箱入りお嬢様の実家爆発ドブカス崩壊世界でゴミ拾い物語   作:ቻンቻンቺቻቺቻ

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赤い飛沫はビックリするよね

 

 とても強引な方法で検問を突破したのは1時間ほど前、私とトラは2人揃ってビーンの運転するトレーラーの後部車室でグッタリとしていた。

 

「さすがに血ィ流しすぎたな、全身がアホみてェに重てェ……」

 

 狭い後部車室の床を占領しながら上半身裸で大の字に寝そべるトラの疲労感を隠さない呟き。

 傷跡男に背後から射撃され、そのまま応急処置の一切を施さないまま私に抱えられて短くはない時間を疾走の振動に晒され、その直後には全身で力みながら懸垂のようにトレーラーをよじ登り、挙げ句の果てに銃器を激しく乱射する戦闘行為。止血せずにその全てを耐えたトラの流血量は決して少なくなく、そのせいでトラは貧血になっているらしい。

 幸いというべきなのか、撃たれた銃弾は貫通していて摘出のために手術は必要無く、撃たれた箇所も肩で重要な臓器に損傷が有る訳でもなく、出血量から考えるに太い血管を傷付けてる訳でも無いらしい。なので、こうして血濡れの服を脱ぎ散らかしたかと思えば自分で負傷箇所に止血材のシートを貼り付けるだけの雑な処置で事足りとトラは言っていた。

 

「クッソだるいな、今回はマジで死ぬかと思った」

 

「呆れるほどタフな小僧じゃな、今回こそくたばってるかと思ったがまんまと生き延びおって」

 

 ぼやくトラとハンドルを握っているビーンの苦笑い。

 トラが言うにはこの雑というしかない処置で事足りる怪我、ビーンが言うにはさっさと医者に看て貰うべき怪我。これほどの大怪我をした事は無いけれども、アシストアーマーを着用し始めた頃に転んだりしてばかりだった時に少しの怪我でも痛みに怯んで座りこんでしまっていた私からしてみれば平然としているトラの我慢強さしかわからない怪我。世の中の平均というのはわからないけど、この場においては2:1でさっさと治療を受けるべきと判断される怪我にトラはグッタリとしている。

 

「お水ってこんなに、美味しいんだね。……知らなかった」

 

 後部車室の簡素な寝台、普段は運送で長距離を運転するビーンが休憩の際に使用していると思われるそれの上で水を飲む。熱に火照る体、口から入った水が喉を通り腹部の底に届くまでに主張する冷たさが心地好くて、味覚や嗅覚以外にも人は美味しさを感じ取れるのだと私はこの瞬間に初めて知ることができた。

 

「典型的な脱水症状じゃな、横になって安静にしとるといい」

 

「うん。ありがとう、ビーンお爺さん」

 

 トレーラーに乗り込むまではアシストアーマーの発熱による蒸し焼きの事しか考えていなかったけど、走りきった私を実際に襲った症状は多量の発汗による脱水症状だった。

 検問を突破し、トンネルを抜けるまでは熱が籠っていたアシストアーマーの内部。その後は徐々に熱が冷めていったけれども、その頃には完全に熱に負けてしまった私は軽い頭痛とひどい怠さの体調不良が顔に出ていたのか、丁度服を脱ぎ散らかしていたトラに持ち上げられたと思ったら寝台に放り込まれてしまった。

 今までに屋敷の運動場で訓練をしていた隊員達が休憩時に汗を拭うために半裸となっている姿を見てしまった事は何度もあるけれど、その状態の異性を間近に見るどころかあまつさその状態で抱きかかえられる事はなかったので、事前に何を言うでもなく突然そうしてきたトラには言葉を失って身が硬直するほどに驚いてしまった。

 

「でも、ごめんない。こんなに汗とか色んな汚れだらけなのにベッドを借りちゃって」

 

「なーに、そういう世話賃含めて全部エーデルハーゼに請求するから気にしなくてもいい」

 

 はしたないのを承知で体を効率良く冷やすためにアシストアーマーを脱いだはいいものの、全身汗だくでそれを拭ったタオルは搾れるほど。ついでに髪もそこはかとなくゴミ箱の中の香り。こんな状態なのに自分が休むための寝台を快く貸してくれたビーンの心の広さには感謝の気持ちばかりが湧いてくる。

 そして、全身の汗を拭っていた時に足が火傷してないか確認してみたところ、肌がほんのりと赤くなっているだけで水ぶくれなどの目で見てわかるような症状は確認できなかった。もしかしたら、極々軽微な低温火傷をしているのかもしれないけれども、私は足の感覚がとても鈍いのでほんの少し痛むか痒くなるかもしれない程度の状態ならある意味では無いに等しい症状なので気にしないでおくことにしている。

 

 貧血と脱水。それぞれ原因は違うけれども、私達は揃って起き上がるのも億劫なほどにグッタリとしている。

 だけど、銃撃されたりカーチェイスしたり検問を無理矢理突破したりと立て続けに危険な状況を越えた後に命に別状は無い状態でいられるのは、きっととても幸運なのだろうと思う。

 

「で、ビーン爺よォ。さっき言ってた街から出た方がハーゼバインにも都合が良いってどういう事なんだよ」

 

 寝転がったまま疲労を隠さない声で問い掛けるトラ。私としても気になる問いなので、寝台で休みながらも2人の会話に耳を傾ける。

 

「どうせ街に潜伏する準備をしながら多少は情報収集したんじゃろ、別の街に着くまで時間はあるんじゃし自分で考えてみたらどうじゃ」

 

「どこで何しようがロクに情報集まらなかったんだよ、だから聞いてんだ。あの状況なのにハーゼバインの情報がなにも探れなかった」

 

「ブワハハハ、まだまだ三流だな。できる事の幅は広い癖にそのどれもが二流以下、全部合わせても器用貧乏ド三流のペーペーじゃい」

 

「ずいぶんとボロクソ言ってくれるじゃねェか」

 

 散々に貶す言葉を口にしながら笑うビーンと急激に不機嫌になるトラ。しかし、それでも疲労感が強いのかトラに不機嫌な人がもつ刺々しい圧力は感じられなかった。

 

「事実じゃろうが。そこの崩れて溶けた火傷痕のつもりな化粧もお前さんがやったんじゃろ、そんなんじゃそこいらの雑魚を騙せても一流は騙せんぞ。やっぱり三流じゃな」

 

「え? ……あっ」

 

 ビーンの言葉の最初に顔に火傷の偽装をしていた事を思い出し、直後に化粧が崩れて溶けていると知って咄嗟に顔を触ってしまう。すると、指先にいくつかの塗料を混ぜてできたような色が付着してしまった。そして、もしやと思って寝台のシーツを見てみると、ベットリと指先に付着したのと同じ色が移ってしまっているのに気付く。

 多量の発汗によって化粧品を使った偽装が崩れてしまったのだろうか。借り物の寝台のシーツを汚してしまった申し訳なさのままハンドルを握っているビーンへと視線を向けると、ルームミラー越しにニヤニヤと笑う目と1度だけ視線が絡む。

 

「ここぞとばかりにメタクソ言いやがってよォ」

 

「ムハハハ、拗ねるな小僧」

 

 不機嫌なトラをそのままに一頻り笑ったビーンが1度だけ咳払いを挟んでから言葉を続ける。

 

「調べても情報が集まらなかった。それだけでも重要な情報だろうにのう」

 

「あァ?」

 

「奇襲されて一晩の内に組織まるごと姿を隠し、その情報が徹底的に隠蔽できておるという事じゃぞ」

 

 その一言の後にしばらくの沈黙。つまりはどういう事なのだろうと内心で首を傾げていると、トラが小さく息を吸った後に深く長い息を吐いた。

 

「今回の奇襲はハーゼバインにとって想定内の事で、色々と対策済みだったって事かよ」

 

「え?」

 

「今回のというよりはハーゼバインは常に外敵に備えていたと言うのが正しい。ハーゼバインにある程度関わりを持つ者にとってあそこの危機管理への執拗さは常識じゃ、今回儂が請けていた運送も大した物を運んどらんのに4人も護衛を付けさせられたからな」

 

「え?」

 

 それなりには色々と教えられてるはずの私が知らないハーゼバイン(父の会社)の情報に意表をつかれたような気持ちになり、無意識な声を繰り返しで漏らしてしまう。

 

「金に目が眩んでいたあの3人組はハーゼバインの敗色が濃いと見てブルーホーネットにつこうとしたみたいじゃが、そもそもの話、ハーゼバインは何一つ追い詰められとらん」

 

 当然の事を語るように追い詰められてない根拠を順に説明してくれるビーン。

 情報の隠蔽が徹底できるのは組織が組織として健在な証拠であり、ハーゼバイン直轄の傭兵組織アルミラージとその責任者であるルイーサが万全だという事であり、更にはハーゼバインの全てを取り締まる社長である私の父が健在だという事。

 また、街の何処かに潜伏しているのに街の誰からも些細な情報さえ漏れてないという事は、街の住民全てがハーゼバインの味方だという事でもあるらしい。この事は奇襲によって街のどこであっても大規模な戦闘が起きかねない状況になったのに、誰も恐慌する事なく街が静かに冷静さを保てている事からもハーゼバインへの信用が伺えるとか。

 爆破された屋敷や黒焦げの社屋もハーゼバイン有利の証拠らしい。なぜなら、私が今着用している新型アシストアーマーの情報を奪い、あわよくば新型の開発環境を流用を目論んでいるはずのブルーホーネットがそれをするにはデメリットしかなく、爆破も黒焦げもブルーホーネットの目的を達成させずに突入してきた部隊を返り討ちにするためのルイーサ達が行った作戦しかあり得ないとの事。徹底的に私の着用している新型を傷付けないようにしていたのは、ブルーホーネットが何一つ情報を得る事ができなかったからせめて現物だけでも欲しがっていたという推測を強める1つであるらしい。

 

「状況による推測ばかりじゃがな、これだけ推測の材料が揃えばバカでもわかるわい」

 

「なるほどな、今のオレは間接的にバカにされてる訳か。ブン殴ってやろうか?」

 

「今のヘロヘロな状態で儂に勝てるとでも? 頭突きで返り討ちじゃ、ハンドルから手を離さなくとも勝てるわい」

 

「私も全然わからなかった……」

 

「それはまぁ、仕方無いじゃろ。なんにも知らん箱入りには難しかろうて」

 

 なんだこの扱いの差は。と、呟くような声で憤慨するトラ。

 今しがた説明された事を頭の中で繰り返して過不足無く全てを理解して覚えていられるようにしていると、何かに気付いたようにハッとしたトラがまたビーンへと問い掛けた。

 

「屋敷爆弾に社屋爆弾、そこまでやられて更に万全な敵勢力が隠れてるアウェイ、ブルーホーネットが背中刺されるのが怖くて撤退すらできねェほど追い詰められてたのはわかった。けどよ、なんでハーゼバインはそこまで有利とれてたのにさっさと反撃しなかったんだ?」

 

「それこそ簡単じゃ。お前さん、その答えとずっと一緒にいたじゃろがい」

 

「ふぇ、私?」

 

 まさか、ここで私が話に出るとは思っていなかったのでかなり困惑してしまった。どういう事だろうかと運転席に座るビーンへと視線を向けると、またルームミラー越しに視線が1度だけ絡んだ。

 

「アルミラージで最も優れた戦力を護衛に付け、街で最も安全な屋敷で徹底的に守り、咄嗟に銃の引き金がわからんほどに荒事と無縁な箱入り。それほど大事にしている娘が何処にいるかわからん状況の街で戦争なんぞできなかろうて」

 

「あァ~……。オマケに警戒心危機感無しの上に妙にズレてて好奇心ばっかり強いしな、ドンパチやってる最中にひょっこり出てきてウッカリ捕獲されたりしそうだ」

 

「人質にされようもんならハーゼバインは手も足も出せないじゃろうな」

 

「えぇっ、私だって怖いものや危ない事には近付いちゃダメだって事はわかるよ。それに、知らない人にだって着いていかないもん」

 

「なぁ、ビーン爺。これどう思うよ?」

 

「このお姫さんを1日連れて歩くのは儂にはできんな、おっかなくてほんの少しでも目を離す隙が無さそうじゃ」

 

 もしかしたら、私は今貶されているのかもしれない。

 だけど、自分でも何か反論が有るわけでは無いので言われるがままになっておく事にした。

 

「話戻すけどよ、ハーゼバインが迷子のお姫様のせいで反撃するにできなかったのはわかった。だけどよ、やっぱり街を出た方が良いってのがわからねェな、老いぼれ運送屋と根なし草が連れて歩くよりはさっさと元の場所に戻してやった方がお互いのためだろ」

 

 まるで拾ってきた犬や猫のような言われようの気がするけど、そんな扱いは昨日の時点でトラの口から否定されていたはず。それはそれとして、トラの言い草がまるでさっさとお別れする事を望んでいるかのようで少しだけ寂しいような気持ちになる。

 

「過保護極まったような奴がお姫さんをお膝に乗せながら戦争したがる訳無かろう。いっその事戦火の届かない場所に連れていけば連中はなんの憂い無しにさっさと相手を殲滅しに行けるし、お姫さんの保護でエーデルハーゼへの貸しにもできるし、運賃で儂の稼ぎにもなる」

 

「理由の半分以上が利己的だな」

 

「悪いか? なんだったらお姫さんに社会勉強させてやるって建前も付けてやればいいじゃろ」

 

「いや、むしろ納得。多少は相手の都合も考えてるあたりまだ良心的だ」

 

 へっ。と、2人がそろってひねくれた笑い声を吐く。

 私には2人がどんな感情でそう笑ったのかがわからなかった。

 

「え、えっと、1つ訊いても言いかな?」

 

 何故笑い声がそんなにひねくれてるのかと好奇心を感じなくもなかったけれども、それよりも気になる事を訊くために2人の会話に口を挟む。

 

「なんだ、お姫様としてはやっぱりドンパチやってても家に帰りたいのか? だとしても、ある程度は青虫共(ブルーホーネット)が片付くまでは街に近づかねェ方が安全だぞ」

 

「私が帰らない方が皆の都合が良くて、はやく戦争が終わるならしばらく帰れなくても頑張れるよ。訊きたいのは街を出ている期間の事じゃなくて……」

 

 寝転がったままのトラの忠告のような言葉。それについては納得しているので特に異論は無く、そのまま質問へと移る。

 

「これから何処に向かうのかなって」

 

「この道なりに進んでライフシードカンパニーの自治域で補給、そこからハーゼバインを中心とした弧をなぞるように大回りの道のりでホムラ重工まで行く予定じゃな」

 

「ハーゼバインとは近過ぎず遠過ぎずって距離だな。ブルーホーネットが部隊を別けて追うには遠いし、ハーゼバインからしてみれば戦争終わらせちまえば追うのに支障は無いってか」

 

 ビーンの答えてくれた社名には覚えがある。たしか、ライフシードカンパニーは遺伝子や生体機能の研究を主としていて、ハーゼバインとは特筆するような取引は無い会社で、ホムラ重工は車や重機、歩行戦車などの大型な機械を生産していて、ハーゼバインとは分野は違えど同じ機械技術を開発する会社という事で少なくない交流がある会社だと覚えている。

 

「移動の最中に戦争が終わればどこかで迎えを待つもそのまま帰るも良し、しばらく終わらなくとも建前通りに社会勉強でもしておればいいじゃろ。好都合にもお姫さんを拾った小僧は仕事の幅が広い、その仕事でも手伝ってれば退屈はしないじゃろうて」

 

「戦争が長引いたらコレを連れて仕事しなきゃならねェのか、気苦労で胃袋に穴空くぞ」

 

 仕事を請けなければ食いっぱぐれるし、別行動で目を離すのも何がどうなるかわからねェもんな。と、とても疲れた声色で呟くトラとそれに頷くビーン。この2人は私をどれほと危なっかしい存在だと認識しているのだろうか。

 

「えっと、帰るまで護衛してくれるだけでも大変なのに、他にも大変そうな事になっちゃってごめんね」

 

「状況の流れがこうな以上仕方無ェよ、謝るな。そもそも、この場の誰が悪いって話でも無ェ」

 

「う、うん」

 

 寝転がったまま大きな手を挙げてからヒラヒラとゆっくり動かすトラ。寝台に横になる私と床に寝転がるトラの位置関係によってトラがどんな顔をしていたのかはわからなかったけれども、大きな手が動くのだけが私の目に写った。

 

「帰るまでの護衛か。なんだ、お姫さんは箱入りの割にはその場で傭兵を雇って護衛にする発想ができる程度には傭兵の扱いを知っていたようじゃな。儂はてっきりトラ坊がとうとう色気付いてあわよくばの事を狙っておったもんかと」

 

「枯れたジジイがバカみてェな事言ってんじゃねェよ」

 

「ハァーン!? まだまだ汁気たっぷりの現役じゃ! 臨戦態勢なら鋼よりも硬いわい! 見せてやろうか!!」

 

「自分でバカ言い始めた癖にムキになるなよ面倒臭ェ。意地張る前にゴミ箱に捨ててある漲るための茶色い小瓶は隠しておけよな」

 

「それは他意の無い極々普通の栄養ドリンクじゃぁ!!」

 

 2人の言い争う内容はどういう事なのかよくわからなかったけれども、それより前の内容に私でも少しだけわかる部分のところで誤解があるみたいなので訂正を試みる。

 

「その、護衛の依頼は私が思い付いたんじゃなくて、その時は失くしちゃったと思ってた装備品の代わりを揃えるたいからってトラさんが依頼しろって持ち掛けてくれたの」

 

「げっ」

 

「ハァン? 歩兵装備を報酬に、要人の護衛を……?」

 

 瞬間、2人の言い争いが止まり、トラが吐き出すような渋い声を鳴らし、ビーンが運転席から振り返ってルームミラーではなく直接に私を丸く見開いた目で見る。

 もしかして、私はなにか失敗をしてしまったのだろうかと心配になってしまう奇妙な沈黙。

 この沈黙をどうしたものかと困惑していると、ボンッ。と、鈍くて重い音と衝撃、同時にフロントガラスに少しだけ赤い飛沫が付着した。

 

「おっと、よそ見でクリーチャーでも轢き殺したか」

 

「えっ」

 

「まぁ、勝手に飛び出してきて勝手に死ぬ間抜けの事はどうでもいいんじゃ」

 

 何気無い仕草でビーンがハンドル横のレバーを操作し、フロントガラスにウォッシャー液が浴びせられてワイパーが動く。ワイパーの稼働範囲外に少しだけ赤い飛沫を残しながら、少しだけ噴き出すようにビーンが笑い始めた。

 

「要人の護衛に、報酬は歩兵装備……ブフフッ。しかも、期間はある意味無制限……ブフホッ」

 

「……もっと楽に事が済むと思ってたんだよ。普通、奇襲かけられた直後に組織まるごと完全に隠れられるとは思わねェだろうが」

 

「ンブフッ! にしても要人の護衛をそんな安値で請けないわい! そんな間抜けな見積もりミスをするから三流呼ばわりなんじゃろうがよ! ガハハハハハ!!」

 

 渋い声色のトラを心底愉快そうなビーンが盛大に嘲笑う。

 どうやら私は意図しない形でトラの失敗を言いふらしてしまっていたらしい。

 

「随分と気前良く自分を安売りしたな! 未熟者の半人前、半熟のジュクジュクじゃわい! ダッハッハッハ!!」

 

「クッソ、口止めしときゃよかった」

 

「えっと、その……ごめんね、トラさん」

 

「…………謝るな」

 

 寝転がって休んでいるはずなのに休み始めた時よりもグッタリとしてしまったトラ、失言によって物凄く申し訳ない気持ちになった私。車内はしばらくビーンの豪快な笑い声だけが響いていた。

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