あゝ楽しんであれ、もんくえ世界津々浦々   作:点=嘘

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第24話

「何が言いたいんかっつうとだね」

 

 衝撃。

 

 まずあったのはそれだった。真面目くさった顔から飛び出てきた意味のわからない台詞に俺とプロメスティンが二人揃って目を点にしているのにも一切構わず、こう続く。

 

「この町が”何か”に攻撃されてるのは知れているんだよ。だけどそれが結局のところ何なのか……ウチらにもさっぱり分からん! のだということ」

 

「はぁ」

 

「で、君にはマクニアと結婚してほしい」

 

「なんで??」

 

 マジで何を言ってるんだこいつ。話の流れが滅茶苦茶すぎ……いや、なんかこれ既視感あるな。

 

「どうしてこっちを見るんですか」

 

 自分が知ってる事は人も理解してると思い込んで話が三段飛ばしくらいになるやつ、こんな身近にも居たわ。まさかの似た者同士かよ。

 だとすると目の前のこいつも相当に面倒くさい奴ってことになるが……

 

「なんで……その、マクニアと一緒になんかならないといけねえんだよ」

 

「……イヤか?」

 

「そういう問題じゃねえだろ!? てめえらが火種の出所も把握できてないような情けねー連中だってのがこの話と何の関係があるっつってんだ!!」

 

「これは酷い。重症ですね……」

 

 ぶん殴ってやろうかなこんちきしょう。一度ズレだすと延々話が繋がらなくなるのがこいつらの悪い所だ。あとプロメスティン、死んでもそれをお前が言うな。

 

 ……そんなこんなで。

 流石に言葉が足りないのを自覚したのか、ローレンスは改めて説明を再開した。できるんだったら最初ッからそうしろよな。

 

「なに、話は簡単さ。どんな形であれウチの家と繋がりを持ってほしくてね」

 

「……繋がり、だと?」

 

「そう。ウチらの”敵”がどちら側にいるにしろ、向こうの動きは必ずそれで変わる筈なんよ。この町の外から内側にかけてまで影響力のある君が私と手を組んだと知られりゃ……悪くても殺しの手が緩まるぐらいはしてくれるだろうさね」

 

「…………」

 

「どうすれば君を上手く動かせるか。それを今まで考えてみたけど、これが一番だろうと思う。——どうだい、この町に救いの手を差し伸べてみるか?」

 

 救い、という単語を口にする割には動きの無い表情。そこから俺が抱いた印象は……

 

 言うほどにも興味が無さそうだ、ということ。

 

 昨晩の言葉を思い出す。彼女は余所者にまで多くは求めないと。この町にいるエリック以外の誰も遣う気は無いのだと。

 それを考えるなら——ローレンスは俺が受けようが断ろうがどちらでも構わないと心底では思っているのだろう。ということは、つまり。

 

「嘘だな」

 

「?」

 

「いや、敵が何かも分からないってのは嘘だ。少なくともそこだけは確実だろうよ」

 

 確信をもってその事を指摘すると、目の前の相手はやはり動きのない表情で鼻を鳴らした。

 

「どうしてそう思う」

 

「簡単だ、本当に何も分かってない奴はもっと形振り構ってなんかいられない。求められるものは何だって求める……お前は、相手が何かを知った上でこの件を片付ける算段まで立てているんだろ」

 

「ふむ」

 

「だからそりゃ、どのみち事が収まるのを予見しておきながら『ついでに適えばいい』程度の腹積もりでしかない」

 

 その算段に俺が巻き込まれるのは構わない。たとえ腹の中が見えずとも、”部下に信頼を寄せられる長”ってお前の側面になら賭けてやっても良かったんだ。

 

 だけど。

 

「……どういうつもりにしろ、何も知らさずにいた妹分を()()()()()()()()()()体よく利用しようって? んなやり方に協力できると思ってんのか」

 

「…………」

 

「お前と手を組む価値は無い。時間の無駄だ……おい、帰るぞ」

 

「え、あっ、はい」

 

 まだローレンスが何かを隠しているのは確かだ。

 だがそれを探る気も失せた。こんな提案しかできないような奴と一緒になって何かを成し遂げられるはずが無い。

 

「敵の名は」

 

 胸にむかつくものを抱えながら下階に降りる階段へと向かい始めた——その時。

 

 

 

()()()()()()

 

 

 

 まるで、昨晩の意趣返しかのように。

 出口に差し掛かっていた俺の足は、物の見事にピタリと止められてしまった。

 

「何だって……?」

 

「分かって貰えたかい。ウチらが頑なに口を閉ざすほどの理由……女神の御膝元からやって来た『東方の賢者』に、こんな話をしているってほどの現状の意味をさ」

 

 それは、ともすれば、この世界に来てから最も多く耳にした名前かもしれない女神の名。

 

 その影響力は計り知れず、故郷のヨロギ村でさえ俺の名前を凌ぐほどの存在だった。

 慈悲深き創世の女神——そう各地で言い伝えられているイリアスを俺は、その真意さえ定かではない不気味な存在というような形で認識していた。

 

 だがしかし、その、神の敵。

 

 それじゃあ何なんだ。目の前にいるこいつは……いや”この町”は、一体何だっていうんだよ。

 

「事の始まりは、もう100年と少しばかり前になるのかね」

 

 厳しい顔で目を細めているプロメスティン——を俺は横目に掛けつつも、滔々と語りを続けるローレンスの話に思わず聞き入ってしまう。

 

黒小人(ドワーフ)。当時から竜族に勝るほどの鍛治の腕前と技術を持って生まれたこの種族は、見ての通りのこの矮小な肉体にある種の行き詰まりというもんを感じていたようだ」

 

 そっと、自分の胸を片手で抑えながら。

 

「男を惑わす色香も、力強くはあれども獲物を追い詰め組み伏せるには機敏さに欠く肢体も——他の魔物に比べればだけども——劣ると言って差し支えあるまい。このままでは絶滅、とまでは行かずとも”種としての先細り”はいずれ避けられまいと、ウチらの先祖はそう考えたようだね」

 

 傲慢、だったのだろうと。

 そう前置きをした上で続く語りは、じっとりと重みを感じさせる憂いを纏っていた。

 

「当時の頭領は栄華を求めた。とある人間の一族にウチらを習合することを選び、それを擁したのさ……その結果がこのザマだ」

 

 手元の書類をひらひらと見せてくる。何名かの見慣れない顔が載っているようだがその中には——今朝方に死体となって吊るされていた、あの髭面の男の顔もあった。

 

「我らが『ドウェルガ』は繁栄を極め——神の所有物たる人間を取り込み穢した一族は、その怒りに触れた。気が付いているかどうかは知らないが、相次ぐ変死沙汰の被害者は軒並み”有数の技術者”ばかりでね。罪の象徴たるドワーフの叡智を、奴らは丸ごと消し去ろうとしているってわけさ」

 

「…………」

 

「この事実は、この町の長を引き継ぐ者にのみ伝えられてきた秘密。いずれ来る崩壊は決して知られること無く、こうして今代に芽を吹いた」

 

 ……それで。

 それで、どうしろってんだ。情けないようだがここまで事が大きいとなると俺なんかに出来る事はいよいよ限られてくるぞ。

 

「もし君がイリアスの走狗に収まる器じゃないというなら、本意を隠すこともない、頼みがある。——この町からマクニアのやつをただ連れ出してやってほしいんだ」

 

「……は」

 

「天界との戦いになるだろう。小競り合い程度で済めばいいものだけど……あれの師匠が一番に殺されたのは、知っているだろう。マクニアも近いうちにきっと狙われる。魔王様の助力を仰ぐほどの事態になるとすれば、ここもタダでは済まないだろうから」

 

 掠れるような吐息を俺が漏らしたのは。

 

 その『姉らしい思い遣り』の台詞に驚いたから、というのもある。

 ここまで話を聞けば最初の結婚うんぬんからして何となく話は見えかけていたが、そう来たか、という気持ちで受け止めていた部分は確かにある。

 

 だが、これは。

 

 

(何だ……その、顔は)

 

 

 ()()()()()()()()()()()()

 

 この話を初めてから今に至るまで、全く変化の無い無表情。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()まで感じさせるようなそれは——

 

(まだ、嘘を吐いている?)

 

 何を、何処を、何のために。話にはほんの些細な違和感も感じなかった。交えたとしても、だから大きな嘘ではないだろうと直感したが。ぐるぐると脳が空回りを始める、まるで気味の悪い感覚に思考が絡め取られていく——

 

(……あ)

 

 衣服を、くいっと引っ張られる感じがした。

 視線を向けると——人差し指を唇の前に立てたプロメスティンが、口の動きだけでこう言った。

 

 

(ま、た、あ、と、で)

 

 

 ハッとした。

 そうだ、こいつは——天使だ。

 

 天界の事情について直接的に通じているという唯一無二。奴の話に矛盾か何かを見出せるとすれば、これより心強い当ては無い。

 

(信じて、いいんだな)

 

 示し合わせたように視線を交わし、無言で頷く。

 なら俺がやるべきは……今この場での落とし所を決めてやる事だ。

 

「……分かった。どう理由を付けてやりゃいいかは後で考えるとして、お前の妹分はきっと安全な所まで連れ出してやる。本人が望むならな。ただ、こっちの用事を済ませてからだ」

 

「当然。用立てる物があったら保障はしよう。確かゴルド火山に向かうんだったか、そうだね……」

 

 ちらりと、ソファに寝転がる長髪の男をローレンスは見やる。

 

「こうしよう。こっちは適当な火山までの足を手配して——ウチのエリックを君らの護衛に付ける」

 

「!」

 

「あれは役に立つ男だよ。この大陸の北を歩いていくってんなら特に、手元に置いて絶対に損はせんだろうね」

 

 かたりと席を立ったローレンスは眠っているエリックの側に屈むと、布を被ったままの頭を労わるようにそっと撫で始めた。

 

「良いのか? お前らが組んでたのは……」

 

「ああ、殺人を食い止めるために裏で色々と動いてはみた。けれど芳しい結果は終ぞ得られんかったよ……闇雲に駒を触るよりかはここいらで一度手元から離してみるのも良いだろう。そんな気がするのさ」

 

「…………」

 

「その代わり——きっと無事に戻ってきたらマクニアの事は頼んだよ。なに、ウチらも負けるつもりは無い。戦いになれば被害は出るだろうが、魔王様の御力を頼ればどうにか退ける事ぐらいはできるだろう」

 

 そう言ってエリックの頭にやっていた手を止めると、ローレンスはこちらに向かって掌を差し出してきた。

 

「契約成立だね。ま、事の大きさに反してささやかな取引に少々拍子抜けする思いもあるだろうけども……表立って魔族に与し天界を敵に回せとまでは言えないからね。そんな物だよ、憂懼めされるな」

 

「……分かった。お互いうまくやっていけるといいがな」

 

 まだ、表情は動かない。

 拭いきれない一抹の疑念を抱きながらも、俺はその手を握り返すのだった。

 




ローレンスの言ってることは嘘と本当がおおよそ半々ぐらいでしょうか。本当の方が割合としては多いかな…?
本来なら握っている情報量が違いすぎるので主人公くんサイドはこの話を鵜呑みにするしかないのですが、人間と一緒に旅してる天使とかいう異常すぎる存在のおかげである程度までの答え合わせができてしまうという事態にもなっています。いやほんとイレギュラーが過ぎるな……。
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