箱入りお嬢様の実家爆発ドブカス崩壊世界でゴミ拾い物語   作:ቻンቻンቺቻቺቻ

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ドングリって食べれるの?

 

 私が生まれるずっとずっと前、世界は滅んだらしい。

 世界が滅ぶ前は世界中何処にでもに豊かな自然に恵まれていて、ほとんどの家庭は毎日のご飯に困る事も無く雨風を通さない綺麗で頑丈な家を持ち、高性能な機械が人間の生活をいろんな面でサポートして、街の外を出歩いても危険な生き物に襲われる事なんてない豊かで便利で安全な世界だったと本で読んだ事がある。

 

 その本を読んだ時に私は不思議に思った。

 滅ぶ前も後も特に変わって無いんじゃないかって。

 

 でも、そうやって不思議に思える事ができたのは私がこの世界でとても恵まれた家に産まれる事ができたからで、当時の私は屋敷から一歩でも外に出た先の事を何も知らなかったからだった。

 

───

──

 

 

 朽ちて崩れかけなコンクリートの建物が物悲しく佇む。

 風化して凹凸の激しいアスファルトに散っているのは傷に曇ったガラス片。

 廃墟のひび割れから僅かに伸びる名も知らない植物は細く貧相で、それを揺らしながら時折吹き抜ける乾燥した風が砂ぼこりを巻き上げて鼻を不快にくすぐる。

 

「なんでオレについてくるんだよ」

 

 少しだけ急ぎ足で追い掛けていた野性的な赤髪の少年が数歩先の場所から私に振り返り、私の視線の位置より頭1つぶん高い位置にある虎色の瞳で面倒だと主張しながら口を動かす。

 

「えっとね、親切にしてもらったから何かお礼できる事はないかなって」

 

「……逆に聞くけどお前って何かできんのかよ」

 

「わからないけど、なんでもがんばるよ!」

 

「…………そうか、なんでもか」

 

 人に親切にして貰ったのならおなじだけの親切を返そう。という事は父を含めた色んな大人に教わった事で、その教えの通りに怪我の手当をしてくれた少年に親切を返そうとしてみたところ、ひどく呆れたような視線を向けられた。

 

「それじゃあ、さっさと帰れ」

 

「え?」

 

 ぶっきらぼうで突き放すような物言いに思わず聞き返すも、そんな私を気にする事無く少年が言葉を続ける。

 

「なんの間違いでお前みたいなとぼけたお嬢様が1人でこんな危険地帯にいるのか知らないけどな、ここはお前みたいなのがいたらそれだけで面倒事が起きかねない。だから、何か起きる前にさっさと帰れって言ったんだ」

 

「えっと、私、帰るに帰れなくて」

 

「はぁ? お前どこから来たんだよ」

 

「それもわからなくて……」

 

「……これからどうするつもりだったんだ」

 

「どうしようかな……。でも、少し先の事はわからないけどまずは何か私ができる事で貴方にお礼がしたいな」

 

「うっわ……」

 

 既に面倒事だったのか。と、心底嫌そうに呟きながら眉間に皺を寄せた少年に、なんだか少しだけいたたまれない気分に陥る。

 

「あー、どうすっかな」

 

 深く大きな溜め息を吐いた少年がまた歩き始める。

 遅れないようにその背中を追って、今度は急ぎ足ではなくても後ろを歩ける事に気付いた。

 

「おい」

 

「なぁに?」

 

「これ持ってろ」

 

 少年がスリングで担いでいた自動小銃(アサルトライフル)と共に背負っていたバックパックから何かを取り出し、押し付けるように私へと差し出す

 

「これは?」

 

「見ればわかるだろ。ただの袋だ」

 

 頑丈な合成繊維で編まれた頑丈そうなただの袋。たしかに見ればわかる事だけど、何故これを手渡されたのか。

 

「歩いてたらそこら辺に金属の何かしらが落ちてる事があるからそれを拾って袋に入れておけ」

 

「うん」

 

 たぶん、何かお礼がしたいと言った私の言葉を聞き入れてくれたのだろう。金属を集めてどうするのかはわからないけど、言われた通りにするために荒れた路面を見ながらも少年を見失ってはぐれないように時折前を向いて歩く。

 言われた通りに金属を拾おうとじっくり路面に視線を巡らせているつもりだけど、特に何も拾えないまま無言で歩き続ける。

 

「えぇと」

 

「なんだ」

 

「そういえば、どこに向かってるのかなって」

 

「何処に向かうというよりは、巡回だ」

 

 少し離れた場所に雇い主が簡易的なキャンプを設置していて、その周囲に危険な変性生物(クリーチャー)や不審な何者か近寄って来てないかを見回っていたと、やはりぶっきらぼうな言葉遣いで説明される。

 つまり、その巡回の途中で怪我をしていた私を見付けて手当てしてくれたという事なのだろう。なんのために少年の雇い主はこんな壊れた物ばかりしかなさそうな場所でキャンプをしていたのかはわからないけど、この偶然には感謝するべきなのだと思う。

 

「おい」

 

 雇い主だけではなく、この少年にもきちんと感謝を示してお礼をしなければと考えながら歩いていると、私に背中を向けて歩いていた少年が足を止めて地面に指を差す。

 

「足下に散らばってる薬莢、拾っておけ。それは金属だ」

 

「やっきょう? このドングリみたいなやつかな」

 

「……ドングリ」

 

 薬莢とはなんなのかはわからなかったけど、足下に幾つも転がっていた石のように見えていた円筒状の物を拾い上げてみると、それが黒ずんで光沢を失っていた金属だと気付く。

 

「どれだけ前の事かは知らないけどここで結構な規模の戦闘があったみたいだな。かなりの量が落ちてるから拾えるだけ拾って袋に詰めておけ」

 

「うん!」

 

 未だになんのために金属を集めているのかわからないけど、なんとなく聞くタイミングを逃したまま薬莢を1つ1つ拾っては袋へと詰めていく。薬莢は物陰の様々な所に纏まるように落ちているようで、1つの纏まりを拾い尽くしては次の纏まりを探してまた拾うを繰り返す。移動を繰り返す度、少年も私の行く先に着いてきて私から見える位置に立ち続ける。

 

「~♪ ~~♪」

 

「鉄屑拾うだけなのにずいぶんと楽しそうだな」

 

 無意識の内に鳴らしていた鼻歌。それを聞いたのか少年が何故なのか呆れたような雰囲気。

 

「えへへ、小さな頃に父様と一緒にドングリ拾った事を思い出しちゃって」

 

「へェ? お前みたいな見るからに育ちが良さそうな奴もドングリなんか喰うのか」

 

「え? ドングリって食べれるの?」

 

「は?」

 

 少年が眼を丸くして身動きをピタリと止める。なにがそんなに驚いたのか解らないけど、私としてはドングリが食用になるという話を初めて聞いたのでそれに驚いている。

 

「食べないんだったらなんで拾ってたんだよ」

 

「えぇと……かわいいからかな?」

 

「ドングリが?」

 

「うん、ドングリが」

 

「かわいい、のか……? 駄目だ、わかんねェ」

 

 今日初めて会った相手なのに、これ以上ないのかもしれないと思ってしまうほどにとても難しい顔をして眉間を揉む少年。

 

「さっきドングリみたいだって言ってたその鉄屑の薬莢もお前の感性だったら“かわいい”なのか?」

 

「え、これが?」

 

 言われて指先で拾い上げていた薬莢に視線を向けて。ざらざらと黒ずんだ円筒の金属を改めてじっくりと観察してみる。大きさや雰囲気はドングリににている気がするけれども、私はこれのどこに魅力を感じればいいのかわからなかった。

 

「う、うーん?」

 

「あー、うん、わかった。お前の感性はオレにはわかりそうにないのがわかった」

 

「あっ、これと似た物をどこかで見た事ある気がしてたけど思い出したかも」

 

「急に話が変わったな。それってドングリじゃなくてか?」

 

「屋敷を警備する隊員さんとか私を護衛してくれる人が訓練で銃を使った時にいっぱい地面に落ちてるやつ。銃の訓練をしてる時は危ないから訓練所に近寄っちゃいけなくて、見る機会がほとんど無かったからすぐに思い出せなかったなぁ」

 

「訓練でしこたま銃をブッ放す警備が詰めてる屋敷ってなんだよ。ってかお前個人にも護衛がつくとか予想してたよりもお嬢様だな」

 

 反応に困ったように髭の気配が無い顎を撫でる少年。しばらくの間言葉を無しに私が袋に薬莢を入れて金属が擦れる音だけが鳴り続け、手渡された袋が満たされて大玉なスイカくらいの大きさに。

 

「そろそろ袋が一杯だな。そこら辺の足下にあるやつを拾ったら終わりだ」

 

「そういえば、この集めた薬莢は何に使うのかな?」

 

「お前の宿代だ。行く宛てが無いんだろ、取りあえず雇い主のキャンプまで連れてくからそれをそこの責任者に渡せ」

 

 少年の雇い主は主に街から街への運送業を営む人らしく、副業で価値のある金属を集めてそれらを金銭に換えたりもしているらしい。私が拾い集めた薬莢のほとんどは真鍮と呼ばれるそこそこの価値のある金属なので、これを渡せば一泊の居候くらいはさせてもらえるだろうと、やはりぶっきらぼうな説明。

 

「これからお前どうするかは知らねェけど、まずは野宿じゃない夜を過ごせるようにしておけ」

 

「そのためにコレが必要だったんだね」

 

 こういった金銭の稼ぎ方があるのかと初めて知り、驚きと感心の気持ちのまま指で摘まんでいた薬莢へと視線を向けて息を吐く。

 へぇ。と、息を吐きながら袋にそれを入れた後にふと気付く。

 

「お礼に何かお手伝いしようとしてたのに、これって結局私自身のための事になってないかな?」

 

「自分の事が何一つままならないヤツがお礼だのなんだのって言ってる場合か。それよりも、さっきお前自分に護衛がいるっていってたよな、なんでそんな護衛されるような奴が怪我しながら1人でこんな場所にいたんだよ」

 

「それは、えっと……」

 

 やはりぶっきらぼうで面倒そうに。でも、真っ直ぐに私を見る少年。対して、私は問いにどう答えようかと迷うわずかな沈黙。

 何か言葉を口にしようとして、でも何も言葉がでなくて口を閉じた私を見た少年が少しだけ気まずそうに私から視線を逸らした。

 

「答えれねェなら別にいい、そこまで興味のある事じゃないしな」

 

 たぶんだけど、気を遣わせてしまったのかもしれない。

 この少年は終始ぶっきらぼうな言葉遣いではあるけれども、初対面の私にとても良くしてくれてる優しい人だというのは世間知らずな私でもわかる。なので、私の紛らわしい反応で少し困らせてしまったのかもしれないと反省。

 

「えっとね、答えられないんじゃなくて、色んな事があったからどう答えようかなってちょっと頭の中で整理してて」

 

「そうかよ。それじゃあ、これからキャンプに向かうから歩きながらでもまとめとけ」

 

 言いながら、私へと片手を差しのべる少年。

 ほんの一瞬だけ少年の意図が読めずにどうしたものかと困惑したものの、すぐに思い至って少年の手に私の手を軽く重ねる。頭1つ分ほどの体格差があるから当然と言えば当然なのだけど、重ねた手のひらの大きさにもとても差があった。

 

「なにやってんだお前?」

 

「え? エスコートしてくれるのかと思ったんだけど……」

 

「なんで変性生物(クリーチャー)と遭遇する可能性があるかもわからねぇ場所で無駄に手を塞がなきゃいけねェんだよ。咄嗟の時に銃を握れねぇじゃねぇか」

 

「えと……じゃあ、どうしたらよかったのかな?」

 

「その袋をよこせ、お前が持つよりオレが持って歩いた方がいいだろ」

 

 空薬莢とはいえそれだけ集めれば相応に重いだろ。と、やっぱりぶっきらぼうに言いながら私の手から袋をひったくるように持ち上げる少年。直後、袋の重さで直立していた姿勢からバランスを崩して一瞬だけ前のめりになる。

 

「は?」

 

「その……金属いっぱい集めたら重たいのは普通の事、なんじゃないかな?」

 

 なので、そんな訳のわからないような表情で私を見られてもどうすればいいのかわからない。

 

「いや、逆になんでお前はそんな小さなナリで今の今まで平気な顔でこれを持ち歩いてたんだよ」

 

「実は私、足が悪くて自分じゃ歩けなくて……だから、アシストアーマー(着用する人工筋肉)を使ってて」

 

「なんで体に不自由があって護衛がつけられる類いのお嬢様がこんな場所で怪我しながら1人でいたんだよ……。お前全部説明しろよな」

 

「う、うん」

 

 本当に厄介事を拾ったかもしれない。と、吐き捨てるように言ってから歩き始めたバックパックと薬莢の詰まった袋を背負う背中を追い掛けつつ、ちゃんと説明できるように今に至るまでの事を思い出す。

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