箱入りお嬢様の実家爆発ドブカス崩壊世界でゴミ拾い物語   作:ቻンቻンቺቻቺቻ

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目は大事にしないとダメだね

 

 アスファルトを蹴りつける足音、唸るようなエンジン音、呼吸の音、鼓動、言葉の無い沈黙を決して静寂にはしないそれらが耳を打ち続ける。

 どれぐらい走りつづけたのか、ただ足を動かし続ける事に集中していたので過ぎた時間が長くも短くも感じてしまう。

 

 体力的にはまだまだ平気だと虚勢を張れるけれども、アシストアーマーの発熱が誤魔化しきれないものになってきていて、呼吸が少しずつ荒いものへと変わっていく。

 

「おい、なんか熱いぞ。これ平気なのか」

 

「うん、まだ、平気だよ」

 

 私と密着するんで体勢のトラにもこの熱は伝わり始めているらしく、かなりの違和感を与えてしまっているのか戸惑いの雰囲気が私にも伝わってくる。

 

 主な稼働部は下半身の脚部で、そこが一番発熱しているはずなのに、上半身に触れている他者にも熱が伝わってしまっている状態。もしも、私の足先に全ての感覚が残っていたとしたら、熱さに苦痛を感じるほどになっているのだろうか。もしかしたら、もう足先は火傷し始めてしまっているのだろうか。次の瞬間には感覚が残っている部分に火傷の苦しみが発生し始めるのだろうか。

 怖い。

 だけど、今は足先にあるかもしれない熱の苦痛を感じる事も無く、多少なら私の肉体そのものが壊れてしまっても意識と脊髄が無事ならアシストアーマーの性能のまま走り続ける事ができるかもしれないという事を好都合だと思ってもいる。

 

「賭けに勝つまで、走り切ってみせるから」

 

「そうか」

 

 たぶん、トラはとっくに異常が発生しているとなんとなく気付いてる。アシストアーマーには詳しくないと言っていたから今がどんな状態なのかまでは解ってないかもしれないけれども、それでもなにかの異常が発生してる事を感じ取っているかのような声色だった。

 短い会話の後、またしばらくの無言。

 走って、走って、走り続ける。どれだけ走っているのかわからないまま走り続ける。

 

 唐突に、賭けの終わりが近付いて来た。

 

「ガキ共! 後3分でブルーホーネットの装甲車が幾つか俺達に追い付く、賭けは俺の勝ちだな!」

 

「……クソがァ!」

 

 姿を隠しながら愉快そうに笑う傷跡男の声。その笑い声に対してトラがとても不愉快そうな声を漏らす。

 そのやりとりに私は動かす足を止めないまま、落とさないようにトラをしっかりと抱えていた腕に力が余計に籠ってしまう。

 

「っ! ……いや、まだだ」

 

「え?」

 

「最後まで諦めない、だろ?」

 

 ほんの一瞬だけ苦しそうな息を漏らしたトラが、不愉快そうな声を辞めて、不自然なほどに落ち着いた声色へと変わる。そして、最後にガシガシと乱暴だけど痛くはない力加減で私の頭を撫でた。

 この瞬間、きっとトラは私に起きている異常を完全に確信したはずだ。今の私は発熱によって全身にとめどない汗をかいてしまっていて、トラの手は私の尋常ではない量の汗に濡れてしまったからだ。

 だけど、トラは落ち着いた声色のまま穏やかに言葉を続ける。

 

「オレはお前に全部賭けた。その結果がどうなろうと文句は言はねェし、お前を恨みなんてしねェよ」

 

「トラ、さん……」

 

「後少しの間はお前の脚と幸運に祈って待つさ」

 

 その言葉の直後、何処か遠くから不均一な低音で唸るエンジン音が近付いて来るのが耳に届いた。

 とうとう賭けの終わりが来てしまった。きっと傷跡男が言うようにブルーホーネットの部隊が追い付いてきてしまったのだと思った私は、胸の奥で熱を帯びていた決意が揺らぎそうになるのを感じた。

 

「賭けは負けだな」

 

「……うん」

 

「だが、このクソみてェなレースではまだ負けてねェ」

 

「え?」

 

『ブワハハハッ! 人生逆転の賭けに乗るほど若くは無いがな、儲けの見えてる商機を逃すほど儂は老いぼれてもおらんぞ!!』

 

 不均一な低いエンジン音が急激に近付いてきたと同時に、質の良くないスピーカー特有のギザギザとした音質での高齢を感じさせる男性の声が私達の耳に元気よく響いてくる。

 

『なぁお姫さん! ちょいとドライブするから乗っていかんか! 料金はお姫さんの家にツケといてやるわい!』

 

「だとよ、乗っていこうぜ」

 

 声の主は廃墟群で別れたきりだったビーンで、不均一な低いエンジン音はビーンが相棒とまで言っていた大型のトレーラーのものだった。

 スピーカー越しにドライブを誘う声に、トラがニヤリと笑う顔を連想させる声で賛同する。

 

「ジジイィィィ!! てめえふざけんな! 今回の件から降りたんじゃねえのかよ!!」

 

『バカめ! 傭兵の癖に保証の無い言葉を信じたお前が愚かだったな! ガハハハハハ!!!』

 

「ド畜生がぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 傷跡男の怒声と同時に連続する雷のような炸裂音。その音にビーンが撃たれてしまったのではと喉の奥を冷たい手で握り潰されるような思いをしたけれども、直後に私達の背後からそれとは別の聞き慣れない騒音が耳に入る。

 

『そんなチャチな機関銃で儂の相棒を止められると思うなよ若造! 硬いだけの装甲車だってこうやって体当たりではね除けられるパワフルモンスターじゃぞ!』

 

「うっわ、ムチャしやがる」

 

 聞き慣れない騒音の直後に真後ろから聞こえてきたスピーカーの元気な声に反射的に振り替えると、私達を包囲するために背後を走行していた装甲車がいなくなっていて、代わりにビーンの操縦するトレーラーがそこに現れていた。

 聞き慣れない騒音は言葉通りにトレーラーで装甲車をはね除けた際に生じた音なのだろう。体勢の都合で一部始終を見ていたはずのトラが引き気味に声を盛らしていた。

 

「冗談じゃねぇ! 大金まで後1歩なんだぞ、なんとしてでもブッ潰してやる!」

「おい、傷ツラの傭兵! 部隊の合流まで後少しだ、それまでどうにか足止めしろ!」

 

『トラ坊、お前もまだ生きてたか! 護衛の仕事を途中でバックれおって、詫びに次の街までタダで仕事を手伝え!』

 

 悪態を吐く傷跡男とブルーホーネットの誰かが慌てるように声を投げ掛け合う。そんな二人を意に介さないまま、弾痕のひび割れに白く濁るトレーラーのフロントガラス越しに豪快な笑顔を見せていたビーンが私に抱えられているトラに気付いて叱り付けるような声でスピーカーを震わせた。

 

「本当なら護衛なんていらねェようなイカレ爺の癖によォ……ウィノラ、減速してジジイのトレーラーの横まで下がれ、乗り込むぞ」

 

「うん!」

 

「一か八か、お姫様の頭をブチ抜けばアーマーは無傷で手に入るよな?!」

「早まるな! この速度で下手な事をしたらズタズタになる、隊の合流を待て!」

 

 息を大きく吸って、短く吐く。

 これがきっと、私のやるべき事である逃走のラストスパートだと確信しながら徐々に減速して後方へ。私を挟むように走行していた2台の装甲車も減速して車輌同士の隙間を塞ごうと動くも、トレーラーが左右に細かく動く事によって装甲車を小突いて無理矢理に私が通れるように隙間を作る。装甲車は押し退けられてスピンしそうになりながらも何度も隙間を塞ごうとしてきたけれど、幾度目かに大きく押し退けられてできた隙間に私達は身を滑り込ませた。

 

「よっしゃァ! やったじゃねェか、このまま乗り込むぞ!」

 

「う、うん──ひゃわ?!」

 

 包囲を抜けた先でトラが歓声をあげ、真横を走るトレーラーのキャビン部分を掴む。アシストアーマーの発熱に耐えられる限界が近くなっていた私が息を途切れさせながら返事を返した瞬間、脚が地を蹴る反動が途切れて全身に浮遊感を感じて驚きに変な声が出てしまった。

 

「オオオォォォォ!!」

 

「わ、わわわっ!?」

 

 力強い雄叫びに鼓膜が震える。トレーラーのキャビン部分を掴んでいたトラが両腕の腕力だけで自分自身と私をまとめて持ち上げてよじ登り、全身がトレーラーに持ち上がったと同時に助手席の扉を開けて飛び込む。

 

「あうっ」

 

「ブワッハッハッハ! 乗り込んできた途端にお姫さんを押し倒すか、若くていいなトラ坊よ!」

 

「うるせェ! そんな事より俺の荷物はまだあるか、武器が豆鉄砲みてェな拳銃しか無ェんだ!」

 

 胸を合わせるような体勢だったのでトラの胸板に押し潰されるような着地。アシストアーマーの衝撃を受け流す機能でそれ自体に痛みはなかったけれども、勢いを余してシートへと頭を軽く打ち付けた小さな衝撃に声が出て今までずっと離さないようにしていた腕もほどけてしまう。その後、即座に起き上がったトラが肩から血を流しながらビーンへと荒々しく問い掛ける。

 

「安心しろ、捨てとらん」

 

「何処にある!」

 

「後ろじゃ」

 

 言葉短な問答の後に助手席と運転席の間にある狭い隙間を大きな身体で器用に通り抜け、キャビン後部に設けられている生活空間と思われる小さな車室へと転がり込むトラ。そして、乱雑に置かれていた自動小銃(アサルトライフル)を手に取った後に大きなケースを開きながら怒鳴るように口を開く。

 

「ビーン爺、あんたのお気に入りも借りるぞ!」

 

「好きに使え、弾代はエーデルハーゼに払わせる!」

 

 互いに顔をみないままで繰り返される叫び合うようなやりとり。その間にビーンは何度もハンドルを操作して装甲車へと横から体当たりしたり、トラは自動小銃(アサルトライフル)の他に太くて大きい筒のような見慣れない銃器を抱えながらまた運転席と助手席の間まで戻ってきて、そのままキャビン上部の天窓を力任せに開いた。

 

「ウィノラ!」

 

「ひゃ、ひゃい!」

 

 自分の名前を怒鳴られるという記憶に無い体験に声が上擦りつつの返事。ほんの少しだけ笑むような表情のトラと視線が絡む。

 

「助けられた借りは返す、休んでろ」

 

「え……」

 

 その一言を残したトラがそのまま天窓をよじ登り、車外へと出ていってしまう。

 助けられた借りとトラには言われたけれども、私としてはトラにたくさん助けて貰ったから頑張ってそれを返そうとしていたはずだ。その認識の差異によって、私はお礼を返しきる前にまたトラから助けられ続けてしまう事になってしまうのではないだろうか。

 

「ヌハハハ、エーデルハーゼのお姫さんは意外とお転婆じゃな」

 

 そんな風に考えていると、気付けば身体が勝手に動いて私も天窓から上半身を乗り出していた。

 

「散々やらかしてくれた借りを返してやる! 死ね、腐れドブカスゲス外道!!」

 

 身を乗り出した先で目にしたのは、コンテナの上で好戦的な笑みを浮かべながら隣を走る装甲車へと嬉々として自動小銃(アサルトライフル)を乱射するトラの姿。肩の傷口から血を軽く噴き出しながらひたすらに銃撃する姿に相手への強い怒りを察してしまい、そんな姿に少しだけ怖いとも感じてしまった。

 

「小僧テメェ! 頭上取った途端に調子乗ってバカスカ撃ち込みやがって! 騎士気取ってる癖に弱い者苛めか、そういうのは恥ずかしい事だって母ちゃんに教わらなかったのかよ! 恥を知りやがれ!」

 

「るせェ! お前等こそ大人気無しにガキを拐おうと囲んで走りやがってよォ! これでお相子だろうがロリコン野郎!」

 

 罵り合うトラと傷跡男。その果てに、トラが先ほどビーンから借りていた筒のような銃器を構えて傷跡男の乗る装甲車へと向けた。

 

「窓が銃撃で砕けて車内まで直通だぜ、ブッ飛べクソッタレ!」

 

「グッ、グレネードランチャ──」

 

 しゅぽん。と、いっそ間抜けにも聞こえるような銃声がトラの構えた筒のような銃器から鳴らされ、傷跡男が何かを言っていたけれどもそれを遮るように大きな破裂音。傷跡男乗っていた装甲車が激しくスピンしてひっくり返るように停車する。

 

「あァ、車内狙ったのにタイヤに当てちまった。慣れない銃だと上手く当てれねェな。あれはもしかしたら殺し切れてねェかもな」

 

「ふえぇぇ」

 

 今までの私が見てきたトラはぶっきらぼうではあるけれどもなんだかんだ優しい姿ばかりしか見ていなかったので、容赦の無い暴力的な振る舞いに少なくない驚きを覚えて震えるような声がでてしまった。だけど、それでもトラに対して傷跡男や小太り男に感じたような恐怖や嫌悪を感じないのは、それ以上にトラを信用しているからなのだと思う。

 

「しゃァ、次は青虫(ブルーホーネット)の車輌だ……って、休んでろって言ったろうが、見てても面白いもんじゃねェんだから引っ込んでろ」

 

「ご、こめんなさいっ」

 

 嬉々として銃撃して爆破までしてしまう好戦的な表情から私の知るいつもの表情に一転、まるでルイーサが私に対してたまにそうするような表情に変わって叱られてしまう。だけど、なにかを手伝いたい私は素直にその言葉に従わず、並走して走るもう1台の装甲車へと向き直るトラを見ていた。

 

「トラ坊、後ろからブルーホーネットの援軍が追い付いてきたぞ! 見えてるだけで5台、弾は足りるかのか!」

 

「さっき引っ張り出した分じゃ足りねェ! まだ他に弾は!」

 

「無い!」

 

 天窓の内側、私の足許からビーンが車外のトラへと叫び、それに対して筒のような銃器(グレネードランチャー)に握りこぶしのような大きさの弾丸を装填していたトラも叫び返す。そのやりとりを聞きながら私もトレーラーの後方へと視線を向けて確認してみると、たしかに複数の装甲車が遠くからこちらへと近付いてきていた。

 

「どうすんだ!」

 

「任せろ、取りあえず横の奴を片付けたらコンテナからどけてキャビンまで戻れ!」

 

「了解!」

 

 会話を終えたと同時にビーンの運転で何度も軽く体当たりされていた装甲車へと弾を詰め終えた筒のような銃器(グレネードランチャー)を向ける。そして、先程も聞いた間抜けっぽい銃声からの破裂音。

 その一撃に前輪の片方を大きく破損させた青いスズメバチの隊章をペイントした装甲車がスリップし、道路沿いの建物に衝突して煙を上げながら停止する。

 

「だいぶコツを掴んだ。骨董品みてェな代物だが中々に使いやすいじゃねェか」

 

 言いながらまた筒のような銃器(グレネードランチャー)に手早く弾を装填を終えたトラが器用にコンテナの上を素早く移動し、私が身を乗り出す天窓の淵を掴んで姿勢を低くして身体を固定する。直後、勢いよく逆巻く風の奔流と共に視界が急激に暗くなった。

 唐突な変化に肩を縮めながら周囲を見回し、それでようやくトンネルに入ったのだと気付く事ができたのは、私がこれまでに生きてきて今のような車の乗り方をした事がないのと、そもそもトンネルに入った記憶が無いほどに外出の経験が無かったからなのだと思う。

 

「なんだ、まだそんな所でボケっとしてたのかよ。言うこと聞かねェ奴だな」

 

「その……なにかお手伝いできないかなって」

 

「逆に聞くがこの状況でお前に何かできんのか」

 

「わからないけど、なんでもがんばるよ……?」

 

「そうか、なんでもか」

 

 口を閉じてほんの数秒だけ考え込むような沈黙、その後にトラが私へと無造作に手を伸ばす。

 

「えっと?」

 

 何かを渡せという事なのだろうかと考えるも、私は今何かを持っている訳では無いしキャビンの中を覗いても上機嫌にハンドルを握るビーン以外に何かがあるという訳でも無い。なので、その仕草に対してどうすればいいのかがわからなくて自然と首が傾いてしまう。

 

「手ェ出せ」

 

「?」

 

「エスコートしてやるってんだよ。ボサっとしてんじゃねェ」

 

「……う、うん」

 

 エスコートと言われてもどうにもピンとこないままトラの手を握ると、大きな手で握り返されてキャビンの上へと軽い動作で引き上げられる。全身がキャビンの外まで出ると、凄まじいと言うしかない風の奔流にバランスを崩してしまいそうになりかけるも、トラの手に強引に引かれて背後から抱かれるような体勢になって支えられる。

 

「え? ふへ? ひぇぇ……」

 

「ビーン爺! この状況にまでなればアンタが何を企んでたのか簡単にわかる、合図は俺が出すから合わせてくれ!」

 

「そうか、上手くやれよ!」

 

 何も説明の無いままに背中全体がトラと密着し、更には全身を包むように抱き留められた状態。たった今まで前から抱き合う姿勢でいてこんなに恥じらう気持ちは無かったのに、不意を打たれたこの姿勢には頬だけではなく顔全体が強く火照るほどの恥じらいを感じてしまう。

 

「なんでもするって言ったよな? まずコイツを握れ」

 

「はいぃ……」

 

 そうして握らされたのは、大きくて太くて黒光りする筒のような物。それを両手で握った私のての上に重なるようにトラの大きな手が添えられて、慎重な動作で私の身体に宛がわれる。

 

「ビーン爺! 今だ、切り離せ!」

 

「あいわかった! これが儂流の置き配じゃい!!」

 

 とても楽し気な大声。

 瞬間、鉄で叩きあって砕け合うような音と振動。その後にトレーラーが牽引していたコンテナが徐々に私達のいるキャビンから離れて後ろに流れていく。

 

「ウィノラ! 引き金を引け!」

 

「え、ええっ?! 引き金ってどれなのぉ?!」

 

「これだァ!!」

 

 私の手に重なっていた多きな手の人差し指が私の人差し指を上から押さえ込み、硬質でありながら軽い抵抗を私の指先に感じさせながら何かバネ仕掛けのような金具が動く。

 そして、私の手に持たされていた筒のような銃器(グレネードランチャー)が間抜けな音を鳴らし、銃器の後端を宛がえていた肩に人工筋肉の衝撃を受け流す脈動の感触。

 

 景気のいい炸裂音。

 切り離されて後方へと置き去りにされたコンテナの車輪が爆破され、大きく傾いた後に呆けなく横向きに転倒。

 重量物が衝突し合う不吉な重い音がトンネル内にこだまする。

 

「ハッハァーッ! ざまァみやがれェ!!」

 

「ダァーハハハハ! 戦力差を覆すこの瞬間はたまらんなあ!!」

 

「あわ、あわわわわ」

 

 初めて会ってから今までで最も楽しそうに大口を開けて豪快に笑うトラとビーン。対して、私は指示されるままに自分で引き起こしてしまった事態に血の気が引いて言語として意味を持たない声を垂れ流し続ける。

 私達は数台の装甲車に追われる先頭を走行していて、その状態でトレーラーで牽引していた大きなコンテナを路上に放棄し、あまつさえ故意に爆破してコンテナを路上に横転させた。それはつまり、私達を追ってトンネル内を高速で走行していた装甲車達の進路を突然塞いだという事。

 そして、コンテナを横転させた直後の重量物が衝突し合う不吉な重い音。

 どう考えても私達がコンテナを横転させたせいで、後続の車輌が悲惨な玉突き事故を発生させてしまったしかあり得ない。

 

 もしかしたら、そのせいで死者なんかも。と、考えが至った所でトラが私の頭をグラグラと揺らすように撫でる。

 

「変な心配すんな、何もわかってねェ子供にいきなり殺しなんてさせねェよ。青虫共(ブルーホーネット)は大企業直轄の精鋭部隊だ、今のタイミングなら絶対ブレーキ踏んでるから怪我人はいても死人まで出てねェよ」

 

 まぁ、骨の何本かは折れてる奴はいるだろうが、それは先に相手からふっかけてきた戦争だからな。と、笑ったトラが言葉を続ける。

 

「これに懲りたら“なんでもする”なんて言うのは辞めとけ、今みたいに自分でもわかってないのにいつの間にかとんでもない事や取り返しの付かない事をやらされちまうからな」

 

「……う、うん」

 

 死人は出てない。という言葉に安堵の息を吐きかけるも、骨の何本かを折る重傷者がいるかもしれないという事や、得られた教訓の重さに背筋が伸びて慎重に頷くだけしかできなかった。

 そんな私を見ていたトラがもう一度だけ私の頭をグラリと撫でると、小脇に抱えるように持ち上げながらキャビンへと身を滑り込ませた。

 教訓を与えてくれた事は感謝するべきなのかもしれないけれども、それはそれとして荷物のような扱いには少しだけ不満を覚える。エスコートしてくれるという言葉はいったいなんだったのか。

 

「で、だ。この後のプランは?」

 

「このトンネルを進むとハーゼバイン自治域端部の検問があってな、今はブルーホーネットの勢力が見張ってるだろうがそれをこのまま突っ切って地上へ。これで街からの脱出は完了じゃな」

 

「追っ手は?」

 

「たった今道を塞いできたじゃろう。それに、ブルーホーネットはハーゼバインに背中を刺されるのが恐ろしくて部隊を動かす事もできんよ」

 

「街から出るの……?」

 

 再度筒のような銃器(グレネードランチャー)に装填しながらのトラと運転しながらのビーンとのやりとりに気になる部分があったので、横槍のような質問は失礼かもと思いつつもつい口が動いて質問してしまった。それに対して、ビーンは嫌な顔一つせずに私へと一度視線を向けた後に快く答えてくれる。

 

「それが現状のハーゼバインにとっても好都合ではあるからな」

 

「えぇと?」

 

「あァ? どういう事だよ」

 

「おっと、検問が見えてきたから細かい説明は後じゃな」

 

 理解が及んでないのは私だけではなくトラもそうだったようで、そろって訝しむような声を出してしまったけれども話をビーンに話を中断される。

 そして、言いながらハンドルを強く握り直して進行方向を睨み付けたビーンに釣られて私も進行方向に視線を向けると、言葉通りに有刺鉄線をふんだんに使ったフェンスの門と幾らかの武装をした数人の男性の姿が見えた。

 

「あの、ビーンお爺さん?」

 

「なんじゃい」

 

「門の前に何人も立ってこっちに止まるように合図をしているように見えるんだけど……」

 

「安心せい、門というのは外からには強いが内側から破られるのには弱いと相場が決まっておる」

 

 求めていた答えと違う。そんな事を思いがら、力強くアクセルを踏み込んだビーンにトレーラーが急加速したのを感じた。

 

「このままブチ破るぞ、何かに掴まっとれぃ!」

 

「まァ、検問破りなんて穏やかな方法じゃできねェよな。ムチャばかりするジジイだ、楽しくなっちまう」

 

「なにかって、何に?!」

 

 興奮気味にハンドルを強く握り直すビーンと何故か余裕の態度でシートへとどっしりと座りこむトラ。対して私は刻一刻と近付いてくるくるフェンスの門に衝突する衝撃を予想するも、ただそれだけでどうすればいいのかわからないまま門の前に立つ人達のとても慌てた顔が詳細に見えてしまうまで何もせずに時間を浪費してしまう。

 

「いくぞ!」

 

「わぁーーーっ!!」

 

 半ばパニックに陥る思考、咄嗟に据わったままのトラへとしがみつく。

 

 トラクターのボンネットがフェンスへと衝突した瞬間、視界が真っ白に染まるほどの閃光と金属がひしゃげる耳障りな騒音。

 そういえば、街を囲むフェンスには電撃の仕掛けがあったりすると教わっていたと門の前に立っていた人達の悲鳴を聞きながら思い出した。

 

「ガハハハハハ!! どうじゃお姫さんよう、逃走成功じゃぞ!!」

 

「これでようやく一段落ってところか」

 

「あう、目がぁ……」

 

 強い閃光による沁みるような刺激に目を眩ませながら聞く豪快な笑い声と心底疲れたような呟き。そんな三者三様の中で、ふと事の始まりに教えて貰った言葉を思い出す。

 

──誰も信じちゃいけない、優しい世界しか知らないお嬢には難しいかもしれないどね、この世界はお嬢の想像できないほどに悪辣で、残酷なんだ。

 

 たしかに優しくない事はたくさんあったけれども信じられる人はいたし、悪辣で残酷な人もいたけどメチャクチャとしか形容できない人もいたよ。と、現実逃避気味に目を擦りながらトンネルの先にある光を見た。

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