あゝ楽しんであれ、もんくえ世界津々浦々   作:点=嘘

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第16話

「…………………………………。」

 

 チュンチュンと、小鳥が囀る音で目が覚めた。

 ばんやりした頭でただ天井を見つめる。久しぶりに帰ってきた自宅でこうして起きるのが何だか懐かしくて、どうも夢見心地のまま意識がはっきりしな——

 

「あ」

 

 ふと横を向くと、すやすや気持ち良さそうに眠りこける赤毛の少女の寝顔があった。

 

 

 素っ裸の。

 

 

「…………。」

 

 ついでに言うと裸なのは俺もだった。

 

 現状を認識するにつれ何があったのかを嫌でも思い出してしまう。

 とりあえず腕の拘束はいつの間にか解かれているから——俺はあの後どこかのタイミングで気を失ってしまったのだろう、と当たりを付ける。

 

 

「やっちまった……」

 

 

 気付けば両手で顔を覆っていた。いくら問答無用で襲われたようなもんとはいえなんつー事を。……いや、これ俺が悪いか? 世が世なら普通に犯罪じゃん……。

 いやでも先に心配かけてたのはこっちだし、っつーか人殺しまでやってる俺が司法の秤で物事を語るなって言われたら何も言えねぇし……あれ、意外と自分を擁護できる要素が無い??

 

「んあ……おはよございます……」

 

「ひっ」

 

 やばい! 助けてくれー! そう咄嗟に叫ばなかっただけ俺はまだ自制心が強固な部類であると思いたい。慣れない事をしたせいか珍しく眠そうに目を擦っているプロメスティンに、努めて冷静に切り出した。

 

「……お前、まず俺に何か言う事は?」

 

「?」

 

 こいつ……本気で『何のこと?』みたいな顔してやがる。マジかよ……。

 以前にも増して異種族の貞操観念が理解できず小さく呻き声を漏らす俺を横目に、そういえば、といった様子でプロメスティンは思い出したかのようにぽつりと言った。

 

「あの、あれ……たしか、職人さん、でしたっけ? あのふたりが……」

 

「……ロンとフウか? お前なぁ、いい加減に人の名前ぐらい一回で覚えて——」

 

「昨日のあれ、見てたっぽいです」

 

 

 

 

 

 

「づあ゛ッ゛、グっ!? が、がぎぎぐげごが……ッッ!?!?」

 

 

 !?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?

 

 

「う、うるさ……」

 

「お゛ッ゛……終わっ、た………………………」

 

 どったんばったん、胸を掻き(むし)りながらベッドの上で苦しみ悶える隣の男をウザそうに見つめるプロメスティンの事など眼中に無かった。

 マジか。マジかよ。よりにもよってかよ。今世の両親に見られるより遥かにキツいわ。あの二人には一番見られたくなかったわ。

 

「な……何があったし…………」

 

「昨日……貴方と交わっていた時に。何か物音がした気がして、ふと窓の外を見たんです。そしたら……ふわぁ。逃げるように歩いていくロンくんの後ろ姿が見えて。なぜかフウちゃんを背中に担いでましたが……」

 

「そんな今後の人間関係に関わる重大事項をどうしてお前は何でもないかのように欠伸混じりで淡々と報告してんの? てかそれに気付いたのに無視してずっと俺を犯してたの? その時点で何かリアクションしたり俺になんか言ったりできなかったの?」

 

「だって、私は見られても別にいいかなって……続きをしてたほうが楽しいし……ぐぅ……」

 

「寝るなああああッッ!! お前、お前この! 今まで睡眠欲とは無縁みてーなキャラだった癖して急に二度寝とかやりだしてんじゃねぇぇ!!!!」

 

 ゴチン、と。

 

「ぎゃあーーッ!?」

 

 物の見事にベッドからずり落ち、顔面を強打した俺の悲鳴が響き渡る。

 何が起こったか一瞬分からなかったが、それはこの寝ぼすけの肩を掴んで起こしてやろうと飛びかかった直後の事だったと思い出した。

 

「くっそ、こんな時にまで遠慮なくすり抜けてきやがって! きたねーぞ!」

 

「裸で床に転がったまま言われましても……」

 

 な、なんて言い草だ。ちくしょう。

 いつか鼻を明かしてやりたいとは思うものの、しかしこいつには何をやっても無駄な気がしてならない。俺はため息をつきつつ諦めてベッドの縁に腰掛けた。

 

「はぁ……」

 

 隣でうつらうつらとしながら寝転がっている科学者気取りについては一旦置いといて、改めて思う。どうしてこうなったと。

 色々ありすぎて飛んでいたが、元はと言えば俺が彼女に心配させるような精神状態でいたのが発端だった。そして……”この危険な旅を一人で乗り切れるだけの力を持つに至ればそれも解決する”と踏んだプロメスティンがこの今回の暴挙に走った、という話だ。たしか。たぶん。

 

「あん……?」

 

 その話だと——俺はこれで魔法を使えるようになる、はずだ。しかしそのような感じは特にしない。これは一体どういう訳か。

 正直言って昨日あった事が衝撃すぎてあんまりそういう話する気分でもないんだが、それはそれとして”あれだけやられて何もありませんでした”ってのは納得できん。

 

「なあ、そういやあの話って——」

 

「んんっ……」

 

「あ?」

 

 ふと後ろを振り返った瞬間。

 ぐっと背を伸ばしたプロメスティンの唇が、俺のそれと重なった。

 

「んっ、ぐ……!?」

 

 昨日、半ば無理矢理にされた奪うようなキスとは違う、柔らかく食むような感触だった。

 咄嗟に仰け反ろうとするが、いつの間にか頭に回されていた腕が邪魔をしてそれも叶わない。仕方なく力を抜いてされるがままにしていると——何やら暖かい力がじわじわ流れ込んでくるような感じが伝わってきた。

 

「……?」

 

 欠け落ちていた物があるべき所にすとんと収まったような、そんな不思議な感覚。

 前世を含めても全く未知の体験を目の当たりにしてしばらく呆けていると、口づけの感触がゆっくり離れていくのに少し遅れて気が付いた。

 

「ぐう」

 

「……ああ、そういう事ね」

 

 魔力の受け渡し。

 その性質は齧った程度だが前々から習って知っている。わざわざ経口でやる必要あんのかって一瞬思ったが、粘膜同士の接触ってルートは簡単かつ無駄がない。この場でするなら理に適った手段だろう。

 

 ……もしかして、俺ってこいつの突飛な行動に順応し始めてる? 「おいおいおい、何だ今のは。またこのパターンかよ。寝てねぇでちゃんと説明しろ!」……ぐらいは咄嗟に言えないと駄目だろ。

 自分が分かってる事を周りも把握してるつもりになって動くのをやめろとは散々言い聞かせてきたが、俺がこいつに近付いてきてるって事は……これって負の循環ってヤツなんじゃないか?

 

 い、嫌だ。プロメスティンだけならまだしも二人揃って言動が周りから浮いてるのに気付かずお互い盛り上がってるようにまでなったらいよいよ俺たちゃお終いだ。

 こっちが今後どれだけまともでいられるかどうかは別として、やっぱどちらか片方は軸足だけでもリアルに置いておくべきだ。こいつに期待できない以上は必然的に俺が目を見開いているよう努力せねばならず——襲い来るであろう気苦労を予想すると、深々ため息を吐くしかないのであった。

 

 

 

 ◼️◼️◼️

 

 

 

 それからまあ、何やかんやあった。

 

 後日魔杖の件で詳細を聞きそびれていたらしいロンと顔を合わせて細部を詰めた時はめちゃくちゃ気まずかったし、フウは何かもう……こっちがビックリするぐらい真っ赤になって震えてた。マジで。

 

 あのフウが。普段の様子からは考えつかなかった。間取りと家具の調整の話をする段階になってやっと仕事モードに入れたっぽいが、それでもまだちょっとどこか上の空な感があった。

 で、この時は俺も油断しかけてたんだが……何を思ったのか、こいつはいきなり「ベッドは二人用の大きいやつに変えた方がいいですか」とか言い出してきやがった。

 

「私は別に拘りませんけど」

 

「口を、閉じてろ。オマエは。」

 

 横から会話に割り込んできた赤髪ボケ野郎は当然の如く黙らせる。

 

 何をさも当然のように俺とプロメスティンが毎晩一緒に寝ることを前提として話を進めようとしているのか。これを真顔で問い詰めてみたところ、ハッと意識を浮上させたらしいフウは一気に先程の調子に戻り、涙目になってブンブンと平謝りをするだけの機械となってしまった。

 

「え、でも……」

 

 騒ぎを聞きつけたらしいロンが事情を聞いて何か腑に落ちないような顔をしてきたので、弁明の機会だけはくれてやる事にする。

 

「お二人って、ご夫婦とかではなかったんですか……?」

 

「「それはない」」

 

 だからそーいう関係じゃねぇって言ってるだろ。つーか前にもこんな問答があったような気がするぞ。

 ああもう、だからこういうのは嫌だってんだよ……!

 

「くっそ……見たかよお前、ここまで話が拗れてんだぞ」

 

「いやはや、ここまでとは予想していませんでした」

 

「てめえ!!」

 

 二人が帰路についた後、こうも呑気に他人事みたく言ってのけたプロメスティンを俺は全力で叱っていた。

 あいつらにはこの事を周りに言いふらしたりしないようにきつく言いつけておいたものの、風聞なんてのはどうやって広まるか分からん物だ。

 

 めらめらと気炎を上げて押し迫る俺を前にして流石にまずいとでも思ったのか、プロメスティンは冷や汗をかきながら話題をすり替えてきた。姑息なヤツだ。

 

「そ、そういえば……貴方に受け渡した魔力の調子はいかがですか? 何か感じるものがあれば良いのですが」

 

「む……」

 

 それはまあ、確かに詳しく把握しておくべき事柄かもしれない。実を言えば今のところそこまで劇的に何かが変わったとも思えないが、何となく朝から体の中にうねりのような物を感じる気は地味にしていた。

 その事をそっくりプロメスティンに伝えると「大変結構です」と鷹揚に頷かれた。

 

「それなら次は……そのうねりを術として放出する練習を始めましょう。人間が魔法を実際に行使する際に生じる問題の第一項目、『人間の体が抱える魔力適性の脆弱性』は把握していますね?」

 

「そのために必要な中継機が……ああ、そっか。第二項目が解決しても杖が完成してないからには何も始められないんだったな」

 

「いえ、そうとも限りません」

 

「?」

 

 俺たちはその問題を杖によって片付けるために『精霊の森』まで行ったんだと思うが、違うのだろうか?

 そう怪訝に思っていると——プロメスティンは、何やら自慢げに羽根飾りのようなものを取り出した。

 

「これです。これは”濡れ羽(からす)の尾羽根”と言いまして……いわばとある希少な魔法動物の身体の一部、ですね」

 

「はぁ……?」

 

 こんなよく分からない飾りを提出されても。腕に巻くようなサイズ感のそれを見せられて思わず呆けたような声を漏らすと、ちっちっと指を振ってプロメスティンは続きを説明しだした。

 

「前に言いませんでしたか? 中継機となる魔道具の素材は、例としては鉱石や……」

 

「魔物の肉体!!」

 

 ようやく合点がいった。ようはその羽根飾りが杖の代わりに使えるってわけだ。

 

「その通り。木製の杖に比べれば汎用性は低くピーキーな術式しか扱えないでしょうが……それで一応は過不足なく魔法行使の練習になるはずです」

 

「は〜……で、そんな貴重そうな物をどこで手に入れたんだ?」

 

「え? あのオオカミ娘の妹がつけてたアレを失敬しまして」

 

(いわ)く付きじゃねーか!!」

 

 ちょっ、いくら何でも複雑だぞそれ!? あいつの姉さん殺したの俺だし!! なんかヤバい怨念とかひっそり込められたりしてないだろうな!?!?

 

「ちぎれて取れたものを繕い直したものなので少し短くなってますが、まあ好きな所に身につけて頂いて。それからコツを教えますので、さっそく練習の方に入りましょうか。順当に行けばあの影に潜り込む魔法が使えるはずですが……」

 

「おおおい、お前にそういうのを気にする、こう……アレは無いのか!? ……無いんだろうなぁ!!」

 

 もちろん無かった。そんな物は。




ここでちょっと皆さんにアンケート。

僕としてはさっさと話を進めて次の旅あたりの話を書きたい(あくまで書きたいのは主人公くんの話であるため)ですが、一方で既に出したオリキャラをもう少し掘り下げたほうが物語としてバランスが取れてるような気もしており…(しかし執筆体力は限られているのでね…。)
そこでアレなんですが、聞きたいのはこれです。「別視点のサイドストーリー的なもの、読みたいですか……?」という…まあ、そういう感じのヤツです。どうぞよろしくお願いします(必ずしも結果が反映されるとは限らないので悪しからず…)

読みたい?

  • メインの続きが読みたい
  • ククリとエリーのミニ冒険譚も読みたい
  • ロンとフウの杖作り話も読みたい
  • 構想にあるものは全部読みたい
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