以前に比べればゆっくりですが頑張っていきたいと思います。
神星ローマ帝国
「こっち、こっちだ!」
ローブを深く被り、傷だらけの男が同じ様にローブを羽織っている集団を先導する。
集団には子どもや老人も居り、皆が皆先頭を走る男について行くのがやっとだった。中には途中で倒れて身動きが取れなくなってしまう者も居り、力尽きて命を落とす者も居る。
だが集団はおろか、先頭の男も手を差し伸べる事は無かった。
そんな余裕はこの滅びた世界で何の寄る辺も無い難民である彼等には皆無だった。
――――世界が半終末を迎えてからある程度の時が流れた。
世界中に核が降り注ぎ、悪魔が出現するようになった世界で人間は生態系の頂点の座から崩れ落ちた。
否、最初からそんなものは存在しなかったのだろう。
繁栄し栄華を極め、驕り高ぶった人類の都合の良い妄想に過ぎないものだ。
そのつけがコレだというのならば、世界が滅びたのは人類の自業自得なのかもしれない。
――――それでも生きていたかった。
故郷は滅び、多く居た仲間達は悪魔によって弄ばれ命を奪われ、死んだ方がマシな目にあったとしても生きていたかったのである。
「もう少しで目的地に到着する! だから諦めるな!!」
この集団の纏め役である男は同じ難民の仲間達を鼓舞する。
目的地はもうすぐそこまで迫っている。
――――神星ローマ帝国。
この半終末を迎えた世界において、日本を除けば治安が良く人心も乱れていない都市の一つだ。
オリュンポスの神々を筆頭に穏健派、そしてガイア連合が主体となって作られた国であり、非常に穏やかで過ごし易い場所だ。
稲穂は実り、水は綺麗で、建物は古代のローマ帝国を連想させるような歴史を感じさせる。核の炎で焼き払われたにも関わらず放射能は無く、新鮮な食材を生み出せる土壌も整っている。
噂に聞く日本には劣るものの、間違いなく理想郷と呼んでも過言ではないだろう。
その噂を聞いたからこそ、難民達はローマ帝国を目指す。
急いで辿りつかなくちゃ死人が増えていくだけで、途中で何人も脱落した。
悪魔召喚プログラムという戦う術を持っているのはリーダーの男だけ。もし多数の悪魔の群れに遭遇でもしたら間違いなく全滅してしまう。
だからこそ少しでも早く、悪魔と遭遇するよりも早く目的地にたどり着かなければいけなかった。
「行くぞ、皆――――」
「おや。こんなところに人間が居ますねぇ」
だがそんな彼の思いはいとも容易く打ち砕かれることとなった。
纏め役の男は声がした方向、背後かつ上の方に視線を向ける。
そこに居たのは多数の天使の群れだった。
リーダー格と思われる天使パワーを筆頭にプリンシパリティ、アークエンジェル、エンジェルの群れ。
天使といえば人間の味方というイメージがあるが、実際のところそういうわけではない。あくまでも天使は神の僕。むしろ積極的に人間に害を成す天使だっているくらいだ。
何より、この世界をこんな風に滅ぼしたのは天使なのだから。
「あ、あっ」
多勢に無勢、あまりにも戦力差のある敵に囲まれたことで難民達は恐怖で動けなくなる。
そんな彼等を見て、天使達は声を鳴らす。
「ふむ、何をそんなに怯えているのですか人の子達よ」
「天使パワー。彼等はかつてのロトのように故郷を追われておるのです。尤も、ロトと違って唐突にそうなったのです。まだ彼等の傷を癒すには時が足らないのでしょう」
「そうでしたか。すみませんプリンシパリティ…………どうやら私はあまりにも人間に対し無知だったかもしれません。天使として恥ずべきばかりです」
天使パワーは配下の天使と会話しながら難民を見下ろす。
一見、その姿からは慈しみがあるようにも見える。
実際、天使達はあくまで慈しみをもって接しているつもりなのだろう。天使という立場から善意で人間を救おうとしているのだろう。
だが――――、
「ならばこそ、私達が彼等を救わねばなりませんね」
「然り。頼るところ、すがるところを失った者達に主の愛を与え、導きましょう。それが我等の使命であるが故に」
人間が化け物を理解出来ないのように、化け物もまた人間を理解できない。
故に化け物が与える慈悲が人間にとって命を奪われるよりも辛い事だと彼等は気付けなかった。
これならばあからさまに人間の事を見下している天使の方が遥かにマシだった。
「さぁ、皆の者。憐れな子羊達に救済を――――!」
「逃げろぉおおおおおおおお!!」
自分達が遭遇しているのが所詮過激派と呼ばれている天使、否、それよりも悍ましい何かだと気付いた瞬間、纏め役の男は叫んだ。
だが何の力も無いただの人間が逃げられるわけもなく、あっという間に天使達に拘束されてしまう。
「何をそんなに怯えているのですか人の子よ」
「お、お願い…………助けて…………」
「心配しなくても助けましょう。その為の我等なのですから」
ガタガタと震えて怯える少女の頭に天使は白い羽のような物を入れる。
瞬間、少女の目がぐりんとあらぬ方向を向いた。右目が上で左目が下を向き、この世のモノとは思えない様な声を上げる。
「お、ごが……………ピギャ…………」
ビクンビクンと痙攣し、頭を前後左右に振り回すその姿はまるで何かに取り憑かれたかのようだった。
天使から解放された少女はブリッジしたまま暴れ狂う。
その姿は最早人間には見えない。操り人形といった方が正しいだろう。
そして、コキンという音を首から鳴らして少女は立ち上がった。
「はれるや、はれるやはれるや……………ハレェルヤァ!!」
両腕を大きく広げて高らかに少女は叫ぶ。
そしてその姿を見て天使達は涙を流しながら拍手する。その涙は心の底から感動している時に流れるものだった。
――――なんだ、何を見せられているんだ?
唯一戦う術をもった男は目の前の光景を見て硬直する。
あの少女は天使に両親を殺され、神を信ずる事を止めた。だというのにも関わらず、あの羽を頭に入れられてあんな風になってしまった。
目の前で行われている悍ましい、を通り越して理解したく無い光景は恐怖を最大限に引き上げた。
「うわぁああああああああ!! 召喚! モコイ!!」
悪魔召喚プログラムを行使し、男は仲魔を召喚する。
「おっと、させませんよ。ハマ」
だが召喚した仲魔は天使達がハマで即座に仕留める。
そして唯一戦える男も拘束され、悪魔召喚プログラムを取り上げられる。
「いやだぁあああああああ! 離してぇ!!」
戦う術を取り上げられた男はみっととなく泣き叫ぶ。
だが無理も無い。極限状態で無理をしているのに、あんなものを見せられてこれから自分もそうなると理解すれば狂乱するのは至極当然。
「そんなに怖がらなくても良いですよ。我々はあなた達に危害を加えません」
「然り然り。一部の心無い天使ならばそのような下法を使っただけで命を奪う者も居るでしょう。しかし、これ程までに劣悪な環境下で身を守る為にはそれしかなく、使うしかなかった以上、それが罪になるとは思えませぬ。仮に罪を犯したとしても、罪は償えるのですから」
「そうですとも! 主は裁く事を望んではおりませぬゆえ」
天使達が語る美辞麗句には口先だけではなく、心の底から他者を慈しむ慈愛があった。
なのに、全く理解出来なかった。ただ只管に恐ろしかった。
「さぁ、貴方も主の愛を受け入れるのです」
「心配する必要はありません。最初は痛いかもしれませぬがすぐに心地良い感覚に包まれる事でしょう」
「大丈夫。私が、私達が貴方を救います」
そして最後に残った男に白い羽が入れられる――――その直前で天使達の頭部が吹っ飛んだ。
「っ、何者です?」
仲間の頭が吹っ飛んだことに天使達は驚く。
一体誰が自分を助けてくれたのか、疑問を抱いた男は視線をある方向に向ける。
そこに居たのは馬に跨り、鎧に身を包んだ男達だった。
「おのれ天使め。まさか我等の国の近くに再び湧くとは…………!!」
「陛下が皆殺しにしたというのに、コイツらゴキブリか?」
「似たようなもんだ」
天使達を激しく敵視する男達の前に一人の男が立つ。
その男は小柄な体格をしており、一見東洋人の子どもに見える。
しかし、その男が放つ覇気は高位の悪魔にすら引けを取らない程に凄まじかった。
「まぁ、ゴキブリは見た目が不快ってだけで綺麗好きだ。何より自然界には必要不可欠だ。コイツらと違ってな」
小柄な男は体格に見合わぬ殺意を天使達にぶつける。
それに対し天使達は怒りもせず、ただ穏やかに微笑んだ。
「あなた方の怒りも尤もです。それは私達の至らなさ、不甲斐なさがまねいた結果故。なればこそ、私達は貴方達を救済しなくてはいけない」
一体の天使がそう宣言すると集団で鎧を纏った男達に襲いかかった。
「お前ら。絶対に死ぬな!」
小柄な男は仲間にそう告げると襲い来る天使達の迎撃を開始した。
そういやなんだかんだで神星ローマ帝国の描写できてなかったなぁ