキルを持つ立場になった事は無いからね」
正直な話、ショタオジは卵子だった頃の記憶があると言っていたから最初から強いスキルを覚えてると思ってた。
と、いうか何で卵子だった時の頃の記憶があるんだよ。オレも受精卵だった時の記憶はあるから何とも言えないけど、それでも卵子は無いだろう。
もしショタオジが受精した時の精子が違ったら、ショタオジではなくロリババアになってたって事だろうか?
そんな事を考えながらもショタオジの言葉に耳を傾ける。
「そもそもとしてスキルっていうのは下位から覚えて成長するにつれて高位のスキルを覚えていくものだ。ゲームだとそういうわけではないけどここは現実だ。だから高位のスキルを使えるということは必然的に下位のスキルを使えないといけない」
「成る程…………」
「ゲームだとスキルの数も決まってたりするけどさ、現実では違う。まぁ高位のスキルを覚えているなら態々下位のスキルを使う理由も無いし、必然的に使うスキルは減っていくものだ」
「確かに、その通りだ。強力なスキルを使えるのなら態々下位のスキルを使う必要は無い」
「うん――――だからこそ、高位のスキルしか使えないなんていうのはおかしいんだ」
ショタオジの目が細く、鋭くなる。
「一つ聞きたいけど、今生で死に掛けたなんて経験無い?」
「…………父さん母さんが言うには産まれた時に死に掛けた事があったって?」
確か難産で産まれた時は呼吸していなかったとか。
「うん、成る程ね。そう言う事ならありうるか…………」
「ショタオジ。何か分かったの?」
「憶測だし断言は出来ないけどね。多分、きみの異能者としての適性はガーディアンだ。多分、幼少期に死に掛けた事がきみが高位のスキルしか覚えない理由なんだろうね。中途半端に死に掛けた事で繋がりが薄いのか」
「えっと、よく分からないけど下位スキルを覚えるのは…………?」
「一度死ねばあるいは…………でも死んだら完全に繋がっちゃうからお薦めはしないよ」
そう言ってショタオジはオレと目線を合わせる。
「はっきり言おうか。きみは前線に出ない方が良い」
これは昔の話、沢田綱吉と立花響が星霊神社にて修行を受けていた時の出来事。
あの後、ショタオジからの提案は断り、結局オレは前線で戦い続けた。
ショタオジの善意は嬉しかったのだが、戦う力があるのに一人安全な所に隠れるのは申し訳なかったから。
でも、もしあそこで非戦闘員になっていればこんな事にはならなかったかもしれない。
+++
「…………ぐっ、おのれ」
神の戦車である熾天使メルカバーが呻き声を上げる。
その身体はボロボロで既に死に体だった。
「どうしたどうした? 随分無様を晒してんじゃねぇか」
死半死半生、どちらかというと死の割合が多いメルカバーを見てゼウスがそう言い放つ。
挑発のつもりは無い。単なる事実の宣告だった。
海上の戦闘、その勝敗は既にガイア連合側に傾いている。
綱吉が日本から集めた戦力、ゼウス達オリュンポスの神々、そして――――。
「何故、何故…………その槍の担い手である貴様が、我等に敵対するのか」
「味方面するな気色悪い」
とある槍を改造した鎧を身に纏っている少女、立花響の存在。
ヘブライ神族に由来する悪魔に対して特攻を有する少女の力もあり、この戦闘はガイア連合側が有利に働いた。
「槍だけを持つ者ならまだ理解出来よう。しかし、その槍を使う資格を有し、あまつさえ聖人をその身に宿しておきながら何故――――」
「あんた等を天使と認めてないからじゃないの?」
面倒臭そうに吐き捨てる響の背後には薄らと悪魔の姿が現れる。
その悪魔は人の姿をしており、聖なる気配を纏わせた槍を携えている。
――――ガーディアン。
精神を形として具現化させるペルソナ使い、悪魔の衣を見に纏い変身する
その能力の特異性は自らの死をトリガーとして発動し、悪魔を守護霊という形で憑依させ、自己蘇生する事ができる異能者の中でも稀有な能力である。
憑依させた悪魔の力を行使する事ができ、悪魔を憑依させても乗っ取られる事は無い。そして再び命を落としても別の悪魔を憑依させて復活する事が出来る。
響もこの異能を有した異能者であり、守護霊はロンギヌスであった。
「そういうわけだからとっとと消えろ。自称天使。私の経験値になれ」
「ぐっ、おのれ…………」
既に死に体のメルカバーは響を殺そうと攻撃を放とうとする。
いくら特攻が乗ろうとも響のレベルは人間にしてはかなり高いが自分には遠く及ばない。ここまで戦えたのはあのローマ皇帝が呼び出している三体の悪魔が居るからだ。
この悪魔達が居なければ大した脅威では無い。
出来る事ならばロンギヌスを宿した少女を改宗させたいが、この状況では不可能。ならばここで仕留める。
メルカバーがそう結論し、攻撃を放とうとした瞬間だった。
――――凄まじい轟音と共に、背後から何者かに首を絞められたのは。
「なっ、がっ!?」
万力の如く首を握り絞められ、身動き一つ取れなくなる。
今にも首をへし折られそうになる中、メルカバーは自分の首を締め上げている下手人の顔を見る。
その下手人はローマ皇帝だった。
「まさか、バビロンの大淫婦を倒した、だと…………!?」
彼の身体から感じるマグネタイトはさっき会った時に比べて強くなっている。
魔人は普通の悪魔では無い。終末を招く者であり、終末の具現でもある。
それを打倒する事が出来る者は最早人間の領域には居ない。
文字通りの怪物に他ならない――――。
「お前を殺す」
皇帝がそう宣言する。
その発言には憎悪は愚か怒りや負の感情は一切含まれていない。
あるのはただ一つ、純粋な殺意だけだった。
「酷く身勝手で自分勝手な理由でお前を殺す。そうだな、ひえもんとりって知ってる?」
ゴキゴキという音を首を掴んでいない方の手を鳴らし、皇帝はそう言い放つ。
そして――――地獄が始まった。
+++
「が…………げ、ぎ」
「ふぅ、すっきり」
文字通り素手による解体でバラバラになったメルカバーが消滅する光景を見届ける。
正直な話、まだすっきりはしていないけどさっきよりは大分マシになった。
まだ胸の奥に怒りと憎悪が沸き上がっているけど、それをぶつける相手ももう居ない。
「あっ、ごめん響。ラストアタック取っちゃって」
「別に気にしてないけど…………どうしたの、そんな荒れて」
「いや、少しね。マザーハーロットとの戦いでちょっと色々あって」
ダメだ。思い出したら思い出したでまた怒りが湧いてくる。
「他に敵は居ない感じ?」
「うん。さっきのメルカバーで最後だったけど」
「…………そっか」
まだ敵が居たならばもう少しひえもんとりをしてストレスを発散したかったんだけど、居ないならば仕方がない。
「じゃあ、敵も殲滅した事だしそろそろ帰ろうか。ゼウス達も戻って」
「おう!」
悪魔召喚プログラムを使ってゼウス達を送還する。
マザーハーロットとの戦闘は思った以上に消耗した。魔人との戦闘に加えてメルカバーとの戦闘もあったのだからそれも当然なのかもしれないが。
いずれにせよ、この戦いを制したのはオレ達だ。
後はこのままギリシャ支部に戻れば――――。
「いいえ、残念ですがまだ戦いは終わっていませんよ」
「――――えっ?」
突如として聞こえて来た何者かの声に呆気に取られる。
声がした方向に視線を向けると、そこには一人の神父の格好をした男が立っていた。
一体どうして、何時の間にここに現れた。胸の内でそう考えるよりも先に新たに現れた敵を始末しようと行動に移そうとする。
しかし、それよりも先に男の方が早く行動した。
「リカーム」
男が蘇生魔法を使い、メルカバーが蘇る。
「感謝しよう。かみじょ――――いや、モズグス。そして、神の裁きを受けるが良い。チャリオット」
蘇ったメルカバーは淡々とそう呟くと此方に向けて攻撃を放つ。
ダメだ。これは、間に合わない。そして今の消耗したオレや響が受けたら、間違いなく死ぬ。
響の特性であるガーディアンは身体が残っていなければ蘇生できない。
ならオレがするべき事はただ一つ。
「響、ゴメン」
せめて響だけでも、と迫る攻撃を前から突き飛ばして逃がす。
ショタオジ曰く、オレもガーディアンの素養があるらしい。なら死んでも肉体が残るオレの方が死んだ方がまだマシだ。
そう考えての行動だった。
「ツナ――――!?」
響の悲鳴のような声を耳にし、オレは迫る攻撃に飲み込まれる。
メルカバーが放つチャリオットを消耗したオレがまともに受けきれるわけが無く、オレの意識は薄れて消えた。
+++
気が付いた時、オレは神聖さを感じさせるような場所に居た。
煌びやかなステンドグラスに満天の星を思わせる空、そして玉座に座る何者かの姿。
ここは一体どこだろう――――なんて言わなくても脳が理解する。ここは不味い、何が不味いかって聞かれたら分からないけどここだけは本当にダメだ。
急いでここから逃げなければ取り返しがつかない事が起きる。
「まぁ、待つが良い」
だが、そんな思いとは裏腹にこの場を支配する何者かはオレに興味を示した、示してしまったらしい。
玉座に座る何者かは立ち上がり、オレの下に近寄って来る。
その姿は巨大な黄金の顔にも見えるし、軍服を纏った人間賛歌を謳うような男にも見える。あるいは首に傷がある金髪の優しそうな少女だろうか。いや、桃色の髪をした女神を思わせるような少女にも見える。
ただ一つ言えるのは、彼、あるいは彼女があの存在だという事。
「あ――――」
言葉を出す事は出来ない、この存在を前に魂だけのオレが何かをする事は出来ない。
「ふむ。そんなに怯えるな。今更干渉するつもりは無い。既に私の手から離れた以上、過保護になり過ぎるのもダメだと理解しているからな」
少し寂しそうにしながらもそう語る彼、彼女はオレから視線を逸らす事は無い。
「とはいえ、だ。ここまで来た以上、何もせずに帰すというのはあまりにも不適切。褒美が必要だ」
いや、良いです。普通に帰してもらっても構いません。
それよりも本当にすみません。意図して此方に来るつもりは無かったんです。
「気にするな。前々から繋がりがあったのだからここに来るのは必然だったのだろう。私が許そう」
そう言って彼、彼女はその手に光る何かを出現させる。
そしてそれをオレの中に入れようとしてくる。
「さあ褒美を渡そう」
いや、ちょっ、やめ――――!!?
+++
「――――馬鹿な。ありえない」
メルカバーは目の前の光景を信じられず、受け入れられず驚愕した様子を見せていた。
何故ならばそれはあり得ない事。現在、過激派と呼ばれているメシア教が成そうとしている奇跡だからだ。
「別にありえない話じゃないとは思いますよ、メルカバー様」
一方、モズグスはいたって平静だった。
彼にはこうなる事が、あるいはこれに近い結果になる事が最初から分かっていたからなのか。
「ガイア連合の一部の幹部、そして盟主は我等が主と同様の性質を有しておりますので。特に盟主に関しては素の振舞いからして似通っていますから」
「ま、まさか貴様…………!?」
「ええ。私は別に貴方達天使を信仰しているわけではありません。あくまで主を信仰している身です。なので主をこの地に降臨させようと思いました」
モズグスはそう言うとある方向に視線を向ける。
「そして、それは成功しました」
視線の先にはメルカバーがチャリオットを放った相手、沢田綱吉が居た場所だった。
そこに居たのは一体の存在だった。
狼、魔神クィリヌスの力を宿した右手。竜、魔人マザーハーロットの力を宿した左手。
――――そして神霊ツァバトの力を宿した身体。
神聖さを感じさせるその姿は紛れも無く神だった。
「名付けるのであるならば、魔神皇ツナとでも言いましょうかね」
目の前の存在に対しモズグスはそう名付ける。
皮肉にもその異名は人の上に立つ皇になれても、神になることは出来なかった者と同じだった。
「さて、私は帰らせてもらうとしましょう。目的は達成しましたしね」
モズグスはそう言うとトラフーリを発動させ、この場から消失した。
「なっ、待てモズグス!!」
メルカバーは逃げ出したモズグスを止めようとするが、既に消えた後だった。
「し、主よ…………!! 私は貴方の――――」
「ゴッドボイス」
命乞いをしようとしたメルカバーを相手に魔神皇は容赦なく攻撃を浴びせる。
強大な威力を有する攻撃によってメルカバーは塵一つ残さず、この世から消滅した。
この場に敵が一人も居なくなった事により、魔神皇ツナは元の沢田綱吉の姿に戻る。
「つ、ツナ…………?」
「はは…………これ、どうしよう」
戸惑う響に対し、綱吉は酷く憔悴しきっていた。
魔神皇ハザマは人への未練の為に神になれませんでした。
一方魔神皇ツナは三つの神格の力が互いに邪魔し合って神になれていません。
ただバランスが崩れれば一気に神になっちゃいます。
なんだこの不発弾。