進撃の巨人2~名もなき兵士という名の悪魔~   作:Nera上等兵

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10話 圧倒的な技量不足

ローゼの扉は、丈夫な網の繋ぎ目に結ばれた銛に突き刺さって身動きが取れない巨人たちによって守られていた。

通常、巨人は巨人を攻撃しないのを着目した駐屯兵団の技術班によってなされた応急処置だ。

巨人で扉を守るという逆転の発想の勝利であった。

ただし、いつまで保つのかは誰にも分からない。

 

 

その人類最後の希望を死守する責任者は、トロスト区駐屯部隊長ハンネス・ルドマンである。

 

 

「5年前まで飲んだくれだったオレが最後の砦の警護を任されるとは皮肉な物だ」

 

 

人類の未来がどうなるのかは、良く分からない。

ただ、少しずつ着々と変化しているのは実感できる。

守られる事しかできなかった3人は、既に立派な兵士になった。

一人は高い戦闘技術を、 一人は強靭な精神力を、 一人はとても賢い頭を持っている。

ならば、彼らに笑われないように自分の責務を全うして手本になるべきである。

 

 

「見ているしかできないとは、こんなに歯痒いものだな」

 

 

ハンネスが壁上から見下ろすと現時点で動員できる総戦力が展開していた。

彼らの大半がエレンの為に囮になり、その何割かは戦死するのだろう。

それでも彼らの犠牲無しには人類は勝利ができない。

この世は、等価交換。

何かを得たいなら何かを支払わないといけないのだ。

たとえ、代価が1000個の心臓であっても。

 

 

「何をしている!ささっと進め!!」

 

 

不甲斐ない兵士たちに喝を入れるベテラン兵ですら涙をこぼして震えていた。

彼らを支配しているのは恐怖である。

時には大きな原動力となる恐怖であるが、その象徴が目の前にいるのだ。

その圧倒的な恐怖を前にして、人間は思考を停止し歩みを止めてしまう。

ただ1人の例外を除いて。

 

 

「行くしかありませんね…」

 

 

フローラ・エリクシアは、【恐怖】という生物が持つべき感情が欠如していた。

もちろん大事な同期や知り合いを失ったら悲しむ感情を持ち合わせているがそれだけであった。

 

 

-----

 

 

「ミカサ・アッカーマンは、精鋭班と共にエレンの護衛についてもらう」

「はい分かりました」

「アルミン・アルレルトは、作戦立案者として、我々と共に壁上から巨人体となったエレンを観測してもらう」

「ハッ!了解しました」

 

 

一番強いミカサがエレンの護衛に付き、アルミンはピクシス司令と参謀たちと共にトロスト門にほど近い所の壁上で待機する。

別に問題はないし、誰からも異論が出ない当然の結果だとフローラは思っていた。

 

 

「フローラ・エリクシアは、遊撃要員として、できるだけ多くの巨人を討伐せよ」

「は…えっ?」

 

 

ピクシス司令から告げられたのは、遠回しの死刑勧告であった。

 

 

「お待ちください!わたくしは人間ですよ!ガスもブレードも尽きれば囮にすらなりません!」

「そこじゃ!おぬしは、補給があればいくらでも巨人を討伐できるという事じゃ!」

「えっ…」

「安心せい!補給は駐屯兵団の精鋭部隊が担当しておる」

「ちょっと待ってください!?」

 

 

いつの間にか、君の任務は死ぬまで巨人と交戦せよ…と言わんばかりである。

シガンシナ幼馴染3人組はおろか、参謀たちまで唖然としている。

 

 

「何か問題点でも?」

「大ありです!何故訓練兵であるわたくしが、精鋭班ですら卒倒するレベルの命令を!?」

「おぬしが巨人の大群を引き連れてここに来た時から確信していたのじゃ」

「君は、皆を導く道標となる素質があり、兵士の命を救える実力があると…やってくれるな?」

「…はい分かりました」

 

 

肩を叩いてきた司令官の命令に逆らえ切れずに承諾したフローラ。

その代わり、最優先で補給を受けられる権利と、臨機応変に移動できるほどの権限を授かった。

エレンたちも参謀たちも同情の眼差しをしていたが、彼女からすれば何の慰めにもならなかった。

 

 

-----

 

 

フローラは、足枷になる【恐怖】という感情がない事に感謝していた。

それと同時に恐怖で足が竦んでいる者たちを導くのは自身の役割だと理解していた。

皆が濃霧で前に進めないのを明かりを燈して道標になるのが自分だと。

ここでいう恐怖が巨人であるならば一匹残らず駆逐すれば良い事だ。

 

 

「所詮、我々は囮だ!巨人共を惹きつけるだけでいい!」

「無駄な戦闘を避けよ!1体でも多く惹きつけるんだ!!」

 

 

無我夢中に巨人のうなじを斬っていたら両方のブレードの根元が折れていたのに気付いた。

ピクシス司令から頂いた高級士官用の『二式刀身』と比べると遥かに強度が劣っている。

いくら補給の最優先権限があるとはいえ、数体討伐するだけで折れていては話にならない。

刃を差し替えながらも何か対策を打たないといけないのを実感していた。

 

 

「ぐああああっ!!」

「班長ー!?」

「だめだ!!逃げきれないいい!うわああああ!!」

 

 

“声”を聴いてみると巨人に4人で立ち向かった班が半壊していた。

そもそも巨人相手にリヴァイ兵長のように1人で立ち向かうのが間違っているかもしれない。

 

 

「そこね!」

 

 

“声”がした方向から紫の煙弾が打ち上げられたのを確認して現場に急行する。

それが唯一の遊撃要員としての任務だから。

9m級が目の前にいる兵士たちに気が取られている内に背後にまわってうなじを斬る。

 

 

「おお!助かった!」

「よくやってくれた訓練兵!!」

 

 

他人から感謝されるのは嬉しくないわけではない。

ただ負の感情を剥き出しにした“声”を聴き続けているフローラはそちらの方に慣れてしまった。

巨人の“声”を聴けば、囮になっている兵士たちの方に群がってきている。

作戦通りにエレンが出現する予定の場所から壁へと巨人を誘導できていた。

 

 

「黒色の煙…奇行種ね!これは狩っておかないと!」

 

 

ただし、奇行種は動きが読めない為、狩らないとエレンたちの移動の妨げになりかねない。

現場に急行すると4足歩行で民家を体当たりで破壊しつつ兵士の頭を食べている奇行種が居た。

動きが奇行種を凌駕しており肌が日焼けしたように肌黒く白色の刺青をある様な巨人である。

さきほど黒色の信煙弾を打ち上げた兵士なのだろう。

まだ微かに身体が痙攣していた。

 

 

「よせ!こいつは勝てない!逃げるんだ!!」

「こんな獣未満な奴に遅れは取りませんわ!」

 

 

逃げ回る先輩からの警告を無視して機動力を削ぐためにフローラは左手首に斬り掛かった。

しかし、他の巨人と比べて体表が硬いのか勢いが足らないのか刃が弾かれてしまった。

やむを得ず建物を利用して反時計回りで回避をする彼女であるが、巨人は容赦なかった。

 

 

「この…!!」

 

 

突然倒れ込むようにフローラが居た場所に転がり回って民家を破壊した。

フローラは直感で理解した。

こいつが“変異種”だと!

だからこそ、こいつをミカサたちに向かわせるわけにはいかなかった。

 

 

「はぁ!?うなじが硬過ぎますわ!!」

 

 

どんな巨人も攻撃を回避してうなじを刈りとるだけでいい。

ところが、こいつはうなじに鎧が覆われている様に硬くてブレードが歯が立たなかった。

巨人は、鬱陶しいそうに両脚で立ち上がり両手を押し付けるように勢いよく叩き付けた。

間一髪回避を成功させたフローラを嘲笑うかのように怒涛の追撃をしてくる。

 

 

「あいつ、マジで戦ってるぞ…」

「今だ!今のうちに逃げるぞ!!」

「でも…」

 

 

“変異種”に10人以上殺されて必死に涙目で逃走してきた3人の兵士たち。

成す術なく同僚や部下が死ぬのを振り返りながら見る事しかできなかった者たちだ。

次に狙われるのは彼らであったが、訓練兵に巨人が気を取られたおかげで壁まで逃走できた。

 

 

「何なんだあいつら!どっちも普通じゃねえ!!」

 

 

“変異種”は地面に叩き付けた両手を軸にして回転の遠心力を武器にした蹴り技を繰り出してきた。

一方、女訓練兵は地面ギリギリになりながらも立体機動で両手の隙間に潜り込むついでに左手首を斬り付けた。

斬撃は効果なかったが衝撃で重心が傾いて転倒した巨人は、刺青のような所が赤く染まる。

まるで激高したかのように咆哮した巨人は、障害物を無視するようにフローラに向かって突き進んできた。

その様子を兵士たちは見守る事しかできない。

 

 

「あらあら獣になりましたわね。所詮、怒りで猪突猛進するしか行動できない獣」

「動きが分かり易くなった分、さきほどより隙だらけですわよ!!」

 

 

彼女はブラックアウトに耐えながらもアンカーを休む暇もなく射出し続けて立体機動で小回りに回避していた。

しかし、巨人はその動きを読んでいたのか、両手で指を組んで掌を大きく腹に叩き付けて口から何かを吐き出した。

その何かは、射出したワイヤーを霞めて屋根に激突して地面に転がり落ちた。

それは、さきほど齧って喰い千切った兵士の頭部であった。

 

 

「えっ…吐き出した物を飛ばしてきたの…!?」

 

 

吐瀉物を自分に向けて飛ばしてきたのは、ある程度動きを予想していたフローラですら想定外であった。

動きが止まったのを目撃した巨人は調子に乗ったのか、何度も腹を叩き付けて吐物を彼女に向けて飛ばしてきた。

まるで無くなった分は、自称世界一美味しいお肉であるフローラで埋め合わせるかのように胃の中を空にしていく。

 

 

「巨人が遠距離攻撃してくるなんて!そんなの無しでしょおおおおお!?」

「なんで激高したら、知能がアップするのよおおおお!?」

 

 

民間人や兵士の成れ果てである吐物は、直撃するのも脅威であるが一番問題なのはそこではない。

胃液を広範囲でばら撒きながら飛んでくるのだ。

もちろん、いくら酸性の液体とはいえ瞬時にあらゆる物を溶かすほどの劇薬はない。

だが、肌に触れれば大きな痛みを伴ううえに、目に付着すれば失明させるほどの威力があった。

それを何度も飛ばしたせいで空気中には霧状に漂う胃液がある状況だ。

汚いスプリンクラーは、白兵戦を挑む兵士からみれば想像以上の脅威であった。

 

 

「あああああ!!汚物を見せるんじゃないわよおおお!」

 

 

さすがに胃液の霧を浴びるつもりはなかったフローラは建物を利用して後退した。

逃がさないと言わんばかりに4足歩行で突っ込んでくる変異種をうまく撒こうとした。

 

 

「うぐっ」

 

 

内臓を圧迫し過ぎて呼吸すらできなくなって首元に手を当てた彼女であったがその瞬間、最後の賭けを思いついた。

幸い、巨人の“声”が聴こえるおかげで大まかな位置を推測できる為、安心して呼吸を整えられた。

 

 

「…えっマルコ!?」

 

 

いざ、反撃に移ろうとしたその時、マルコの悲痛な叫びが聴こえてきた。

アニやベルトルトの負の感情を抱いた“声”も聴こえてくる。

ただ、距離があり過ぎるのと、周りの声が煩くて内容まで聞こえなかったが。

これはさっさと変異種を撃破して救援に向かわないといけない。

 

 

「そこのゲロ男!さっきはよくもやってくれたわね!!覚悟しなさい!!」

「ぐおおおおおおおっ!!」

 

 

わざと目の前に飛び出して変異種を煽るお肉。

ようやく見つけたと言わんばかりに突っ込んでくるゲロ男。

その攻撃を華麗したフローラに向けて、同じように腹を叩いて吐物を撃ちこもうとした。

その瞬間、待ってたと言わんばかりに彼女は正面に突っ込んでいった。

 

 

「隙あり!!」

 

 

腹を叩き、胃から口内まで吐物を運んで、それを口で撃ち出す動作までの僅かな隙がある。

立ち止まって吐瀉物を撃ちこむまでの間に両目に向けて破損したブレードを投げつけた。

さすがに眼球は鍛えようがないので突き刺さった瞬間、咆哮しながら両目を両手で抑えた巨人。

巨人の眼球を攻撃しまくった彼女だからこそ思いついた策である。

 

 

「てぇい!」

 

 

 

巨人の視界を奪う事に成功したフローラは、喉頭の上にスナップブレードを深く突き刺した。

その柄にワイヤーを絡ませて両手で握り締めて左のガスを多めに噴出をした。

 

 

「ううっ!」

 

 

結果、反時計回りに高速で螺旋状に回転しながらブレードは切り口を広げていった。

その様子は、まるでねじ切りの工程のようである。

 

ただし、回転しているのは刃具の方でありそれに固定されたフローラである。

何故うまく巨人の首を中心にして、螺旋状に斬れたのかは本人ですら分からない。

慣性力とか遠心力と向心力とか考える事すらできなかった。

何故なら、今までと比べ物にならないGが身体を圧迫させ気絶寸前だったからだ。

 

 

「そこ…!」

 

 

辛うじてうなじを斬ったのを目視で確認した彼女は、屋根にアンカーを射出して飛び出していった。

それ以上の行動を取ることはできずに、まるで振り子のように徐々に勢いを殺していくのを待った。

そして揺れ幅が大幅に狭くなった頃には彼女は動かなくなっていた。

 

 

「やりやがったぞ!?」

「と言ってもあの様子じゃ死んでいるんじゃ…」

「とにかく確認するぞ」

 

 

その様子を見守っていた3人の兵士は駆け寄って生存の安否を確認する為に思わず駆け出していた。

 

 

「生きてるか!!」

「ごほごほ…」

「マジかよ、あの動きで生き残るのかよ…」

「ごほごほ!ハァハァ…生き…てる…の」

 

 

兵士たちが揺さぶった衝撃で彼女は目覚めたが意識が朦朧としていた。

うなじは固い皮膚に覆われていると踏んで柔らかい首を狙って螺旋状に斬ろうとしたのは覚えている。

ただ、あそこまで肉体の負担が掛かるとは思わなかったのだ。

 

 

「“声”が…聴こ…る」

「声!?」

「巨人…そこ…」

 

 

3人の兵士が女訓練兵の指差した方向を見る。

そこには、追加オーダーが入りましたと言わんばかりのさきほどの巨人が3体居た。

ご丁寧にも、1体は吐瀉物を口で飛ばしてきている。

 

 

「お願いが…の」

 

 

フローラは残された力を振り絞ってお願いをした。

兵士たちは、恐怖に耐えながらも瀕死状態の訓練兵の願いを聞こうとした。

 

その1時間後、1個分隊規模を率いている元気なフローラの姿が!

 

 

「あそこに居るのも奇行種よ!」

 

 

立体機動訓練のし過ぎで死にかけたなど日常茶飯事。

呆れたキース教官から立体機動装置使用禁止令を発動された日。

逆立ちし過ぎて倒れたり、ワイヤーで訓練し過ぎて何度も医務室送りになった彼女に隙は無かった。

 

 

「よし俺がやる!!」

「では、援護しましょう」

 

 

あの後、一時的に兵士たちに時間稼ぎをしてもらった間に完全復活した彼女が囮になった。

それと同時に壁上固定砲を運用している砲兵たちを活用した。

ブドウ弾は、榴弾と違い巨人に対してさほど効果がない。

あの変異種なら尚更であるが、足止めするには充分であった。

何度か攻撃している間に【刺青】がうなじの装甲を脆くする弱点と判明してから早かった。

 

 

「しゃああ!これで3体討伐した!討伐してやったぞ!!」

「これだけ活躍すれば出世は間違いないな」

 

 

刺青部分は通常の巨人と同じ皮膚であり、そこを斬ると一時的に動きが鈍くなる。

激高すると刺青が赤く染まる所を見ると何か巨人に影響を及ぼしているのは明白だ。

しかし、原因究明などしてる場合ではなくささっと変異種を討伐した。

 

 

「憲兵になって内地で優雅に暮らせるのはいつになることやら」

「そうなる前に巨人に喰われそうだな」

「もういいでしょ!?これ以上の討伐するのはガスの残量で厳しいわ!」

 

 

フローラは最優先で補給を受けられるのを悪用して、榴弾やブドウ弾、ガスボンベなどを補充した。

武器やガスは消耗品として割り切って、使い潰すことにしたのだ。

そして、兵士3人と共に救援に向かって行っていたらいつの間にか1個分隊規模になっていた。

 

 

「しかし訓練兵に率いられるとは…」

「じゃあ、お前が変わってやれよ」

「残念だが、俺はまだ死ぬ気はない」

 

 

1番強い訓練兵が駐屯兵団の兵士を率いるという付け焼刃の編成であったが意外とうまくいった。

臆病者は索敵に、脱走兵には砲兵との連絡係に。

戦果を挙げて憲兵になりたい者は、うなじだけを狙わせた。

ただ役割分担しただけで、巨人を狩れてしまった。

そして救出した兵士が次々に加入していった。

 

 

「これだけやっておけばいいですわ!壁上に戻りましょう!」

「ああ、やっと帰れる…」

「はぁ!?まだいけるぞ!」

「憲兵志願のお前だけ残って好き勝手に狩ってろよ!」

「済まん、やっぱ帰る!」

 

 

砲兵部隊の協力があったとはいえ、最終的に分隊は、通常種4体、奇行種8体、変異種3体を討伐した。

トロスト区奪還作戦で挙げた戦果の中で最高であり、二度と記録が塗り替えられることもないだろう。

壁上に帰還したあと、フローラは名も知らぬ兵士たちと1人ずつ無言で抱擁してから別れた。

あまりにも情が移り過ぎると、同期以上に大切な存在になってしまうから。

 

 

-----

 

 

一方その頃、エレンは複数の精鋭班とミカサと共に大岩を目指していた。

大岩は、トロスト区のほぼ中央にある自然公園に存在する。

下流によって運ばれてきたと思えない大岩は、トロスト区住民の数少ない自慢であり名物だった。

 

 

「いいかエレン!巨人の大半が囮に釣られたとはいえ奇行種は釣る事ができん!」

「だからこそ、貴方の護衛として私たちが居るの」

「もし、少しでも失敗だと判断したらすぐに見捨てるからな!覚悟しておけ!」

「分かっています!必ず成功させます」

 

 

精鋭班はエレンの事を信用しておらず、ピクシス司令の命令なので従っている状態であった。

家々の屋根を立体機動で駆けまわり目標の大岩に目指していく。

ちょうど、巨人化するにはいい大通りが見えてきた。

 

 

「なんてことだ…」

 

 

歴戦の猛者であるミタビ・ヤルナッハが思わず目を逸らしてしまう惨状が眼前に広がっていた。

ここはトロスト区でも活気がある商業区であった。

リーブス商会が中心となって数十年かけて造り上げた区間は屍で覆われていた。

 

 

「もし壁を突破されれば、こんな犠牲者じゃ済まねえな!」

「なんとしても穴を塞がねば人類に希望は無いって事か」

 

 

何度も巨人に踏まれたのか、原型すら留めておらず肉塊にしか見えないほどである。

この惨状を見て、エレンは自分の双肩に大勢の兵士と王政府民の命が賭けられているの自覚する。

だからこそ、あの大岩で穴を塞いでみせる!

そう決意した彼は、無意識で左手首を噛み付いた。

 

 

「なるほど、確かに巨人になったな…」

「この巨人が人類の未来を左右するなんて…胸糞が悪いな」

 

 

民家の一部を破壊して大量の煙と共に出現した15m級の巨人。

威嚇するように雄叫びをあげて腕を振り上げている。

 

 

「エレン…」

 

 

変わり果てたエレンの姿をミカサが見つめる事しかできなかった。

動き始めた彼の様子を屋根の上で見ていた彼女はある事に気付いた。

彼が目標である大岩の方向に向かって歩いていないのだ。

 

 

「エレン!?どうしたの!?そっちじゃない!!」

 

 

ミカサがエレンに呼び掛けると彼は無言で振り返った。

その目は、まるでどこにも居る巨人のようであった。

 

 

「えっ!?」

 

 

エレンは、無言で彼女に居る屋根に向かって右の握り拳で突き抜いた。

派手に破壊されて散らばる屋根の残骸が彼に異変が起こったのを知らせている様であった。

 

 

 

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