あゝ楽しんであれ、もんくえ世界津々浦々   作:点=嘘

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第46話

 雄大に連なるゴルド山脈、その頂。

 

 暁色に燃え上がる夕焼けが山々を紅く照らす風景を一望できる、雲の果てにすら届くばかりの聳え立つ絶境にて。

 

「やはり此処、か」

 

「…………」

 

 先の戦いにより抉り取られた首筋の傷を既に塞ぎつつあるクィーンドラゴンは、久方ぶりに目に入れる友の背中へと声を掛けていた。

 

 サラマンダー。揺らめく炎をその背に纏う四大精霊の一角にして今回の騒動の原因とも言える彼女は、濛々と煙を吐き出しながら線路に沿って遠ざかっていく地上の汽車をただただ遠い目で眺める。

 橙に染まりながらこの地を去っていく黒鉄(くろがね)に果たして何を思うのか。数年という時をとある人間と過ごしたあの町へと帰還する列車にしかし、今や自分は乗っていない。そしてこれが正しく永遠の別れになるという事をサラマンダーは分かっていた。

 

「儂には一片の後悔も無い」

 

 どかっと、その隣に腰を下ろした竜の女王は言う。サラマンダーとて女王とは長い付き合いだ、言葉の裏にある意図ぐらいは読み取れる。

 かの契約者を殺したという結果に自分は何も後悔などしていない。()()()()()()()()()()? お前の選択次第では彼が死ぬ必要など無かった。できれば自分だってこのような手段を取りたくはなかったというのに、全てはサラマンダーが頑としてこちらの話を聞き入れなかったがためにこのような事になったのだ。

 

 その真意とは何だ? その決断をしてお前に欠片の後悔も無いと言い切れるのか? これだけの意味をただの一言と眼差しに込めて語るクィーンドラゴンに対し、サラマンダーは静かに瞑目する。

 

「あの男の決断に、私は力を貸し続けた」

 

「うむ」

 

「決して正しい道を歩いた男ではない。心を砕き、狂気に身をやつしていたと言ってもいい。だが、それでも私は、力を貸し続けた」

 

「…………」

 

「確かに正しい道ではない。だが何よりも恐るべきは……只でさえ危うい信念が自覚も無いまま捻じ曲がり、自らが選んだ道をも踏み外してしまう事だ」

 

 一歩間違えばそうなる恐れが奴にあった、と?

 そう目線で問うクィーンドラゴンに、しかしサラマンダーは首を横に振る。

 

「結論から言えばそうはならなかっただろう。私を信用しているが故に柄にも無い人質の真似事などでお前が私を繋ぎ止めようとしたのと同じように、私の中でエリックはその覚悟を信ずるに足る男となっていた。奴の信念は何があっても曲がらなかったろう……だが、それでも」

 

 

 力を貸し続けた相手の行き着く先を、この目で見届けない訳にはいかなかったのだ。

 

 

 その言葉に竜の女王は眉を顰める。これは果たして責任感ゆえの決断か、それともサラマンダー自身の弱さなのだろうか。

 

「奴の選択は私の責任でもある。だからこそ、()()()()()()()()()()()()()()()()私は何よりも恐れたのだ」

 

「…………」

 

「これを私の、傲慢だと思うか?」

 

 幾星霜を生きた自然の化身にして、自らが生まれる遥か前より武人としての道を歩んできた尊敬すべき先達かつ好敵手。

 そんな彼女は今や単なる友としての弱々しい微笑みを浮かべながら、さも不安そうに問い掛けていた。

 

 そう、それは罰を恐れる子供のような表情で。

 

 

 

 

 

 

 

「……めんどくせぇなあ」

 

 

 

 

 

 

 

 しかしそれはそれとして、クィーンドラゴンはその懊悩を真正面からバッサリと切り捨てた。

 何を言われたかを一瞬理解できずに呆けた顔を晒していたサラマンダーは当然の事ながら燃え上がるような勢いで顔を赤らめて怒り出した。全く文字通りにだ。

 

「……めっ、めんどくさいだと!?」

 

「だってそーじゃろーが! どうせ素直に小僧から離れったって後からめそめそ悩むくせしてなーにを言っとる! あんなもんを誰がサッパリ解決できるかっつうの!」

 

「うッうるさい! 久々に会えたから人がせっかく腹を割って話したんだぞ、それを言うに事欠いて……!」

 

「あーはいはい、きみだって人の子なんじゃから時には間違える事もあろう! 神様でもなければちょっとした事で不安になったりもする! 次からはきちっとすりゃええ話じゃないか! でなけりゃ酒でも飲んで忘れちまおうぜ!」

 

「なんだその適当な励ましの定型句は! それに私は人の子でもなければ神様だって一応やっていた身だぞ、分かってて言ってるだろう!? だいたいお前は昔からそういう所が……!」

 

 ああだのこうだの、段々と話が逸れていってるのにも気付かず二人の口喧嘩は白熱していく。

 

 二人の仲を知らぬ者が見れば目を点にしてしまいそうな光景だったが、むしろこれが本来の彼女達の日常であるとも言えた。サラマンダーにとっては特にかもしれない。

 ジメジメとした皮肉の応酬が主となるどこぞの水精と違い、真っ向から悪口をぶつけ合うような気質に合った喧嘩ができる仲間というのは彼女にとって本当に貴重な存在だった。その関係はその関係でどうなんだと思われる事もあるが、友と噛み締めるそのやり取りは紛れもなくサラマンダーが日常に帰ってきた事を実感させる象徴だったのだ。

 

「はあ、はあ……瀕死のババァがくそ生意気な……」

 

「ふう、何をほざくか……ふう、儂よりずっと年増の癖をしてからに……」

 

 そうして暫く、互いに息が切れて悪口の鋭さも衰えてきた頃合いに。クィーンドラゴンはサラマンダーに指を突き付けてこう叫んだものだった。

 

「あーもう小難ッしいことをウダウダ考えてるようじゃからのう! 儂の前で延々愚痴を垂れる前に一つだけハッキリさせておけ!」

 

「なっ」

 

 

 

「最後までエリックの傍に居続けたことを、きみは心から後悔しておるのか!?」

 

 

 

 そんな筈はない。

 

(…………)

 

 唐突に向けられた問い掛けに対して()()()()()()()()()その一言が、今のサラマンダーにとっての全てだった。

 初めは遠からずに訪れる”その時”の、ドウェルガの決断を見届けるまでのつもりで就任の儀式に訪れた司祭長と契約を結んだ。だが祀神としてあの町を守護し、エリックと共に駆け抜けていったあの日々は彼女にとって本当に楽しい思い出となっていた。

 

 彼らが真実を知るまでの、あの三人組との日々。

 

 最後まで彼に寄り添い続けた事は紛れもない自分の意思だ。ならばそこに後悔などある筈はない。

 

「……そう、だな。確かにそうだ。そんな筈はない」

 

 ぽつりと、サラマンダーが呟いた直後。

 まるで糸が切れるような勢いで仰向けに、クィーンドラゴンが音を立てながら倒れ込んだ。

 

「ああ〜……んッとに疲れた! 最後の最後の大仕事に片が付いて気が抜けたわい、儂ゃもう寝るぞ! こっから何年かは起きんから五月蠅(うるさ)くするなよ!」

 

「……そうか、もうお前が女王を続けるのもこれが最後なんだな」

 

 少しの沈黙の後——サラマンダーは”ちょっとした悪戯”を思い付いたような顔をして静かに囁いた。

 

 

 

「お休み、桜蘭(おうらん)

 

 

 

 意識の狭間に呼び掛けられた一言に、竜の女王は少しだけ驚いたように片目を僅かに開く。

 

「……久しく、その名で呼ばれる事は無かったのう。長く、本当に長く……」

 

「お前は十分に一族に尽くしてきた。後の余生は好きなように過ごせばいい」

 

 再びの沈黙が二人を包む。夜の帳が下り始めた紫色の雲居に星が瞬く中、ただ穏やかな時間が過ぎていく。

 

 

 

 

 

「あとの事は、頼んだぞ」

 

 

 

 

 

 その一言に思わずサラマンダーは振り返った。

 

 死闘を越え、斜に奔る赤黒い傷を深く首筋に残した女はどこまでも穏やかな、しかし朧げで虚ろな面貌のままに目を閉じていて。

 

「桜蘭?」

 

 

 

 

 

 ◼️◼️◼️

 

 

 

 

 

 前首長のローレンスが投獄された。

 

 その報せはドワーフ一族の歴史に隠された真実、そして司祭長エリックの死と共にドウェルガを隅まで駆け巡る事になった。ローレンスの従妹として知られているマクニアの告発によって明らかになったそれは、些少の時も置かずして人々を混乱の渦に叩き込んだのだ。

 

 露見した天界の脅威に対する恐れだけではない。遂に明るみに出た殺人者への怒りがあった。

 今回の件はドワーフ族にとって最も尊敬される職人らの命と幾多の技術が失われたというだけではない。法を執行するべき立場の彼らに家族や友人を殺された者達……誰に向ければいいのかも分からないまま抱き続けていた彼らの計り知れない怒りは、死んだ司祭長に代わり沈黙を貫く元首長たるローレンスへと容赦なく向けられた。

 

 残された彼女の部下と司祭団が混乱を収めようと動いたが、その腐心も虚しく遺族らによる暴動が起こるのも時間の問題かと思われた。

 ドウェルガを引き裂くというローレンスの目論見は”本質の見えない不安”を裏で管理する誰かの存在が無くては意味を為さなかった。殺人の元凶や天界という外敵の存在が明らかになった今、人間とドワーフは混然とした反発と結束に支配されつつあった。意図的に溜め込まれた不信と恐怖が最悪の形で暴走しようとしていたのだ。

 

 だがその時、誰も予想しなかった事が起きた。

 

 ドウェルガ時計台、地下留置場。そこに拘束されたローレンスの元へと憎悪をもって殺到しようとする人々、司祭団を始めとする体制側。両者の衝突がまさに起ころうとするその寸前だった。

 

 その場にローレンスの従妹であるマクニアが割って入り、地に擦り付けるまで頭を下げたのだ。

 

 

 大切な人を失った気持ちはよく分かる。

 

 自分もそうだ、多くの友が殺された。

 

 だけど、だけど、私にとっては。

 

 それをやったのは、それでも家族で。

 

 今でも、家族で。

 

 

 叫び続ける、涙の混じったその声に人々は顔を見合わせた。

 護れなかった者達、奪われた者達。大切な両方を同時に失った少女は、頭を差し出すようにただ懇願をしていて。

 

 

 だからお願いだ、傷つけ合わないでくれ。

 

 これ以上、あの二人の為に血を流さないでくれ。

 

 だから、どうか。

 

 

 長い長い間、マクニアはただ頭を下げ続けた。

 彼女は多くの人々から慕われていた。常に快活で、面倒見が良く、努力を怠らない。その人柄を知る者は多い。それが誰よりも家族の様子を案じていたという事も。

 他ならぬ家族の罪を告発し、それを地に頭を擦り付けてまで庇い立てるのに彼女がどれほどの気持ちを押し殺しているのかを、自分達はどれほど理解しているというのだろう。

 

 不信は消えない。恐怖は収まらない。だがマクニアという少女の今を前にした彼らの、怒りを叫ぶ声。それだけは少しずつ小さくなっていった。

 そうして、やがて、人々が武器を下ろして立ち尽くすまでになったあと。

 

 

「…………」

 

 

 ふらふらと立ち上がった彼女は、時計台の地下へと降りる階段に真っ直ぐ歩を進めた。

 

 ごうん、ごうんと、正午を伝える鐘の音が遥か頭上の鐘楼より響く。マクニアは地下への階段をこつこつと一人で下りながら涙の跡が残る顔でぼんやりと、宙を眺めつつ思索に耽る。

 これで良かったのか、これしか無かったのか。もう遅すぎる、答えの出ない問いだ。

 

 辿り着いたその牢の中には姉が居た。拘束された時のままの姿で四肢を鎖に繋ぎ止められながらダラリと俯く彼女には何の意思も気概も感じられない。

 今の彼女が何を思っているかは分からない。ドウェルガを救う自らの計画が断たれ絶望しているのか、それともこれ以上の罪を背負う事が無くなったと心の底で安堵しているのか。

 

 もはや何も喋らない彼女から問い正す事はできない。きっとこれからも同じなのだろう。木偶のように動かなくなってしまった彼女からは、これからも、ずっと。

 

「姉さん」

 

 だから、だからこれは単なる独り言であり。

 

「やっぱり、この町を捨てて他のどこかになんて、とてもあたしは出来そうにないんだ」

 

 墓前に捧げる、祈りの言葉であり。

 

「だから、あたしは行かないよ」

 

 最後の決断だったのだ。

 

 

 


 

 

 

 マクニアが階段を上がり、立ち去って暫く。

 銀髪のドワーフは最後、ただ静かに目を閉じた。

 

 

 

 ◼️◼️◼️

 

 

 

 

 

「なあプロメスティン」

 

「何です?」

 

「これで良かったのかね」

 

「さあ……」

 

 ヨロギ村までの帰路、あの町から遠く離れたイリアス教圏のとある村落。

 

 結局治り切ることなく包帯に覆われたままの右脚を気にしながら、がらがらと揺れる車椅子の上で俺は朝焼けに目を細めていた。

 特大の混乱が容易に予想されるドウェルガではとても体を休められないだろうと判断した俺達はすぐにあそこを出発した。しばらくはここで傷を癒す事に専念するつもりだ。

 

 車椅子を押してくれているプロメスティンによれば時間さえ掛ければ完治するだろうとの事で、だからその辺りは特段に心配しちゃいない。

 

 ただ、それでも一つ気掛かりなのは。

 

「死ぬんでしょうね、彼女達は」

 

 明け透けすぎる台詞に頭が痛くなる。それをやるのが俺達の神様だっていうんだから尚更だよ。

 

 結局マクニアをあそこから連れ出す事はできなかった。あいつは、残された人達に寄り添うことを選んだから。

 心中なんて馬鹿みたいな真似はやめたほうがいいですよと、プロメスティンみたいなのは臆面もなくそう言ったがな……俺もあの時ばかりはマジでバカの口を黙らせてやりたいと思ったが……余所者の俺達には分からなくてもあいつにとっては、まだそこには数えきれないぐらいの大切な物が残されていたはずで。

 

 真実を知ってしまった上で彼女が決断した事に横から口を出すなんてのは、俺にはできなかった。

 

「…………」

 

 次第に陽が昇り、何人かの村人は目を覚まして外に出始めているようだ。

 俺の姿を見かけては決まって笑顔で頭を下げてくる。彼らは創世の女神イリアスの次に名高い賢者として俺を歓迎するばかりか、この脚の怪我を心配し、甲斐甲斐しく世話までしてくれる。曖昧な表情で手を振り返しながらも、俺はその長閑(のどか)な光景を妙な気分で眺めるのだ。

 

 この人達の暮らしを以前より豊かな物にしたのは俺かもしれないが——ヒトより遥かに強大な魔物なんていう存在が蔓延る世界で自分達は守られていると、毎日を安心して生きていけると。心の拠り所として教えを与えられ、安らかに日々を送っていけているのは間違いなく女神イリアスがいるからだ。

 だからこそ俺はその極端な教義に不信感を抱きながらも、イリアス教は間違いなく人間の味方ではあるのだろうと納得していた。少なくとも否定的に見てはいなかった。それは確かだ。

 

 だけど、今回の件はどうだろうか。

 

 人間に友好的かどうかなんて関係ない。ただ魔物と関わりを持ったというだけで果実の腐った箇所を切り捨てるように、鼻を摘んで汚れた部分を排除するように簡単に殺戮をしてみせる。

 神の善悪なんてのを推し量る方が傲慢なのかもしれない。少なくともこの世界ではそうだとされている。だけど俺は……

 

「なあ、プロメスティン」

 

「はい」

 

 近くに誰もいない事を確認してから、俺は言った。

 

「天使の立場からして、どう思う。例えばこれはお前らしく言えばだけどさ……真理ってやつを追い求めるのに、誰もが幸福で自由に生きられるよう努力するのに、人も魔物も無いと思うか?」

 

「当然です」

 

「ふはっ」

 

 即答だった。自分の生まれってのをあまりに考慮していない奴の回答で思わず笑いが漏れてしまう。

 神の考えが善悪で測れないように目の前にいる天使の考えもその基準に無いのだろう。差別することが悪だと思うから隔意を持たないんじゃなく、隔意を持つ理由が己の中に無いからこんなにも簡単に自由を肯定する。断言ができる。

 

 プロメスティンの頭の中にあるのは倫理ではない。生まれた時から周りに吹き込まれてきた価値観すら全て跳ね除けてきた異常な精神が生んだ、何者にも縛られる事のない彼女だけの判断基準。

 だから面白いのだと思う。だから俺は、こんな世界でも、自分の人生を捧げる相手が彼女で良かったと心から思うのだ。

 

「……いいですね、その顔」

 

「ん……?」

 

「私が好きな顔ですよ。そうですね、今度は何を見つけたんですか?」

 

 何を見つけたと来たか。こいつの突飛な言動には慣れたものだが、今度はまた輪をかけて抽象的でよく分からない事を言いやがるな。

 顎に手を当てて少しの間考える。そうだな、見つけた。見つけたか……強いて言うなら、そういえば。

 

「覚えてるよな、俺の人生を全て掛けた先にある物をいつかお前に見せてやるって。そう誓ったあの時の事を」

 

「ええ、昨日の事のようにはっきりと」

 

 あの瞬間からだ、それこそが俺の生きる意味になったのは。俺を救ってくれたお前に報いる方法はこれしかないと思った。それは今でも変わらない。

 

 そうして、現在。

 

 人生の全てを費やしてでも為すべき目標とは何なのだろう? 肝心のそれが何なのかを俺は今日まで探し求めていた。だけど今ならそれが分かる気がするんだ。

 

 

 

「誰でもが理不尽に妨げられずに、自由を追い求められる世の中を作りたい。これからお前が独りでいる必要なんて全く無くなるぐらいの世界にしたい」

 

 

 

 そんな世界を、お前に見せたい。

 今回の件を通じて見つけた物があるとするなら、きっとそれに違いない。

 

 一世一代の告白かという気持ちで俺はそう言った。が、次の瞬間——ぽかんと呆けた顔をしたプロメスティンは、何を狂ったか突然、腹を抱えて笑い出したのだ。

 

「く、くくっ……ふ、あはは!! 夢は大きく、世界征服でもするつもりですか!?」

 

「なっ、い、今のをどう解釈すりゃそうなるんだよ!!」

 

「ふふっ……いえいえ、それぐらいする気でなければとても達成できない目標だということですよ。言うまでもなく、力で我々やイリアス様を退ける事は不可能と言っていいでしょうけどねぇ」

 

 俺の言った事がよほど可笑しかったのかくつくつと笑い続けるプロメスティンを見て肩の力が一気に抜ける。どうやら俺は俺の想像以上に荒唐無稽な事を言ってしまったらしい。

 だけどまあ、やり方が一つしか無いなんて誰が決めた訳でもないだろ。どうすれば実現できるかなんて長い時間を掛けて考えていけばいいことさ。それこそ一生をかけてやってもいい。

 

「何も天界に踏み入って女神の頭をぶん殴ろうって話じゃないんだぞ。俺には俺の考えがだな……」

 

「くふっ、あ、あはははは! あの方の、頭を! ぶん殴るって!」

 

「待て馬鹿! 揺れる! 椅子押しながらツボってんじゃねえよ!」

 

 プロメスティンがこんなに笑ってる所なんて初めて見るぞ、どうしちゃったんだよホントに。俺がたまに言うジョークにはいつもいつも無反応の癖してこういう時だけ爆笑しやがって……

 

「……落ち着けよ、なあ、落ち着け。いいか?」

 

「はあ、はあ、はい……」

 

「幸いにも俺はイリアス教の中で立場がある。そりゃ言っちまえばさ、俺がその気になればいくらでも向こうに貢献できる立場にあるって事でもあるだろ」

 

 今まではイリアス教への言及も干渉もなるべく避けてきた。それは率直に言や宗教ってもんが怖かったからだ。これは未だに俺が前世に価値観を引っ張られている要素の一つでもある。

 だけどこれからは本格的に力を入れて盛り立てて、とにかくイリアス教にとって重要な存在になる。そうすればいつかどこかでイリアスと直接交渉をして折り合いを付けることだって出来るかもしれない。そうすれば、俺達みたいな奴らの居場所だってきっと作り出せる。

 

「それで、出来れば、その中でイリアスの事についても知っていきたい」

 

「…………はあ」

 

「神様ってのはよく分からないけど……それは俺ら人間が頭の中で作り出した怪物なんかじゃなくて、考えがあって、感情がある。そうだろ? 俺からすればお前と同じでさ、わかり合う事だって無理じゃないと思うんだよ」

 

「天使の次は神まで(たら)し込む気ですか。いやはや、何ともまあ……」

 

「……いや、例えばの話だぞ? 今はこれぐらいの事しか思い付かないってだけだ。もちろん魔導の修行だって続けるし、まあ……お前に少しでも追い付けるように努力はするよ」

 

 正直、相手の力の大きさを想像すればどれだけ命知らずで綱渡りな事をしようとしているのかってのは何となく分かる気がする。

 だけど俺はこの目で見たんだ。鉄と結束と繁栄にかつて生きた町、ドウェルガという場所の歴史の最後を。同じ過ちを再び繰り返させないために、彼らが生きた事を無駄にしない為に、前へと向かって進んでいきたいから。だから───

 

 長く続いた修行の旅はここで一度幕を閉じる。

 あの町で得た教訓を心に焼き付け、俺達の故郷のヨロギ村へと再び帰る時がやってきた。




これにてドウェルガ編、前章二節は終了となります。かなりの長期に渡ってお付き合い頂きありがとうございました…!(地味に章分け設定その他を追加しました。いよいよ連載が長引いて話数も増えてきたので…)

雑感と致しましては、やはり話数が長引いているなぁと。

私はこの作品を原作通りの3部構成で考えているのですが…まだ前章の前半だったりする現在でもう既にこの有様です。スタートからそろそろ一年半が経過します。どうしてくれましょうかね本当に。
ネタを詰め切っていないのもあり今のところ中章は少なくとも前章より軽くなる予定ではありますが、また今回のドウェルガ編みたく特大のイベントが急に生えてこられたりでもしては何も確約できないというのが現状であります。

こんな事は最後の展開まで考えとる私が一番言いたかないことですが、完結までエタらずに済めば奇跡というぐらいには考えておいて欲しいです。これはちょっと弱音なのですが、おそらく文字数的にもあまり現実的でない…そんな感じがヒシヒシとしております。
いやしかし、僕もできれば最後まで書き切りたい!せっかくのもんくえ二次なのだからせめてルカさんやアリスを出すぐらいの所までは行ってみたい!という思いも当然あるわけでして。

なんだか長過ぎるぞこの小説、という風に嫌気が差されている方も勿論いらっしゃるとは思いますが…そうでないという方は是非今後とも応援の方をよろしくお願いしたいと思っています。
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