――――これはゼウスが封印から解放された時の話。
「オレは、これからここら辺に居る天使達を滅ぼす。そして、お前を主神として信仰する国を作ってやる。かつてのローマ帝国のように、偉大な国を造り上げてやるよ」
随分と無茶で大層な言葉をほざきやがる。
かつてそう言った人間の子ども、沢田綱吉と初めて会った時に感じたゼウスの印象だった。
ICBM――――核ミサイルという、人間が生み出した兵器がギリシャ、及びイタリアに降り注いだ事で
だが再び顕現した地で一番最初に見た者は、燃える街並みと天使に殺されて行く人々の姿である。
「はっ、とんだ地獄じゃねぇか」
大天使が居る天使達と唯一神の信者達に信仰を奪われ、貶められ、挙句の果てには封印された。
かつて信仰されていたギリシャ、そして世界で尤も優れた国だったローマ帝国は唯一神に奪われた。
そして封印が解けて数百、数千年ぶりの地上に出たらこれである。
だが、自分達から信仰を奪った筈の天使達が、信仰している筈の人間を殺していく様はあまりにも酷かった。
祈りを捧げている筈なのに、穢れているという理由で殺していく。
かつて自分達を悪魔と呼んで排斥している癖に、やっている事は悪魔そのものだ。
「まぁ、オレに出来る事は何もねぇがな」
今ここで天使達を滅ぼし、自らが神だと人間達に示せれば信仰を取り戻す事も出来るだろう。
だが身体を維持する為のマグネタイトが殆ど無い。
スライムになってないのが奇跡としか言い様が無かった。
「悪いな。お前達に恨みはねぇが…………オレ達を裏切った先祖が悪いからな。恨むならそっちを恨め」
尤も、この声が聞こえている奴が居るとは思えないが。
まだ燃えていない屋根の上に座り、空を仰ぎ見る。
空からは先程、この地を焼いて穢したICBMというやつが飛来している。
遠く離れた場所に着弾してもこっちの街まで被害があるのだ。直撃すれば生き残る事は不可能だろう。
そう思いながらICBMを眺めていた、そんな時だった。
「――――アンティクトン!」
落下するミサイルに極大威力の魔法が叩き込まれたのは。
万能属性の魔法が直撃したことによってミサイルは爆炎はおろか、人を、大地を、何もかもを破壊する猛毒を撒き散らす事無く消滅した。
「ほぅ」
ゼウスは今の魔法を放った人間を見て、驚きを見せる。
その人間は一見ただの子どもにしか見えなかった。だが纏う雰囲気は英傑のそれだった。
神代の時代に居た英雄となんら遜色はない、いや、少し上回っているかもしれない。
興味を惹かれたゼウスはその子どもを観察する事にした。
子どもは空から降り注ぐミサイルを撃ち落としながら傷付いた者達を魔法で回復させていく。
実に見事と言うほかない。だが、それでも一人では何事も限界があった。
助けられない人が居た、間に合わなかった人が居た、その中には子どもの両親も居た。
だがそれ以上に子どもの頑張りを嘲笑うかの如く、人は死に続けた。炎で焼かれ、天使に殺され、多くの人間が息絶えていく。
それでも子どもは諦めなかった。天使を殺し、大天使を殺し、ボロボロに傷付いてもなお諦める事はしなかった。
どんなに絶望的な状況でも決して諦めなかったのだ。
「――――ここまで魅せられちゃ、オレも黙ってるわけにはいかねぇな。おい!」
ただの人が命を賭けて行動しているのにも関わらず、ただ黙って見ているだけ。
そんな事を神々の王であるゼウスには出来なかった。
――――そこからはあっという間に事が終わった。
子ども、沢田綱吉と契約をしたゼウスはマグネタイトを得てかつての力を取り戻した。
そして二人で天使達を皆殺しにし、神星ローマ帝国を立ち上げたのである。
尤も、当初の予定ではマグネタイトを貰うだけのつもりだった。それがまさか国を起こすと契約し、尚且つ立ち上げるとは思わなかったが。
どちらにしろ綱吉は契約をちゃんと守り、ゼウスは神の座を取り戻したので感謝こそすれど文句は皆無だ。
「しかし、皇帝になるとはな…………これも血が関係しているのかもな」
「何か言った?」
「気にすんな。独り言だ」
自身のテーブルで職務に就く皇帝になった、かつての皇帝の血を引く少年にゼウスはそう呟いた。
「ふぅん。まぁ、良いか。それよりもこの仕事が終わり次第、デメテルが封印されてる場所に行くよ」
「ああ、分かったぜ」
皇帝の言葉にゼウスは同意する。
知らぬ悪魔が居れば人間に従う奴と見縊られる事もあるだろう。
だがこの少年は自分にとって半身と言っても良い程の存在だ。
彼への侮辱は自分にとっての侮辱そのもの。決して許しはしない。
だからこそ、この少年を遠く離れた安全な地で、命に関わるものではないとはいえ呪っている者はその国諸共滅ぼしてやる。
そんな思いを胸に秘めながらゼウスは綱吉と共に戦場に赴いた。
+++
「いやー、サリエルは強敵でしたね」
「う、ぐぅ…………」
メシア教過激派の教会と言う名のアジトにて、オレは大天使サリエルと名乗ったボロ雑巾を引き摺りながら探索をしていた。
このままではいつか潰される、そう判断したオレは本日も懲りずに襲い掛かってきた過激派を返り討ちにし、連中が何処からやって来るのかを探ることにした。
具体的には天使や改造人間達を皆殺しにし、残った大天使には殺さぬ程度に嬲り殺しにして自由にしたのだ。
そして傷を癒す為にアジトに戻ったところを襲撃したのである。
「お、おのれ…………悪魔と手を結んだ邪悪なる者め…………この罪、いずれ贖う事に」
「もう用済みだから死ね」
大天使の口から放たれた言葉を最後まで聞く事無く、サリエルを壁に叩き付けて止めをさす。
どいつもこいつも同じ事の繰り返しばかり、流石にもう聞き飽きたわ。
出来ればもう二度と来ないでもらいたいのだけれど、それも無理だよなぁ。
「まぁ、デモニカやガイア連合製の悪魔召喚プログラムが届いたから少しはましになったけど」
ガイア連合からの物資が届いた事で非覚醒者でも悪魔と戦う事が出来るようになった。
おかげで雑魚天使や改造人間を他の人間に任せて、オレは大天使を相手に集中して戦う事が出来る。過激派のアジトを探すのに時間を割くことが出来る。
「でも、シキガミが貰えなかったのは残念だったなぁ」
まぁその理由も理解出来る。
人型のシキガミは良くも悪くも受肉した悪魔だ。
そんな代物を日本国内から遠く離れた異国の地に送るのは危険なのだろう。
もしオレの所に届かず、悪魔の手に渡ったら受肉した何の制約も受けていない悪魔が大暴れするなんて最悪の事態だってあり得るのだ。
「まぁ、今度日本に行くしその時に貰うとするか」
近々ガイア連合、多神連合、そして穏健派メシア教の会談がある。
その時に星霊神社は行けなくても、ガイア連合の支部に行く時間はあるだろうし。
「さて、と…………ここが過激派のアジトなら何かある筈だよな」
一見ただの教会にしか見えないけど、こんな場所であれだけ沢山の人間を養うのは不可能だ。
いくつかの場所に配置すればそれも可能だが、どちらにしろ食料の問題が出て来る。
あの悪魔どもの事だから寄付やお布施と称して略奪するのは目に見えているが、それでも絶対に足りないんだ。
何せオレ一人でも千人以上軽く駆除しているのだから。部下や自警団、ゼウスが駆除した数を含めれば二千は超えるかもしれない。
いくら改造しているとはいえ人間は人間なのだ。
「まぁ、こういった秘密を隠すのは地下だろうな」
通信機を取り出し、他の教会に襲撃に行った者達に命令を出す。
「全員、地下が無いかどうか確認しろ。最大限の注意を払うように」
『了解しました陛下!』
何時になっても陛下って呼ばれるの慣れないなぁ、そう思いながら教会の床を調べ始める。
「ビンゴ」
床には隠し扉が存在し、その扉を開けると下に降りる事が出来る階段があった。
階段を下り、地下に突入する。コツコツと固い床を歩く音が妙に耳に障る。
「あるとしたらクローン製造装置とかかな」
もしそういったものがあるのなら、こっちが使えるようにならないだろうか。
いや、使ってはいけないとは分かってはいる。だけど、こうも毎日襲撃が続けばこういった考えをするようになる。本当に嫌な世の中だ。まぁ、過激派のアジトをいくつも潰したから戦力は大分削れただろうから前よりは楽になるだろう。
そう思いながら地下の扉を開ける。
地下室の中にあったものは――――とてもではないがオレの口からは説明したくない代物だった。
これ程までに悍ましい物をオレは知らない、口にしたくない。
「…………何が天使だ。馬鹿にしやがって」
お前等なんか天使じゃない、天使を自称するのすら許せない。
何処まで人間を玩具にすれば気が済むんだ。何処まで人間の尊厳を踏み躙れば気が済むんだ。
『陛下! こちら、メシア教過激派の地下にて魔人:母子合体天使人間と遭遇! 戦闘に入ります!』
『命令を受ける前に勝手に動くこと、お許しください!』
「――――いや、良いよ。お前達の身の安全の方が遥かに大事だ。全員、死なないように戦え」
通信室で部下にそう告げると戦闘準備に入る。
「ごめん、せめて一撃で終わらせるから」
チャージした後、デュランダルを構えて冥界波を放つ。
放たれた攻撃は一撃で母子合体天使人間を、人間だったものを殲滅する。
命を奪った瞬間、耳に届いたのは「ありがとう」という言葉だった。
「…………感謝するんじゃなく罵ってくれよ」
傷つけたんだ、命を奪ったんだ、殺したんだ。
なのに殺した本人に何で感謝するんだよ。もっと早くここに辿り着いていれば助けられたかもしれないってのに。
『――――こちら! 生存者を発見しました! ですが容体が不安定でして』
「すぐ行く。それまで何とかもたせろ」
感傷に浸る暇も無い、心の中でそう吐き捨てながら生存者が居る場所に向かう。
「…………皆に、会いたいなぁ」
口から零れた小さい呟きは風に飲まれて消えた。
+++
同時刻――――日本のとある女子中学校。
そこで一人の女子生徒が中庭のベンチに座り、つまらなさそうに空を見上げていた。
「はぁ、学校の時間って退屈だなぁ…………」
癖が着いた茶色の髪に赤い髪飾りを付けた少女は溜め息交じりに呟く。
学校という場所が嫌い、というわけではない。だがそれ以上にこんな事をしていて良いのか、という思いがある。
「平和が悪いってわけじゃないけどさ」
だからといって平和ボケするのは違うと思う。
心の中でそう呟きながら、頭上から降って来た花瓶を受け止める。
「あまりにも平和過ぎると勘違いする人も出て来るよねー」
受け止めた花瓶を隣に置き、上の方にある窓を睨み付ける。
睨み付けた先には数人の女子生徒が居り、視線を受けてか足早に去っていった。
「私じゃなきゃ大事になってるっていうのに」
そんな事も分かっていないのか、そう言わんばかりに吐き捨てる。
「あいつ、どうしてるんだろうな」
脳裏に過ったのは現在国外に居る親友の顔だった。
同じ転生者で、星霊神社で修行という名の地獄を見て覚醒して、今でも時折顔を合わせる。
今は半終末となっている国外に居るみたいだが、間違いなく無事ではあると思う。
「綱吉に久しぶりに会いたいなー」
転生者、立花響は今生の親友である沢田綱吉の顔を思い浮かべながらそう呟いた。
ようやく事態が好転したよ
やったね綱吉君!
ちなみに母子合体天使人間は普通に母子合体魔人と殆ど同じです。
ただ人間を産む機能があったり無かったり。