あゝ楽しんであれ、もんくえ世界津々浦々   作:点=嘘

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R-18版の執筆に思ったより時間が掛かったため本編の更新が遅れました申し訳ありませんッッそれだけにどちゃくそえっちな傑作が個人的には書けたかと思うのでよければR-18版のお気に入り登録等々よろしくお願いしますッッッッ
あと先月ごろに本編が謎の爆伸びを果たして何故か日間ランキングに転がり込んだ件について色々と考察をしてみたので、ランキングの計算式に興味のある方はぜひ活動報告からご覧になってください。


第21話

 起きた時には日が傾きかけていた。

 

 すっかり寝入ってしまったおかげで窓から見渡す外の景色も若干の赤みを帯びていた。あれから一晩を跨いだ上でという前提を思わず忘れそうになるが、自分でも驚くほどの長い間体を休めていただけあり体の調子はさして問題無さそうだった。

 昨日はちょっとした事故で想定以上に精気を吸われてしまったがこれなら今夜の仕事に差し障りは無いだろう。と、見慣れない酒場の一室の天井をぼんやり眺めつつそこまで考えに至った所で——

 

「……何やってんの?」

 

 頭だけ出して毛布に包まり、部屋の隅に向かって体育座りを決め込んでいる赤髪天使の小さな背中が目に入った。

 ベッドの端で思いきり肩を落としながら縮こまっている。寝起きの俺にすら分かるぐらいのどんよりオーラが立ち込めていて、というか見るからに凹んでしまっているようだった。それはもうベッコベコに。

 

「私は……私は、なんという事を……」

 

「ああ、うん……」

 

 それというのも、昨日の行為中に不慮の事故によってプロメスティンが酒でベロベロに酔っ払ってしまった事に端を発するのだが。

 信じられないほどの酒癖の悪さから性格まで豹変させたこいつは後先とか一切考えず俺をぶっ壊すぐらいの勢いで襲い掛かってきたのだった。無論、性的な意味で。

 

 もうちょっと気絶するのが遅かったら更に酷い目に遭っていたかもしれない。そう考えると中々にぞっとしないぞ。

 思い返すだに身震いしそうになる想像をして微妙な気分で黙っていると、病み上がりの不良天使は何やら言い訳がましい声色で弁明するようにこう言ってきた。

 

「いえ、貴方にした事に対して負い目を感じている訳では別に無いのですが……現に至って平気そうですし……」

 

「あ?」

 

「ただその……あんな私を、貴方に見られてしまったのが……」

 

「…………」

 

 ……前半は聞かなかった事にしといてやるとして、だ。

 徹底的に自分本位なのもコイツらしいと言えばらしいが、今更そんな事でこうまで気落ちするなんて少し意外かもしれないな。

 

「なんだお前、素の口調がそんなに恥ずかしかったのかよ。あのクール系っぽい気取ったやつ」

 

「いえ、そっちも割とどうでもいいのですが……」

 

「ええ……」

 

 じゃ何なんだよ。逆にお前、あれが恥ずかしくないってそれはそれで無頓着が過ぎる気はするけどな。

 相変わらず不明な感性に困惑する俺をよそに、しかしプロメスティンは自虐的に笑った。

 

「あの時、私は本当に何も考えていませんでした。それが分かっていながら良しとさえしていたあの時の自分の意識そのものが、私にとって何よりも恥ずべき事だからです」

 

 ……考えていなかった、ね。

 

「ふうん……」

 

 今までの話を聞くに、プロメスティンは科学に無理解な天界の住人から散々後ろ指を差されてきたらしい。それこそ自分の故郷を見限ってまで地上で暮らす人間達に興味を移す程度には。

 

 こいつにとって「考えないこと」は何にも勝る悪なんだろう。事もあろうに、他でもない自分がそんな風になってしまっては、と。

 

「まあ、言いたいことは分かったけどさ」

 

 けど。

 そう、けど、だ。

 

「……お前、真面目すぎ」

 

「は?」

 

「いやなんつーか、性根はひん曲がってるくせに堅物っつーか。言っちまえば極端なんだよな……」

 

 両手を頭の後ろに組んでぼすんと寝転がりながら、至極当然の事を俺は言う。

 

「第一なぁ。毎回毎回後先なんてのを正しく考えてから動かなきゃいけないようなら、今ここにお前はいないだろうが」

 

「うっ」

 

 言われるまでもなく、身をもってよーく分かってる事だろうが、考えないで動くってのは楽しいもんだぞ。お前が嫌ってる奴らがそうやってお前を傷付けてきたからって、そんな連中のために自分を縛るなんて事こそ()()()()()ってなモンじゃあないのか。

 

「お前はさ、俺なんかよりもずっと先だって長いんだ」

 

「……それは」

 

「だから、何だってゆっくりやっていきゃあいい。どうせ俺らみたいな無法者なんざ思うさま脇道に逸れていきゃあいいんだよ」

 

 ここに来るまでの勇み足を考えりゃ…….むしろ、それぐらいの遊びも入れないなんて方が嘘ってもんだろ。

 もちろんプロメスティンの信念——科学者として「決して思考を止めてはならない」、それを否定しようってつもりは無い。ただ俺は俺がこう考えているって事を嘘偽り無く言っただけ。それでお前の気が少しでも楽になればいいと、そう思って言っただけだ。

 

「……物は言いよう、ですね」

 

 疲れたように肩を落としたプロメスティンは、毛布を被ったそのまま俺の隣にごろんと寝転がってきた。

 

「ああ、脇道に逸れるといえば」

 

「あん?」

 

「今回の旅が終わった後……私の見立てが正しければとうとう貴方は自分一人で魔法を使えるようになるはずなのですが、すると今までのようにこうして情を交わす必要は無くなってしまいますね……」

 

「…………………………………………………………………………………………………。」

 

「何ですかその長い沈黙は」

 

「ああいや俺は別にそのあれにえー俺がこーいう事に乗り気だったわけじゃないってのはお前も分かってるだろうけどだから別に必要ねーっていうならそれは普通に良いことだって俺的には当然そう思ってるしだからなんつーかえーっと」

 

「? 知ってますけど……」

 

 う、うん。まあそりゃひとまずどうでも良いんだ。それで何だって?

 

「はい、私としてはその分の時間を”研究などの他にやるべき事に使う余地が増える”と素直に喜ぶべき所だったはずなのですが」

 

「…………………ですが?」

 

「貴方にとっては傍迷惑な話でしょうけど……この時間は棄てるに惜しい、となぜか思っている自分がいるんです」

 

 ……つらつらと、そう語るプロメスティンの言っている事が本人にとってどれだけの意味を持つ事か、それぐらいは俺も理解しているつもりだが。

 

「こんな事ではいけないと分かってはいるんです。何も生まない、作り出さない。そんな事のために費やす時間も、思考の空白も無駄でしかないと。……でも、私自身が嫌ってやまないこんな私の一側面を貴方が受け入れてくれるというのなら……せめて貴方の前でだけは探求者としてではない、ただのプロメスティンでいる時があってもいいのかなと……思えてきました」

 

「そっか……」

 

 ふっと、会話の流れがそこで途切れる。

 互いに言いたいことはあるんだろうが言うに言えない微妙な空気が重く漂っているのをひしひしと感じる。いや、それでも。

 

「あのさ」

 

「はい」

 

「前に言ってたあれ、保留にしてた話があったろ」

 

「ありましたね」

 

 もう随分昔の事みたいに感じるがあれってのはあれだ。出した精液をどうせ捨てるなら研究だか何だかのために採取させてくれないか……とかいうプロメスティンの申し出だ。あの時は普通に断ったんだが……今となっては、っていうか……

 ……くっそ。建前が無えと素直になれないって、そりゃ俺の事じゃねぇかよ。

 

「うん、まあ……考えさせてくれって言ってたけど、あれな。まあこういう事にも慣れてきたし……貞操観念うんぬんってやつも今更だしさ、俺は別に……」

 

「……いいんですか?」

 

「あー、それにだな、お前だってこういう理由を付けといた方が何かとやりやすいだろ。まあそういう事だ」

 

 ……正直なところ、自分が何を思ってこんな事を口走っているのか正確には分からない。いや全然分からん。本当に。

 ただ少なくとも確実なのは”もう少しだけこの関係が続くんであろう”という、その一点のみ、だ。

 

 

 


 

 

 

「ゆうべはお楽しみ——だったみたいじゃないか? 随分と」

 

「うるせぇ」

 

 誰の依頼のせいで急にあんな事させられる羽目になったと思ってんだと胸中で愚痴りながら、早くも薄暗くなってきた街中で俺たちはドワーフのマクニアと落ち合った。

 

 これから荒事に向かうだけあり、昨日とは違って何やら物騒な得物を背負っている。

 その小さな背丈と同等ほどもある戦鎚を事も無げに担いでいるようだった。ともすれば不意に潰されてしまいそうなアンバランスさではあるが、やはり魔物というだけあり腕力は相当のものらしい。

 

「うんうん、嬢ちゃんもすっかり良くなったらしいね」

 

「ええ、おかげさまで」

 

「よーし。それじゃあ二人とも、ついてきな」

 

 例の悪党とやらの根城に案内されつつ体の具合を確かめる。これから戦闘があるという話だが、案外調子は悪くない。やはり一晩ぐっすり眠れたのが良かったんだろう。クリティカル•エクスタスの倦怠感は既にほとんど消えていた。

 

「で、俺らは結局どこ向かってるんだ?」

 

 なんとなく手を握ったり開いたりして握力を確認しつつ、勝手知ったるといった様子で路地裏に足を踏み入れていくマクニアへと目的地について質問した。

 

「見ればすぐに分かるさ。とにかく悪趣味な建物で、日が沈んでもその中は昼間みたいに明るいらしい。——ほら、あそこだよ」

 

 そりゃあ何とも分かりやすくて結構な事だ。指し示された方向を見れば、そこからは確かに夜の暗がりを暴くような明るさが……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「燃えてません?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 燃えてた。

 

 いや、普通に建物が燃えていた。

 

「「……………………………………。」」

 

 プロメスティンの率直な指摘を最後に一行は沈黙に包まれる。現在進行形、すんごい勢いで業火に巻かれている館をマクニアは指で差したまま動かないし、唖然としているという意味では俺も似たようなもんだった。

 

「凄いですね、周りに飛び火する気配が全然ありません。風向きとかを計算して放火したなら相当考えられてますよ」

 

 なんか一人だけ全く動じてない奴がいるが、こいつは自分の事以外基本的にどうでもいいと思ってるだけだ。参考にもならん。

 

「……いやこれ、どうすんの? 俺ら帰っていい?」

 

「ま、待っておくれよ。これって……や、まさかそんな……」

 

 この依頼に果たして収拾がつくのか否かがもう不安になってきた俺に対して、マクニアは何やら悪い予感でもするようにブツブツと独り言を呟いている。

 何をそんなに顔を青くしてるのかは知らんが、ともかく襲撃対象がこのザマではどの道目的は達成したって事で良くないか。それより俺としてはこれ以上ここをうろついて面倒ごとに巻き込まれる方が嫌なんだが……

 

「……あれ?」

 

「どうした、何かあったか?」

 

「見てくださいよ、中から誰か……」

 

 と、プロメスティンが言い終わるか終わらないかの瞬間。バキバキッ! という異音と共に館の中から誰かが吹き飛ばされてきた。

 酷い火傷と切り傷を負っているのが遠目からでも分かる。極端に小柄な体躯から恐らくドワーフであると思われる女はその身長に見合わない華美な格好を汚れと血で台無しにしながら、息も絶え絶えといった様子で走り去っていった。

 

「あいつ、確か例の組合の一人だよ。大枚はたいて雇った用心棒にいっつも囲まれて、それなりに悪名高い奴だったんだけど……」

 

「んな事言ってる場合じゃねーぞ。今んとこは火の手も回ってこなさそうだけどよ、さっきので建物が崩れ始めてる。そしたら流石に危な……っ?」

 

 大穴が空いた中から、ゆらりと人影が揺らめいた。

 炎に包まれているにしてはやけに緩慢な動きで一瞬見間違えかと思ったが、それは確かに人だった。

 

「くそっ、見えちまったら流石に寝覚めが悪いよな……」

 

 あの中にいた連中がどんな奴かは知らんが、この惨状は流石にやり過ぎだ。せめて目に入った範囲ではどうにかしてやろう……と、肩に掛けた長杖を掴んだ所で。

 

 ガラガラッ! と、一際大きな瓦礫が人影の上に落ちていった。

 

「あっ、ぶ───!」

 

 俺の魔法じゃ遅過ぎる、というか遠い。まず距離が足りない。これでも一応修行中の身なわけで、そんな咄嗟に何でもできるほどの引き出しは持っていない。

 誰かが死ぬのはいい加減に慣れてるがな、流石に焼死体だか圧死体だかもよく分からん亡骸が出来上がる瞬間なんてのはあまり見たくはないぞ。かといって目を背けたりする事もできず、そんな何もできない時間が無駄にスローに流れていくような感覚に陥りつつあった——

 

 その、直後。

 

 

 ズパァッ!! と。

 

 

「はっ……?」

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 炎が、物体を切断する。見習い魔法使いが一体何を言うのかという話だが、その余りに荒唐無稽な光景を目撃した事で俺は言葉を失った。

 

「嘘、まだ……早すぎる。司祭長クラスがこんなに早く動けていいはずがないだろ……」

 

 マクニアが何かを呆然と呟いた瞬間、人影の視線がこちらを向く。

 燃え盛る火の中を平然と歩いてくるのに不思議と熱を感じている様子すらない。まるで炎すら体の一部の如く『従えている』ような錯覚を覚えてしまった。

 

 紫と金の刺繍があしらわれたフード付きのケープのような衣装を頭から被っていて全体的なシルエットも分かり辛いが、骨格と背の高さから恐らく男のように見える。服装はマクニアの言う通り司祭を思わせなくもないが、右肩に担ぐ物々しい大刀がそのイメージを綺麗さっぱり掻き消していた。

 俺よりも幾らか歳上のように見えるその男は、怖気の走るような鋭い眼光をフードの奥から覗かせて口を開いた。

 

「……何だ、マクニアか? オレの仕事の邪魔をしようっていうなら残念だったろうが、既に終わった。見ての通りにな」

 

「エリック……これも()()()の差し金かい。四大精霊の司祭長サマを随分こき使ってるみたいだね、あの愚姉は」

 

 

 

 やばい。

 全っ然話について行けてない。

 

 

 

「……面倒くせぇ…………」

 

 やっぱり無理にでも事情を聞いといた方が良かった。そんな確信と後悔を抱きながら、想像を遥かに上回る「複雑な事情」に巻き込まれる覚悟を嫌々ながらも決めるのだった。

 




【Tips】
18話ラストに出てきた連中。面倒くさい(確信)
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