あゝ楽しんであれ、もんくえ世界津々浦々   作:点=嘘

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少し間が空いてしまったので前回のあらすじ!

マクニア、列車に乗って乱入

プロメスティンさん、臨時で運転務めることになる

エリック、マクニアの同行しぶしぶ認める

ウィルム娘、執念で列車に張り付いてきてしまう

またしても何も知らない主人公くん、確実にやばい事に巻き込まれている


第31話

 

 

「は、はあっ……まだ、終わってない、ぜ……」

 

 機関車の後部にしがみ付くのは異様な執着が覗く瞳のウィルム娘。しかし深手を負ったその首元へと、エリックは冷ややかな剣先を突き付けた。

 

「……諦めろ。そんな体のやつに負けてやれるほどオレは弱くない」

 

「くくっ……かも、なぁ」

 

 いくら俺にだってあれだけの重症にこの間合い、どちらが圧倒的に有利かは目に見えている。ただ何を企んでいるのか、不敵に笑うウィルム娘の真意は一体——

 

「だ、がよォ……そんならそれで、()()()()()()()()()()()()()? 残った力でも、ここの鉄板の一枚や二枚……抜く事ぐらい……訳は、ねェんだぜ」

 

「ッ!?」

 

 その言葉に流石のエリックも身を強ばらせた、次の瞬間だった。

 

「かあッ!!」

 

 捲り上げるような爪撃があった。

 僅かな隙を見逃さず突き付けられた剣先を弾くと同時、風の音が鳴りはためく列車の真上で一匹の竜がエリックに踊り掛かる。

 

「しッ────」

 

 ギャリギャリん!! という剣戟の音響に俺は一拍遅れて気が付いた。

 ウィルム娘の接近を目で追えなかったのだ。それほどの奇襲を防いだエリックも凄まじいが、不意を打たれて体勢の崩れたあの状態では仕掛けた側の優位は止まらない。

 

 冷や汗を散らしながら距離を取る司祭、床となる鉄板を蹴り後を追う飛竜。その構図が変わらないまま車両の後部からこちらへと徐々に二人が近付いてくる。

 

「くっ、待ってろ! 今そっちに行く! お前らはそのまま下にいろ、いいな!」

 

「は、はい!」

 

 形勢は不利、なら加勢に行かないって手は無い。マクニアもプロメスティンも機関室から離れられない今動けるのは俺だけだ……あんな戦闘に割って入れる自信は無いが、残りの魔力を使えば後ろからでも()()()()はある筈だ。

 

 ……逸るなよ、俺。未だに高速で運行する機関車をエリックほど簡単に登れる訳がない。背筋の凍るようなスピードで流れていく地面から目を逸らしながら、ゆっくり、ゆっくりとだ。

 

「うっ、お……」

 

 ちくしょう、こんな世界に来てまでどうして映画のワンシーンかってぐらいのアクションを要求されなきゃあならねぇんだ。

 手を滑らせたら確実に死ぬ。その想像を必死に堰き止めながら、俺は天井の縁へと手を掛けた。

 

 

 


 

 

 

「ら、あァッ!!」

 

「ぐっ!」

 

 予想外の一撃が飛んできた。ぐるりと勢いよく体を半回転させたウィルム娘から繰り出されたのは()()()()()()()()

 

 通常の体術では警戒しきれない動き——しかし流石と言うべきか、一流の戦士の反射神経は紙一重の跳躍にて攻撃を回避。飛び退き、手を着き、そして鮮やかな側転を伴う体捌きで着地した。

 

「……っ!?」

 

 しかし猛攻は止まらない。ウィルム娘は既に着地地点へと次打を()()()()()——サマーソルト(前方宙返り)。取られた距離をそのまま詰める跳躍と共に繰り出され、回転の威力を乗せた渾身の蹴りが稲妻のように突き刺さらんと襲い掛かる。

 

(ぐっ……()()()()()()()()()()()()()! 受けるしかない!!)

 

 横に動けばどうにか避ける事はできる。だがそうした場合車両へのダメージが未知数だ——最後の移動手段をみすみす潰させる訳にはいかない。

 

(最初ヤツが言った……『いつでも道連れにしてやれる』、あれも半分は俺の隙を作るためのブラフだ。今こいつの目的は()()()()()()()()()()()()()……純粋な戦いでケリをつけに来ている。だがその為に”こういう”手段を取れないかっていうのとは話が別だ……! 容赦無く勝ちに来てやがる!!)

 

 ガづんッ!!! と。

 

 余波で周囲に風圧が発生するほどの一撃をエリックは真正面から受け止めた。何の捻りもなく打ち下ろされた愚直な(かかと)が大刀の刃と激突し——硬い鱗と筋肉に覆われた右足は見るも無惨な程に深く抉れ、硬質な感触は剣が骨にまで達した事を明確に示す。

 

 だがそれだけの重撃、食らった方も当然タダでは済まない。

 

「っ、ぐ……」

 

 返り血か、(さて)は頭部からの出血か。

 顔の上を幾筋と伝う赤。その両脚は確かに床を踏み締めていたが、一方で虚ろな目をたたえる頭部はわずかに揺れ始めていた。

 

 ——今なら、勝てる。

 

 そう判断したウィルム娘の焼け爛れた口角が吊り上がるがしかし、それすらも束の間だけの事だった。

 

()()()()()()!」

 

「ッ……な!?」

 

 ()()は不味い。この傷付いた体で先ほど見たあの攻撃を受けるのはリスクが高すぎる。

 飛びつけば目の前の司祭一人なら簡単に押し倒せるに違いない、しかし()()()の冷静がそれを許さなかった。獲物の肩越しに見えるは長杖を横薙ぎに振るう魔術師の姿——

 

 

 

フロスト•フロウ!!

 

 

 

 選択肢は無かった。少なくない量の血液を足首から滴らせながら真上へと飛翔する。最短最速で距離を取るにはこれしか、

 

 

 

 

 

 

 怒気が。

 この喉の肉を圧し分けて(あらわ)れた。

 

 

 

 

 

 

「…………〜〜ぁァ?」

 

 離れて今更(ようやく)追い付いた理解、それによって(にわ)かに脳が沸騰する心地すら錯覚した。

 だっておかしい。視界の隅に捉えたばかりでも一度見れば身に焼き付く、同族の多くを覆い尽くした凍てつく爆氷のあの気配が。

 

 眼下に見据える光景の中に、影も形も見て取れなかったのだから。

 

 

 


 

 

 

「……上手く()()()()が効いたらしい。お前がしてやられた分ぐらいは取り返せてりゃいいがな。ほら、立てよ」

 

「……ぐ、馬鹿。オレごとやれば良かっただろうが」

 

 何だこいつ。膝を突いていたもんで手を貸してやったってのに何つう言い草だ。

 

「大馬鹿。憎まれ口を叩いんてじゃねえ」

 

 前回の意趣返しとばかりに外に叩き出してやる真似をしてやろうかと迷ったが、どうやらそんな暇は流石に無さそうだな。

 遠く上空から射殺すばかりの視線で俺を睨み付けてくるウィルム娘の圧には正直言って肩が震えちまう。つくづく思うがこのステージは明らかに……まだ早い。今の俺にはな。

 

「……俺の腕じゃアイツを術で捉えきれねぇ。魔力も残り少ないしな……お前の力は最後まで必要だ、こんな所でくたばらせて(たま)るか」

 

「……そうかよ」

 

「ああ。だが行くぜ、あともう一押しだ」

 

 並び立つ。

 実力は伴っていないかもしれない。だが俺には俺でやれる事はある筈だ。残り少ない今の魔力で出来る事だけ考えろ。

 

 まず空中に飛び立たれては俺達から仕掛ける事はできない。故に、最も重要なのは相手の出方を窺うこの段階である筈だ。

 

「! あれは……」

 

「ああ、()()してやがる」

 

 気のせいじゃなかったか。エリックの指摘もあり、俺はウィルム娘が既に顔を上に傾けなくとも視界に入るぐらいに先行を始めている事を認識した。

 

「一瞬に勝負を賭けて来たな」

 

「一瞬に?」

 

「相手は竜の魔物だ、反射神経なら圧倒的に奴の方が上。オレらが乗っている機関車の速度に正面から自分のスピードをぶつける気だとすれば……」

 

 手のひらに握り拳をバシンとぶつけながら、

 

「始まるのは一瞬で決着がつく、超高速の戦闘になる」

 

「…………」

 

「……不意打ちでも技を当てられない、そんなお前の出る幕じゃないって事は分かるだろ。やっぱりお前は下がるべきだ」

 

「あー!? (あん)だとォ!?」

 

 諭すようなエリックの言葉は続く。

 

「あいつの異様な執着を誘導したのはオレだ」

 

「…………?」

 

「限界まで近付かせる為にそうなるよう仕向けた。だからアレはお前の邪魔立てに苛ついてはいるが、恐らく今でも狙いは一人だけだ。……負けるつもりはさらさら無い。ただ、オレを連れ去る事ができればもう奴は追ってはこないだろう」

 

 俺が馬車から落ちた後のことは知らない。だからそれが本当か嘘かも分からないが、ただ一つだけ言い切れる事がある。

 

「そうはいかねーんだよ、ここでホントにカッコよく死んじまわれたら困る!」

 

「はぁ?」

 

 ビシッ! と指を突き付けながら睨め上げてくる俺に結構本気で困惑してる様子のエリックさんに、鼻を鳴らしながらとある事実を突き付けた。

 

「どうせお前らはこれ以上首を突っ込むなと言ってくるんだろうがな、俺はドウェルガの例の件だって放っておいたまま帰るつもりは無いんだぜ」

 

「っ……何を言ってる。イリアス教圏から来た奴らが天使を相手に何ができるんだ」

 

()()()()()()。本当の犯人は——天使なんかじゃないんだろ」

 

「……!?」

 

 図星かよ。ったく、わざわざ話を面倒にしやがって……。

 

「近いうちに天界が攻めてくるってのは本当かもな。ただ例の殺し屋とは恐らく別件だ、違うか」

 

「……どうしてそんな事が分かる」

 

「んな事ぁ今はいいだろよー……だけどな、重要なのは。もしそのゲス野郎が俺の手に負えるような相手じゃなかったらだ、お前がいなくなったあの町で誰がそいつをぶっ飛ばすのかっつー事だよ」

 

 俺って奴は結局こうだ、肝心なところで人任せになっちまう。

 ただ、まあ。一人の人間をこういう風に引き止める助けになるんだったら、その弱さにだって納得ができる。

 

「お前は時々ほんっと憎たらしい事を言う奴だけどよ、俺が今まで見てきた人間の中で間違いなく一番すごい男だ。死なせたくはないし、あの町にとっても生きててくれなきゃ困るだろ。その為だったら、今この時だけだろうと少しぐらいは黙って協力されてろよ」

 

「……何だそれは、無茶苦茶な事を言いやがって」

 

 あまりにも強引な論調に呆れ果てて物も言えないといった顔になるエリックだったが。

 

 

 

(……?)

 

 

 

 沈黙のふとした拍子に見せた、その表情。

 一体何が目に止まったのか自分でもよく分からないが……

 

(何だアレは、気のせいか……?)

 

 言葉にするのがどうも難しい。一瞬だけ()()()()()()()()()()()()()、そういう何か妙な感じが……

 

「おい」

 

「っ、ああ」

 

「いずれにせよ時間がもう無いらしい。今にあの飛竜が十分な距離をつけて戻ってくるぞ。そんなに自分の命が惜しくないなら勝手にすればいいが、足は引っ張ってくれるなよ」

 

 何事も無かったかのように取り直したエリックの譲歩は願ってもない事ではあったが、今のは確かに何かが……いや、考えすぎか?

 

「何をぼさっとしている、ついて来い。迎え撃つのにこの位置は不味いからな、できるだけ前側で防ぎに行くぞ」

 

 いや、まずは目の前の事に集中するべきか。

 僅かに過ぎった不明な感覚を頭から追い出しながら、俺は最後の迎撃に向けて余計な思考を切り替えた。




※主人公くんの勘はよく当たる
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