あゝ楽しんであれ、もんくえ世界津々浦々   作:点=嘘

17 / 65

続きが読みたい派と横道に逸れてもいい派とで3:2ぐらいの割合で分かれた前回のアンケートですが。
あんまり票が偏れば「ひぃー!文量が爆増するうう!」だの「オリキャラに魅力が無かったかな…」だのとどの道さんざ思い悩んでいたであろう事が想像に難くないので、結果的には非常にちょうど良い具合に落ち着いたと思われます。

結局どうするのか?まぁハイ……気が向いたら書きます!気が向いたら!(体力の問題なのでね…)

それではどうぞ。前書きではふざけても本文は初手から真面目です。



第17話

 

 

 ほんの束の間、この世の中は平穏だった。

 

 ある男と天使が進んだ旅路。それは必ずしも万人にとって正しい結果を招いたとは言えなかったから。

 誇りを持って守る『森』を部外者に知られ、踏み入られた事を嘆いた民がいる。たった一人の家族を殺され、その死までもを侵された魔物がいる。

 

 二人の目的が自己の『進化』である以上、そこに破壊や冒涜がどこまでも付き纏うのは必然だった。

 

 けれど束の間、男と天使は足を止めた。

 そこに彼らなりの理由は多々あれど、その停滞で取り戻した平穏を世界は確かに享受していた。

 

 そうして、およそ一年と少しの月日が経過し——静寂は破られる。

 我々が『賢者』と呼ぶ、あの男は。

 

 

 


 

 

 

「ぐふ、ぐふふ」

 

 真夜中、寒風吹き荒ぶ冬の森。

 深々と降り積もった雪で木々も白く染まる闇の中、場とは不釣り合いな女性の笑い声がしっとりと響く。

 

「よもや二晩も続けてここに迷い込む者がおろうとはの。あ奴は良い声で鳴きおったが……ふん、ふん。今からヌシを喰らおうというのに、他の男の話をするのも無粋かの」

 

「木こりのムーランさんを殺したのはお前か?」

 

 闇の深くで。

 山の麓からこの吹雪の中を歩いて来たと思われる青年は、いやに落ち着いた声でそれだけ言った。淡々と、ただ確認するだけのように。

 ぼうと火の点いた松明を片手に掲げてそこに立ち止まる彼はフードを目深に被っており、表情は窺い知れないが、それも魔物にとってはどうでもいい事だった。

 

「んなのは知らん。私はここに迷い込んだ男をただ喰らうだけぞ」

 

「……そうか。嬲った後にでも解放してくれれば見逃してやれたが、こうなった以上は仕方がない」

 

 青年は、改めて目の前の敵を見る。淡く発光する体に青白い髪。加えて先日から狩場を変えないこの習性からすると——木霊の類と見て間違いない。

 雪を踏みしめながらため息を吐き、燃え上がる松明をその場に放り捨て——右肩に掛けていた『長杖』を構えるのだった。

 

 

 


 

 トレント娘が現れた!

 


 

 

 

「くだくだしい!」

 

 ズオッ、と巻き込むような音と共に飛び出したのは、彼女の背後に座す樹木の根だった。

 分厚い雪を押し退けて獲物を絡め取ろうとする威容にほんの少しだけ目を見開いたが、慌てた様子は決して見せずに危なげなく後ろに下がる。構わず這わせ続けるトレント娘だが——男は触手にも似た根を思い切り片足で踏みつけると、固定したそれに躊躇なく杖先を押し付けた。

 

 

 

意思なき形姿は朽ちるがいい——ディケイ!

 

 

 

 ばらばらっ、という異音と共に。瞬間、トレント娘は伸ばした根に伝わる感覚が次々と消失していく事態に驚愕した。

 

「なッ……魔法、じゃと!?」

 

「鬼が出るか蛇が出るか——ともあれ対策はしてきた。結局は予想の範疇を出なかったらしいが」

 

「人間ごときが……ッ」

 

 言いつつ、ボロボロと色褪せて朽ちていく樹木の触手を事も無げに一瞥する青年に対する脅威度を跳ね上げる。

 

(あれが分霊(わたし)に効果があるかはともかく……樹木(ほんたい)に受けると不味い、のう)

 

風よ、我が杖に威服せよ——エアロ!

 

「ぐっ!?」

 

 一陣の風が刃となって木霊を切り裂く。トレント娘は強烈な遠距離攻撃に怯み、このままでは不利だと慌てて身の丈ほどの根を目の前に展開する。

 これで風から少しの間だけでも身を守り——魔物としての自分は納得できないが——あわよくばそのまま敵を押し潰す事もできる、攻防一体の手。苦し紛れにしては上出来だと、この目で見ることは叶わないにしろ絶望する男の顔を思い浮かべて彼女は内心ほくそ笑む。

 

 ドスン! と、避ける暇も与えずに根が振り下ろされる。決まった——そうトレント娘が確信した次の瞬間、妙な手応えの軽さに硬直する。

 何が起こったのか慌てて確認すると、そこには「ひらり」一枚の外套が根の下に挟まっているだけだった。

 

「知ってたか?」

 

「なッ、」

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 今宵何度目かの驚愕からどうにか抜け出した時には、もう何もかもが遅かった。

 まるで先ほど打ち捨てられた”松明”の明かりに浮き出た影から滲み出るように。視界が途切れたほんの一瞬、そうして詰められた距離は致命的だった。

 

 

「ふたご月に生まれた狼は——影に潜んで獲物を狩るんだと」

 

 

 樹木(ほんたい)に軽く小突かれた感触——同時、トレント娘の意識は急速に闇へと沈んでいった。

 

 

 


 

 

 

 朽ち果てた大木の残骸が辺り一面に広がる中で、落ちた外套をばさりと肩にかける男の後ろ姿をただぼんやり眺めていた。

 

(寒い……)

 

 死に沈みつつある彼女の命はもう長くない。はらはらと青い光の粒子が体からこぼれ落ちる様はさながら流れ出る血の量に等しかった。そんな中で最期に目に入った光景——浅黒い肌、二の腕に黒い羽根と骨の飾りを巻き付けた黒髪黒目の男は静かに言う。

 

「ムーランさんに地獄で詫びろ。てめぇが殺した人間の名前だ」

 

 体の輪郭がいよいよ消え去り、空に昇っていく青い光に——しかし”賢者”と呼ばれた青年はポツリと呟いた。

 

「……また会えたらよ」

 

 その言葉が相手に届いていたのかどうかは分からない。

 ただそれは、それだけに、彼が自分の言葉を心底から疑わずにいるという事の証明に他ならないのだった。

 

「俺が地獄(そっち)に行った時は、殺し合(これ)いで終わらずに済んだらいいな」

 

 

 


 

 

 

 雪中の山深く。少し開けたその場所には賢者の居処があるという。実態は何でもない山小屋——小屋と言い切るには少し手広にはなったかもしれない——なのだが、そう考えているのはたったの二人しかいなかった。

 

 麓の村を一躍騒がせた失踪事件を解決した帰り。青年は遠目に見て自分の家にどうやら明かりが灯っているのを怪訝に思った。見たところ煙突から煙も上がっている。

 さて、出てきた時には誰もいなかった筈なのだが……となると思い当たる節は一つしかない。自宅ゆえ気兼ねなく扉を開けると、中には予想通りの人物が暖炉の前で本を読んでいた。

 

「帰ってたのか、プロメスティン」

 

「向こうの仕事が早く片付きまして。お帰りなさい、とはこの場合どちらが言うべきなんでしょうかね?」

 

 人の家にも関わらず肘掛け椅子に腰を下ろして見事に寛いでいる赤毛の少女に、変わらないな、と軽く笑う。

 

「それにしても随分と遅いお帰りじゃないですか。ここ数日で何かあったんです?」

 

「ああ、ちょっと人死にが起きちまってな……」

 

「なんと」

 

 台所で軽めの夜食を作りながら事の経緯を説明する。プロメスティンの偏食には慣れたものだったが、彼自身は健全な若い男としても食事の度に嗜好を毎回合わせてもいられない。

 とはいえ何やら物欲しそうな視線を感じるのも確か。最近では癖になってきた気がする溜め息を一つ吐きながら、干し肉を挟んだ雑なサンドイッチもどきとは別に余り物の粉とかを使ってパンケーキでも焼いてやることにした。

 

 こういう料理に卵も牛乳も使ってはいけないというのは彼にとっても少々どころではなく面倒くさいのだが、付き合いの長さからいってもういい加減に慣れつつある。

 というより原始人類史における生産経済以前の食生活というのは元から八割以上が植物性であり、ヨロギ村での暮らしもその例に漏れないものだった。価値観の基準たる前世の生活水準を無理に取り戻したがる”賢者”の方こそがむしろ時代錯誤となり、文化内でも後発的に発生する筈の完全な菜食というイズムの方がまだ現在の世風に近くなるといった一種の錯誤が起きていたりするのだが……

 

 閑話休題。基準がやや謎なことにたっぷり掛けられたハチミツはOKらしいプロメスティンは「いただきます」の挨拶もそこそこに話を進める。

 

「なるほど……もぐもぐ、それでその魔物を、一人で討伐したと。ごくん」

 

「喋りながら物を食うな。……ほんとは手土産に死体の一つでも持ち帰りたかったんだがな、つい倒し方を焦っちまった。俺もまだまだって事だ」

 

「何事も無事であるのが一番です。お気になさらず……ふむ。しかし、そうですか」

 

「?」

 

 思わせぶりに考える素振りを見せつつ指で拭ったハチミツをぺろりと舐め取る。何かに集中している間は素が出ているのか行儀が少し悪くなるのは癖らしい。

 

「これで分かったのではありませんか? 貴方は私がいない間にも、たった一人で村の危機を救うことができるだけの力を既に持っているのだと」

 

「ん……」

 

「自分一人で魔力を練ることが出来ないのも不自由に感じてきた頃でしょう。そろそろ——旅を再開しませんか?」

 

 この話が彼らの中で特に重たい話題だった事は互いに何となく感じていたはずだ。それを押しても口を開いたという事は、プロメスティンは彼に間違いなくそれだけの力があると、今をこの上ない契機だと確信しているという事に他ならない。

 

「……そうだな」

 

 足を止めてから、一年半。

 この間にも色々な事があった。何とも騒がしく、これまでとは違いプロメスティンが側にいる日常。そんな中でも自分なりにやれるだけの事を必死でやってきた。

 

 時が来た、という事なのだろう。

 

「目指すは”ゴルド火山”。……行くとするか、そろそろ」

 

「!」

 

 顔を跳ね上げるようにしてこちらを見るプロメスティンに苦笑しながらも男は言う。

 

「待たせちまって悪いな。この旅を一番心待ちにしていたのはお前だってのに、俺があんな事になったから……」

 

「い、いえ……気にする必要はありません。私が勝手にやっている事ですから。ですが……ふふ、良かった」

 

「……っ」

 

 この魔女は。ふとした所で急に素直な態度になるから始末が悪い。

 

 心底安堵したように笑顔を向けてくる”仲間”にそっぽを向いて首を傾げられながら、気を取り直すように青年は言う。

 

「んんっ! まあ、何はともあれだ。そうと決まれば計画は練っておかないとな。どうせさっきの今で眠る気にもなれねぇし、今夜はとことん付き合ってやる……か?」

 

 ふと室内が薄暗くなってきた気が。暖炉に目を向けると……火が消えかかっているようだった。

 いつプロメスティンが帰ってきていたのか知らないが、ついつい話に熱中し過ぎて薪木を絶やしてしまったらしい。話の腰を折られて面倒に思いつつ、新しく火をつけようと何も考えず脇に置いていた杖を暖炉に向けると——

 

「…………………………あっ」

 

「どうしました?」

 

 中途半端に杖を構えながら変なポーズで硬直したまま動かない相棒を胡乱な目で見つめるプロメスティンだが、かろうじて、といった様子で捻り出された返答によると。

 

「き、切れた……MPが……」

 

「ああ……」

 

 言わんとする事は理解できたが何とも締まらない展開になってきた、とプロメスティンは思う。

 

「はぁ、仕方がないので計画は明日から考えましょう。ほら横になって」

 

「えっちょっ今日は良くない!? お互い帰ってきたばっかで疲れてるだろ主に俺とかこの吹雪の中どんだけ苦労して戦ってきたと思って……」

 

「もう、いい加減に慣れてくださいよ! ほらさっさと脱ぐ!」

 

「や、やめ……」

 

 いかにも女々しく逃げ出そうとする青年の悲鳴が、雪の帷に悲しく吸い込まれていくのだった。




本文は初手から真面目でも最後の方は結局これです(もんくえ、なのでね…)

主人公くんの戦闘力は今のところフル充電でもまだクィーンクラスにぶっ飛ばされる程度なので過信はできません。とはいえザコ敵程度ならこれでも余裕!

読みたい?

  • メインの続きが読みたい
  • ククリとエリーのミニ冒険譚も読みたい
  • ロンとフウの杖作り話も読みたい
  • 構想にあるものは全部読みたい
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。