強めのモブウマ娘になったのに、相手は全世代だった。   作:エビフライ定食980円

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第39話 入着の意図を巡って

 差しセイウンスカイの策謀。

 ウイニングライブ後に、東京レース場からトレセン学園へと戻った私は、10分20分程度のミーティングを葵ちゃんと行った。

 

 お互いに気になった部分は、『私の力で入着した』のか、それとも『セイウンスカイによって入着させられた』のか。

 セイウンスカイが私の策に乗っかる形で謀略を展開して、相乗効果を産み出していたのがあのレースであることは間違いない。だからこそセイウンスカイが不在であった場合に、増幅分が無くても重賞入着を狙えるのかというのが大きな疑問として浮上したのである。

 

 セイウンスカイのやったことの根幹は、先行から差し集団全てをひっくるめてバ群にして埋もれさせつつスタミナ消耗を強いること。後方集団全体のペースが上がったことによる副次効果があるにせよ、相対的に影響が低かったのは大逃げを選択した私とホッカイルソーである。

 問題は、私が最も積極的に陥れようとしていたホッカイルソーに先着されているという点である。相対的にセイウンスカイの影響が低く、私の嫌がらせを全面に受けていたホッカイルソーはペースを落としながらも、最後まで明確に崩れることは無かった。

 この事実を悲観的に見れば、私の策は意味をなさないとも結論付けることもできるが……。

 

 

「……とは言ってもサンデーライフも本心から、そう考えているわけではないでしょう?」

 

「まあ……そうですね。ですが葵ちゃんから安心する言葉が聞きたいのも確かです。正直、今までが今までだったので本当に通用するのか半信半疑ですので」

 

 ホッカイルソーに圧力を最もかけていたのは事実だが、それは彼女に勝つためではなく、ホッカイルソーのペースアップによって集団全体の時計を乱すことのが中心にあった。勿論、彼女が終盤失速すればそれに越したことはなかったが、少なくとも当初の狙いはそれで達成している。

 

「――でしたら、見るべきところはここ、ですね!」

 

 そう言って葵ちゃんが指し示したのは5着――私の後ろに入った子であった。

 

 

「5着のインステリマークさんとサンデーライフの着差が4バ身あります。坂を越えたラスト1ハロンで彼女を含めた後続集団の前めに付けていた子たちが軒並み失速したことで蓋になったわけですが……。

 セイウンスカイさんが不在でも、ここまで効果的ではないにしろ同じ現象は起きたと思いますよ。それに全く起きなかったとしても、4バ身の着差が出ている以上はこれを覆すにはサンデーライフが失速するくらいしか無いですし」

 

 今回のレース展開においてセイウンスカイの有無で変わらないことがある。それは私のスタミナ消費だ。

 だからこそセイウンスカイが居なくても、私はタイムを大きく落とすことは恐らくない。影響を受けているのは周囲の子のタイムである。だとすれば4バ身差が5番手との間に付いているのだから、セイウンスカイの有無でその差が縮まることはあっても、順位変動を齎すものではない――つまり、私の策略だけでも十分に戦えるということを葵ちゃんは主張している。

 

 

「……それに。もしセイウンスカイさんが意図的にサンデーライフのことを本当に入着させたのであれば。むしろ、そっちの方が――」

 

 

 

 *

 

 『URA等関連資料室』。ダイヤモンドステークスがあった翌週はここで過ごすことが多かった。

 私の根城になって久しいこの部屋だが、実のところ葵ちゃんの個室トレーナー室が使えるようになった現状、居住空間としてはこの資料室は一段劣る。

 

 ここに保管されている資料は機密ではないものの、だからといってむやみやたらに汚していいということではないので、飲食は控えている。曲がりなりにも『生徒管理者』だから何かあったときに追及されるのは私、という側面もあるからね。

 水気を避けるために、雑巾がけなどで水拭きをするときもバケツは廊下に置いて清掃している。

 

 しかしトレーナー室の方は飲食自由だ。人によってはコーヒーメーカーとかも置いているらしい。葵ちゃんのところは飲み物はポットが置いてあって、ティーバッグと茶葉が常備されている。食べ物系なら飴は常備してあるし冷蔵庫も設置されている。今は私宛てのバレンタインの残りが保管されています。

 

 まあ、飴くらいなら資料室で舐めても別に構わないけど、飲み物の無い環境を長時間滞在する居住空間にするのはちょっと微妙である。

 

 更に置いてある資料は別に大事なものでもなんでもない。この資料室を受け持ってから『興行規則』を詳しく知れて、それで優位になっている面はあるものの、別にこの部屋にある資料が唯一無二って訳でもないんだよね。まあ絶対レースには使えないような変な雑学っぽい知識は集積されているんだけどさ。

 

 それに、規則を最も活かした『清津峡ステークス』での勝利だって、そのレース開催日程が掲示されたのは学内の掲示板だし。

 しかも今だと『賢さトレーニング』的なのは、葵ちゃんトレーナー室の資料の方が遥かに高いレベルのものが揃っているから、レースの勉強という意味でもこの部屋の価値はそんなに無い。

 

 だったら管理権限を返上してしまった方が良いかもしれないが、明確にトレーナー室より秀でている点がある。それは他の子が立ち寄っても問題ないので私の知り合いのたまり場的なスペースとして使い勝手が良い、ということ。

 ついでに言えばコンセントの差込口もある上に、元々この部屋で打ち棄てられていたタコ足配線もあるので、学園内における貴重な充電スペースとしての用途もある。教室じゃ充電はそんなに出来ないからねえ。

 

 トレーナー室は基本的に担当以外の子の立ち入りはあまり無い。制度的に入るのを禁ずる、となっている訳ではないが、レースの作戦に直結するような内密のミーティングをしていたりトレーニングメニューに関する資料などが散乱していたりもするので、用もないのに担当外の子がみだりに立ち寄っていると不自然だからだ。

 仮に入るにしても、最低限ノックと許可があるまでの入室は駄目みたいな暗黙の了解があり、しっかりしたトレーナーだと正式に担当になった子以外は絶対に入れないと徹底する者も居るくらいだ。とはいえ対ウマ娘用の防音だから外から声かけするなら扉を少しだけでも開けないといけないけど。

 

 他方資料室に1人でいるにしても、宿題をやったりとか借りてきた本を読むとか、授業用のタブレット端末で遊ぶとか、そういうことは出来る。

 地味に日当たりも良いし……いや、資料室としてそれはむしろ欠点な気もするけど。

 

 

 ということで管理室の扉がノックされても、私としては友人が来たとしか思わない訳で。

 

「……空いてますから、入ってきていいですよー」

 

 この時の私は来年度のローカル・シリーズ興行規則の置きスペースの選定をしていた。トゥインクル・シリーズの公示は1月だけど、地方は4月公示のところが多いから来年度資料の置き場所を作るためにちょっとだけ配置を変えるか、全体の部屋のレイアウトごといじるか考えていたところだった。

 まあ急ぎの作業ではないので、詰まるところ暇だったので資料室の見た目を変えようかなと思っていたくらいの話である。

 

 しかし、そんな脳内リフォーム計画はすぐに吹き飛んだ。

 

「どもどもー……ここがサンデーライフちゃんの秘密のお部屋ですかー。日当たりが良くてお昼寝スポットにはちょうど良さそうですねー」

 

「え……セイウンスカイさん!?」

 

「にゃはは、その通り! みんな大好きセイちゃんですよー」

 

 

 2冠ウマ娘だし、何より1つ上の世代の先輩なので急いで立ち上がってソファーを譲る。セイウンスカイは、その私の様子に一瞬首を傾げつつもソファーに座ってからこう言った。

 

「いやー、セイちゃん的にはそう畏まられちゃう方が落ち着かないねー。別にそういう先輩としての威厳? みたいなのを見せにきたわけじゃないんだから、サンデーライフちゃんももっとリラックスしてくれると助かるかなー?」

 

「は、はあ……」

 

 しかしここに来た目的が全く読めない。まあ先のダイヤモンドステークスでの関わりしか無いし、それ関連なのだろうとは思うが、でも終わったレースに対して何かあるとも思えない。

 

「まあまあ、座って座って。何なら、このセイちゃんのお隣にでも座るかい?」

 

「あー……じゃあ、失礼しますね」

 

「……おお。まさか本当に隣に一切の照れなく座るとは。

 これにはセイちゃん驚きです。『王子様』の異名は本物だねえ……」

 

 

「……あの。『お姫様』扱いをしてほしいなら、それなら精いっぱいロールプレイいたしますけど。

 それ目的で私に会いに来たわけでは無いでしょう?」

 

 何というか軽口で本題を迂回しようとしている雰囲気を感じたので、会話のペースを少しだけ手繰り寄せるとともに軽口に乗りながらも、話の軌道修正を図る。

 これでマジでセイウンスカイがお姫様扱いされたいって言ったらどうしようかなあ。いや言った以上はちゃんと相応の扱いはするけどさ、脇道に逸れ過ぎるのよね。

 

「にゃははー……こりゃ敵わないね、降参、降参。

 実はねー、あのレースの後にサンデーライフちゃんに声を掛けていないって言ったらキングに怒られちゃってねえ。

 なんでも――『後輩の戦術を利用して勝つやり口までは責めないわよ。でも、スカイさんの走りのせいでターフから去りかねないレベルで自信をへし折っているかもしれないから、せめてアフターフォローくらいはちゃんとやりなさいっ!』……だって。

 私はそんなに気にしていないだろうなあ、って思っていたからあまり突っ込むつもりは無かったけどさー、キングがそこまで言うからね」

 

「……セイウンスカイさんも、私のことを心配してくださったのですね。ありがとうございます」

 

「わお。……全く、言葉尻から意図まで読んでくる君はやりにくいよ」

 

 

 ……まあ。実力でも策略家としても、セイウンスカイがほぼ完封しているわけだから、もし私が『勝利を希求するならば』ここでメンタルが折れる可能性はあっただろう。1着にこだわるなら、弱者の兵法こそが唯一の心の拠り所となることもあったかもしれず、実際そのような危うい精神状態でダイヤモンドステークスの完封劇を魅せつけられたら……と思うと、ちょっと怖い。

 とはいえ、その前提の勝利を欲するメンタリズムを私はほぼ持っていないから、基本想像上の話にしかならないけれども。

 

 その視点に立てるキングヘイローは、素直に着眼点に優れている……というか、私に自己投影してるからこそ出た言葉か?

 キングヘイロー号のGⅠ勝利は、短距離の高松宮記念……これを黄金世代のクラシック期のタイミングと合わせると――ちょうど、今月末。

 

 それを踏まえると今のキングヘイローはGⅠ勝利を成し遂げていない可能性が高い。後で彼女の戦績が史実通りか見直す必要はあるが。

 そして目の前に居るセイウンスカイはクラシック2冠ウマ娘。他ならぬこのセイウンスカイにもキングヘイローはへし折られてきたのだろう……自信を、自負を、プライドを。そしてその度にそれを乗り越えてきた。

 だからこそ『同じことをされたとき後輩は耐えられるのか』という視野に立てたのかも。そして私とセイウンスカイは広く見れば同じ『策略家』タイプである。レースを根性とかセンスではなく頭脳戦で勝ちに行くスタイルという部分は一緒で、その方向性でも私が敗北を喫したのだから、下手すればキングヘイローは自分自身に降りかかったもの以上の喪失感を私が味わっているかもしれない、と推定したと考えることが出来る。

 

 で、あれば。『一流』の彼女が、私に手を差し伸べるように助言することは不思議ではなくなる。そしてキングヘイローの懸念に、ある一面では納得のいく部分もあったからこそセイウンスカイはこの場所――『資料室』に足を運んだ。

 彼女はこの部屋を『サンデーライフちゃんの秘密の部屋』と言った。つまりは私のホームグラウンドだと認識して尚、踏み込むだけの誠意がそこにあった。

 

 とはいえ、セイウンスカイもセイウンスカイでキングヘイローに言われるまでも無く、その危険性自体は考慮していたとは思う。

 ただ私のことをセイウンスカイはしっかりと研究してきていた。でなきゃ、あのベストタイミングでの加速による集団全体への掛かり誘発は出来ない。

 

 とすると、彼女はおそらく。私の本質である『勝利を希求していない』部分に薄々ながらも気付いている可能性があって。そして、私が自身の存在意義をレースという場所に依拠していないことに勘付いているからこそ、ターフの上で叩きのめしても私が潰れないと判断していた側面はあると思う。

 

 

「……あんまり、こういう手の内をセイちゃんもバラしたくはないんだけどねー。

 私がもし主導権を握るようなレースだったら、サンデーライフちゃんは絶対妨害しに来たでしょ?」

 

「それは……まあ、そうですね」

 

「サンデーライフちゃんは何だかんだミスが少ないことは分かっていたからさ。そこで、もし私がミスをしたら絶対突いてくるでしょ?

 だったら最初から好きなように走ってもらった方が私としても楽だったんだよね」

 

 

 セイウンスカイ視点で見れば、私に好きな走りをさせた方が、私の妨害をするよりも勝率が高くなったということである。

 勝利に固執はしないが、勝てるならば勝つ。これが私のスタンスだ。だからこそ、セイウンスカイを倒す方向にしか勝機を見いだせないのならば、私は必ず彼女を妨害することを選ぶ。

 

 でも先のダイヤモンドステークスのように、私に思う通りの走りをさせてくれるならば、セイウンスカイを妨害する必要はない。結果、セイウンスカイのマークが外れたのと同義になった。

 

 ……いや。それだけじゃない。

 

 この言葉の真意は。

 ――セイウンスカイがもし逃げを選択していたら。彼女は状況次第で敗北すらもあり得ることを考慮に入れていたからこそ、私に主導権を握らせたんだ。

 

 それで私が勝つかどうかは分からない。他の子が1着を持っていく可能性のが高いだろう。けれども、大逃げでのぶつかり合いをセイウンスカイが嫌うくらいには私のことを意識していた、ということになる。

 

 

 


 キンイロリョテイ @Stay_Gold_・3時間前 ︙

  前のレースでエゴサしてたら #阿寒湖の絆

  ってのが俺の名前と一緒に書かれていたけど、これ何だ?

  誰かにほだされた記憶なんて無いが

 1.8万 リウマート 1,008 引用リウマート 4.1万 ウマいね

 

 

 ゴールドシップ㋹ @MaI1pCtxprWGlwjm・3時間前 ︙

 返信先:@Stay_Gold_ さん

  ほれ、キンイロリョテイ老師よ…貢物じゃ。

  【外遊中のファインモーションさまのご動静】

  cse.co.ie/news_JP/clannríoga/144366

 2.8万 リウマート 1,532 引用リウマート 7.5万 ウマいね

 

 

 キンイロリョテイ @Stay_Gold_・3時間前 ︙

 返信先:@MaI1pCtxprWGlwjm さん

  はぁ? 俺関係ねえじゃねえか。

  ……確かに、あそこのラーメンは美味かったけどさあ

 8,196 リウマート 49 引用リウマート 1.7万 ウマいね

 

 

 ゴールドシップ㋹ @MaI1pCtxprWGlwjm・2時間前 ︙

 返信先:@Stay_Gold_ さん

  ヒント:ラーメン屋のサインが隣同士

  (2つのサイン色紙が写る角度で撮られた満面の笑みのゴールドシップと店主夫妻の写真)

 3.3万 リウマート 5,102 引用リウマート 8.1万 ウマいね

 

 

 キンイロリョテイ @Stay_Gold_・2時間前 ︙

 返信先:@MaI1pCtxprWGlwjm さん

  な、何でオメェはそのラーメン屋に居るんだよ……

 1,035 リウマート 9 引用リウマート 1.9万 ウマいね

 

 

 ゴールドシップ㋹ @MaI1pCtxprWGlwjm・2時間前 ︙

 返信先:@Stay_Gold_ さん

  ククク……サンデーライフは阿寒湖四天王の中でも最弱……

 3,121 リウマート 18 引用リウマート 2.2万 ウマいね

 

 

 キンイロリョテイ @Stay_Gold_・2時間前 ︙

 返信先:@MaI1pCtxprWGlwjm さん

  阿寒湖の絆は3人しか居ねーだろ!

  って俺か!? 俺を含めて4人だって言いてえのか!?

 5,773 リウマート 224 引用リウマート 2.4万 ウマいね

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