あゝ楽しんであれ、もんくえ世界津々浦々   作:点=嘘

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第二節 十九話

「お二人って今頃……何してんのかしらねー……」

 

「さぁ……」

 

 いつもと代わり映えのしない、ある昼下がり。

 

 ぐでーっと長机に突っ伏す少女フウは、ここのところ大きな仕事が来ないのを良いことにヨロギ村の大衆食堂にて相方と()()を巻いていた。

 元々が成長期の最中なだけあってこの一年で身長も伸び、いつも一緒にいたロン共々すらりとした身体に育ってきた。彼らの慕う男がどう思うかはさておき、村の中ではもう既に立派な大人として扱われている二人なのだった。

 

「もう、信じらんない。いつもと同じ感じで様子見に行ったら当たり前みたいなカオして旅支度とかしてんだもん。アタシたちが来てなかったら見送りも無しだったのよ?」

 

「そ、そうだね……まあ確かに急でビックリしたけど、それはそれであの人らしいんじゃないかな?」

 

 フウの愚痴にも律儀に同意はしつつ木彫りの小物をカリカリと削る手は緩めない。四六時中何かしら作業をしていないとどうも落ち着かない質らしい。

 掃除のおばさんに見つかればまた小言を言われると机の下でこっそりノミを動かすロンから呆れたように視線を逸らすと、再び気力を失ったように項垂れるフウは何の気なしに世間話を再開した。

 

「にしてもルシフィナさん、まあよく食べるわね……ちょっと偏食のきらいがあるけどさ」

 

「これ、おかわり頂けますか!!」

 

「あいよ!」

 

「……ここらの料理ってほんとに美味しいらしいからね。他所(よそ)から来たなら仕方ないと思うよ」

 

 そうは言いつつ“紅ショウガたっぷりマヨネーズ油マシマシ汁だく卵かけ特盛牛丼”といった風体の世にも悍ましい物体をさもうまそうに貪る女性を見て思わず二人は顔をしかめる。いっそ冒涜的な光景ですらあった。

 

「自称流れ者って話だけどホントかしら。ここらで見たことある?」

 

「いや……? 食べてる物はともかく、あんな綺麗な人だったらすぐ目に留まると思うんだけどなぁ」

 

「…………。」

 

「い、痛っ。急に何さ……」

 

「べっつにー?」

 

 相変わらず好意に鈍い幼馴染の頬をひとしきり(つね)って満足はしたが、それで元々の憂鬱な気持ちが晴れたわけでは別に無い。

 フウは大きくため息を吐きながら、結局は最初の話題に立ち戻ってくるのだった。

 

「ほんっと、いま何やってんのかな。賢者さまぁ……」

 

 

 

 ◼️◼️◼️

 

 

 

 石炭を轟々と燃やす音がそこかしこに広がる。

 蒸気機関で稼働していると思われる大量の建造物に、いかにも健康に悪そうな真っ黒い煙をじゃんじゃか吐き出す煙突がいくつも連なっているのが遠目からでもよく分かる。

 

「どう思います? これ」

 

「どうもこうもねぇ」

 

 隣で同じ光景を共有しているプロメスティンがぼそっと呟く。

 どう思いますかって、そりゃ……

 

 

 

「最高だぁ!!」

 

「ですよねぇ!!」

 

 

 

 フウゥーッ!! むせっ返るほどの文明臭さが前世以来に染み渡るぜええええ!!

 

 いやもう空気は不味いわ目視できるレベルの有害物質が不安を煽るわで普通に考えたら最悪なんだが、望郷の情がその全てを忘れさせてくれる! どう低く見積もっても明治時代レベルはあるであろうこの文明開花度、ウェルカム•バーーーック!!

 

「「いぃ──っ……えぇーい!!」」

 

 だっはっは! 思わずハイタッチも出ちゃうわこりゃ! パチィンと小気味良い音を思いっ切り響かせつつ顔を見合わせ……っつーか俺はともかくプロメスティンも相当テンション上がってんな!? 今更だけど!!

 

「そりゃあそうですよ、ここから工学的な知見がどれだけ得られるか想像も……っふあ、いけない。思わずよだれが……!」

 

 垂涎って言葉をそのまま体現するプロメスティンだが、今度ばかりは気持ちも分かる。イリアス様の意向とやらで北京原人一歩手前ぐらいから遅々として発展の気配を見せない下界の様子をウンザリするほど見せつけられてきたコイツにとって、高度に発展した文明ってのは文字通りに蜜の味だろう。

 

 しかし同時に……俺らはドワーフの技術を探るためにここまで来た訳ではないという事をきちんと理解しておかねばなるまい。目的はあくまでゴルド火山、それを忘れていては何の意味も無いのだ。

 

「つってもまぁ、まずは情報収集から! だよな!」

 

「全くもって……その通り!」

 

 だからこれは違うんだ。こう、我を忘れているとかでは決してない。このまま何ヶ月か探索のために入り浸ろうとしていたって、最後に果たすべき事をちゃんと済ませればそれで良いのだから!

 浮き足立っているのは自覚しているが、それはそれとして動きは止めない。胸中を多分に占める期待と共に、俺達は目前の町へと一歩を踏み出すのであった。

 

 

 


 

 

 

 町の名前だろうか?「ドウェルガ」と銘打たれた看板を張ってある建物を横切ってしばらく歩くと、早くも人々の喧騒が耳に入ってきた。

 

「そこの兄ちゃん、魔鉱灯は要らねぇか! ちょいと型落ちだが長持ちするよ!」

 

「酒だぁ酒持ってこい!」

 

「ドージお前、また工場の備品を流してんのかい! 今度という今度は許さないよ!」

 

「げえっ、あねご……!? 今月厳しいんだ、後生だよ!」

 

「オーライ、そこもっと後ろに倒せー!」

 

 少し開けた場所に出ると、そこは露店や屋台のような物が集まっている区画らしかった。

 人間の男女とドワーフの娘がそれぞれ均等ぐらいだろうか? 精霊の森ほど多様性に溢れてはいないとはいえ、人妖入り混じったその光景はイリアス教圏では絶対にありえない様相を呈していた。

 

「ちょっ待て、あれ煙草じゃねえか!? オイオイオイ……!!」

 

 生まれ変わりとかいうある意味究極のデトックス体験によって一度は綺麗さっぱり体からニコチンが除去された俺だが、こう見えて前世ではそこそこの喫煙家だった。

 あの時はどっちかっつーと義務で吸ってた感が強かったが、こうして改めて目の前にすると妙な懐かしさが相まりひとつ試してみたくもなってくる。うおお、また俺はここで同じ轍を踏むべきなのか。それとも踏まざるべきなのか……!?

 

 ふと隣を見ればプロメスティンも俺と大体似たような状態だった。……しかし、目を爛々と輝かせて辺りの品物やら何やらに釘付けとなっている男女二人組は、周りからすればかなり悪目立ちしていたかもしれない。

 

 

「ああ……? 何だテメェら、また移住者か?」

 

 

 それがいけなかったのだろうか。

 チンピラ、という単語がこれ以上当てはまる輩もそうは居ないであろうという風体をした、スキンヘッドの大男が俺たちの前に立ち塞がった。

 

(何こいつ? 誰?)

 

(私が知るわけないでしょう)

 

「ヨソの猿どもにしちゃ身なりが良い気もするが……まあいい。たまに居るんだよなァ、”外の暮らしは貧しくて食っていけないんですぅ〜”なんつってこの町にすり寄ってきやがる、お前みてぇなイリアス狂いの土人がよォ」

 

 へー、この辺りじゃそういう事になってんのか。

 ……普通に勉強になるなと思いながら話を聞いてしまったが、どうもこれで話が終わりとは行かないらしい。その男はニタリと顔を歪めてこう言った。

 

「だがテメェら、運が良かったなァ? 俺はそんな右も左も分からねえって猿どもを”案内”してやるのが大好きでよ……もちろん、付き合ってくれるよな?」

 

「……はぁ、結局そういう事かい」

 

 もちろん言葉通りには受け取るべきじゃないだろう。ここは良くても押し売りの借りを貸した貸さないで後から難癖でも付けてくるか、悪けりゃ路地裏にでも連れ込まれて身ぐるみ剥がされるか。

 いずれにせよ愉快な相手に絡まれたとは言えなさそうだが、さてどうするか。

 

「おっと変な気は起こさない方がいいぜ。痛い目に遭いたくなかったらな。——なぁ、オメェら?」

 

 考えていると、男は背後の人だかりに向かって呼びかけるように声を上げた。

 するとその中から二、三人、ニヤニヤと薄ら笑いを浮かべた連中が示し合わせたようにこちらへと寄ってきた。どうやら一丁前に仲間がいたらしい。

 

「ぐへへ……」

 

「おっ、よく見りゃフードの方は女じゃねぇか」

 

「どうしてくれましょうかね、兄ィ?」

 

 しかし——ふむ。

 落ち着いて周りの様子を見てみると、そう不味い状況でもなさそうだ。

 

 何となくだが、こいつらの言い分がこの場にいる全員の総意って訳ではない……ような空気だ。どちらかと言うと「またか、あいつら」って風にただ呆れて見てるだけのように感じる。

 つっても誰か助けに入ってくれるような気配がある訳でも無く、要はポッと出の余所者にわざわざ時間を割くまでの事はしない、という姿勢で静観を決め込んでいるのだろう。

 

 つまり……ここで何が起きても、余程の事じゃなければ咎められる事は無さそうだ。

 

「へへ、女連れたぁ良い身分だな? ちょいと”貸して”くれりゃあ見逃してやっても……あ?」

 

 下卑た視線を向けてプロメスティンの方へと伸びたスキンヘッドの男の手を、俺は横合いから掴んで止めた。

 

「テメェ、ぶちのめされてぇか!? この……」

 

 

 

 ぐわんッ!! と。

 

 

 

 俺よりも二回りほど大柄な男が、体ごと空中で回転しながら足元に勢いよく叩き付けられた。

 

「はっ……?」

 

 誰の物だろうか、息を呑む音だけが微かに聞こえる。

 一瞬で静寂が支配したその場において、俺は肩に掛けたままの杖を握りながら薄く息を吐き、棒切れでも振り回すかのように男を地面へと叩き付けていた。

 

 ……いやあ、土属性の身体強化様々(さまさま)って感じだな。元のフィジカルが雑魚な上に過剰な腕力を取り回す技術も無いから多用は無理だが、一瞬だけならこれぐらいの事はできる。

 そして、忘れず杖から手を離して効果を解除した直後。

 

「ぐぼ、ぁっ!?」

 

 ぶっ倒れた男の顔面に向けて、爪先を垂直に立てた蹴りを思い切り入れ込んだ。

 ぐちゃっ、という肉を打つ不快な感触が足を伝う。どこから溢れたのかも良く分からん血液がびちゃびちゃと飛び散るが、んなもん知った事ではない。ここで重要なのは、俺のことを「同じ人間を全くの躊躇なく傷付けられる人間」と認識してもらう事だ。

 

 ()()であるか、あるいは()()でないかってのを示す示さないとでは意外と人に与える印象が違うらしい。今まで誰で試したって訳でもないが、現にそれを踏み越えてみて自然と理解できた事の一つでもある。

 

「ひ、ひいっ」

 

 案の定連中は俺に立ち向かってくるほどの勇気がある訳でもないようで腰は引けているが、さりとて目の前に血だるまとなって倒れている仲間を放って逃げ出すか否かは判断に迷っている所らしかった。

 ああもう面倒くさいな。どうせ来ないんだからさっさと消えろよ。若干の苛立ちが募ってきた——

 

 

「消え失せろ!!」

 

 

 辺りで、蜘蛛の子を散らすように逃げていった。

 そんなら最初から絡んで来るなよな、全く。

 

 

 


 

 

 

「大丈夫なんですか? あれでもここの市民らしいですよ」

 

「周りを見ろよ、これぐらいなら割と問題なさそうだ。……噂にはなっちまうかもしれねーけどさ」

 

「貴方が言うならそうなんでしょうね。いえ、私が少し彼らと付き合って事が丸く収まるなら別に構いはしませんでしたが……」

 

「……お前さぁ、そういうとこマジで直した方がいいぞ。お前らは本当に問題ないのかもしれんけど」

 

 ……たまたま俺がこいつと体の関係が出来たからって彼氏面なんてするつもりは毛頭無いが、それにしてもその発言はあんまりだぞ。

 まあ、そんなこんなで異種族の貞操観念をどうにかするのは果たして可能なのかどうか考える傍ら、俺はさっさと場を後にしようと歩を進め始めた。

 

 と、いう所で。

 

「いやぁ、良い暴れっぷりだったじゃないか!」

 

 一瞬、どこから声が聴こえたか分からなかった。というのもそれは俺の腰あたりの高さから発せられたかららしく、目線を下に向けてみて納得した。

 声の主はドワーフ族らしき少女だった。種族特有の褐色に加えてざんばらにした赤髪が目に入る、ぶ厚いゴーグルを首元に掛けた作業服の彼女は人好きのする笑顔を俺たちに向けてこう言った。

 

「そっちの嬢さんもまるで動じてないって顔だ。肝が据わってるねぇ。……あたしの名前はマクニア! さっきのアイツらじゃないけどさ、ちょっと飲みにでも付き合ってくれないかい?」




読者層がほぼ固定されちゃってるので望みはゼロに近いんですが、あと一回ぐらいは日間ランキングの端にでも載ってみたいですねー…あれ入ると入らないとじゃUAの伸びめっちゃ違うんで…
ていうかそこまでするために評価とか入れずとも感想ください!これ食って文字書きは生きてるんで!フィードバックお願いします!!(最近オリキャラとか出しがち故の不安)
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