あゝ楽しんであれ、もんくえ世界津々浦々   作:点=嘘

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終章PVが発表されましたね……まさか書いてる間に出るとは思わんかった……
いよいよとなったら再構成のために期間を空けることもある可能性が無きにしも非ずとは言い切れないかと思われますので、そのへんは平にご容赦を。


第23話

「最初に言っておくけど、あの人と私は本当の姉妹じゃあないんだ。先代の長だった姉さんの親の、そのまた妹の娘が私。平たく言えば……」

 

「従姉妹同士か。道理で姉妹ってほど似てないわけだ」

 

 目の前の赤髪活発娘と銀髪眼鏡のローレンスを脳内で比較しながら、俺は対面に座る”仕事仲間”の語る事情を聞いていた。

 もっとも目の前の彼女には昨日までのような溌剌とした雰囲気はもはや見られない。ドワーフ特有の背丈とあの態度で幼げな印象もどこか抱いていたが、酷く草臥れたような顔でテーブルに寄り掛かるこの様子をよくよく見ると確かに成人した魔物の女性なのだということを実感させられるな。

 

「察しが付いてるとは思うけど、二人とも昔はあんなんじゃなかったんだよ。私たちは幼馴染で、本当の兄弟姉妹みたいなもんだった。でもいつからか……そう、あれは姉さんが町の長を引き継いでからの事だった」

 

 どこか遠いものを見るような目をした彼女の話は続く。

 

「少しずつ、最初は私たちにもそうとは気付けなかった程に少しずつ、姉さんの様子が変になっていった。どこかよそよそしくて、何があったのかをエリックと一緒に問い詰めても碌に答えは返ってこなかったよ。そうやって訝っている内に……これは最近の事なんだけど」

 

「殺されたのか、お前の師匠ってのが」

 

 数瞬、息を詰まらせる気配がした。

 ピタリと動きを止めた彼女はやがて、ゆっくりと肯首をする。

 

「機関車……と言って君らに伝わるかは分からないけど、師匠はこの町にそれを作り出した人だった」

 

「!」

 

 おいおい、伝わる伝わらないどころの話じゃねーぞ。そりゃ技術水準的にそんぐらいあってもおかしくはないとは思うが……

 

「気の遠くなるぐらいの貨物を載せて走る鉄の塊だよ。これで世界中の物と人を繋ぐんだ、って楽しそうに言うあの人に私は憧れてさ……そんなあの人が、殺された。突然だったよ、何せ死に目にすら会うことはできなかった」

 

 悔しそうに唇を噛み締める様は、その師匠とやらが彼女にとって本当に大切な人物だったという事実を納得させるのに十分だった。

 

「これとほとんど同時期だったよ、エリックまでおかしくなったのは。それまで人を寄せ付けなかった姉さんと急に一緒に行動し始めて……情けないけど、何が何だか全く分からなかった。それなのにどんどん置いてかれてるみたいでさ……馬鹿だよね、怖くなったんだよ。私は」

 

 なるほど、読めてきた。それで俺らを巻き込んだってわけか。

 

「つまりお前は、二人に認めてもらう為に力を示そうとした。その手段として奴らより早くあの事件を解決しようとしたと。要するにこういう事だな」

 

「……そうだね。うん、私が知っているのはこれぐらいかな」

 

「うーん……」

 

 こいつも何も知らされていなかったとはいえ、やはりこれだけでは情報が足りないな。今後の方針を決めるだけの材料は自分の足で稼ぐしかなさそうだ。

 

「何にせよ日没まで時間はある。できる事はまだ……っ?」

 

 そう言って立ち上がろうと腰を上げかけた、その時。

 

 

『うっ、うわああああああっ!!!??』

 

 

 この家のすぐ外から、恐怖の色に染まった悲鳴が聞こえてきたのは。

 

 

 


 

 

 

 往来で遺体が発見された。

 

 どうやら日が昇り、人が出てきた事で大きな騒ぎになったようだった。何があったのかとすぐに駆け付けたは良いが……そこで見たものは、俺の想像を超えていた。

 

「なんだよ、これは」

 

 首元を刺し貫くような傷からは未だに血が流れ出ていて、そこが致命傷になっているのは明らかだ。が、そこはまだ良い。

 

 問題は。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「酷えな…….」

 

 わらわらと集まってきた人だかりの奥から見ているだけにしろ、その凄惨さは誰の目にも明らかだった。幸か不幸か死体なら見慣れてる俺にとっても胸焼けのするような光景に唸っていると、付いてきていたマクニアが呆然とした顔で呟いた。

 

「そんな、アッシズ。あんたまで……」

 

「あの髭面とは知り合いか?」

 

「ああ、人間の中じゃ私の知る限り一番の鍛冶屋だ。飲み込みが早くてね、ドワーフにも引けを取らない職人だったんだけど……」

 

「こんな事が続いてるってのか、畜生」

 

 遺体の状況を遠目に見る。やはり死因は首元の傷で間違いなさそうだが、だとするとあの両腕は何だ? 腕を落としてから殺さないといけないなんて状況も考え難いし、逆さに吊られているのも不可解だ。

 まるで()()()()のような殺され方に眉を顰めていると……紫色のローブを羽織った男達が数人、人の山を掻き分けるように進み出てきた。

 

「あいつらは?」

 

「……ここらで崇められてるサラマンダーは武人とやらを重んじる性格でね、一口に司祭といっても腕っぷしが必要になってくる事もあるらしいんだが」

 

 なるほど、確かに腕利き揃いみたいだな。ヨロギ村を守っている本職の戦士も前世を生きてた俺からすりゃ十分凄いが、たぶん奴らはそれ以上だろう。あれのトップがあのエリックってのは納得だ。

 

「ここの司祭は聖職者であると同時に警邏隊も兼ねている。治安維持に一役買っているってわけさ」

 

「ん……なるほどな、まあ大体分かった」

 

 余所者の俺がこの場にいたって良い事は無いだろうし、変に目立つのもいい加減に避けたいところだ。場を素早く仕切り始めた司祭団を視界の片隅にして、俺は後ろ髪を引かれながらも場を後にした。

 

 

 


 

 

 

(これが噂の殺人ってやつか……)

 

 明らかに常軌を逸した凶行。ただの辻斬りならともかく死体をわざわざ晒し上げるような殺しなんてのは生半可な事ではない。何らかの目的が無くては説明が付かない事だ。

 歩きながら改めて周りをよく見れば、昨日は気が付かなかった町全体の暗い雰囲気が何処となく漂っているのをはっきりと感じられる。表向きは活気に満ちた動きのある光景だが、そこまで広くない共同体でこんな事が続けば不安が募るのは当然だろう。

 

「なあ、マクニア」

 

「……何だい?」

 

「あれこれと考えてはみたけどさ、結局、何も分からない事について考えてる時間なんてのは無いって事がよく分かった」

 

 そう、時間が無い。

 こうして人が死んでいくのを指を咥えて見てるってのもありえないが、そもそもローレンスに与えられたのは今日の夕方、日没まで。考える時間が足りていない以上、それまでに他の手段を探す見込みはゼロに近いだろう。

 

 アイツの言う通りに動くってのは不安だが……それでも奴らは何かを知ってる筈だ、絶対に。

 

「お前は連れていけない。でも俺らは行くよ」

 

「……そうかい」

 

「ああ。……確かに、もう戻ってこないかもしれない。お前から離れていった二人に倣えば、本当の事を知った俺らが同じように行っちまわないなんて保証はどこにもない。だけど、これだけは言える」

 

 いくら、言葉を尽くしても。

 伝わらない時っていうのはある。それが芯の無い台詞なら尚更だ。だから、何の根拠も無い俺の言うことに長ったらしい御宅なんてのは必要ない。

 

 

「任せろ」

 

 

 ああ、こう見えて結構怒ってるんだぜ、俺も。こんな現場を見せられて何も思わないほど冷徹じゃないし、尻尾を巻いて竦み上がるほど場慣れしてない訳でもない。

 殺された人達は、今日これから死ぬと分かってて殺されたんじゃあない筈だ。俺が殺してきた魔物の中には負けた事に納得しないまま死んだ奴は一人もいなかったし、そんな奴らに俺は常に殺される覚悟をしながら戦ってきた。たった一度の例外も無くだ。

 

 自分の戦いを正当化する気は無い。だがそれでも……()()は俺のやっている事とは違う。戦う理由は、それで十分だ。

 

 この町の闇を暴く決意。新たな目的を胸に刻んでいると——ふと、ある事に気が付いた。

 

(あれ……プロメスティンは……?)

 

「……? 連れさんなら私の家にまだいると思うよ」

 

「…………。」

 

「いや、出る時一緒に来ないのか聞いたんだけど……外の騒ぎより家の物を漁るのに興味があったみたいだから……」

 

 

 まあ、何から手を付けるにしろ……あの馬鹿の回収が先決か。

 

 

 


 

 

 

 夕刻。

 斜陽が目の奥でざわつく時分、どうにかプロメスティンを引っ張り出してきた俺は時計台を前にして立っていた。

 

「行くぞ」

 

「はい」

 

 アーチ状に積み上がった石の入り口を潜れば、室内は簡素な受付所のようになっているようだった。

 隅に観葉植物の鉢植えが二、三立ててある以外は特段色のない空間。カウンターの奥に階段が見えるが、そこを通るのには断りを入れる必要がありそうだ。木製のデスクを前に忙しそうにしている数名の男女に声をかける。

 

「ローレンスは居るか。会う約束をしていた者だ」

 

「え? あー……少しお待ち下さい」

 

 手紙のような物に何かを書き込んでいた男が受け応えてくれた。せわしなく書類を捲る手を止めずに日程の確認でもしているのであろう彼に、俺は何となく声を掛けた。

 

「立て込んでそうだな」

 

「はぁ……まあ、最近は色々と物騒ですからね。連日こんな感じですよ。っとと、こっちか?」

 

「ローレンスの奴がああだと下も大変だろう。あの秘密主義には参ってるんじゃないか?」

 

 それとなく探りを入れてみるが——意外な事に、男は即座に首を横に振った。

 

「確かにそういう気はありますが、僕達はあの人を信じてますよ」

 

「ふん?」

 

「長は、この町の誰よりも賢い方です。きっと多くの問題を抱え込んでおられるのでしょうけど、それを僕達にも話すべきではないと決められたのなら。ここの誰にだって文句は言えません」

 

 もちろん、助けになれないのは少し——悲しいですが。

 

 そう言いながら彼は、控えめな笑顔を浮かべたまま階段に続く仕切りを開けてくれた。

 

「はい、確認できました。どうぞお気を付けて」

 

「……ああ、ありがとう」

 

 デスクの横を通り抜け、石造りの階段をコツコツと上がる。黙って足を動かしていると、難しい顔をしているのが分かったのだろう。プロメスティンが話しかけてきた。

 

「慕われてましたね、彼女」

 

「ああ」

 

 この町にいる全員がそうだとは思わない。朝に感じた暗い雰囲気からすれば上への不信感はどうしても拭い切れていないはず。現に妹分だったマクニアにさえ腹を探られる始末だが……しかし。

 

「どうも奴の考えに手が届かねぇ。単なる秘密主義なのか、それとも」

 

 気味の悪い感覚が喉のとこまで突っ掛かってるみたいだ。今の俺らに出来る事といったら奴が何を隠していると知っても驚かないでいるように腹を括るぐらいしか無いだろう。

 何にせよ……考えてる時間すらもう残されてはいない。人目を気にして羽根も出せないってんで空を飛べずに螺旋階段でへばっているプロメスティンを一応気にかけながら歩き続けていると、とうとう出口が見えてきた。

 

「入るぞ」

 

「どうぞ」

 

 へなちょこ天使には何とか息を整えてもらいつつ、俺は中から聞こえてきた声に従って扉を開けた。

 そうして見えたのは——下の階とそう変わりない、静閑な一室だった。中央の机には肘を突いて物憂げな顔をしたローレンスが座っている。何やら人の顔が貼り付けられた紙を透かすようにして見ているようだが、ひとまずは気にする事でもない。それよりも……

 

「エリックはどうした? てっきりあいつも居るもんだと思ってたが」

 

「そこに転がってるやつだよ」

 

「あ? ……うおッ!」

 

 ぞんざいに指された方向を見ると、そこには頭から布をかぶった大男がソファの上に寝そべっていた。

 ぐったりと脱力していて昨夜の面影も見えないが、ローレンスの言うところによると”それ”がエリックのようだった。紫金のケープも羽織っていないようだし、これがオフの格好なんだろうか。

 

 休憩中の鳶職(とびしょく)みたいな服装もあるし、でろでろと流れたままになっている黒髪が見えなければそうとは気付けなかったぐらいだぞ。何があったのか問うまでもなく、こちらに視線を向けた黒小人はこう言った。

 

「随分とお疲れのようだ、そのまま寝かせてやっておくれよ。頭に何か乗っけてないと眠れないのは昔からなんだ」

 

「そ、そうかよ……」

 

「これが話に聞くサラマンダーの契約者。寝ている隙に色々と実験させて欲しくはありますが……」

 

「お前は黙ってろ」

 

 まったく、つくづくここには変人しかいねぇのか。話が一向に進まないじゃねーかよ。

 前途の多難を予期してため息を吐く俺を憐れとでも思ってくれたのか、この町の首領は場を取りなすように切り出した。

 

「……じゃ、単刀直入にいこうか。まずは君らがこの町に来た理由を聞かせてくれ。話はそれからだね」

 

 ここで無闇に要求を突っぱねるような事はしない。痛くもない腹を探られた所でってのもあるにはあるが……仮にも一処のトップとして、余所者に対してするには当然の質問だと俺も思うからだ。隣のプロメスティンと頷き合い、これに関しては正直に答える事にした。

 

「ちょっとした研究の一環でな、ゴルド火山に用事があるんだ。うまくいけば人間が魔法を自在に扱えるようになる方法が確立できる」

 

「! ……それは、また大きな話が出てきたもんだ。流石は『東方の賢者』ってことか」

 

「いや、理論を考えたのはコイツだ。今は実証を兼ねた実験に出てきてるってとこだな」

 

 黙れと言われたからか律儀に口を閉じたままにしているプロメスティンの頭をぐりぐりと撫でながら間違いを訂正する。公になっている功績は事実全てが俺に由来するが、それ以外の全てはこいつに頼り切りだと言っていい。少なくとも今はまだ、な。

 

「……ふむ、なるほど」

 

「ま、俺たちの素性に関してはそんな所だ。ゴルド火山でゆっくりと実験をさせてくれりゃそれでいい。——で?」

 

「分かってるよ、今度はこっちの番だ。さて、何から話せば良いもんかね……」

 

 いよいよだ。今から聞く事が虚であれ実であれ、それによって俺らが前に一歩踏み出すのは確かなはずだ。神妙な顔つきで俺たちに向かい合い、その重く閉ざされていた口がようやく開かれる──……

 

 

 

 

 

 

「マクニアを嫁に貰ってくれんか」

 

「は?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……はぁ?

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