箱入りお嬢様の実家爆発ドブカス崩壊世界でゴミ拾い物語   作:ቻンቻンቺቻቺቻ

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必ず死ぬ、とっても怖いね

 

 どこからか勢いよく飛来した拳程の石が傷跡男の顔に巻かれた包帯の上に直撃し、堅い物と堅い物がぶつかる鈍い音を鳴らす。その瞬間大きく顔を仰け反った傷跡男の握る拳銃が弾けるような乾いた音を発しながら瞬間的に火と煙を噴き出して、トラから離れた地面を抉って弾けさせた。

 

「っぐぅぉぉぉ……」

 

「えっ」

 

「おっ? どうした──」

 

 私を拒絶や恐怖の思いに縛りつけていた相手が突如として顔をおさえて悶絶を始めた姿に対して、また理解が追い付かなくなってしまった私が無意識の内に困惑の声を漏らすと、私の背に乗ってルイーサが着せてくれたベストを剥ぎ取るように奪っていた小太り男が再度の堅い物と堅い物のぶつかる音の発生と同時に言葉を途切れさせる。

 

「ぶぉ゛っふ! 歯がっ!」

 

「え、え?」

 

「やけどのねーちゃん! にげろ!」

 

 聞き覚えのある幼い声の方向へと反射的に振り向くと、少しだけ離れた場所に立つ建物の上に昨日友達になれたばかりの泥色の少年や土色の少女達。それらがそれぞれ石を握っていて、休む間無しに傷跡男と小太り男へと何度も投擲していた。

 

「にげろっ! はしれぇぇ!!」

 

「あっ」

 

 泥色の少年の叫びに、ほとんど停止していた思考が動き出す。

 

──そのまま逃げろ! 走れぇぇ!

──とにかく()()に走るんだ

──お前がやらなきゃいけないのはだな、なによりもまず自分の身を守る事と逃げる事だ

 

 一番最初に思い出したのは今ととても良く似た状況で何処かから隊員に叫ばれた言葉。それから連鎖して思い出したのはその少し前に私がしなくてはいけない事を教えてくれたルイーサの声。そして、最後に思い出したのはこれから友達になって助け合っていきたい人の虎色の瞳。

 

 逃げなくちゃ、走らないと!

 

 完全に復帰した思考。わずかな身動きすらも忘れていた体に力を籠めて地面を叩くように手を付いて、アシストアーマーのパワーを頼りに背中の上にある重量を無視して勢いよく立ち上がる。

 私の背から転げ落ちた小太り男が視界の端で地面へと頭を強かに打ち付ける。

 

「頭がっ……! 何がおきたってんだ!」

 

「っ! 逃げる気か、させねぇぜ」

 

 顔をおさえて悶絶しながらも指の隙間から周囲を見ていたらしい傷跡男が立ち上がった私に気付き、即座に私を捕まえようと飛び掛かってくる。しかし、眼を失う程の負傷をした直後に石を顔に当てられたのは相当にダメージがあったらしく、その動きに精細は無い。

 そんな動きならば、日々訓練で体を鍛えている隊員と一緒にスポーツをしたり、ルイーサに上手な体の動かし方を教えてもらえてる私にとって躱す事はそれほど難しい事ではなかった。

 アシストアーマーの瞬発力を頼りに3歩の距離を1歩で跳び下がり、私を捕まえようとした傷跡男の腕から大きく離れる。そして、腕を振り切った直後の隙に傷跡男の真横を駆け抜ける。

 

「なっ、速!?」

 

 私は今、逃げなければいけない。走らなければいけない。

 でも、それは絶対に1人でではない。

 

 走る勢いを一瞬だけ弱めて、地に倒れ付して沈黙を続けているトラの胴に両腕を回して持ち上げ、絶対に落としてしまわないように抱き締める。

 

 傷跡男は頭を狙ったけど別の場所に当てたと言っていた。殉職()してもらうと言いながら動かないトラに対して追い打ちしようともしていた。つまり、トラは傷跡男に撃たれてしまったけれども、命を落としてはいなくて気を失っているだけのはず。

 

 トラは私達の関係を雇用主と被雇用者で護衛される側とする側の関係だと言っていた、トラ自身の事を有効活用だけしていればいいとも言っていた。本来なら、私1人でなりふり構わずに逃げてしまうのが正しいのかもしれない。

 だけど、それでは1番最初に出会ってから怪我の手当てをしてくれたり、私を捕まえようとした人達から守ってくれた事のお礼ができないままトラが死んでしまって私達の関係は終わってしまうのだと思う。

 直感的な思考が、それら全てに対して拒否の意思を固める。

 

「逃げる、走らなきゃ!」

 

「クソァ!! 待て、待ちやがれ!!」

 

 抱き締めたトラの胸と私の胸が重なる。

 予想通りにトラがまだ生きている事を伝わってくる鼓動に確信。

 ほんの一瞬前まで何も考える事ができない程に恐怖と混乱の中にいたのに、今は頭の中を逃げ切るという決意だけが占めていた。

 

「走って、逃げる!!」

 

 私達はこれから友達になる関係だ。

 一緒に逃げ切って、友達になるんだ。

 

 走る。そのためにとにかく足を動かす。その意志が私の脳で微弱な電気信号として発生し、神経の束である脊椎を駆け抜け、壊れてしまった足の神経まで届いた頃には極々微弱な生体電流として表皮にも伝播する。そして、それは寸分違わずに私の表皮を覆うアシストアーマーにも届き、かすかな誤差さえないまま人工筋肉を稼働させる。

 

 大きく踏み出した一歩、私を捕まえようとしたのであろう傷跡男の指先がほんの一瞬だけ私の背を掠めた。

 

「ド畜生が! せっかくの大金を逃がすかよ、悶えてねぇで追うぞダチ公! 車まわしてこい!」

 

 トラという健康的で大柄な人間を抱える荷重があるからなのか、1人で走るよりも断然遅い加速。だけど、背後から聞こえる叫びと慌ただしい足音は少しずつ離れていく。

 

 どこに向かって走ればいいのか、そんな事を考える前に飛び出した先はそれなりに人の往来がある路上。狭い路地から飛び出した私達に驚きの視線が集まる。

 

 事あるごとに目立つなと言われてたのに、不特定多数から強い注目を向けられてしまったこの状況。もしかしなくても、大きな失敗をしてしまったかもしれない。

 

 だけど──

 

「逃がさねぇぜ!」

 

 ──私達がいま走り抜けてきた路地から左右の建物の外壁を削りつつ飛び出してきた装甲車と、その上部から上半身を出して私達を睨む傷跡男に追われている状況では細かい事を考えるよりもひたすらに走る事を優先しなければならない。

 トラを抱えながら、遮二無二に路上を疾走する。

 

「なんでお姫様が1人で逃げ回ってたのかよーくわかったぜ。ハーゼバインの新型の秘密ってのはよぉ、お姫様が着ているそれなんだろ? 全然気付かなかったぜ、ブッ殺してから優しく剥ぎ取ってやらぁ!!」

 

 真っ直ぐに伸びるアスファルトが高速で私達の後ろへと流れていく中、装甲車の凹凸を掴んで大きく身を乗り出した傷跡男が私を捕らえようと手を伸ばしてくる。急加速や減速、左右への蛇行で何度かその腕を躱しながら幾つか目の交差点を走り抜けると、形や大きさの違う数台の車輌が私達を追い掛けるように後を追ってきた。

 

「チィッ、鼻のいい奴等がもう嗅ぎ付けてハイエナしに来やがった」

 

 傷跡男が舌打ちを鳴らして装甲車上部のハッチへ滑り込むと、数秒後にはアシストアーマーを着用して運用するような大きさの銃器、分類としては機関銃と呼ばれる類いのそれを抱えながらハッチから姿を現す。

 

「くたばれや雑魚共がよぉ!!」

 

 え? と、思った時には激しい雷のような炸裂音が連続して鳴り響き、後続の車輌がスピンしてぶつかり合ったりボンネットから火を噴き出しながら急停止するなどをして続々と数を減らしていく。

 

 躊躇無く人を撃ち、嬉々として大惨事を引き起こす悪辣で残酷なその姿に、私は呼吸が乱れる程に恐怖を思い出す。

 でも、それでも私は足を止める訳にはいかない。

 

 トラは命を懸けて私の命を守ってくれていた。

 だったら、これから友達になる私も、命を懸けてトラを守るべきのはず。そのためには、なにがなんでも、私がどうなろうとも、この足を止める訳にはいかない。

 

「またハイエナ……いや、青いスズメバチの隊章って事はブルーホーネットの連中か、でけぇ組織の癖にフットワーク軽いじゃねえかよ」

 

 後続の車輌全てを脱落させ、装甲車上部に機関銃を接続して固定させた傷跡男の感心したような呟きに釣られて一瞬だけ背後へと視線を向けると、形も大きさも揃った2台の装甲車ががいつの間にか私達と傷跡男の乗る装甲車を追うように走行していた。

 

 ブルーホーネット。屋敷と父の会社を襲撃した武装勢力の出現。

 なにがなんでも走り続けて、どうにかして逃げきらなければいけないのに、街全体を占領している勢力に私の所在を知られてしまった事に激しい危機感を覚えて胸の奥から震えてきそうな程の切迫感が沸き上がってくる。

 

「ブルーホーネットぉ! 俺達が見付けてここまで追い立ててきたんだ、懸賞金はもちろん俺らの物なんだろうなぁ!」

 

「金が欲しいなら捕縛まで手伝え! あのアシストアーマーは絶対に傷つけるなよ!」

 

 私のすぐ後ろの左右を走る傷跡男の乗る装甲車と青いスズメバチのエンブレムをペイントした装甲車。それぞれのハッチから上半身を乗り出している2人が大きな声で言葉を投げ掛け合う。

 直後、装甲車の全てがエンジンを大きく唸らせて加速し、私を左右から挟むように並走して蛇行して走る事を封じてくる。

 

「そ、そんな……!」

 

 左右に逃げられないのならば減速して後ろに抜けようかと試みるも、私を挟む2台の後ろからもう1台が距離を詰めてきて逃げ道になりそうだった隙間を塞ぐ。

 周囲3方向は完全に塞がれて、加速して前に逃げようにもトラを抱える荷重に加速しきれずにそれはできそうに無かった。

 

「三度目の正直だ、今度こそ諦めな!」

「箱入りにしては随分と逃げたが、これまでだ」

 

「い、いや……」

 

 左右の装甲車から身を乗り出した乗り出して私へと手を伸ばしてくる二人。

 前に行けない、左右にも避けれない、後ろにも躱せない。どこにも逃げれない。その事実が私の呼吸を詰まらせて、絶望感を生じさせる。

 

「……たすけて」

 

 私が溢した呟きは誰に向けたものだったのか。

 私へと迫る腕への恐怖、走る先の無い絶望、それらから少しでも逃れたくて大きく前傾した低い姿勢へ、抱えるトラを高速で後ろへと流れていく路面に当ててしまわないように強く抱き締める。

 

「助けて……!」

 

 誰に願ったのか、何に祈ったのか、自分でもわからない懇願の悲鳴。

 直後、それに応えるように私のすぐ背後から何度も乾いた銃声が鳴り響き、くぐもった悲鳴が二つ私の耳へと届いた。

 

「とら、さん……!」

 

「クソッ!! 状況が何も解らねェ! 今撃った相手って撃って良かった相手なのか!!?」

 

 銃声に強張った体が一瞬だけ減速するも、耳許で力一杯叫ぶトラの声に強張りがとけて加速し直す。同時に、いつの間にか恐怖も絶望も忘れていた事に気付いた。

 

「ドブカスゲス外道と組んでるように見えたって事は敵だよな?! 肩が痛ェ、これ撃たれた痛みだよな?! 腹も締め付けられてクッソ苦しいしよ! なんなんだこの状況はよォッ!!」

 

 気絶から復帰したトラは混乱真っ只中らしく、まるで当たり散らすかのように喚き声を吠え立てる。

 

「トラさん!」

 

「うるせェ! 耳許で叫ぶな!! なんでお前はオレを抱えて走ってんだ! それと、絶対に落とすなよ、こんなスピードで落とされたらズタズタの挽肉になっちまう!!」

 

「トラさんが撃たれて気絶しちゃって! 置いてなんていけないからこうしてたの!」

 

「自分の身を守る事と逃げる事だけ考えろって言っただろうがボケナスがァ!」

 

「私1人でなんて逃げられないよぉ!!」

 

 たぶん、いや、絶対に、こんな大きな声を出したのは初めてだっていう程の大声を出しながら走り続ける。

 意地悪な事を言われてる気がするのに、トラが無事に気絶から目を覚まして窮地をどうにかしてくれた事が嬉しくて、大声を張り上げながら走り続けてるのに最初に走り出した時よりも体力が沸き上がっているかのような錯覚さえ感じてしまう。

 

「そんな事よりもっとスピード上げられねェのか!」

 

「トラさんが重たくてこれ以上は無理だよぅ!」

 

「マジでお前何で1人で逃げ……あァ、クソ! それじゃあ後ろならどうだ!」

 

 後ろも塞がれて通れないよ。と、発言しようとした瞬間に背中のすぐ後ろから連想した発砲音。同時に、硬質な甲高い音もかすかに耳に届く。

 

「だぁぁっ! クソ! こんな豆鉄砲じゃ装甲車の防弾ガラスもタイヤも貫けねェよ!」

 

「オイ、野良騎士小僧! お前の運も実力も認めるがここまでだ、今すぐ諦めて大人しくお姫様を渡すんなら俺の肩に風穴開けたのを水に流してやるし俺達の取り分から1割くれてやるぞ!」

 

「何が水に流すだ、ふざけんな! 先にテメェが俺の肩をブチ抜いたんだろうがよ!」

 

「耳が……」

 

 とても不機嫌そうに当たり散らしていたトラと装甲車の上部に隠れている傷跡男が怒鳴り合う。耳許でのトラの怒声が私の耳に強く響いて耳鳴りが鳴り始めた。

 

「誘いに乗らねえならどうするつもりだ、そのままお姫様がブッ倒れるまでその小せぇ胸に抱っこされてても何も得しねぇぞ!」

 

「テメェのそれは交渉のつもりなんだろうがよ、焦りが透けて見えてんぞ! このまま時間が経って困るのはテメェらだろ、ハーゼバインの連中がコイツに気付いたらどこからどれぐらいの戦力で飛び出てくるかわからねェもんなァ!」

 

「そいつはお前等も同じだろうが! ブルーホーネットの部隊が今まさに俺達を追って集まってきてるんだぜ!」

 

「それじゃあこっから先は我慢比べの運試しだな! 俺はこのお姫様を助けにハーゼバインが突撃してくるのにオレの全部を賭けてやらァ!」

 

「お姫様がバカみてぇに抱っこしてくれてなけりゃくたばってた癖にカッコつけやがって! それならこっちはブルーホーネットのフットワークに全賭けだ、俺の幸運を舐めるなよ!」

 

 まるで罵り合いのように言葉をぶつけ合っていた二人。私が口を挟む間なんて無かった交渉らしき怒鳴り合いがここでピタリと止まり、耳に入る音がアスファルトを蹴りつける私の足音と装甲車の唸るようなエンジン音、そして、密着している私とトラの呼吸と鼓動の音だけになる。

 

「話は決まった、後どれぐらい走れる」

 

「ま、まだまだ走、走れるよ。ほとんどアシストアーマー頼りだから、体力は全然平気」

 

「そうか」

 

 たった今までの怒鳴り合いとは違う小さな声。耳許で囁くようなそれは、常のぶっきらぼうなんてまるで無い静かに労るような声。不意を打つ初めて聞くその声に、私は少しだけくすぐったいような動揺をしてしまい、言葉の始めをどもるようにしつつ言葉を返す。

 一旦の沈黙。互いの呼吸が幾つか繰り返されてから、慎重な声色でトラが再び私へと耳打つ。

 

「すまねェな、あそこでオレが警戒を切らして下手こいてなけりゃまだ安全に潜伏できていたはずだった」

 

「そ、そんな。私だってトラさんにお喋りは控えろって言われてたのに、いっぱい話しかけちゃったから……」

 

「それでも下手こいたのは護衛を請け負っていたオレだ。そういうものなんだ、こういうのはよ。それに、ここまで状況窮まった挙げ句どうにかする手段が運と護衛対象であるお前の不自由な足に頼るしか思い付かねェ」

 

 鼓動の音を共有するほどに互いの胸が密着しあう体勢では、トラが今どんな顔をしているのかなんてわからない。だけど、きっととても悔しい顔をしているのではないかと思ってしまうような声色だった。

 

「トラさん」

 

 名前を呼んでも返事は無い。

 それでも、私は言葉を続ける。

 

「私、どんな事になっても最後まで走るよ。絶対に諦めないから」

 

 もしも、この状況に対してハーゼバインの誰かが助けに来るよりも早くブルーホーネットの部隊が集結してしまったら、大多数に囲まれて私達は本当の意味で逃げる先を失い、そのまま捕まってしまって悪い意味でどうにかなってしまうのだろう。

 

 そんなのは嫌だ。

 そうなりたくないから、どうにかするしかない。

 じゃあ、どうすればいいのか。

 

──どうするもこうするも、どうにもなりたくなけりゃ生き足掻くしかねェだろうよ

 

 その答えを、私は既に教えて貰っている。

 

「それが、生き足掻くって事なんだよね?」

 

「……お前」

 

 耳許での息を飲む音。

 一呼吸の後に、それが面白そうに笑う声に変わった。

 

「やっぱりお前、とんでもなく図太いよなァ」

 

「ええぇ……」

 

 今のやりとりの何処に私が図太いという要素があったのか、わからなさすぎて変な声が出てしまった。

 

「だが、まァ、いいんじゃねェの? そこまで言うならよ、オレは勝ち馬に乗りてェから賭ける先を変えるわ」

 

「えっと?」

 

「懸ける先をハーゼバインじゃなくて、そこまで宣言してみせたお前の……、ウィノラの運と脚に賭ける。もちろん、オレの全部をだ」

 

 オレを死なせてくれるなよ? と、耳許でフワリと笑われる。

 なぜなのか、その瞬間から胸の奥に何か火が灯ったような熱が生まれた。

 

「うん。私、がんばる!」

 

 なにがなんでも走りきる。その決意が、きっとこの熱なのかもしれない。

 そう、なにがなんでも。

 

 先ほどトラにまだ走れるかと問われ、トラをガッカリさせたくなくて反射的にまだまだ平気だと答えてしまったが、本当はこの疾走の限界はすぐ近くまで来ていた。

 本来なら小柄な私1人分の荷重しか想定しないで作られたこのアシストアーマーに、トラという大柄な人間を抱える負荷を増やしながら全力での稼働をつづけている。それはつまり、人工筋肉に過剰な負荷を掛けながら稼働をさせているせいで、通常以上に人工筋肉に運動と摩擦による発熱をさせてしまうことになる。

 既に、私の肌に密着しているアシストアーマーの人工筋肉は私の体温よりも高い温度まで発熱していて、今も少しずつ温度をあげている。

 体力的にはまだ走れる、この温度もまだ我慢できる。でも、遠くない未来に私の体は蒸し焼きになるかもしれない。

 

 体表の広範囲に過度な火傷を負った人間は死んでしまう。

 勉強の中で知った知識が、胸の奥から熱い決意が湧き上がってはずの私の背筋に、冷たく鋭い恐怖を差し込む。

 

 怖い。だけど、諦めない。

 

 私は命を懸けてトラに命を守られていた。

 私だって命を懸けてトラの命を守ってみせる。

 それが例え、本当に命を失うような結果になるとしても。

 

 たぶん、これが()()という事なんだと理解した。

 

()()に、()()()! ()()()()()よ!!」

 

 なんとしてでも、私達は賭けに勝たなければいけない。

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