進撃の巨人2~名もなき兵士という名の悪魔~   作:Nera上等兵

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103話 頭進撃娘の失われし過去

エレン・イェーガーがまたしても拉致されてしまった。

状況としては、トロスト区に物資の補給に行ったら民衆に目を付けられた。

その対処をしている隙にエレンとクリスタが(さら)われてしまったのだ。

 

 

『まあ、本物じゃないんだがな…』

 

 

エレン・イェーガーに扮するジャン・キルシュタインは溜息を吐く。

ストヘス区でもエレンの代わりに化けていた正体が最後までバレなかったせいなのか。

気が合う相手じゃない服装を無理やり着せられて再び囮にされたのだ。

 

 

『あいつよりマシか』

 

 

金髪の美少女クリスタの代わりになったのはアルミン・アルレルトだ。

当初は、彼女の服装を着ると知って羨ましいと思った。

 

 

「なぁ…どうだ?声を聴かせてくれよぉー。かわい子ちゃんの声が聴きたいなぁー」

 

 

だが、現実は非情である。

気持ち悪い息遣いのおっさんが女装したアルミンを撫でまわしていた。

アルミンは泣きべそを掻いているが、あれは演技じゃねぇ。

むしろ、クリスタの私服が似合っており、事情を知らなければ美少女に見える。

そのせいであんな目に遭うならば、兵長の作戦は正しかった。

 

 

「くっ…」

 

 

現在、敵対する人物が3人、部屋の外にも何人か居るが、兵士の敵じゃない。

なのでさっさとこの変装ごっこを終わらせてほしいとジャンは願った。

 

 

「オイオイ…誰が少女の身体で楽しめと言った?変装してないか確認しろと言ったんだ」

「申し訳ございません…」

 

 

すると願いが届いたのか、恰幅の良くて頭が剥げている中年のおっさんがやってきた。

見張りの男が頭を下げているのでリーダー格なのは間違いない。

 

 

「ぐあっ!?」

「なんだ!?ど…うわっ!?」

「ぎゃっ!?」

「ほげえええ!?」

 

 

当然、それを待っていた調査兵達は彼らを一瞬で薙ぎ倒して拘束した。

すぐさま武装解除し、リヴァイはリーダーらしき男に向き合った。

 

 

「お前が商会のボスか?」

「違う、俺は馬車の運送にこき使われている老いぼれですぜ?」

 

 

あくまで白を切るようだが、リヴァイは既にこいつの正体が分かっていた。

その証拠を突き付けようとするが、その前に予期せぬ人物に指摘される事になる。

 

 

「あっ…あんたはあん時の…」

「兵長、こいつです…以前、街で部下から会長と呼ばれてました」

「チッ」

 

 

ミカサ・アッカーマンは彼に見覚えがあった。

トロスト区に巨人が侵入してきた時に出口を荷台で塞いでいた偉そうな男であった。

それを簡潔に報告すると男は諦めたのか、それ以上に口を開く事はなかった。

 

 

「お前がリーブス商会のディモ・リーブス会長か?」

「ああ、そうさ。先に言っておくが俺の口を割ろうとしても無駄だぞ?所詮、捨て駒さ」

 

 

あっさり正体を白状したリーブスだが、降伏しつつも情報を話す気はない。

ここで調査兵が彼に拷問すれば、罪に問われると知っているからこそあえて投降したのだ。

 

 

「フローラと知り合いか?」

「そうだが、それがどうした?」

「あいつの交流関係が異常でな。もしやと思って聴いたが…やはりか」

「そうさ、そもそもお前たちを支援してたもんな…バレねぇ訳がなかった」

 

 

そもそも、調査兵団に資金や物資を支援していたのだからボスの顔など割れていた。

なんでこんな事をしたのだろうと…自嘲気味にリーブスは笑うがリヴァイは動じない。

 

 

「会長、あんたの巣じゃ息が詰まりそうだ。解放感溢れる場所に移動してもらうが良いか?」

「構わねぇぜ旦那、ただし老体を丁重に扱ってくれよ」

 

 

何故調査兵団の支援を取りやめて王政府の陰謀に加担したのか。

フローラとどんな関係だったのか訊きたい彼は移動を促した。

 

 

「君…本当は男の子なんだってな…君のせいで…俺は…普通だったのに……」

「え?」

「君のせいで今、大変なんだからぁーなんとかしてくれよぉ」

「ひぃ…」

「アルミン、代われ。オレがやる」

 

 

一方、アルミンはさっきまで自分の肉体を触れていた男を紐で拘束していると…。

息遣いが悪いおっさんが新たな扉を開いたらしくアルミンに本気で発情していた。

同性愛と同じ様にこの時代では精神病とされる性癖となったようだ。

なお、アルミンは同性のおっさんに欲情されて呆然としており代わりにジャンが手伝った。

 

 

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「着いたぞ」

「これは絶景だな、トロスト区をただで見渡せるとはねぇ」

「ここなら余計な邪魔が入らねぇ…腹を割って話せるだろう?」

「そうだな、雑談も風と高所で消されてバレる心配はねぇな」

 

 

リヴァイ班は、トロスト区の破壊された正門の近くにある50mの壁の上に居た。

うっかり転落しない様に椅子に座らせた会長とリヴァイは雑談を開始した。

 

 

「ここはどこだと思う?」

「この街のボスにそれを聴くのか?トロスト区の前門、いや元前門か」

「そうだが、俺たちはこう呼んでいる。『人類が巨人に初めて勝利した場所』だと」

「初めてじゃねぇだろ?お前らは散々、巨人と交戦して討伐してるだろう」

「ああ、そうだ。だが、この門に空いた穴は巨人の力を借りなければどうしようもなかった」

 

 

先人たちが必死に造り上げた門と壁ではあるが、現在では多くの技術が失われてしまった。

そのせいで門に空いた1つの穴を塞ぐだけで多くの兵士が犠牲になった。

しかも、偶然近くにあった大岩で塞ぐという荒業なので実質、人類だけで達成できなかった。

 

 

「巨人のせいで空いた穴を巨人の力で塞ぐしかなかったってか?皮肉なもんだな」

「その協力してくれた巨人がエレンだ。あんたが連れ去ろうとしたのもそれだ」

 

 

巨人化能力者は複数居たが、壁内人類に友好的だったのはエレンだけである。

そのせいで彼は全人類の希望と疑問と脅威を1人で背負う羽目になった。

しかも、味方であるはずの王政府に狙われるとなっては、普通に生活すらできない。

 

 

「俺はここに連れて来られて説教されに来たらしい。勘弁してくれねぇか旦那?」

「そうだな、やめておこう。エレンの重要さを理解してくれたならそれでいい」

「それで何が訊きたいんだ?」

「フローラと何をやっていた?」

「フローラ?」

 

 

てっきり中央憲兵の話を訊かれると思った会長は驚いた。

さっきもそうだが、何故かこいつらはフローラの事を気にしている様である。

 

 

「商売仲間さ、あいつのおかげでがっぽがっぽ稼げて笑いが止まらなかったぜ」

「そうか、それはよかったな」

「全くだ」

「それだけの関係じゃねぇだろ?」

 

 

リーブス商会とフローラは手を組んでいろんな事に取り組んでいた。

彼女が作った香水を貴婦人や令嬢に売り捌いたり、新型立体機動装置の開発に手をつけたり…。

半年すら経過していないが、充実した活動をやってきたと会長は改めて思う。

それすら目つきが悪い調査兵は見抜いているのか、更に関係を白状しろと述べてきた。

 

 

「あいつには悪いから言えねぇな」

「そのせいで、俺たちはあの問題児を一切把握できてねぇんだ」

「そりゃあ、災難の事で…」

「フローラが残した手帳を見るとあんたの事も書いてあった」

「どうせ、俺の事を高圧的に見えたとか近寄りがたい雰囲気だったとか書いてあったんだろう?」

「そうだ、よくわかってるじゃねぇか」

 

 

ディモ・リーブスは自分の性格について熟知している。

自分の事だから当然だと思う奴も居るが、実際自分の能力と性格を把握している奴は少ない。

なのですぐに彼女が書いた内容を見抜く事ができた。

 

 

「それだけしか書いてねぇから問題なんだ」

「何が言いたい?」

「あんたはさっき言ったよな?フローラと商売仲間って」

「言ったが?」

「あいつは取引内容どころかあんたと一緒に商売しているなどと手帳には書いてなかった」

「ククク、そうか。あれほど仲良くやったのに薄情な奴だな…」

 

 

フローラがユトピア区の壁外から戻って来ない。

そう告げると、調査兵団のパトロンであった全ての商会から一斉に支援を打ち切られた。

何故なのかと手帳を調べたものの同期や兵士以外は簡略的な感想しか書いていない。

フローラが王政府の財政担当のトップと交流していたと判明しているからこそ…。

リヴァイは、彼女が機密を守る為に正規の記録として残さなかったと理解した。

 

 

「だがな、お前ら商人ならば帳簿が絶対にあるはずだ。それが無いと商売できるはずがねぇ…」

「旦那、見るからに専門外そうだが、意外と詳しいんだな?」

「あの馬鹿が人によって交渉や態度を変えていると知ってな、少し勉強させてもらった」

「そいつは良い!フェイク情報以外は学んで損はねぇからな」

 

 

情報というのは常に変化しており、今まで常識だったのが僅か数秒で非常識になる。

激動の時代を生き抜くなら情報を選択し、他者より有利に立ち敗者を蹴散らしていく。

その為には勘も必要だが、そもそも知識がないと行動すら移れないのだ。

調査兵団は、壁外にしか興味を持たないイメージしかないリーブスは少しだけ関心をした。

 

 

「俺とフローラの契約内容でも知りたいのか?」

「いや、フローラの過去を知りたい」

「過去?」

「どうもあいつは、自分の事を記録に残したくないらしくてな。過去の情報が皆無なんだ」

「へぇーあいつらしいな」

 

 

フローラ・エリクシアは、5年前にシガンシナ区で発生した騒動で記憶喪失を起こしていた。

鎧の巨人が打ち破った裏門の破片で両親が潰されたショックはそれほど印象的だったのだろう。

彼女は鎧の巨人を討伐する為に日頃努力を惜しまず、最後まで戦い抜いた。

だが、彼女は自分の過去を思い出そうと試みたことは無かったし、同期にも頼らなかった。

 

 

「事情を知っている様だな?」

「ああ、あいつは自分の過去に触れようとした瞬間、人が変わった様に激高したからな」

「ここにあいつの同期が居る。一緒に話を聴かせてもらっていいか?」

「……そうだな、墓まで持っていく話でもねぇし、お前らに話すなとは言われてない」

「聴かせてくれるか?」

「いいとも、その代わりに記録は残すなよ?嬢ちゃんが化けて俺を呪い殺すかもしれないからな」

「承知した」

 

 

ディモ・リーブスは、フローラの同期と上官に彼女の過去を伝える事にした。

エレンとヒストリアの拉致が失敗した時点で長生きできないと悟ったのもある。

暫くすると彼女の同期と見られる集団がやってきた。

まだ世界の闇を知らない純粋な瞳と若さ故の希望溢れる肉体が見える。

 

 

「よし、フローラについて知っている過去について教えてくれ」

「そうだな、あいつの両親と俺は友人だったんだ」

 

 

リーブス会長は語る。

エリクシア家はシガンシナ区でも有力の商人であり、自分とライバルであった事を…。

そしてシガンシナ区に商機を求めて彼とやり取りをしている間に友人になった。

その時に自分の息子であるフレーゲルとフローラが出会った事を話した。

 

 

「あの子とは3年くらいの付き合いだったが、うちのガキを振り回す女でよ」

 

 

我儘の息子だと思ったフレーゲルが少女に振り回されて驚いたものだ。

しかも、振り回されたのも悪くないと思ったのか意外と仲良くしていた。

 

 

「所謂幼馴染の関係だったんだが、いつの間にか婚約を約束した仲になっちまった」

 

 

両家は子供たちを微笑ましく見守っていたらいつの間にか縁談を済ませて驚いたものだ。

もちろん、子供の約束だからと本気にしていなかったものの縁は悪くないと思っていた。

 

 

「まさかこんくらいのガキ同士が結婚を意識していたんだ。ありゃあ驚いたもんだ」

 

 

しかし、3年間の付き合いは唐突に終わる事になった。

トロスト区で大規模な事業を他業者と取り合う羽目になって他所に行ける余裕がなくなった。

彼女の父であるミオソティス・エリクシアと文通する程度の仲まで落ち込んでしまった。

いつからか、フレーゲルは彼女を気にする事は無くなったが、どこか皮肉れた子供に成長した。

 

 

「だが、お前たちが既に思っている様にシガンシナ区が巨人に陥落した事で全てが終わった」

 

 

それでも死に別れたわけじゃないのでいつでも逢う事はできた。

はずであったが、5年前の騒動で人類はシガンシナ区どころかウォール・マリアを喪失した。

その時、リーブスは会長に成り上がったが、その混乱に巻き込まれて酷い目に遭ったものだ。

だからエリクシア商会とのやり取りをすっかり忘れても仕方がなかったと言える。

 

 

「ところが最近、このトロスト区でフローラと再会したんだ、本当に予想もしていなかった」

 

 

ウォール・マリアが陥落して5年が経過した頃、トロスト区で巨人が襲来して大打撃を受けた。

一時は、僅かな豆とおが屑を煮込んだスープが主食になるほど追い込まれたほどである。

そんな時期なので野次馬に囲まれた調査兵を発見した彼は腹いせに愚痴をぶつけようとした。

 

 

「事情を聴くとあいつ、ボロボロになったトロスト区で勲章を売ろうとしてぶったまげたもんだ」

 

 

フローラ・エリクシアは、もらった勲章が邪魔なので換金しようとした。

しかし、あくまで名誉の証を正規ルートで売り払うのを躊躇って闇市で売り払おうと試みていた。

そんな時に彼女は自分の懐を変える恩人と出会ったのだ。

 

 

「しかも、あいつの母親譲りの香水を付けていてな、ホントよく生きていたもんだと感心したさ」

 

 

フローラは記憶喪失するきっかけと名前と自分が好んで使用した香水以外の記憶を喪失していた。

その香水はリラックスハーブに油と少々の材料を加えて作れるシンプルのものだ。

彼女が歩く度に風に乗ってほのかに漂う香りは、体臭を良しとする者たちにも好評であった。

クリスタもといヒストリアも人気の1つだと見抜いて作り方を強請ったほどである。

 

 

「しかも、兵士になったのに投資と契約書を忘れなかったと知って血の繋がりを感じたな」

 

 

フローラは勲章を売り払った金で兵器と土木工事に投資しようとしていたのだ。

兵器など王政府の機嫌で変わる上に土木工事程度では大したリターンは見込めない。

 

 

「だから俺はな、このトロスト区に投資しろと提言してな。仲良く商売をやってきたんだ」

 

 

そこでリーブスは、フローラにトロスト区に投資しようと勧めた。

巨人の襲撃によってあらゆるものがリセットされているからこそやりがいがある。

商売敵はとっくに逃げ出しているし、復興を丸投げする王政府はよっぽどでなければ介入しない。

それからというもの、フローラは稼いだ金でトロスト区に投資してきたのだ。

 

 

「旦那もここから見えるだろう?ここはな、ボスである俺とフローラが造り直した街なんだ!」

 

 

失った人材と建物、商機すら戻って来なかったが、それでも彼らはやり遂げた。

 

 

「商機が無いなら作れば良いと思い出させてくれたあいつには感謝してるぜ」

 

 

彼女はいろんな事に首を突っ込んで会長を振り回したが、その代わりに関係を大きく構築した。

あの圧倒的な人脈で各兵団のトップや王政府に顔が利いて商売的すら利用するしたたかさ。

一代でシガンシナ区での地位を固めたミオソティス・エリクシアの再来にすら見えた。

 

 

「だが、あいつは狂っていた。鎧の巨人を憎むあまり恐怖の感情を欠如した化け物になっていた」

 

 

ここまで聴けば良い話であるが、フローラからすればどうでもいい事であった。

彼女にとって鎧の巨人を殺す為にやった事であって自分の事に関しては雑に扱っていた。

あくまで資金も人脈も鎧の巨人を討伐する目的の為に構築したという感覚だったのだ。

 

 

「鎧の巨人を討伐したら自決する様に見えてな、焦った俺は婚約を約束した息子に逢わせたんだ」

 

 

身体能力自体はコニーに劣る彼女だが、恐怖という感情が欠如していたので止まる事はなかった。

どれだけ負傷しようが、壁に激突しようが、全ては鎧の巨人を討伐する為だけに生きていたのだ。

だからその考えを改めてもらおうと息子を紹介したのであった。

 

 

「ところが、あいつは自分の過去に触れた瞬間、激高して俺たちに刃を向けてきた」

 

 

しかし、それはフローラにとって余計なお世話であった。

過去がないからこそ自分がここまで活動できたと自負していたのだ。

なのにわざわざ自分の過去を知らせようとしたリーブス一家に本気で殺意を抱いたのだ。

 

 

「まあ、未遂に終わったんだが、そこからフローラの様子がおかしくなった」

 

 

さすがに理性で抑えたようであったが、そこからフローラに迷いが生じる。

今まで鎧の巨人を討伐する事だけを考えてきたのに自分の未来について考え始めたのだ。

つまり、鎧の巨人が討伐できなかった事を考えて対策を練る様になったのだ。

 

 

「あいつは自分が死んでもいい様に終わりを見越して活動を始めていた」

 

 

リヴァイたちは黙ってフローラの事を聞いていた。

いろんな事をやらかしてきた彼女だが、目的自体は一貫していたのだ。

鎧の巨人を討伐するという目的の為に尽力していると知っていたがそこまでとは思わなかった。

 

 

「でも死んだら俺たちは困る。だから息子と一緒に再会の約束させた」

 

 

既にフローラに異変を感じていたフレーゲル・リーブスは彼女に約束させた。

久しぶりに再会したお菓子屋でまた逢おうと…。

堕落していた息子が久しぶりに本気で取り組んだ事であった。

 

 

「でも、あいつは未だに戻って来ない。なあ、なんでこうなったんだ?」

 

 

しかし、その約束が果たされる事は無いだろう。

だって、彼女はユトピア区壁外から未だに戻って来ないのだから。

 

 

「僕たちのせいだ…」

「なに?」

「僕たちが鎧の巨人を討伐させるのを諦めさせて別の事をやらせたせいだ」

 

 

リーブス会長の嘆きを聞いてアルミンは自分のやった所業がどれだけまずいか理解した。

現場に居たジャンもミカサもコニーもサシャもようやく何をしたのか思い出したのだ。

 

 

「こっちばっかり話すのも酷くないか?次はそっちの話を聴かせてくれよ」

 

 

彼らの反応を見てフローラが帰って来ない理由をリーブスは察した。

いや、察したからこそ何があったのか知りたかった。

104期南方訓練兵団の出身者たちはユトピア区壁外で何があったのか会長に聞かせた。

そして事の顛末を知って彼はうずくまる様に黙り込んでしまった。

 

 

「…どうした?」

 

 

さすがにリヴァイもまずいと思ったのか会長の反応を試す羽目になった。

 

 

「馬鹿野郎…なんで仇を討たせなかったんだ……そりゃあ帰って来ない訳だ」

 

 

以前、フローラは鎧の巨人の討伐をしそこなってかなり精神が乱れていた。

鎧の巨人の装甲を貫通する刃の開発を急がせた他にあらゆる手を使い始めた。

明らかに焦っているのに気付いたが、リーブスにはどうする事もできなかった。

 

 

「あいつは、鎧の巨人を討伐する事に全てを犠牲にしてきたのに…」

 

 

今までは鎧の巨人を討伐する為に関係を構築してきたのに使い潰す様になっていた。

それは彼女の肉体、精神を蝕んでおり、恐怖が欠如した化け物は人間になりつつあった。

鎧の巨人が討伐できないという未来に恐怖を感じて全てを賭けてユトピア区防衛戦に臨んだのだ。

 

 

「これからあいつには復讐以外に目的を作ってやろうと思っていたのに…」

 

 

しかし、鎧の巨人が討伐できる瞬間が訪れた時、それができない事態が発生した。

騒動に駆けつけてきた巨人の群れがやって来たのだ。

しかも、女型の巨人の能力者が入った結晶体を荷馬車に乗せようとしたタイミングだった。

いざ、殺そうとした瞬間、アルミンに諭されてフローラは復讐を諦めて同期の事を優先したのだ。

 

 

「…俺らはな、未だに一報を入れてこないフローラに憤りを感じてお前らに確認を取ったんだ」

「それで支援を打ち切ったのか」

「俺らからすれば、あいつを酷使して戦死させた様に見える組織に支援する訳が無いだろう?」

「そうだな、俺でもそうする」

 

 

同期である104期南方訓練兵団出身の同期どころか調査兵団ですら慢心していた。

あれだけの激戦を生き抜いたフローラならきっと生還するだろうと…。

もちろん、今までだったら生還しただろうが、あの時は事情が違った。

 

 

「おそらくあいつは、目的が達成できないと知って精神崩壊した。だから無謀な戦闘に挑んだ」

 

 

それはリーブスの予想に過ぎないが、大体当たっている。

この場に居る誰もが予想していなかったが、フローラは無自覚にライナーに恋をしていた。

またしても鎧の巨人が討伐できずに悩んでいた時にその情報は致命傷となる。

そのせいでフローラは完全に吹っ切れて残した物を全て放り投げた。

いろんな人と結んだ約束を破って彼女は苦しむ人生に終止符を打とうとしたのだ。

 

 

「まあ、俺らが責めてもしょうがねぇ。お前らにも事情があったんだしな…」

 

 

彼女の苦悩をよく見てきたディモ・リーブスは意気消沈としている調査兵団を責める気は無い。

 

 

「あの子はきっと後悔していないはずだ。そうでなきゃ化けて出てくるからな」

 

 

鎧の巨人よりも同期を優先したフローラにとって最後の戦場は苦でなかったであろう。

きっと闘い抜いた末に壮絶な戦死を遂げたと誰もが理解している。

 

 

「だがな、あいつが満足しても赤の他人は納得しねぇ、お前らに恨みがある奴なんて山ほど居る」

「だろうな、お前らに隙を与える時ですら皆にフローラを死なせた事を詰められていたからな」

 

 

実際、フローラは自分の全力を出し切れる戦場に満足していた。

しかし、傍から見れば調査兵団に見捨てられた彼女が非業の死を迎えたようにしか見えない。

 

 

「俺も老い先長くないからこそ警告してやる。お前ら絶対、復讐させなかった事を後悔するぞ!」

「ああ、そうだ。調査兵団は今まで犠牲者を出して成り立っている。後悔などいくらでもあるさ」

 

 

リーブス会長の恨み節にリヴァイは全力で受け止めた。

 

 

「だが、俺たちはまだ生きている。あんたもそうだ。この街を守る為に生き残らなきゃならねぇ」

「夜襲も拉致も失敗した。俺らリーブス商会は王政府に潰されて従業員は路頭に迷う」

「そうだな」

「口封じも兼ねて俺と数名の部下も始末するに決まっている。未来はない」

 

 

リーブスが調査兵団に感情をぶつけたのも自分が始末されると分かっているからだ。

 

 

「良い事を1つ教えてやるよ」

「なんだ」

中央憲兵(あいつら)は頭が悪い。巨人と交戦する俺らに素人のお前らが相手になる訳がない」

「そりゃあそうだ」

 

 

幾度となく巨人と遭遇して存続する調査兵団を規模が大きい商会1つで潰せる訳がなかった。

リヴァイの発言に一本取られたと彼は久しぶりに心の底から笑った。

 

 

「そんな馬鹿な提案をする奴らに大人しく殺されていいのか?」

「馬鹿だが人類の最高権力者だぞ?お前らだって服を着れない馬鹿(人喰いの巨人)に喰い殺されているだろうに」

 

 

上が馬鹿だと現場は泣きを見る。

欲望や金に惹かれて大事な物を捨てた結果、末端が酷い目に遭うのはどこの業界も同じだ。

ただ、馬鹿でも権力はあるので素直に従わないと命どころか歴史から消されるのだ。

 

 

「なるほど確かにそうだ。だが、俺らは巨人を殺す事も出来る」

「王政府に喧嘩でも売る気か?」

「巨人と同じだ。どうせ死ぬなら試してみればいい」

 

 

力なき者は奪われる事しかできない。

奪う者も奪われる者が居なければ、自分たちが奪われる者になる。

トロスト区の王者だったリーブス商会は、再興しつつあるとはいえ未だに風前の灯火である。

王政府の高官の気分次第で跡形もなく消されるほどのか弱い存在であった。

 

 

「あんたみたいに無茶苦茶で大胆な行動する奴を知っているぜ」

「フローラだろ?」

「ああ、久しぶりに懐かしい気分になった」

 

 

だからこそこの街のボスとして彼は過酷な運命に抗おうとした。

そんな時に出会ったフローラは、彼にとって救いの手に見えたのだ。

ただ、明らかに危険な道を全力で進んでいく彼女には恐怖を覚えた。

どうしてそんなアホな事ができるのか過去に質問した事がある。

 

 

『やってみないと分かりませんから。先人たちが思いつかない所が狙い目ですわよ?』

 

 

フローラと香水事業に勤しんだ事もそうであった。

体臭を良しとする文化に香水を流行らせるのは無謀だと思えた。

しかし、彼女は流行を研究し、ステマと賄賂、知り合いを利用してアロマテラピーを広めた。

今では、王都で香水が大ブームになっており、庶民でも安価の香りを楽しむ様になった。

生産工程と販売ルート、材料を全て独占しているリーブス商会は当然の様に大儲けをしている。

それどころか貴婦人たちを利用してフローラは王政府の高官たちを裏で脅迫できるまでになった。

いくら壁の支配者といえど、彼女の香水を欲しがる伴侶や娘を消すのは躊躇う事になったのだ。

 

 

「どうせお前らがこんな事をしたのもフローラの後ろ盾が無くなったせいだろ?」

「へへへ、よくご存じで」

 

 

更なる高みと商機を発見している彼女であったが、それはあくまでおまけに過ぎなかった。

だからこそリーブス会長は、鎧の巨人に復讐する目標以外にも目的を作らせてあげようと考えた。

ところが、中途半端な状態で彼女が居なくなったせいで壁内における均衡が崩れた。

 

 

「もし、お前らが居なくなればこの街は完全に止めを刺されるだろうよ」

「だから俺らも王政府に抗えって言うのか?」

「リーブス商会が消えたら従業員とその家族だけじゃなく兵士以外の住民は全滅するだろうな」

「王政府に見捨てられても結果は同じだろう?」

「どの道、お前たちに破滅しか道が残っていないって事だ」

 

 

王政府が今になって動き出したのは、フローラに妨害されなくなった影響である。

高官や貴族の交流が豊富でカウンター攻撃ができる彼女が居ないリーブス商会など烏合の衆だ。

あっという間に取り込まれて中央憲兵の手下にさせられたのが経緯だとリヴァイは見抜いた。

 

 

「あんたらがエレンとクリスタを俺らに寄こさないせいでもあるんだぞ」

「そうだな」

「それであんたは俺の部下と住民を飢えさせない奇跡をくれるって言うのか?」

 

 

根本的な問題として王政府といえど大きく壁内情勢が変わるのは防ぎたい意図がある。

なのでリーブス商会が任務を成功させたら、今までの通りに活動に介入してこないだろう。

だからこそ彼らは死に物狂いに組織ぐるみで犯罪に手を染めたのだ。

 

 

「その通りだ、エレンとクリスタをお前らにくれてやる」

「なっ!?」

「何を言っているんだい!?彼らに同情でもしたのか!?」

 

 

ところがあっさりとエレンとヒストリアをリーブス商会に身柄を渡すとリヴァイは告げた。

これには、調査兵団はおろかリーブス会長ですら驚愕した。

さすがに空気を読んで黙っていたハンジ分隊長ですら戸惑いの声を挙げる!

 

 

「リヴァイ兵長!?」

「ただし、3つ条件を付けさせてもらう」

 

 

ミカサに至っては彼を睨んで飛び掛かろうとしていた。

だが、リヴァイは冷静に条件を取り付けた。

 

 

「1つ、今後リーブス商会は調査兵団の傘下に入り、王政府と法に背いてもらう事になる」

 

 

もちろん、そんな旨い話などない。

王政府の命令でエレンとクリスタを拉致したのに本末転倒な条件を取り付けた。

 

 

「馬鹿野郎、それじゃあいつらを(さら)う意味がねぇ!」

「2つ、リーブス商会は調査兵団を心の底から信用する事だ」

 

 

この2つの条件を簡潔に表すと、リーブス商会は調査兵団の奴隷になれと同意義の事になる。

 

 

「信用だと?おれら商人じゃその単語は冗談しか使われねぇぞ?」

「でもお前はフローラの事を信用していたんだろ?わざわざ俺らに叱るくらいにな」

「チッ、何もしらねぇ素人が言ってくれるじゃないか」

 

 

商人に信用という単語は通用しない。

「ちゃんと返すから借金の保証人になってくれ」と言う人物を誰が信用するものか。

だから審査した後に双方で契約を確認し、契約書をしっかりと記して証拠を残すのだ。

 

 

「最後の条件だが、リーブス商会が入手した食品、嗜好品は調査兵団に優先的に回せ」

「お前さんがやっているのは交渉じゃない。命令だ」

「調査兵団が滅びても守ろうとする宝を預ける代償にしては生易しい物だと思うがな?」

 

 

リヴァイからすればまだ条件を加えてやろうかと思ったくらいだ。

なにせ替えがきかない2人を得体のしれない組織に預けるのだ。

調査兵団が監査するのは当然として自分たちが運営できる資金と資材くらいは欲しい。

欲を言えば、紅茶も付け加えたかったのだが、今回は諦めた。

 

 

「旦那は商人より欲深いみたいだな」

「それでもフローラのやらかしよりはマシだろ?」

「全く…あの子があそこまで狂ったのは旦那の影響もあるかもな」

「やるか?やらないか?どっちにする。早くしろ、もう時間がない」

 

 

瞼を閉じれば、フローラが前に進めて耳元で囁いてくるイメージがする。

あいつは凡人なら立ち止まるラインを飛び出すどころか反復横跳びするくらいぶっ飛んでいる。

きっとこの糞みたいな条件を知った彼女は、目つきの悪い男の提案に乗るだろう。

懐かしい記憶を思い出させてくれた調査兵団にディモ・リーブスは一世一代の決断をする。

 

 

「気に入ったよ。俺にも奇跡とやらに噛ましてくれねぇか?」

「やっぱりあんたは頭が良い。フローラが頼るわけだ」

「「交渉成立だ」」

 

 

リヴァイと会長は右手で握手して交渉が成立したのを宣言する。

 

 

「そうと決まれば急ぐぞ!敵は待ってくれないからな」

 

 

フローラの過去を知れたと同時に彼女が築き上げた物を必死に回収する必要がある。

調査兵団は、彼女の遺志を継ぐと同時に彼女が成し遂げられなかった事を達成すると誓う!

――だが、彼らは見落としていた。

あくまでこれらは彼女が隠蔽していた片鱗の1つに過ぎないという事に…。

 

 

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