進撃の巨人2~名もなき兵士という名の悪魔~   作:Nera上等兵

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1章 地獄の中では心から笑える分、まだ生易しかった時代
1話 第104期訓練兵団の女訓練兵


不幸は見えるが、幸せは見る事はできない。

人間というのは、失って初めて幸せだったのが実感できる。

 

この世は、諸行無常だ。

何気ない日常が幸せである事に気付かず崩壊はいつも突然だ。

その日、人類は思い出した。

 

人類は鳥籠の中に囚われていたことを。

奴らによって、外へと羽ばたけなくなったことを。

 

 

「貴様は何者だ!?」

「フロック・フォルスターであります!」

「貴様は何しにここに来た!?」

「駐屯兵団に所属し、家族や知り合いを守るためです!」

「名前の通り、まぐれで生還できる訓練などないぞ!紐で首を(くく)る準備でもしておけ!」

 

 

訓練兵の教育に任命されたキース・シャーディス教官は、通年の“通過儀礼”を行なっていた。

兵士として実感がない新兵たちを【兵士に適した人材】にする為に完膚無きまで否定するのだ。

正常性バイアス、自尊心、過信、甘え、価値観などの躊躇ってしまう感情を全て抹消する為に。

特に現実に向き合っている気でいるクズ共など尚更だ。

 

 

「二列目後ろを向け!」

 

 

キースの怒声で、方向転換する訓練兵たちの動きはぎこちなく足並みは乱れていた。

鬼教官に叱責されない様に彼らはピンと背筋を伸ばし、体勢を維持するので精一杯である。

だが、彼らは知らない。

教官が言い放った末路は、役割を全うできた時点で大分マシな死に方であると。

生き残って、数えきれない部下の家族に部下の死を知らせるのがどれだけ地獄だという事を。

 

 

「ミーナ・カロライナです!」

「トーマス・ワグナーです!」

「デント・アクアです!」

 

 

子供特有の未熟な肉体と精神、そして初々しさを残す310名の訓練兵たち。

いや、【立体機動装置】を駆使して移動できない彼らは【兵】と呼ぶのも烏滸(おこ)がましい。

だからこそキースは彼らの事を餌や囮、ゴミ、家畜、産業廃棄物などの名称で怒鳴りつけるのだ。

前述の三人も含め囮にすらなれない【ゴミ】に喝を入れた後、一人の女が目に付いた。

一瞬、顔を背けていたのもあったが、兵士が香水を使用するなど言語同断。

 

 

「貴様は何者だ!!」

「シガンシナ区出身、フローラ・エリクシアです!」

「そうか、エリクシア!間抜けみたいな名前だな!家畜臭を誤魔化しながらここに何しに来た!」

「鎧の巨人を倒すためですわ!」

「ほう…せいぜい頑張るといい…ただし!貴様の死体が目視でも分かる様に目印を付けておけ!」

 

 

訓練兵の中で唯一、香水を使用している彼女は、“通過儀礼”に対して緊張して強張っていたが、【鎧の巨人】という単語を発してからは取り繕っていた訓練兵の仮面を外して瞳孔を大きく開いて口角が吊り上がるのを必死に堪えていた。

地獄を知りながらもあえて、無垢な訓練兵を演じている化け物がそこには居た。

 

あらゆる事を経験しているキースですら、このような人間を演じる化け物は見たことが無い。

まるで過去の自分を見ているような感覚であり、自分の後任者のような親しみすらあった。

つまり、どう反応していいか困る訓練兵である。

お陰様で、香水を指摘するどころか肯定してしまう発言をした瞬間、彼は後悔した。

しかし、そういった異常もそれを上回れば異常では無くなってしまう。

それさえも凌駕する【芋を喰らう女】を発見するとは、キースは夢にも思わなかった。

 

 

 

---------

 

 

【平和】とは、戦争の準備する期間のことである。

この名言がいつ、どこで誰が発言したのは良く分かっていない。

巨人が誕生する前の遥か古の偉人が言い放った名言とされた。

では、僅かな生存圏に追い詰められた人類は、巨人と戦争しているのか。

人類を守る最後の砦、【壁】から出撃した兵士が散っていく惨状は戦争ではなく虐殺である。

 

 

「わたくしはー」

 

 

平和という名の幸福は、砂上の楼閣よりも容易く崩れ去って目の前には地獄が広がっていた。

避難船に乗り遅れて置いていかれた市民たちの後方には巨人の群れが迫っていた。

僅か10分の差で地獄から振り切って避難船に運良く乗れた少女は、未だに現実味が帯びなかった。

 

 

「わたくしはー」

「駆逐してやる!この世から一匹残らず!!」

 

 

逃げ込んだ避難船にひたすら揺らされている三角座りで俯いていた少女は少年の叫びを聞いた。

鎧の巨人が飛ばした瓦礫によって両親を失った彼女を立ち上がらせるには充分であった。

超大型巨人と鎧の巨人が襲撃してきた結果、人類はウォール・マリアを放棄した屈辱の日。

巨人を駆逐し、故郷を取り戻す!

その為ならなんでも犠牲にし、悪魔になろう!

地獄から這い出てきた二人の子供は今日をもって死に、代わりに二名の悪魔が誕生した。

 

少年の名は、エレン・イェーガー。

少女の名は、フローラ・エリクシア。

 

黒色の髪の少年は、壁外の自由を求め、【人類】を守る為にどんな手でも使って、敵を一匹残らず駆逐する悪魔。

栗色の髪の少女は、鎧の巨人を討伐する為に過去を全て切り捨てて、驚異的な聴覚と執着心で敵を駆逐する悪魔。

 

双方とも突出しているのは、誰にも彼らの道を阻む事ができず全力で突き進んでいく点であろう。

同じシガンシナ区出身でも、全てを犠牲にしてでも巨人を駆逐しようとするのは彼らだけである。

仲良くなれない訳が無く同期の中でも特別な絆で結ばれていく。

例え死体で舗装された道であっても、臆さずに二人は全力で突き進んでいくだろう。

 

それが新たな人類の存亡のきっかけになろうとも。

 

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