この世は地獄…………地獄!!
親友、立花響と一番最初に出会ったのはショタオジの所、即ち星霊神社に修行に来た時である。
当時、最初期に星霊神社で修行をして覚醒した者達は基本的に大人で、当時子どもだったオレ達は星霊神社に行く事すら出来なかった。
それをショタオジや大人の転生者達が神社でお泊りという子供向けのツアーを始め、オレ達はそれに参加することになり、そこで響と出会ったのだ。
同世代や近い年齢の転生者達は他にも居たのだが、一番仲良くなれたのは響だ。
と、いうのも他に仲良くなれたのが全員ペルソナ使いだったからだ。
某最強のスタンド使いのコスプレをしてるのも、常に仲間に飢えてボッチでクソ難易度に挑んでいる何か変なのも、心が致命的に戦いに向いていないスライムのペルソナ使いとも友達にこそなったが、ペルソナ使いということで仕事の関係上あまり関わらない。
その為、同じ異能者という事でよく一緒に行動していた響と仲良くなるのは必然だった。中学に入ってからは会う事は少なくなったが、ちょくちょく連絡をし合っている仲だ。
とは言え、久々の再会で思いっきり抱き付かれる事になるとは思わなかったが。
「いやぁ、本当に久しぶりだねツナー。海外に行ってたって聞いてたけど、元気だったの?」
心底嬉しそうな笑顔でオレを抱きしめる響の言葉が耳に届く。
「一応元気だよ」
少なくともギリシャ支部の支部長になってから労働時間とメシア教過激派穏健派というストレスのせいで、覚醒者になってなかったら間違いなく病院行き、最悪過労死してただろうが五体満足という意味では大丈夫だ。
むしろ怪我は基本的に負ってないし、そもそもメシアライザーで治せる。
最近は他人に使う事の方が多いけど。
「それよりもさ。そろそろ離してくれない? 胸が顔に当たってるんだけど…………」
「そんな事言わないでよツナぁ…………私とツナの仲じゃん」
悲しそうにそう呟く響の姿に思わず溜め息を吐く。
本当に良く笑い、良く落ち込む。最初に出会った時から人懐っこくて色々と困った。
立花響という人間の身体の影響なのだろうか。それとも転生前は男だった影響なのだろうか。本当に距離が近くて困る。転生前が男だったとしても今は女の子なんだから、もう少し気を使ってほしい。
まぁ、言っても聞かないだろうけど。
「はいはい。それで、響は昼食何食べたい?」
「私は何でも良いよ。ツナは何食べたいの?」
「和食、寿司が良いな。ここ最近ずっと洋食ばかりだったし」
ギリシャ支部の料理が不味いわけでは無い、むしろ美味しい方だ。
とは言え、長い間そればっかり食べていると飽きて来てしまう。日本に戻って来たのだからギリシャやイタリアでは食べられないやつが食べたい。
「それじゃ、そろそろ行くよ。夕方までには山梨に行きたいし」
「うん。じゃあ行こっか!」
そう言って響はオレの手を掴んで駆け出そうとする。
そして自分達の周囲を学生達が取り囲んでいる事に気が付いた。
「おい、おいおいおい、あたし達を無視してイチャイチャイチャイチャと随分良いご身分だなええおい?」
リーダー格と思わしき女子生徒が響に対して敵意を向ける。
向けるというか剥き出しだった。
「響の知り合い?」
「いや、全然知らないよ。心当たりなんて本当に無いけど」
「てめぇ!! ふざけてんのか!!」
まるっきり知らないと言わんばかりに小首を傾げる響に女子生徒は怒声を上げる。
「お前があたし達を溝川に投げ捨てた事、それを忘れたっていうのか!?」
「…………ああ、思い出した。カツアゲしてたの注意したら逆上した子達だ」
「何だ。自業自得じゃん」
そう言って怒り狂う女子生徒に白けた視線を送る。
何となく読めてきた。響に心配そうな視線を送る子を除いて、こいつ等全員響に復讐するつもりなのか。何人かは誘われてやって来たのだろうが、本当に傍迷惑な奴等だ。
男連中は響に対して下卑た視線を向けているが、響は覚醒者でレベルは27だ。普通に返り討ちにあうというのに。
「バカだなぁ。そんなアホみたいなことするなんて、ああ、バカだからそんな事するのか」
「てめぇバカにしてんのか!!?」
「心の底からバカにしてるよ」
因みにショタオジや幹部の転生者達はバカでは無い、頭のネジが外れてるかそもそも最初から付いてない。
オレも結構バカだとは自負しているけど
「ふざけやがって、お前等! やっちまえ!!」
女子生徒の言葉に全員が武器を構えて此方に向かって来る。
本当に面倒臭い、こちとら時間が無いってのに。
そう思いながら溜め息を吐き、響に心配そうな視線を送り続ける女子生徒を除いた全員に軽めの殺意を向けた。
「か――――」
殺意を向けた瞬間、不良達は全員その場に倒れ伏す。
ピクピクと痙攣して白い泡を吐き、中には糞尿を垂れ流している者も居る。
「…………ここまでするつもりは無かったんだけど」
まさかただ殺意を、それも本当に軽い児戯のような殺意を向けただけでこんな惨状になるとは思わなかった。
いや、こうなるのは当然の話だったのかもしれない。
ガイア連合の最新式レベル測定機を使っても今の自分のレベルは測る事が出来なくなる程、オレはギリシャで戦いに明け暮れていたのだから。
ギリシャに行く前から測定機がぶっ壊れていたからよく分からないが、間違いなく強くなっている。
そんな自分が児戯とはいえ殺意を向けたんだ。覚醒していない一般人ならばこうなるのは当然だった。
だけど――――。
「え、えっ? な、なにこれ…………?」
まさか直接殺意を向けてないのにも関わらず、覚醒するとは思わなかった。
身体からマグネタイトが溢れている、響の事を心配していた女の子を見て、天を仰ぐ。
「…………ねぇツナ。どうするのこれ?」
「…………取り合えず近くのガイア連合の支部に任せるわ」
流石に弟子を取る余裕は今のオレには無いのだから。
――――この時覚醒した少女が後に何人もの人間を助ける事になるのは、今はまだ誰も知らない話。
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「――――にしてもツナも色々と大変だよね。今はギリシャ支部の支部長と…………神星ローマ帝国だったっけ? その皇帝をやってるんだから」
回らない寿司屋で昼食を終え、山梨支部という名の本部である星霊神社の本殿にて、オレと響は他愛の無い会話をしていた。
ゼウス達も今は多神連合の会議があるらしく、オレのスマホから出ている為、こうして友人と気兼ね無く会話をするのは本当に久しぶりだった。
「成り行きだよ成り行き」
「何処をどうしてそうなったら皇帝になるんだろうね」
「その場のノリに任せて天使をぶん殴って、過激派を殲滅したらこうなるんだよ」
本当にどんなシンデレラストーリーなのだか。
改めて自分の現状に対し、そう思わざるを得なかった。
「と、いうか全然大丈夫じゃないじゃん。毎日過激派の襲撃が来て戦闘してるって、地獄じゃん」
「大丈夫。毎日のルーティンになってるから」
「それ全然大丈夫じゃないよ。何だよ、ルーティンが過激派狩りって」
「まぁ最近だと襲撃が来ない日もあるし」
本当、連中の隠れ家やアジトを潰して回って正解だった。
お陰でギリシャ支部に襲撃しに来る規模と回数が極端に減ったのだから。
尤も、半径100キロ圏内のアジトを一つ残らず滅ぼしたのだからそれも当然と言うべきか。それでも恐らく一週間も経てば元に戻るだろうが。
本当にこの世は地獄としか言いようが無い。
もう少しくらい世界はオレに対して優しくしてくれても良いだろうに。
「そんなに酷い場所なら何で日本に帰らないの?」
「んー…………」
響が言ったその言葉に何とも言えなくなる。
正直な話、こんな辛い毎日ならとっとと日本に帰った方が楽が出来る。
それもこれも終末が来るまでの話だろうが、自分のレベルに近い幹部が複数人居るこの日本なら最悪は回避出来るだろう。
だけど、オレはまだ日本に帰らないでいる。
ゼウスとの契約を守った以上、もう帰国しても問題は無い筈なのに。
「ごめん、分からないや」
自分の為にというには辛い目に遭いすぎてるし、他者の為にというにはそこまで奉仕するつもりはない。率直にいって支配にも興味は無いし、何の為に辛い目にあってまで戦っているのか自分でも分からない。
ただあの時、自分は許せなかったから前に出た。
それだけは唯一真実と言える。
「そっか。にしてもあのベビーサタンと呼ばれてたツナがまさか幹部をやって、ギリシャの支部長をやるなんてなぁ」
「ベビーサタン言うな」
ショタオジに修行をつけてもらって覚醒した時、オレが手に入れたスキルはアカシャアーツだった。
当然、レベル1の覚醒したばかりの奴にそんな高等スキル使える訳が無かった。
その為、ショタオジの修行を受けて別のスキルを手に入れようと頑張る事になった。だが結果はとんでもなく酷く、冥界波やアンティクトン等明らかに序盤で覚えるスキルじゃないのばかり。
結果、オレの渾名はベビーサタンと呼ばれる事になった。
「それはもう過去の話だよ。今のオレはアンティクトンだって何十発でも撃てるんだから」
「だから成長したなって思ってさ。私なんか最近レベル上げられてないから」
「本当に世の中世知辛いよな」
――――等と二人で他愛の無い会話をしていた時だった。
「沢田綱吉様、お迎えに参りました」
シキガミの少女が迎えとして部屋に入ってきた。
どうやらもうそんな時間らしい。その事実に時の流れはあっという間と実感しながら立ち上がる。
「あ、私も行って良いかな?」
「ええ、構いません。立花響様もお連れ致します」
ついでに響も着いてくるつもりらしく、二人揃ってシキガミに連れられてある場所に向かう事になった。
歩いて数分、辿り着いた場所は星霊神社の大広間だった。
「失礼致します。沢田綱吉様、そしてお連れの立花響を連れて参りました」
シキガミが扉を開け、中に入る。
大広間には数人の男女が座っていた。
顔を隠した狩人のような装いをした人、全身傷だらけでヤクザにしか見えないような強面、理想の王子様のような外見をした人。
他にも仲間に飢えてるボッチや内面がスライムの人が居る。
そして部屋の中央に座っている、一見長髪の子どもにしか見えないような外見をしたショタオジが居た。
「やあ、よく来てくれたね。そこに座ってくれ」
ショタオジに促され、オレ達はその場に座る。
「それじゃあ、会議を始めようか」
かくして、第666回ガイア連合の会議が始まった。
ショタオジはショタオジ、それ以上でもそれ以下でも無い!